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番外編2「フレッドの怪我」
しおりを挟むエリオットが帰って来てから数日。
帰ってきた当日に、私はエリオットから団員たちの安否を聞いていた。
行方不明者はなし。怪我をした人は軽度を含め百名前後。
その中に、フレッドも含まれていたらしい。
フレッドは重症で、毒性のある魔物に脇腹を刺されてしまったそうだ。
――幸い毒消し草のドリンクを薬師が飲ませてくれて、毒の効能は消えた。けど、それでも目覚めてないんだ。
私と想いを通じ合わせたあとも、エリオットはフレッドのことが心配で仕方なく、元気がなかった。
「今日はエリオットの大好きなオムライスよ」
「あ……ありがとう。アイリス」
今日の昼食でなんとか元気づけて欲しくて、オムライスをエリオットの前に置く。
エリオットはこの数日間、獣人騎士団の団長と政府に報告書を提出していて、とても忙しくフレッドの様子を見に行けていなかった。
他の団員にも聞いてみたけれど、フレッドはまだ目覚めていないらしい。
「フレッド……良くなってるといいわね」
「ああ。今日は非番だから、様子を見に行きたい」
そう言って、エリオットがオムライスを頬張った、そのとき。
「エリオットさん! エリオットさーん!」
コンコンとドアを叩きながら誰かが叫んでいる声が聞こえて来た。
窓を覗くと、私たちの家の前に馬車がいくつか止まっている。
この少し高い声は、恐らく……。
「ルギル? どうした?」
エリオットがドアを開けてルギルを中に入れる。
ルギルの他にも何人もの騎士団の服を着た団員たちがいて、何か一刻を争う事態なのかと私は身構えた。
ルギルはエリオットの服を掴んで、嬉しそうな声音を放つ。
「フレッドさんが目覚めたって!」
「! 本当か!」
「意識もしっかりあるみたいだから、今すぐ病院に行きましょう! みんなで会いに行きましょう!」
「わかった! アイリス、君も来てくれ!」
「あ……はい!」
エリオットに手を引かれ、私も騎士団が乗っている馬車に乗りこんだ。
この国の病院は、治癒魔術師と薬師が治療している。
王都に行けば王族の治療も行うため、宮廷魔術師の一部も病院で働いている。
フレッドは意識も昏倒するくらいの重症だったから、タニア村付近の病院に運ばれた後、王都の病院に搬送されたとエリオットが言っていた。
王都の中でもベスティエ街と近い病院に運ばれたから、ここから近い。
馬車に揺られている間も、団員たちはフレッドの目覚めに喜んでいるのか、少し興奮気味だった。
「フレッド様は、今ポーションを飲んでいる時間です。腹部の傷もあるため、くれぐれも刺激しないよう、静かに病室でお過ごしください。それと、その人数では病室に入りきれませんので、少人数ずつお入りください」
病院に到着すると、薬師の人が出迎えて注意を促した。
団長は仕事で夜に見舞いに行くと連絡があったらしく、最初は副団長であるエリオットと何故か私、そして第一班班員のルギルが入ることに。
静かに病室のドアを開けると、フレッドがベッドから身を起こして空のポーションを弄んでいるところだった。
「おや、可愛いエリオットの番も来てくれたのか?」
再会早々第一声が口説き文句ということは、フレッドも大分元気になったのだろう。
「心配したんですよ、フレッドさん! もうこのまま目覚めなかったら、俺、どうやって生きていこうかと……」
「重い重い」
「俺も心配した。傷はどうなんだ?」
「深いっちゃ深いけど、大声で笑ったり伸びをすると痛くなる程度。心は驚くほど元気だよ。そんな心配すんなって」
ルギルとエリオットと会話しているフレッドは、いつも通りの声の調子で、いつも通りの笑みを浮かべていた。
……フレッドが無事で安心したけれど、少し気まずい。
私が獣人騎士団じゃないというのもある。
もっと問題なのが、私がフレッドを振ってから最初の再会だということだ。
フレッド的には、気まずくないのだろうか。
二人と話しているフレッドを盗み見ていたら、不意にばちっと視線がかち合った。
「アイリス、どうしたんだ? 俺に何か言いたいことでもあるのか?」
「え、いや、その……」
私のバカ!
フレッドがこんな自然に振舞ってるのに、私がこんなに挙動不審だったら申し訳ないじゃない!
それでも何も言えなくて下を向いていると、二人も不思議そうな顔をしていた。
「ごめん、エリオット、ルギル。五分でいいからアイリスと二人にしてもらってもいいか?」
「は?」
「いやそんな怒んなって。五分だから、五分」
「わかりました! 俺、外出てますね!」
「はあ……疚しいことしたらお前の脇腹殴るからな」
「いやえげつないだろそれ」
フレッドの言葉に従って、二人は病室の外に出て行ってしまった。
バタン、と扉が閉じられる。
エリオットの香りがなくなって、怖い。
フレッドと二人きりで気まずい。
どうしよう、何を喋ればいいんだろう。
ていうか、なんで二人にしたんだろう。
「毛先、エリオットと同じ色だね」
「え? ええ」
「似合ってるよ」
フレッドが微笑む。
これは、『運命の番』として想いが繋がった証拠の、髪色だ。
私とエリオットが両想いになって、恋人同士になった、証。
フレッドは……その話を知っているのだろうか。
「こないだのこと気にしてるんでしょ」
「へ!? き、き、気にしてないから!」
「バレバレだって」
くくっとフレッドが押し殺すように笑う。
わかりやすく動揺した私が恥ずかしくて、フレッドが笑っている間ずっと黙っていたら、「アイリス」と優しく呼ばれた。
「デートって言ったことは冗談だから。気にしないで」
「え……冗談?」
「そ。冗談」
フレッドが笑っているように見えたけれど、ちょうど太陽が雲から顔を出して、逆光で詳しい表情は見えなかった。
「……もう! からかわないでよ!」
「ははっ、だって、面白くて」
つい本気にしちゃったじゃない。
怒りで肩でもバシッと叩こうとしたけれど、病人なのだからやめておこうと手を下げる。
初めて会ったときも、エリオットはフレッドに女で遊ぶなよ、みたいなことを言っていた気がする。
私は遊ばれていたのだろう。
まったく、顔が良いからってそういうのは良くないと思うわ。
「フレッド、そろそろ時間だ。入っていいよな?」
「ああ、入っていいよ。……アイリス」
「え?」
「これからも『友達』として、よろしくな」
扉が開く直前、フレッドはなんとなく辛そうな声音でそう言った。
怪我が痛んだのだろうか。
それからはフレッド含め四人で騎士団の話をしたり私のお弁当の話をしたり、楽しく会話して他の団員と交代したのだった。
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