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乙女子の時間は儚い
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演劇の支援を約束したアメリアであるが、自分の趣味から始まったことを親に頼ることはしなかった。令嬢として恥ずかしくない身嗜みの為の最低限の小遣いは貰っていてもそれは別である。
彼女は得意魔法を使って、それなりに貯蓄が出来る程度に稼いでいるのだ。主な顧客は王妃と王女、それから高位の貴族婦人達である、彼女の癒しの手を使うと肌の悩みを解決してしまうので重宝されている。
週末のある日、アメリアは母親に呼び出されてサロンへ顔を出した。
「せっかくの休日に悪いわね」
「いいえ、お母様。喜んで参じましたわ」
この時期は夏の陽射しで荒れた肌の手入れに忙しい、彼女にとって書き入れ時でもある。冬も保湿関連で引っ張りだこだ。
「貴女にかかるとシミも弛みも改善しちゃうんだから、頼りにしているわ」
「ふふ、ありがとうございます。ではいつも通りお肌のパックをしながら首と肩のマッサージを始めますね」
彼女は横たわった母の瞼にガーゼを乗せて、クリームを厚めに肌に乗せていく。
「あぁ良い気持ち……首が張ってちょっと痛いのよね」
「目がお疲れなのでしょうか」
季節の変わり目は何かと書類仕事が急増して、父の仕事手伝いに忙しいのだと母は愚痴った。不調な箇所を聞くとアメリアは手の平に魔力を集めて指を滑らせる。
「ずいぶん上手になったこと……ねぇ、アメリア近頃は良く下町へ出向いているようね」
「え……」
歌劇場へ通っていることを問われて彼女はドキリとした、身分に合わない恋をしている事を隠している後ろめたさが彼女の心を苛む。娘の変化を見抜いた母は続ける。
「どんな恋をしても私は咎めないわ、今どき貴族が血筋がと拘るのは時代遅れだもの。貴女には自由に生きて欲しいの」
「お母様!」
心強い言葉聞いたアメリアは顔を明るくするが、母の言葉はまだ途中のようだ。
「アミィの人生に口出しはしないわ、それでもね幸せへと導いてあげたいと思ってしまうの。一度だけでいいから見合いをして貰えないかしら?」
見合いと聞いた彼女は身体を強張らせた、娘の指が止ったことで母は苦笑する。
「絶対に婚約を強要などしないから、ね?考えて頂戴」
「……はい、お母様。私の為にありがとうございます」
***
どこにいてもアメリアは考え込むことが増えた、まだ16歳。だが、成人するまでの時間はあまりない。心は子供のまま立ち止まっていても現実はそれを許さない。
「ほんのちょっとまで少女だったのに、たった数年で大人扱いされて結婚して子供を設ける……なんて忙しいのかしらね」
従姉が対面に座って来て愚痴を吐く、生徒用のカフェの隅にいたアメリアは目が虚ろだった。
「シュリー……私達の青春ってとても短いのですね、オバサンと言われる時間は途方もなく長いのに解せないわ」
「そうね、考えてみれば恐ろしいことですわ。伴侶を得たらずっとその方と一緒……両親と過ごす時間よりずっと長いのよね」
二人は思わず手を取って「幸せになって」と同時に呟いた、そして互いに笑い合う。
「ふふ、私達は気が合い過ぎるわね」
「そうね、ずっと友人として仲良くしていたいわ」
従姉のシュリーには婚約者がいて卒業と同時に結婚する、選択の余地があるアメリアよりも彼女の方が切ないに違いないだろう。
カフェで従姉と別れるとアメリアは学園の庭園を散策していた。
庭園を挟んだ先には魔術学研究の敷地があり、そこで魔術を鍛錬する生徒たちの姿が見えた、すべての者が生まれついて魔法を自在に使えるわけではない。魔術学は魔力が少ない者が陣や呪文でもって補い発動するためのものだ。アメリアのようにイメージしただけで使えるのは希少と言えた。
土魔法が得意らしい指導者が生徒に教授しているようだ、課外授業を見学していた彼女は思わず感嘆の声を上げる。
「まあ凄い!土で壁を作って小さな家が出来ちゃった」
瞳をキラキラさせて見学に没頭していると聞き覚えのある声が彼女を呼んだ。
「アメリア!まさか学園で会えるなんて」
「まあ、ナサニエル。偶然ですわね!」
彼女は得意魔法を使って、それなりに貯蓄が出来る程度に稼いでいるのだ。主な顧客は王妃と王女、それから高位の貴族婦人達である、彼女の癒しの手を使うと肌の悩みを解決してしまうので重宝されている。
週末のある日、アメリアは母親に呼び出されてサロンへ顔を出した。
「せっかくの休日に悪いわね」
「いいえ、お母様。喜んで参じましたわ」
この時期は夏の陽射しで荒れた肌の手入れに忙しい、彼女にとって書き入れ時でもある。冬も保湿関連で引っ張りだこだ。
「貴女にかかるとシミも弛みも改善しちゃうんだから、頼りにしているわ」
「ふふ、ありがとうございます。ではいつも通りお肌のパックをしながら首と肩のマッサージを始めますね」
彼女は横たわった母の瞼にガーゼを乗せて、クリームを厚めに肌に乗せていく。
「あぁ良い気持ち……首が張ってちょっと痛いのよね」
「目がお疲れなのでしょうか」
季節の変わり目は何かと書類仕事が急増して、父の仕事手伝いに忙しいのだと母は愚痴った。不調な箇所を聞くとアメリアは手の平に魔力を集めて指を滑らせる。
「ずいぶん上手になったこと……ねぇ、アメリア近頃は良く下町へ出向いているようね」
「え……」
歌劇場へ通っていることを問われて彼女はドキリとした、身分に合わない恋をしている事を隠している後ろめたさが彼女の心を苛む。娘の変化を見抜いた母は続ける。
「どんな恋をしても私は咎めないわ、今どき貴族が血筋がと拘るのは時代遅れだもの。貴女には自由に生きて欲しいの」
「お母様!」
心強い言葉聞いたアメリアは顔を明るくするが、母の言葉はまだ途中のようだ。
「アミィの人生に口出しはしないわ、それでもね幸せへと導いてあげたいと思ってしまうの。一度だけでいいから見合いをして貰えないかしら?」
見合いと聞いた彼女は身体を強張らせた、娘の指が止ったことで母は苦笑する。
「絶対に婚約を強要などしないから、ね?考えて頂戴」
「……はい、お母様。私の為にありがとうございます」
***
どこにいてもアメリアは考え込むことが増えた、まだ16歳。だが、成人するまでの時間はあまりない。心は子供のまま立ち止まっていても現実はそれを許さない。
「ほんのちょっとまで少女だったのに、たった数年で大人扱いされて結婚して子供を設ける……なんて忙しいのかしらね」
従姉が対面に座って来て愚痴を吐く、生徒用のカフェの隅にいたアメリアは目が虚ろだった。
「シュリー……私達の青春ってとても短いのですね、オバサンと言われる時間は途方もなく長いのに解せないわ」
「そうね、考えてみれば恐ろしいことですわ。伴侶を得たらずっとその方と一緒……両親と過ごす時間よりずっと長いのよね」
二人は思わず手を取って「幸せになって」と同時に呟いた、そして互いに笑い合う。
「ふふ、私達は気が合い過ぎるわね」
「そうね、ずっと友人として仲良くしていたいわ」
従姉のシュリーには婚約者がいて卒業と同時に結婚する、選択の余地があるアメリアよりも彼女の方が切ないに違いないだろう。
カフェで従姉と別れるとアメリアは学園の庭園を散策していた。
庭園を挟んだ先には魔術学研究の敷地があり、そこで魔術を鍛錬する生徒たちの姿が見えた、すべての者が生まれついて魔法を自在に使えるわけではない。魔術学は魔力が少ない者が陣や呪文でもって補い発動するためのものだ。アメリアのようにイメージしただけで使えるのは希少と言えた。
土魔法が得意らしい指導者が生徒に教授しているようだ、課外授業を見学していた彼女は思わず感嘆の声を上げる。
「まあ凄い!土で壁を作って小さな家が出来ちゃった」
瞳をキラキラさせて見学に没頭していると聞き覚えのある声が彼女を呼んだ。
「アメリア!まさか学園で会えるなんて」
「まあ、ナサニエル。偶然ですわね!」
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