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142.側室問題①
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「えっ、嫌なんですけど」
アリスの話しを聞き終えたルビーが発した第一声だ。
「まあ……私も宰相もあなたがきっと承諾すると思ったから色々と便宜を図ったのに」
アリスの提案は悪いものではない。破格の待遇とも言える。だが、険しい道のりになるとも言えるものだった。
「まあ別に嫌なら良いわよ。だた利用価値のないあなたを宰相がどう扱うかは知らないけれど……。でもよく考えてよルビーさん?私の手を取ったほうが宜しくてよ。また貧乏生活に戻るの?また変な男に捕まるの?」
「もう男には頼らないわよ!」
「だったら!あなたこそ適任だわ」
「…………………………」
「ねえ、ルビーさん……あなたが必要なのよ。助けて頂戴」
アリスの上目遣いに心が揺れる。
美しい超人に懇願されるというのは悪い気がしない。
「生活面は宰相が責任を持つわ。まあ色々あるかもしれないけれど図太いあなたなら乗り越えられるわよ」
なんともまあ他力本願な言葉だ。
「私たちお友達でしょう?」
我らの関係のどこら辺が友達なのだろうか。
まあ、でもちょっと嬉しい。
「助けて?」
じーっと見つめてくる瞳に吸い込まれそうだ。差し出された手を握っていた。
「あ…………」
ニタリと笑うアリスはぐっとルビーの手を引っ張ると耳元に口を寄せた。
「ありがとう」
ぼっと頬が真っ赤になるルビー。
「さあ、こっちに来てちょうだい。作戦会議と参りましょう?」
「作戦会議?」
ルビーの問いには答えずフワリと微笑むアリス。
ルビーはその笑みの柔らかさとは違い、逃さないとばかりに力強く引っ張るアリスの手の力に不吉な予感しかしなかった。
――――――――――
王妃はアリスのように叫びたかった。
うるさーーーーーーーーーーい!と。
目の前で飛び交うは不快な言葉の嵐。
だが許されない、自分は王妃なのだから。
今彼女の隣には王が、斜め前には皇太子であるマキシム、第三王子であるルカ、第四王子であるブランクとその妻のアリス。そしてその他大臣たちが勢揃いしていた。
現在彼らは王妃にとって忌々しい内容の会議の真っ最中。
「王妃様!王妃様が頷いてくだされば済むことですのになぜ拒否されるのですか!?」
「何を言う!?貴様、王妃様のお気持ちを蔑ろにする気か!?」
「そういう貴様は王様のお気持ちを蔑ろにする気か!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ続ける大臣たちに頭が痛くなる。
そもそも彼らは何を騒いでいるのか。
「陛下がタリス男爵夫人を側室に迎えたいと願っていらっしゃるのですよ!」
「あ……いや、あの絶対というわけではないぞ?あの、無理ならもう少し予算を増やすとか……」
一人の大臣の言葉に王が王妃の目を気にしながらしどろもどろに口を挟む。
「皇太子様!いち早くお世継ぎを得るために側室をお迎えください!」
「弟もいるし、優秀な甥のラルフもいるから余計なお世話だよ」
鬼気迫る勢いの大臣の言葉をにこやかにぶった切るマキシム。
「ルカ様はタリス男爵令嬢を側室に迎えたいと強く願っておられます!」
「母上!早く彼女を側室に迎えたいです!」
少々勢いを削がれた大臣の言葉に強く賛同するのはルカだった。会議の場で母上と呼ぶでない。王妃に睨みつけられたルカは身を縮めた。
彼らが騒いでいるのは王族の側室問題について。
現在王宮では男爵以下の地位の者たちが活発な動きを見せていた。その原因はもちろんタリス男爵の妻ケイトが王の寵愛を、娘クレアがルカの寵愛を得ているからだ。
「陛下!陛下が妻、いえケイト様を側室に迎えると決められたならば私はすぐにでも彼女と離縁する所存です。彼女は私の大切な妻です。されど敬愛なる陛下が彼女を求めるのであれば……。それに彼女も陛下のことを愛しております!私は……私は……二人の大切な方が幸せになれるのであれば喜んで身を引く所存です!」
長々とした芝居がかったセリフを言うのはタリス男爵だ。
「なんと……!」
「家臣の鏡だ!」
彼を持て囃す言葉が上がる。王族からの寵愛を受ける妻と娘を持つ男爵に高位貴族の者たちにも謙る者は多い。なにせ彼はそのへんの王宮で働くペーペーだったのに大臣になったのだ。
生まれが良いわけでもなく、無能でありながら大臣。それは即ちそれだけ彼が目をかけられているという証である。
ざわざわと会議室が騒がしい中、アリスが王妃にこそこそと話しかける。
「王妃様王妃様。あの芝居がかったクサいセリフとあの眉髭が相まっていい感じに詐欺師に出来上がってますね」
「あれは詐欺師というよりサーカスの団長という方がしっくり来るんじゃない?なんか俺を見ろって感じもするし……見てご覧なさい、あの紫色の生地にでかい白色の水玉の柄の服を」
「確かに。流石王妃様ですわ」
王妃とアリスの話しが聞こえた者は肩を震わせている。末端の席で褒めちぎられている一方で上座の方では馬鹿にされている。なんとも滑稽である。
とはいうものの笑っていられる状態でもなく……
「陛下!どうかケイト様の気持ちをお考えください!」
「なりませぬ陛下!王妃様の気持ちをお考えください!」
「何を今更、初めて側室を迎えるわけでもあるまいに!」
「な!そういう問題じゃないだろう!」
「このままでは埒が明きませんな!先に皇太子様の側室についての話しを進めましょう!」
「だから側室は不要だって言っているだろう」
叫ぶ中にマキシムのイラついた声が上がる。
「されど!跡継ぎが必要です!」
「不要だ」
「ですが!」
「ふ・よ・う」
「………………………」
娘のことが話に上がるものの黙っている公爵。
「ちょいちょい全然まとまらないじゃん!父上と兄上のことは放っておいてさっさとクレアを僕の側室にする話しを進めようよ!」
「おお、そうですな!うちの娘もルカ様の側室になるのを心待ちにしているのですよ!」
「ルカ様とクレア様の件は皆様賛成で宜しいですよね?」
「ええ、勿論ですとも。現在ルカ様の奥方はご実家にお帰りですしな。到底王子妃の器でもありますまい。一日でも早く王子を支える方を迎えるべきです!」
「おや、そのような言い方をされてはうちの娘が正妃になるようではありませんか!しがない男爵家の娘が滅相もない。それにまだ奥方はいらっしゃるのですから。でもまあ……ご実家にお帰りになられて勤めを果たされていないのでは、うちの娘がその代わりに収まるというのも致し方ないかと。悪く思わないでくださいね……伯爵」
「…………娘は快方に向かっている」
ギロリと男爵を睨むのはハーゲ伯爵だ。
「陛下!我が娘クレアとルカ王子様の件進めても宜しいですよね?」
「…………………………」
なんとも言い難く口を閉ざす王に男爵は畳み掛ける。
「ケイトも愛娘が側室になるのを心待ちにしているのです。陛下」
「む…………うむ……」
歯切れが悪いながらも肯定的な返事っぽい言葉に男爵の顔が明るくなる。
「王妃よ、どうだろうか?」
「…………そうですね」
「その、まあルカ自身もクレアを好いているようだし」
「ええ」
「人手があったほうが君も楽だろうし」
「私には既に義娘が4人おります」
「ああ、私にもいるよ。皆素晴らしい娘ばかりだ。でもその今は……」
「…………………………」
王妃はイライラが止まらなかった。こちらの意見を聞いている風だが、結局王は自分が寵愛する女のワガママ?を聞いてやりたいのだ。
王妃は嫌悪が募る。
王妃は欲ばかり強く使い道のない男爵が嫌いだ。それに大っ嫌いな男と憎い恋敵の娘、なぜそんな娘を側室とはいえ嫁として受け入れなければならないのか。
だが
2人が想い合っている以上、王が良しとしている以上止める術はない。何度も同じ議論が交わされなあなあにしてきたが、それも夫と息子が王妃を気遣ってのものだ。
だがもう彼らは自分の意思を通すつもりのようだ。ケイトは諦めるからクレアは側室に。お互い一歩だけ譲ろうと。
黙る王妃。
沈黙は肯定だ。
ああ、見える。
ハーゲ伯爵が悔しそうに唇を噛むのが。
それを見たタリス男爵の顔に下劣な勝利の笑みが浮かぶのが。
最愛の夫と最愛の息子が嬉しそうにお互いに頷き合うのが。
そして一瞬後……夫、息子、眉髭の顔が訝しげなものに変わっていくのが――――――――――。
アリスの話しを聞き終えたルビーが発した第一声だ。
「まあ……私も宰相もあなたがきっと承諾すると思ったから色々と便宜を図ったのに」
アリスの提案は悪いものではない。破格の待遇とも言える。だが、険しい道のりになるとも言えるものだった。
「まあ別に嫌なら良いわよ。だた利用価値のないあなたを宰相がどう扱うかは知らないけれど……。でもよく考えてよルビーさん?私の手を取ったほうが宜しくてよ。また貧乏生活に戻るの?また変な男に捕まるの?」
「もう男には頼らないわよ!」
「だったら!あなたこそ適任だわ」
「…………………………」
「ねえ、ルビーさん……あなたが必要なのよ。助けて頂戴」
アリスの上目遣いに心が揺れる。
美しい超人に懇願されるというのは悪い気がしない。
「生活面は宰相が責任を持つわ。まあ色々あるかもしれないけれど図太いあなたなら乗り越えられるわよ」
なんともまあ他力本願な言葉だ。
「私たちお友達でしょう?」
我らの関係のどこら辺が友達なのだろうか。
まあ、でもちょっと嬉しい。
「助けて?」
じーっと見つめてくる瞳に吸い込まれそうだ。差し出された手を握っていた。
「あ…………」
ニタリと笑うアリスはぐっとルビーの手を引っ張ると耳元に口を寄せた。
「ありがとう」
ぼっと頬が真っ赤になるルビー。
「さあ、こっちに来てちょうだい。作戦会議と参りましょう?」
「作戦会議?」
ルビーの問いには答えずフワリと微笑むアリス。
ルビーはその笑みの柔らかさとは違い、逃さないとばかりに力強く引っ張るアリスの手の力に不吉な予感しかしなかった。
――――――――――
王妃はアリスのように叫びたかった。
うるさーーーーーーーーーーい!と。
目の前で飛び交うは不快な言葉の嵐。
だが許されない、自分は王妃なのだから。
今彼女の隣には王が、斜め前には皇太子であるマキシム、第三王子であるルカ、第四王子であるブランクとその妻のアリス。そしてその他大臣たちが勢揃いしていた。
現在彼らは王妃にとって忌々しい内容の会議の真っ最中。
「王妃様!王妃様が頷いてくだされば済むことですのになぜ拒否されるのですか!?」
「何を言う!?貴様、王妃様のお気持ちを蔑ろにする気か!?」
「そういう貴様は王様のお気持ちを蔑ろにする気か!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ続ける大臣たちに頭が痛くなる。
そもそも彼らは何を騒いでいるのか。
「陛下がタリス男爵夫人を側室に迎えたいと願っていらっしゃるのですよ!」
「あ……いや、あの絶対というわけではないぞ?あの、無理ならもう少し予算を増やすとか……」
一人の大臣の言葉に王が王妃の目を気にしながらしどろもどろに口を挟む。
「皇太子様!いち早くお世継ぎを得るために側室をお迎えください!」
「弟もいるし、優秀な甥のラルフもいるから余計なお世話だよ」
鬼気迫る勢いの大臣の言葉をにこやかにぶった切るマキシム。
「ルカ様はタリス男爵令嬢を側室に迎えたいと強く願っておられます!」
「母上!早く彼女を側室に迎えたいです!」
少々勢いを削がれた大臣の言葉に強く賛同するのはルカだった。会議の場で母上と呼ぶでない。王妃に睨みつけられたルカは身を縮めた。
彼らが騒いでいるのは王族の側室問題について。
現在王宮では男爵以下の地位の者たちが活発な動きを見せていた。その原因はもちろんタリス男爵の妻ケイトが王の寵愛を、娘クレアがルカの寵愛を得ているからだ。
「陛下!陛下が妻、いえケイト様を側室に迎えると決められたならば私はすぐにでも彼女と離縁する所存です。彼女は私の大切な妻です。されど敬愛なる陛下が彼女を求めるのであれば……。それに彼女も陛下のことを愛しております!私は……私は……二人の大切な方が幸せになれるのであれば喜んで身を引く所存です!」
長々とした芝居がかったセリフを言うのはタリス男爵だ。
「なんと……!」
「家臣の鏡だ!」
彼を持て囃す言葉が上がる。王族からの寵愛を受ける妻と娘を持つ男爵に高位貴族の者たちにも謙る者は多い。なにせ彼はそのへんの王宮で働くペーペーだったのに大臣になったのだ。
生まれが良いわけでもなく、無能でありながら大臣。それは即ちそれだけ彼が目をかけられているという証である。
ざわざわと会議室が騒がしい中、アリスが王妃にこそこそと話しかける。
「王妃様王妃様。あの芝居がかったクサいセリフとあの眉髭が相まっていい感じに詐欺師に出来上がってますね」
「あれは詐欺師というよりサーカスの団長という方がしっくり来るんじゃない?なんか俺を見ろって感じもするし……見てご覧なさい、あの紫色の生地にでかい白色の水玉の柄の服を」
「確かに。流石王妃様ですわ」
王妃とアリスの話しが聞こえた者は肩を震わせている。末端の席で褒めちぎられている一方で上座の方では馬鹿にされている。なんとも滑稽である。
とはいうものの笑っていられる状態でもなく……
「陛下!どうかケイト様の気持ちをお考えください!」
「なりませぬ陛下!王妃様の気持ちをお考えください!」
「何を今更、初めて側室を迎えるわけでもあるまいに!」
「な!そういう問題じゃないだろう!」
「このままでは埒が明きませんな!先に皇太子様の側室についての話しを進めましょう!」
「だから側室は不要だって言っているだろう」
叫ぶ中にマキシムのイラついた声が上がる。
「されど!跡継ぎが必要です!」
「不要だ」
「ですが!」
「ふ・よ・う」
「………………………」
娘のことが話に上がるものの黙っている公爵。
「ちょいちょい全然まとまらないじゃん!父上と兄上のことは放っておいてさっさとクレアを僕の側室にする話しを進めようよ!」
「おお、そうですな!うちの娘もルカ様の側室になるのを心待ちにしているのですよ!」
「ルカ様とクレア様の件は皆様賛成で宜しいですよね?」
「ええ、勿論ですとも。現在ルカ様の奥方はご実家にお帰りですしな。到底王子妃の器でもありますまい。一日でも早く王子を支える方を迎えるべきです!」
「おや、そのような言い方をされてはうちの娘が正妃になるようではありませんか!しがない男爵家の娘が滅相もない。それにまだ奥方はいらっしゃるのですから。でもまあ……ご実家にお帰りになられて勤めを果たされていないのでは、うちの娘がその代わりに収まるというのも致し方ないかと。悪く思わないでくださいね……伯爵」
「…………娘は快方に向かっている」
ギロリと男爵を睨むのはハーゲ伯爵だ。
「陛下!我が娘クレアとルカ王子様の件進めても宜しいですよね?」
「…………………………」
なんとも言い難く口を閉ざす王に男爵は畳み掛ける。
「ケイトも愛娘が側室になるのを心待ちにしているのです。陛下」
「む…………うむ……」
歯切れが悪いながらも肯定的な返事っぽい言葉に男爵の顔が明るくなる。
「王妃よ、どうだろうか?」
「…………そうですね」
「その、まあルカ自身もクレアを好いているようだし」
「ええ」
「人手があったほうが君も楽だろうし」
「私には既に義娘が4人おります」
「ああ、私にもいるよ。皆素晴らしい娘ばかりだ。でもその今は……」
「…………………………」
王妃はイライラが止まらなかった。こちらの意見を聞いている風だが、結局王は自分が寵愛する女のワガママ?を聞いてやりたいのだ。
王妃は嫌悪が募る。
王妃は欲ばかり強く使い道のない男爵が嫌いだ。それに大っ嫌いな男と憎い恋敵の娘、なぜそんな娘を側室とはいえ嫁として受け入れなければならないのか。
だが
2人が想い合っている以上、王が良しとしている以上止める術はない。何度も同じ議論が交わされなあなあにしてきたが、それも夫と息子が王妃を気遣ってのものだ。
だがもう彼らは自分の意思を通すつもりのようだ。ケイトは諦めるからクレアは側室に。お互い一歩だけ譲ろうと。
黙る王妃。
沈黙は肯定だ。
ああ、見える。
ハーゲ伯爵が悔しそうに唇を噛むのが。
それを見たタリス男爵の顔に下劣な勝利の笑みが浮かぶのが。
最愛の夫と最愛の息子が嬉しそうにお互いに頷き合うのが。
そして一瞬後……夫、息子、眉髭の顔が訝しげなものに変わっていくのが――――――――――。
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※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
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