6 / 7
簒奪
しおりを挟む約束の一月が経過して元夫ルベルトは出て行く、最後だからと見送りに出たアミーナは「どうか元気で」と言った。
「ああ、ありがとうトレント伯爵。ただ、ひとつ警告しておこう私の母のことだ」
「あら、どんな?」
彼が何を謂わんとしているかわかっていながら、敢えてそ知らぬふりを決め込む。アミーナは余裕そうに微笑んでいる。
「……知っているのだな、なにもかも」
「ふふ、その通りと言いたいけれど、まぁ概ね知っているわ。彼女がトレント家を狙っていることは、あの方ったら婚姻する時の事を忘れてしまったようね」
「そうだろうね、まさか私が当主になれないなどと毛ほども思ってないと思う」
「当主は血筋からとるもの、愚かだわ」
彼女は目を瞑りそう言った、ゴリヤーテ夫人は離縁されたアミーナが追い出されるとばかり思いこんでいる。そんな簒奪がまかり通ったら王侯貴族は誰も結婚しない。
「さよなら、ルベルト」
「さようなら、トレント伯爵」
彼は外套を纏って裏門からこっそりと出て行く、ロゼッタや夫人を警戒してのことだ。
「3年か長いような短いような……」
彼が赴くのは文官用の宿舎である、誰にも邪魔されずに暮らすならそこしかない。トランクひとつだけでそこに向かうのだ。
***
「はあ?なんですって!?」
金切声を上げたゴリヤーテ夫人に両耳を押さえた門番が嫌そうにしている。今日は馬車に乗らず身一つでやってきた。傍らには妊娠したと思われるロゼッタがいた。こちらは一応馬車に乗ってやってきた。
「だからルベルトなんて人物はこの屋敷にいないと言った。離縁が成立してどこかへ消えた」
「な、なんですって!どうしてよ、彼がいてこそのトレント伯爵じゃないの!」
「ご当主はアミーナ様だ、勘違いするな。話は以上だ帰れ」
泣こうが喚こうが門はきっちりと閉めれていて入ることは叶わない。
泣き崩れた夫人はおいおいと煩い、側にいたロゼッタもその様子に引いている。
「話が違うわゴリヤーテ夫人、どうなっているの?」
彼女はイライラしてそう捲し立てるが、泣き止まない彼女に呆れている。仕方なく馬車を自宅に戻るよう指示した。すると夫人が強引に同乗してきたではないか。
「なにをなさるの!図々しい!」
「煩いわね!行くところがないのよ!」
「はあ?」
聞けばゴリヤーテ家を追い出されたというではないか、何故そのような事態に陥ったかと言うと不倫がバレたらしい。
「バッカじゃないの!身から出た錆じゃないのよ!」
「キィー!小娘が大人の恋がわかるものですか!あぁジャック……私を助けて」
兎にも角にもその”ジャック”とやらの屋敷まで乗せていけと夫人は騒ぐ、呆れたロゼッタだったが今はヒステリーのオバサンを追い出すことにした。
町はずれの寂れた一角に馬車が止まる、ただのオバサンは脱兎の如くそこへ走っていった。
「はぁ~やってられないわ、まったく伯爵夫人になれるというから乗ったのに!」
初期の妊婦とは思えないポッコリ出た腹をポンと叩く、そして徐に肉襦袢を剥いだ。そう、妊娠したなど真っ赤な嘘なのだ。
「あぁ~つまんない!ルベルトは何処へ行ったのかしら?まぁ当主じゃないならどうでもいいか」
馬車は元来た道を急ぎ男爵家へと進む。
「あぁジャック……私を慰めて」
「可哀そうにいったいどうしたの?」
しくしくと泣き崩れる彼女の背をポンポンと叩く、愛人ジャックは初老の女をニコニコと作り笑いで慰めた。
「私、家を追い出されたの、貴方とのことがバレちゃったのよ……シクシク」
「な、なんだって!?」
911
あなたにおすすめの小説
待ってください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。
毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。
だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。
一枚の離婚届を机の上に置いて。
ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。
※短編連作
※この話はフィクションです。事実や現実とは異なります。
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
破滅は皆さんご一緒に?
しゃーりん
恋愛
帰宅途中、何者かに連れ去られたサラシュ。
そのことを知った婚約者ボーデンは夜会の最中に婚約破棄を言い渡す。
ボーデンのことは嫌いだが、婚約者として我慢をしてきた。
しかし、あまりの言い草に我慢することがアホらしくなった。
この場でボーデンの所業を暴露して周りも一緒に破滅してもらいましょう。
自分も破滅覚悟で静かにキレた令嬢のお話です。
だって悪女ですもの。
とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。
幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。
だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。
彼女の選択は。
小説家になろう様にも掲載予定です。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
みんながまるくおさまった
しゃーりん
恋愛
カレンは侯爵家の次女でもうすぐ婚約が結ばれるはずだった。
婚約者となるネイドを姉ナタリーに会わせなければ。
姉は侯爵家の跡継ぎで婚約者のアーサーもいる。
それなのに、姉はネイドに一目惚れをしてしまった。そしてネイドも。
もう好きにして。投げやりな気持ちで父が正しい判断をしてくれるのを期待した。
カレン、ナタリー、アーサー、ネイドがみんな満足する結果となったお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる