公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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12. アリス 10歳②

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 ジュリアが身につけているのは胸元とスカートの裾に可愛らしいフリルがついたオレンジ色のドレスだった。動くたびにキラキラと輝くのは小さいダイヤモンドが散りばめられているから。そのジュリアの後ろには他の家族の面々が揃っていた。

「フフッ、相変わらずジュリアはご家族から大切にされているようね」

 チラッとアリスの方に視線を向ける。あなたと違って……とその瞳が雄弁に語っている。そんな視線に慣れっこのアリスはエベレスク一家を見る。

 皆見事な赤銅色の髪の毛と瞳。いとこ同士ということもあり、夫妻共にその色だった。彼らの視線の先にはジュリアがおり、その瞳は温かな愛情が見て取れる。

「はい。ジュリアは私の……私達の宝です。いやはや娘がこんなに可愛いものだとは。勉学も一番上の兄と同じレベルのことを行い、成績も兄よりも優秀なんです。見目もこの通り可愛らしく、嫁になどいかずずっと我が家にいて欲しいくらいですな」

 宰相が答え、他の家族がうんうんと頷いている。親バカ兄バカだ。親バカ、兄バカがここにいる。皆思ったが、口には出さない。

「……お嫁にださないなどと、将来の青年たちがどれほど涙を呑むことか……」

 一瞬ひきつった顔になってしまったが、慌てて笑顔を取り繕う王妃。ねえ、と皇太子に視線を向ける。皇太子はアリスではなくジュリアと顔を薄く赤らめ微笑み合っていた。周りの大人たちも気付き、アリスに邪魔者だと視線を向ける。

「いえいえお嫁に出したらそんな小僧共よりも、私の涙が枯れ果ててしまうことでしょう」

 至極真面目な顔をして言う宰相。空気を読んで欲しい。皆が微妙な空気になる中王妃が咳払いする。

「皇太子。ジュリアとお話しでもしてきたら?」

「はい、王妃様。ジュリア嬢庭園の花でも一緒にいかがですか?」

 すっと手を差し出す皇太子。微笑ましい光景だ。皇太子の傍らにアリスという婚約者がいなければ、だが。

「はい、喜んで」

 差し出された手を両手でギュッと握ったかと思うとすぐに片手を離し、アリスの腕に片腕を絡める。

「アリスも行きましょ」

 その様子に周りにいた者たちはジュリアに称賛を送り、アリスに邪魔者の称号を送った。大人たちの視線を無視して皇太子、ジュリア、アリスは庭園に向かう。子どもたちの姿を見送る王妃とエベレスク家の面々。

「ジュリアは本当に聡明で優しく、慈悲深い子ですね」

「慈悲深い……ですか?」

「ええ、そうでしょう?」

 だって、あんな誰からも嫌われているような子を気にかけているのだから。想い合っている二人の邪魔者でしか無いのに……。言葉には出ていないがそんな思いが伝わってくる。

「ははっ!娘を褒められて悪い気はしませんな。ジュリアはかわいそうなものや憐れなものに弱いようでして……。王妃様を長時間独占していてはいけませんな。もうそろそろ我らは御前失礼させていただきます」

 スッと庭園の方に視線を向ける。その言葉に満足したのか王妃は別の者に挨拶に向かった。

「旦那様」

 宰相の妻が宰相に呼びかける。

「妻よ……王妃様の考えはわかっただろう。それにあの子もそれを望んでいる。あの子にもそれなりの覚悟をさせなければならないようだな」

「しかし……」

 相手はあのカサバイン家のご令嬢。一人一人の戦力が半端ない化け物一家。そんな家の娘から婚約者を奪ったとなれば……身体が震える。

「大丈夫だ。カサバインの者はうちには何もしてこない」

 それは彼女が蔑ろにされているからなのか……。それとも他に何か理由があるのか……。なぜそのように言い切ることができるのか疑問に思いながらも深くは聞けない夫人だっだ。


~~~~~

 庭園にて

 皇太子を挟むように座るアリスとジュリア。目の前のテーブルには女の子が好むような可愛らしいデザートがたくさん並ぶ。……ジュリア好みのものばかり。皇太子付きの侍女は王妃の手のものばかり……そりゃあ、アリスよりもジュリア優先になる。婚約者はアリスだから当然というのはおかしいが。

 見た目も味も甘ったるいお菓子たち、アリスはまだしも甘いものがあまり好きではない皇太子には胸焼けする光景だろうに、文句の一つも言わない。

 どころかジュリアを見て嬉しそうにあま~いケーキを口に運ぶ12歳皇太子オスカーの恋愛脳に将来がどうなっていくのか少々心配になるアリス。

 侍女や執事が見守る中、主に皇太子とジュリアで話しが進み、アリスはたまに口を挟む程度。二人が話している時は12歳と10歳の淡い恋模様に微笑ましく温かい空気が漂う。しかし、アリスが言葉を発する度にうざそう~~~に見てくる使用人たち。本当にうざ~~~いのはどちらだろう、とアリスは思う。

 まあいつものことだとお茶を飲む。



 しぶ~~~~~~~~い。
 10歳の子供に出すものではない。

 嫌がらせだろうがアリスとしては助かっている。異常に甘いお菓子に激渋茶はよく合うのだ。



 これは誰にも…………内緒。


 彼女は再びお茶を口に含むと誰にもさとられないように口元を笑みの形に彩った。今日も皆様いらぬ苦労お疲れ様です。


 

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