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まったく相手をされていないのにも折れず、ニコラスは彼女のことを会場の中をどこまでも執拗に追いかける。そして、返事もないのに一方的に話しかけてルシアナと客の会話の邪魔を繰り返していた。
「ねぇねぇルシアナ!照れるのもいい加減にしないと寛容な俺も怒ってしまうよ、それでも良いのかい?この才覚溢れる人材を婿に迎え損ねたらアシュトン家の損失に繋がるというものさ!キミは容姿も才能も凡庸だが俺は譲歩してあげるよ、俺はとても懐が広いんだ!いい加減にこっちを向けよルシアナ!」
呆れた妄言を繰り返すニコラスに、ずっと堪えていた彼女の額に怒りの筋が浮かび上がった。手にした繊細なグラスにピキッと罅が入る。
怒りの限界に来ていたルシアナが振り返って言い返そうとした時だ、茶会の主催であるスイングラー公爵の子息が割って入った。
「ダナトー卿の御子息だね、我が家はキミを招待した覚えはないのだが?」
「……そ、それは俺はルシアナの婚約者として同行したのですよ」
いけしゃあしゃあと大噓をついて応戦するニコラスの図々しさにルシアナは呆気に取られた。だが、彼女の出番はなさそうだ。
「息を吐くように嘘を言うとは此のことなのだね。ここまで厚顔無恥な人物を目の当たりにしたのは始めてだ、どうしてバレないと思うのかな?公爵家を侮るのもいい加減にしたまえ!この愚弄と侮辱は正式に抗議させて頂くからな覚悟しておけ!」
「ひぃ!?」
高位の者が放つ独特の威厳と憤怒にあてられた小者のニコラスはその場に尻餅をついて床に染みを作った。すぐに異臭が立ち上って客達をドン引きさせた。
「見え透いた嘘を披露してくれた道化の余興に感謝しよう、彼女はボクの婚約者なんだよ。今日の茶会はその発表を兼ねていたのさ、あぁもちろんこのまま夜会へ続くのだがね。参加したいかい?」
「クソッ!結構だ!」
スイングラー子息クリフォードは側に控えていた執事に「醜態の証拠をとってダナトーに賠償金を請求しろ、ド貧乏だろうと容赦はするなよ」と指示を出した。
観衆の前での失禁した上に貧乏と言われた辱めにニコラスは赤くなったり、青くなったり顔色が忙しい。そして、公爵家の私兵たちによって彼は屋敷から摘まみだされて行った。
「皆様、御騒がして申し訳ない。茶会が残念だった分は夜会で挽回させていただきたく存じます」
クリフォードがそう言って腰を折ると招待客たちから盛大な拍手が送られた。子息は場を収められてホッと息をはく。
「面白い余興になりましたぞ!御子息は憂うことはない」
「御令嬢を護る姿は城騎士のようでした、ご立派でしたわ、公爵家は安泰でしょう」
賞賛の声を浴びた子息は微笑んでその言葉に感謝した。
「ルシアナ嬢、不快な思いをさせて申し訳ない。うちの警備員は役立たずのようだ」
「いいえ、どうかあまり責めないであげて。きっと彼のこと、狡い手段でかいくぐったのだわ」
卑怯そうなニコラスの面差しが頭に浮かんでルシアナは身震いした。
***
追い出されたニコラスは馬車の中で悔しそうに爪を噛む、同行していた侍女は異臭に気が付いて嫌そうに顔を顰めた。
「まずい……このままでは俺は破滅だ!爵位もなく財もないまま市井に下ることになる」
プライドが高いニコラスはそれだけは回避したい是が非でも婚約を取り付けたいと愚考する、粘着な性格は直りそうもない。
伯爵家の屋敷に戻った彼は湯船に浸かりながらブツブツと思考を巡らし、ある卑怯な手を思いついて下品に笑った。「既成事実を作ってしまえばこちらのものさ!会場で追い回してわかったぞ、あの女は隙があり過ぎる」
姑息な手段を思いついた彼はどのように罠を作ろうかと謀に夢中になった。
茶会に乱入した日から数日後、ニコラスは下町へと繰り出していた。
人目を避けるように裏路地を進んでいく、目当ての場所はすぐに見つけた。彼は頻繁にそこへ通っているようだ。豪奢とまではいかないが、平民街に建つには立派過ぎる邸宅がそこに佇んでいた。
貴族の家とは違い護衛兵の姿などはない、彼はズカズカと門を潜ってドアを激しく叩いた。
「俺だ!ニコラスだ!頼みたい事がある!」
「ねぇねぇルシアナ!照れるのもいい加減にしないと寛容な俺も怒ってしまうよ、それでも良いのかい?この才覚溢れる人材を婿に迎え損ねたらアシュトン家の損失に繋がるというものさ!キミは容姿も才能も凡庸だが俺は譲歩してあげるよ、俺はとても懐が広いんだ!いい加減にこっちを向けよルシアナ!」
呆れた妄言を繰り返すニコラスに、ずっと堪えていた彼女の額に怒りの筋が浮かび上がった。手にした繊細なグラスにピキッと罅が入る。
怒りの限界に来ていたルシアナが振り返って言い返そうとした時だ、茶会の主催であるスイングラー公爵の子息が割って入った。
「ダナトー卿の御子息だね、我が家はキミを招待した覚えはないのだが?」
「……そ、それは俺はルシアナの婚約者として同行したのですよ」
いけしゃあしゃあと大噓をついて応戦するニコラスの図々しさにルシアナは呆気に取られた。だが、彼女の出番はなさそうだ。
「息を吐くように嘘を言うとは此のことなのだね。ここまで厚顔無恥な人物を目の当たりにしたのは始めてだ、どうしてバレないと思うのかな?公爵家を侮るのもいい加減にしたまえ!この愚弄と侮辱は正式に抗議させて頂くからな覚悟しておけ!」
「ひぃ!?」
高位の者が放つ独特の威厳と憤怒にあてられた小者のニコラスはその場に尻餅をついて床に染みを作った。すぐに異臭が立ち上って客達をドン引きさせた。
「見え透いた嘘を披露してくれた道化の余興に感謝しよう、彼女はボクの婚約者なんだよ。今日の茶会はその発表を兼ねていたのさ、あぁもちろんこのまま夜会へ続くのだがね。参加したいかい?」
「クソッ!結構だ!」
スイングラー子息クリフォードは側に控えていた執事に「醜態の証拠をとってダナトーに賠償金を請求しろ、ド貧乏だろうと容赦はするなよ」と指示を出した。
観衆の前での失禁した上に貧乏と言われた辱めにニコラスは赤くなったり、青くなったり顔色が忙しい。そして、公爵家の私兵たちによって彼は屋敷から摘まみだされて行った。
「皆様、御騒がして申し訳ない。茶会が残念だった分は夜会で挽回させていただきたく存じます」
クリフォードがそう言って腰を折ると招待客たちから盛大な拍手が送られた。子息は場を収められてホッと息をはく。
「面白い余興になりましたぞ!御子息は憂うことはない」
「御令嬢を護る姿は城騎士のようでした、ご立派でしたわ、公爵家は安泰でしょう」
賞賛の声を浴びた子息は微笑んでその言葉に感謝した。
「ルシアナ嬢、不快な思いをさせて申し訳ない。うちの警備員は役立たずのようだ」
「いいえ、どうかあまり責めないであげて。きっと彼のこと、狡い手段でかいくぐったのだわ」
卑怯そうなニコラスの面差しが頭に浮かんでルシアナは身震いした。
***
追い出されたニコラスは馬車の中で悔しそうに爪を噛む、同行していた侍女は異臭に気が付いて嫌そうに顔を顰めた。
「まずい……このままでは俺は破滅だ!爵位もなく財もないまま市井に下ることになる」
プライドが高いニコラスはそれだけは回避したい是が非でも婚約を取り付けたいと愚考する、粘着な性格は直りそうもない。
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姑息な手段を思いついた彼はどのように罠を作ろうかと謀に夢中になった。
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人目を避けるように裏路地を進んでいく、目当ての場所はすぐに見つけた。彼は頻繁にそこへ通っているようだ。豪奢とまではいかないが、平民街に建つには立派過ぎる邸宅がそこに佇んでいた。
貴族の家とは違い護衛兵の姿などはない、彼はズカズカと門を潜ってドアを激しく叩いた。
「俺だ!ニコラスだ!頼みたい事がある!」
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