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第14章 聖戦
第452話 それぞれの準備
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数日後、ケビンは会議室にいた。今日は月1の貴族会議の日だからだ。そこでケビンは集まった貴族たちに戦争のことを伝える。それを聞いた貴族たちは多種多様なリアクションを取るが、最終的には落ち着いてケビンの判断を仰ぐことになる。
「陛下、戦争をされるので?」
そう尋ねたのは3大侯爵の1人であるクリューゲント侯爵だ。
「売られた喧嘩は買うしかないだろ? でなければ、民が蹂躙される」
「敵の目的は話によると陛下のみみたいですが?」
次に尋ねたのはシカーソン侯爵だ。
「ここまでやって来るんだ。途中の村や町が被害に遭わないとは言いきれない」
「こちらから出て応戦すればどうですかな?」
ケビンの発言に意見を述べたのは、3大侯爵の最後の1人であるユソンボウチー侯爵だ。
「それもありかな。実はだな――」
それからケビンはヴィクトールと共謀していることと、八百長戦争を楽しむことを貴族たちに伝える。
「ふむ……陛下は遊ぶつもりということですな」
「ああ、アリシテア王国の新兵を多少は鍛えるつもりではいる」
「つまり陛下自ら最前線に立つと?!」
クリューゲントが信じられないものを見るような視線をケビンへ向けた。
「ん? 何かおかしいか?」
「陛下は御大将ですよ!? この国の御旗ですよ!?」
「いや、城にこもって待つとか暇すぎるだろ」
あっけらかんと答えるケビンにユソンボウチーが失笑しながらも、とある提案をする。
「陛下、ここはうちの新兵たちも鍛えさせてはどうですかな? 彼らとて治安維持や門番だけでは、仕事に飽きてくるでしょうからな」
「んー……」
「それに兵たちが戦果を挙げねば褒賞の与えようがありませんぞ? さすがに喧嘩の仲裁や不良民を捕まえたことで、日常的に褒賞を与えるわけにもいきませんからな」
「確かに……戦争がなければ大した褒賞もあげれないか……」
ケビンがユソンボウチーの意見に納得の意を示しているところで、シカーソンが更に畳みこんでくる。
「陛下、もし大働きをした者がいれば貴族にすることもできます。そうなれば陛下の直轄地ではなく帝国の直轄地を減らせるのでは? 面倒くさい執務が減りますよ?」
「ッ! シカーソン、それは良い案だ!」
ケビンが帝国貴族を粛清してからというもの、ほとんどの貴族がいなくなり国の直轄地が増えたために、ケビンの執務も比例して増えていたのだった。更にはケビンの個人的な直轄地(いつかは開発しようと思っている)もあるため、執務の量が多大になってしまうのは致し方がないとも言えた。
「ですが、兵たちが武勲をあげることが大前提ですから、過度な期待は禁物です」
「くっ……兵たちの練度はどのくらいだ?」
「私の抱える兵たちはそこそこの練度を維持していますが、やはり戦争経験者と未経験者では差が出るでしょう」
「どれくらいを冒険者にした?」
「全員に理由を話して登録させていますが、冒険者活動の無理強いはしていません。やはり兵士というものに誇りを持っている者もいますから」
「そこは仕方がないか……他の者たちはどうだ?」
「私のところも全員登録させておりますが、シカーソン殿と同じ理由で無理強いはさせておりません」
「私のところは逆ですな。全員に冒険者活動をさせております。やはり訓練だけでは行き詰まってしまいますからな。実践に勝るものはないでしょう」
他にも貴族たちから報告が上がるが、内容は似たりよったりなものであった。それに対してケビンは、最有力候補になりそうなのはユソンボウチーの兵士たちであると見立てを立てた。
「とにかく皆は俺の執務を減らすためにも兵の練度を上げてくれ。そうすれば兵は褒賞でウハウハ、俺も仕事が減ってウハウハのウィン・ウィンの関係だ」
こうしてケビンの執務を減らす理由というだけで各兵の参戦が決まり、それを聞いていた貴族たちは相変わらずなケビンの考え方に対して、諦めとともに溜息をついて戦争という切迫しなければならない事案の会議が、何とも言えない形で終わったのを感じ取るのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ところ変わってとある執務室では。
「そうか……アリシテア王国が参戦の意を示したか」
「はっ! 猊下、こちらが親書に対する返書であります」
アリシテア王国から帰還した使者が執務机で相対している猊下と呼ばれた者へ、アリシテア王国からの親書を手渡し再び控える位置に戻ると、親書を受け取った猊下は中身の確認に入った。
「ふんっ、金さえ払えば物資支援も吝かではない……か。国王が代替わりしてからというものいささか強気だな。以前のやつの方が扱いやすかったものだが……」
猊下がひと通り目を通したら手に持つ親書を机に置き、控えていた使者へ視線を向ける。
「アリシテア王国の果実の収穫量を上げろ。それと今回の聖戦での働きだが、お荷物を抱えねばならなくなったゆえ、青の騎士団はお荷物を邪魔にならんよう配置しろ」
「はっ!」
「女神フィリア様の加護のもとに」
「導きを持って子羊を救わん」
猊下から指示を受けた青色の鎧に身を包んだ使者は返答すると、執務室を後にしてやるべきことをするため行動に移すのだった。そして執務室に残った猊下は背もたれに体を預けると、1人で不敵な笑みを浮かべる。
「目には目を……青二才が図に乗るなよ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
後日、別の執務室では。
「ようやく来たか……」
執務室の主が呟くと、その執務室に入ってきたのは純白の鎧に身を包んだ1人の騎士であった。
「お呼び出しに応じ、ただいま参りました」
「ああ、聖戦を始めることは知っているな?」
「はっ! 今や知らぬ者を捜す方が困難かと」
「アリシテアが参戦することになった」
「あの弱小国家が?」
部屋の主の言葉に対して騎士の男性は、意表を突かれたかのように目を見開いた。
「そうだ。しかも魔王を討つ聖戦だと言うのに、金さえ払えば物資支援も吝かではないとのことだ」
「ふっ、どこまでも付け上がっておりますね」
「ということで、お前ら白の騎士団は道中で布教活動を行え」
「仰せのままに」
「で、いつまでその慇懃無礼を続けるつもりだ?」
「いやはや、私はこれでも猊下に敬意を払っておるのですが」
「クソ真面目な奴が白の騎士団に配属されるわけがないだろ」
「いえいえ、この純白の鎧こそが神聖なるフェリア教を体現していると思い、粉骨砕身の思いで仕えさせていただいておるのですが?」
猊下の言い分に対して飄々とした態度で語る騎士に、猊下は溜息をついて不毛な議論に終止符を打つ。
「まぁ、いい。お前は任務を遂行しろ」
「はっ! 必ずやご期待に添うてみせましょう」
「女神フィリア様の加護のもとに」
「導きを持って子羊を救わん」
猊下の言葉に返答した騎士はそのまま静かに執務室を出て行った。
「全く食えん男だ……んー北の蛮族を狩るだけだから、黒の騎士団を使う必要はないな……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
また別の執務室では。
「今回は聖戦だ。お前たち栄えある赤の騎士団と緑の騎士団の働きにかかっているぞ。武力とは何なのかを他のナイツたちに見せしめるのだ」
「「はっ! 猊下の仰せのままに」」
猊下の激励に対して赤色の鎧を着込んだ女性と、緑色の鎧を着込んだ女性が揃って返事を返す。
「それと今回はアリシテアの弱兵たちが同行する。足手まといだが致し方がない。青の騎士団が邪魔にならんよう戦場の端にでも配置するだろう」
「赤子のくせに戦場へ来るとは身の程知らずめ……」
「聖戦だと言うのに子守りですか……」
「お前ら神殿騎士団が出るのだ。どうせ奴らは何もせぬまま終わる。無駄に出兵して財と食を浪費するだけだ」
「猊下の仰る通りです」
「我ら神殿騎士団だけでカタをつけましょう」
「では、抜かりなく準備に取り掛かれ」
「「はっ!」」
「女神フィリア様の加護のもとに」
「導きを持って子羊を救わん」
2人の騎士はそう答えると執務室をあとにした。
「ちっ、女風情が団長の座に就くなど……まぁいい、この戦で戦死でもすれば男性にすげ替えるとしよう。全く総団長に指名権など与えるからこういうことになるのだ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
これまた別の執務室では。
「はぁぁ……嫌になるのう……金、金、金……戦争は金食い虫じゃ。ちっとは年寄りを労わらんか。どの書類も金をせびりおってからに」
「「……」」
執務室の中で愚痴愚痴と不満を垂らしている男性に、同席している2人の騎士は沈黙を貫き通していた。経験上、こういう時は下手に口を挟むと「それなら、お前が金を用意しろ」とお叱りを受けるからである。2人の騎士は今はただ波が引くのを待つだけの仕事に徹する他ない。
「はぁぁ……これは彼の地に賠償を吹っかけるしかないのう。そして教会を新たに建てて、善良なる民からの寄付金に頼るしかない」
仕事にひと区切りついたのか男性がようやく顔をあげると、2人の騎士へ視線を向ける。
「わかっておるな? 金も物資も有限。糧食は節約し浪費を最小限に留めろ。無くなれば金を消費することになるぞ」
「「はっ!」」
先程とは打って変わって厳しい口調になった男性に対して、2人はピシッと姿勢を正して返答する。
「黄の騎士団よ、今回は工作に関する必要な物は最小限に留め、他は現地調達しろ。ここから運ぶだけで金が飛ぶ」
「猊下の仰せのままに」
「茶の騎士団よ、補給物資は出すが無駄遣いは許さん。現地調達も安い物を仕入れろ。糧食は戦意維持の要。不平が出ないギリギリのラインを見定めるのだ」
「わかりました、猊下」
「用件は以上だ。準備を怠るな」
「「はっ!」」
黄鎧に身を包んだ男性と茶鎧に身を包んだ女性は揃って返事をして、最後の締めくくりの言葉を待つ。
待つ……
更に待つ……
ひたすら待つ……
「何をしているっ! 早く準備に取り掛からんかっ!」
理不尽に怒鳴りつけられた2人はビクッと反応してしまうが、黄鎧の男性が口を開いた。
「恐れながら猊下、締めのお言葉をまだ頂いておりません」
「あんなものはどうでもいい! あれで金が増えるのかっ?! どうなんだ、答えろ!」
『『えぇー……それ、枢機卿が言う?』』
奇しくも2人の騎士は同じ考えに至ってしまうが、目の前の相手を怒らせると怖いことは重々承知しているので、黄鎧の男性は慌てて答えた。
「増えません!」
「当たり前だ! あんな言葉1つで金が増えたら儂は苦労しておらん! 勇者も格言を残しただろ! 『時は金なり』だ! わかったらさっさと仕事に取り掛かれっ!」
「「直ちに!」」
これ以上の理不尽に晒されないよう慌てて退出した2人は、少し離れた通路で大きく息を吐く。
「勘弁して欲しいぜ、あの爺さん」
「その言葉は不敬ですが全くですね。噂によると教皇聖下がいなければ、たとえ他の枢機卿猊下たちがいてもあの態度らしいですよ」
「最古参の枢機卿猊下だしな。しかも財政をきっちりと担ってやがるから、他の枢機卿猊下では文句が言えないんだろ」
「それにしても、『時は金なり』ですか……」
「あの爺さん、その言葉好きだよな。絶対に“金”って文字が入ってるからだぜ」
「はぁぁ、貴方って人は……その呼び方は不敬だとさっきお伝えしたはずですよ?」
「まぁまぁ、気にすんなって。本人がいなければどうってことない」
「とにかく準備を進めましょう。遅れたら猊下にお叱りを受けてしまいます」
「そりゃ最悪だな。さっさと準備を進めるか」
こうして癖の強い上司を持つ2人が再び歩き出すと、怒られないというその1点のみのために聖戦の準備を進めていくのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
神殿内の通路を静かに歩く人の姿がある。その身は黄金の鎧で包まれており、遠くから見ても誰だかわかるくらいに目立っていた。
「みんなどこに行ったんだろ……」
仲間を捜しているのか1人で歩くその人物は、神殿騎士団を束ねる総団長その人だった。
その実力は他の追随を許さぬほど飛び抜けており、誰しもが尊敬する人だと口を揃えるくらいで、本人もその自覚を持ち自己鍛錬に励むが、実際は一部の間でマスコットキャラ的な位置に収まっていることを、本人は露ほども気づいていない。
その総団長は真面目一辺倒で融通が利かないところがあり、普通なら強さも相まって近寄り難い存在であるのだが、それを持ってしても覆せない部分があるため、部下の女性団長からは可愛がられたりしている場合がある。しっかり者だと思っている本人からしてみれば、全くもって不本意だが。
「見当たらない……うぅぅ……」
段々と寂しさが込み上げてきて半べそをかきそうになっている総団長は、仲間を捜すのを諦めると泣いてしまう前に気分転換でスイーツを食べに行くことにしたのであった。
「よし、甘い物を食べに行こう!」
そのような行動がいまいち尊敬されない部分だとは気づかないまま。
「陛下、戦争をされるので?」
そう尋ねたのは3大侯爵の1人であるクリューゲント侯爵だ。
「売られた喧嘩は買うしかないだろ? でなければ、民が蹂躙される」
「敵の目的は話によると陛下のみみたいですが?」
次に尋ねたのはシカーソン侯爵だ。
「ここまでやって来るんだ。途中の村や町が被害に遭わないとは言いきれない」
「こちらから出て応戦すればどうですかな?」
ケビンの発言に意見を述べたのは、3大侯爵の最後の1人であるユソンボウチー侯爵だ。
「それもありかな。実はだな――」
それからケビンはヴィクトールと共謀していることと、八百長戦争を楽しむことを貴族たちに伝える。
「ふむ……陛下は遊ぶつもりということですな」
「ああ、アリシテア王国の新兵を多少は鍛えるつもりではいる」
「つまり陛下自ら最前線に立つと?!」
クリューゲントが信じられないものを見るような視線をケビンへ向けた。
「ん? 何かおかしいか?」
「陛下は御大将ですよ!? この国の御旗ですよ!?」
「いや、城にこもって待つとか暇すぎるだろ」
あっけらかんと答えるケビンにユソンボウチーが失笑しながらも、とある提案をする。
「陛下、ここはうちの新兵たちも鍛えさせてはどうですかな? 彼らとて治安維持や門番だけでは、仕事に飽きてくるでしょうからな」
「んー……」
「それに兵たちが戦果を挙げねば褒賞の与えようがありませんぞ? さすがに喧嘩の仲裁や不良民を捕まえたことで、日常的に褒賞を与えるわけにもいきませんからな」
「確かに……戦争がなければ大した褒賞もあげれないか……」
ケビンがユソンボウチーの意見に納得の意を示しているところで、シカーソンが更に畳みこんでくる。
「陛下、もし大働きをした者がいれば貴族にすることもできます。そうなれば陛下の直轄地ではなく帝国の直轄地を減らせるのでは? 面倒くさい執務が減りますよ?」
「ッ! シカーソン、それは良い案だ!」
ケビンが帝国貴族を粛清してからというもの、ほとんどの貴族がいなくなり国の直轄地が増えたために、ケビンの執務も比例して増えていたのだった。更にはケビンの個人的な直轄地(いつかは開発しようと思っている)もあるため、執務の量が多大になってしまうのは致し方がないとも言えた。
「ですが、兵たちが武勲をあげることが大前提ですから、過度な期待は禁物です」
「くっ……兵たちの練度はどのくらいだ?」
「私の抱える兵たちはそこそこの練度を維持していますが、やはり戦争経験者と未経験者では差が出るでしょう」
「どれくらいを冒険者にした?」
「全員に理由を話して登録させていますが、冒険者活動の無理強いはしていません。やはり兵士というものに誇りを持っている者もいますから」
「そこは仕方がないか……他の者たちはどうだ?」
「私のところも全員登録させておりますが、シカーソン殿と同じ理由で無理強いはさせておりません」
「私のところは逆ですな。全員に冒険者活動をさせております。やはり訓練だけでは行き詰まってしまいますからな。実践に勝るものはないでしょう」
他にも貴族たちから報告が上がるが、内容は似たりよったりなものであった。それに対してケビンは、最有力候補になりそうなのはユソンボウチーの兵士たちであると見立てを立てた。
「とにかく皆は俺の執務を減らすためにも兵の練度を上げてくれ。そうすれば兵は褒賞でウハウハ、俺も仕事が減ってウハウハのウィン・ウィンの関係だ」
こうしてケビンの執務を減らす理由というだけで各兵の参戦が決まり、それを聞いていた貴族たちは相変わらずなケビンの考え方に対して、諦めとともに溜息をついて戦争という切迫しなければならない事案の会議が、何とも言えない形で終わったのを感じ取るのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ところ変わってとある執務室では。
「そうか……アリシテア王国が参戦の意を示したか」
「はっ! 猊下、こちらが親書に対する返書であります」
アリシテア王国から帰還した使者が執務机で相対している猊下と呼ばれた者へ、アリシテア王国からの親書を手渡し再び控える位置に戻ると、親書を受け取った猊下は中身の確認に入った。
「ふんっ、金さえ払えば物資支援も吝かではない……か。国王が代替わりしてからというものいささか強気だな。以前のやつの方が扱いやすかったものだが……」
猊下がひと通り目を通したら手に持つ親書を机に置き、控えていた使者へ視線を向ける。
「アリシテア王国の果実の収穫量を上げろ。それと今回の聖戦での働きだが、お荷物を抱えねばならなくなったゆえ、青の騎士団はお荷物を邪魔にならんよう配置しろ」
「はっ!」
「女神フィリア様の加護のもとに」
「導きを持って子羊を救わん」
猊下から指示を受けた青色の鎧に身を包んだ使者は返答すると、執務室を後にしてやるべきことをするため行動に移すのだった。そして執務室に残った猊下は背もたれに体を預けると、1人で不敵な笑みを浮かべる。
「目には目を……青二才が図に乗るなよ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
後日、別の執務室では。
「ようやく来たか……」
執務室の主が呟くと、その執務室に入ってきたのは純白の鎧に身を包んだ1人の騎士であった。
「お呼び出しに応じ、ただいま参りました」
「ああ、聖戦を始めることは知っているな?」
「はっ! 今や知らぬ者を捜す方が困難かと」
「アリシテアが参戦することになった」
「あの弱小国家が?」
部屋の主の言葉に対して騎士の男性は、意表を突かれたかのように目を見開いた。
「そうだ。しかも魔王を討つ聖戦だと言うのに、金さえ払えば物資支援も吝かではないとのことだ」
「ふっ、どこまでも付け上がっておりますね」
「ということで、お前ら白の騎士団は道中で布教活動を行え」
「仰せのままに」
「で、いつまでその慇懃無礼を続けるつもりだ?」
「いやはや、私はこれでも猊下に敬意を払っておるのですが」
「クソ真面目な奴が白の騎士団に配属されるわけがないだろ」
「いえいえ、この純白の鎧こそが神聖なるフェリア教を体現していると思い、粉骨砕身の思いで仕えさせていただいておるのですが?」
猊下の言い分に対して飄々とした態度で語る騎士に、猊下は溜息をついて不毛な議論に終止符を打つ。
「まぁ、いい。お前は任務を遂行しろ」
「はっ! 必ずやご期待に添うてみせましょう」
「女神フィリア様の加護のもとに」
「導きを持って子羊を救わん」
猊下の言葉に返答した騎士はそのまま静かに執務室を出て行った。
「全く食えん男だ……んー北の蛮族を狩るだけだから、黒の騎士団を使う必要はないな……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
また別の執務室では。
「今回は聖戦だ。お前たち栄えある赤の騎士団と緑の騎士団の働きにかかっているぞ。武力とは何なのかを他のナイツたちに見せしめるのだ」
「「はっ! 猊下の仰せのままに」」
猊下の激励に対して赤色の鎧を着込んだ女性と、緑色の鎧を着込んだ女性が揃って返事を返す。
「それと今回はアリシテアの弱兵たちが同行する。足手まといだが致し方がない。青の騎士団が邪魔にならんよう戦場の端にでも配置するだろう」
「赤子のくせに戦場へ来るとは身の程知らずめ……」
「聖戦だと言うのに子守りですか……」
「お前ら神殿騎士団が出るのだ。どうせ奴らは何もせぬまま終わる。無駄に出兵して財と食を浪費するだけだ」
「猊下の仰る通りです」
「我ら神殿騎士団だけでカタをつけましょう」
「では、抜かりなく準備に取り掛かれ」
「「はっ!」」
「女神フィリア様の加護のもとに」
「導きを持って子羊を救わん」
2人の騎士はそう答えると執務室をあとにした。
「ちっ、女風情が団長の座に就くなど……まぁいい、この戦で戦死でもすれば男性にすげ替えるとしよう。全く総団長に指名権など与えるからこういうことになるのだ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
これまた別の執務室では。
「はぁぁ……嫌になるのう……金、金、金……戦争は金食い虫じゃ。ちっとは年寄りを労わらんか。どの書類も金をせびりおってからに」
「「……」」
執務室の中で愚痴愚痴と不満を垂らしている男性に、同席している2人の騎士は沈黙を貫き通していた。経験上、こういう時は下手に口を挟むと「それなら、お前が金を用意しろ」とお叱りを受けるからである。2人の騎士は今はただ波が引くのを待つだけの仕事に徹する他ない。
「はぁぁ……これは彼の地に賠償を吹っかけるしかないのう。そして教会を新たに建てて、善良なる民からの寄付金に頼るしかない」
仕事にひと区切りついたのか男性がようやく顔をあげると、2人の騎士へ視線を向ける。
「わかっておるな? 金も物資も有限。糧食は節約し浪費を最小限に留めろ。無くなれば金を消費することになるぞ」
「「はっ!」」
先程とは打って変わって厳しい口調になった男性に対して、2人はピシッと姿勢を正して返答する。
「黄の騎士団よ、今回は工作に関する必要な物は最小限に留め、他は現地調達しろ。ここから運ぶだけで金が飛ぶ」
「猊下の仰せのままに」
「茶の騎士団よ、補給物資は出すが無駄遣いは許さん。現地調達も安い物を仕入れろ。糧食は戦意維持の要。不平が出ないギリギリのラインを見定めるのだ」
「わかりました、猊下」
「用件は以上だ。準備を怠るな」
「「はっ!」」
黄鎧に身を包んだ男性と茶鎧に身を包んだ女性は揃って返事をして、最後の締めくくりの言葉を待つ。
待つ……
更に待つ……
ひたすら待つ……
「何をしているっ! 早く準備に取り掛からんかっ!」
理不尽に怒鳴りつけられた2人はビクッと反応してしまうが、黄鎧の男性が口を開いた。
「恐れながら猊下、締めのお言葉をまだ頂いておりません」
「あんなものはどうでもいい! あれで金が増えるのかっ?! どうなんだ、答えろ!」
『『えぇー……それ、枢機卿が言う?』』
奇しくも2人の騎士は同じ考えに至ってしまうが、目の前の相手を怒らせると怖いことは重々承知しているので、黄鎧の男性は慌てて答えた。
「増えません!」
「当たり前だ! あんな言葉1つで金が増えたら儂は苦労しておらん! 勇者も格言を残しただろ! 『時は金なり』だ! わかったらさっさと仕事に取り掛かれっ!」
「「直ちに!」」
これ以上の理不尽に晒されないよう慌てて退出した2人は、少し離れた通路で大きく息を吐く。
「勘弁して欲しいぜ、あの爺さん」
「その言葉は不敬ですが全くですね。噂によると教皇聖下がいなければ、たとえ他の枢機卿猊下たちがいてもあの態度らしいですよ」
「最古参の枢機卿猊下だしな。しかも財政をきっちりと担ってやがるから、他の枢機卿猊下では文句が言えないんだろ」
「それにしても、『時は金なり』ですか……」
「あの爺さん、その言葉好きだよな。絶対に“金”って文字が入ってるからだぜ」
「はぁぁ、貴方って人は……その呼び方は不敬だとさっきお伝えしたはずですよ?」
「まぁまぁ、気にすんなって。本人がいなければどうってことない」
「とにかく準備を進めましょう。遅れたら猊下にお叱りを受けてしまいます」
「そりゃ最悪だな。さっさと準備を進めるか」
こうして癖の強い上司を持つ2人が再び歩き出すと、怒られないというその1点のみのために聖戦の準備を進めていくのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
神殿内の通路を静かに歩く人の姿がある。その身は黄金の鎧で包まれており、遠くから見ても誰だかわかるくらいに目立っていた。
「みんなどこに行ったんだろ……」
仲間を捜しているのか1人で歩くその人物は、神殿騎士団を束ねる総団長その人だった。
その実力は他の追随を許さぬほど飛び抜けており、誰しもが尊敬する人だと口を揃えるくらいで、本人もその自覚を持ち自己鍛錬に励むが、実際は一部の間でマスコットキャラ的な位置に収まっていることを、本人は露ほども気づいていない。
その総団長は真面目一辺倒で融通が利かないところがあり、普通なら強さも相まって近寄り難い存在であるのだが、それを持ってしても覆せない部分があるため、部下の女性団長からは可愛がられたりしている場合がある。しっかり者だと思っている本人からしてみれば、全くもって不本意だが。
「見当たらない……うぅぅ……」
段々と寂しさが込み上げてきて半べそをかきそうになっている総団長は、仲間を捜すのを諦めると泣いてしまう前に気分転換でスイーツを食べに行くことにしたのであった。
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