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見合いから七日後、定例通りの期間を経て返事を受け取ったダナトー伯爵は”ご縁が無かった”という文字列を目にすると憤慨して手紙を破り捨てる。やはり断られるとは予想もしていなかったのだろう。
彼は先触れも出さない無礼を働き侯爵家へ怒鳴り込んだのである。
「どういうことですか!話が違うではないか」
怒りに任せて咆える伯爵は、相手が目上のものだということをすっかり失念した頭で責め立てた。一方で妙に冷静で応対するアシュトン侯爵は招かれざる客に侮蔑の視線を向けつつ言い返した。
「話が違う?なんですかなそれは、行き場のない三男をどうか婿にと頭を下げたのはそちらのはず、こちらは仕方なく見合いの席を設けて差し上げただけにすぎないのだがね」
「う、それは……一人娘しかいない貴殿には私の息子が必要かと!」
「おやおやそれはまた、随分と上から目線な心配りですな。我が家への冒涜と受け止めよう」
柔らかな対応をする侯爵だったが、その言葉の裏には怒りが垣間見えた。
相手の怒気にあてられたダナトーはこれは拙いと軽い頭を下げて非礼を詫びた、だがそれでも諦めきれないのか「今一度、御令嬢とお会いする機会を」と宣うのだ。
「お願いします!我が息子ニコラスは聡明で見目も良い自慢の子なのです!きっと再びお会いすればその良さが御令嬢にも伝わるはずです!」
「はあ。その令嬢こと娘が貴殿の子息を心底毛嫌いしているのだがね?私は無理強いしてまで縁を結ぶ意味はないと考える、我が家としては娘の気持ちを尊重するし、生涯家督も継がず嫁ぎたくないというならば縁戚から養子を迎えるまでだ」
「そんな!うちの息子はどうなるんだ!逼迫した我が領の立て直しが……あっ」
「やはり我が家の資産を狙っての縁談だったか、帰ってくれ!」
「ぐぅ……今日の所はこれで失礼します……、騒ぎ立て申し訳ありません」
悔やしげにダナトーは帰るが諦めた様子はない、親子ともども粘着質な性格のようだ。腹黒い本音を零しておきながらなんとも図太い。
***
婚約の打診を正式に断り、まずは安堵するルシアナだ。
それでも何かと理由をつけてアシュトン家へ手紙をよこすダナトー家だった。時候の簡素な挨拶文をはじめ、茶会はどうか、馬で遠乗りへ行かないかと煩かった。だが、アシュトン侯爵は返事の手紙など書きはしない。徹底した無視を決めこんだのだ。
「ねぇ父上、あの子から返事はこないのですか?この素晴らしい俺の誘いを無下にするとは考えにくい。あぁ!ひょっとしたら不相応と遠慮しているのか、それとも照れて素直になれないのかなぁ?」
嫌われ、振られていると受け入れないらしい愚かなニコラスは都合の良い解釈をしてそう呟く。
「あ、ああそうに違いないな!御令嬢は慎ましそうな方だったから、お前が何かきっかけを作ってやってはどうか?」
「え?俺がわざわざ?……ふ~む、意地を張る頑固な女は好みじゃないけど、仕方ないな、こちらから折れてやろうか。そして侯爵家と縁が結べれば我が家も安泰だものな!」
「そうだ、その通り!さすが私の息子だよ!」
斜め上をゆく発言を交わすバカな親子はこうして愚行に走るのだった。
そして、その日はすぐにやってきた。
とある公爵家主催の茶会に招かれていたルシアナは顔馴染みの令嬢たちと談笑していた。優美な庭園を一望できるらしい会場にて開かれた茶会は盛況の様子だ。事業関連で招かれた客人は公爵が厳選した顔ぶればかりである。
だというのに、どこから聞きつけたのか異物が混入して騒ぎを起こそうとしていた。
偶然を装ったニコラスがルシアナの背へ声をかける。
「やあ、ルシアナ!元気そうだね!」
「名を呼ぶ許可は出してないわ。ダナトー子息」
相手にされず舌打ちするニコラス、場に居合わせた人々がなんて下品な男かと怪訝な顔をして距離を置いた。招待客は裕福の者が多い、比べてニコラスの服装は粗雑で悪目立ちした。財政難はかなり深刻のようだとルシアナは見透かした。
彼は先触れも出さない無礼を働き侯爵家へ怒鳴り込んだのである。
「どういうことですか!話が違うではないか」
怒りに任せて咆える伯爵は、相手が目上のものだということをすっかり失念した頭で責め立てた。一方で妙に冷静で応対するアシュトン侯爵は招かれざる客に侮蔑の視線を向けつつ言い返した。
「話が違う?なんですかなそれは、行き場のない三男をどうか婿にと頭を下げたのはそちらのはず、こちらは仕方なく見合いの席を設けて差し上げただけにすぎないのだがね」
「う、それは……一人娘しかいない貴殿には私の息子が必要かと!」
「おやおやそれはまた、随分と上から目線な心配りですな。我が家への冒涜と受け止めよう」
柔らかな対応をする侯爵だったが、その言葉の裏には怒りが垣間見えた。
相手の怒気にあてられたダナトーはこれは拙いと軽い頭を下げて非礼を詫びた、だがそれでも諦めきれないのか「今一度、御令嬢とお会いする機会を」と宣うのだ。
「お願いします!我が息子ニコラスは聡明で見目も良い自慢の子なのです!きっと再びお会いすればその良さが御令嬢にも伝わるはずです!」
「はあ。その令嬢こと娘が貴殿の子息を心底毛嫌いしているのだがね?私は無理強いしてまで縁を結ぶ意味はないと考える、我が家としては娘の気持ちを尊重するし、生涯家督も継がず嫁ぎたくないというならば縁戚から養子を迎えるまでだ」
「そんな!うちの息子はどうなるんだ!逼迫した我が領の立て直しが……あっ」
「やはり我が家の資産を狙っての縁談だったか、帰ってくれ!」
「ぐぅ……今日の所はこれで失礼します……、騒ぎ立て申し訳ありません」
悔やしげにダナトーは帰るが諦めた様子はない、親子ともども粘着質な性格のようだ。腹黒い本音を零しておきながらなんとも図太い。
***
婚約の打診を正式に断り、まずは安堵するルシアナだ。
それでも何かと理由をつけてアシュトン家へ手紙をよこすダナトー家だった。時候の簡素な挨拶文をはじめ、茶会はどうか、馬で遠乗りへ行かないかと煩かった。だが、アシュトン侯爵は返事の手紙など書きはしない。徹底した無視を決めこんだのだ。
「ねぇ父上、あの子から返事はこないのですか?この素晴らしい俺の誘いを無下にするとは考えにくい。あぁ!ひょっとしたら不相応と遠慮しているのか、それとも照れて素直になれないのかなぁ?」
嫌われ、振られていると受け入れないらしい愚かなニコラスは都合の良い解釈をしてそう呟く。
「あ、ああそうに違いないな!御令嬢は慎ましそうな方だったから、お前が何かきっかけを作ってやってはどうか?」
「え?俺がわざわざ?……ふ~む、意地を張る頑固な女は好みじゃないけど、仕方ないな、こちらから折れてやろうか。そして侯爵家と縁が結べれば我が家も安泰だものな!」
「そうだ、その通り!さすが私の息子だよ!」
斜め上をゆく発言を交わすバカな親子はこうして愚行に走るのだった。
そして、その日はすぐにやってきた。
とある公爵家主催の茶会に招かれていたルシアナは顔馴染みの令嬢たちと談笑していた。優美な庭園を一望できるらしい会場にて開かれた茶会は盛況の様子だ。事業関連で招かれた客人は公爵が厳選した顔ぶればかりである。
だというのに、どこから聞きつけたのか異物が混入して騒ぎを起こそうとしていた。
偶然を装ったニコラスがルシアナの背へ声をかける。
「やあ、ルシアナ!元気そうだね!」
「名を呼ぶ許可は出してないわ。ダナトー子息」
相手にされず舌打ちするニコラス、場に居合わせた人々がなんて下品な男かと怪訝な顔をして距離を置いた。招待客は裕福の者が多い、比べてニコラスの服装は粗雑で悪目立ちした。財政難はかなり深刻のようだとルシアナは見透かした。
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