完結 復讐は蜜の味 我慢を強いられたのはお互い様です

音爽(ネソウ)

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災いの予兆 *ほんのりR18

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「この通り頼む!時間がないんだ!」
大柄な騎士がいきなり防具と武器の店にやってきて店主に頭を下げた。きゅうに増兵したらしく物資不足が生じたようだ。

「頼むと申されましても、鍛冶職人も防具を誂える職人は限られてますから」
「そこをなんとか!王都の、いいや国の一大事に繋がることなんだ」
唾を飛ばす勢いの騎士の様子に戦争でもやらかすのかと店主は畏怖する。しかし、騎士は「人間相手ならばもっとマシだ」と吐露するではないか。

「騎士団の旦那、そりゃ一体どういう」
「あぁ……漏らしちまったなら仕方ねぇな……、南の魔の森は知ってるだろう?そこによ瘴気溜まりが目撃されたんだ。すぐに調査団が派遣されたが、すでに魔物の活性化が確認された。動物型はともかくエレメント型は分裂してどんどん増殖しちまう!これがどういうことか理解できんだろ?」
事情を聞かされた店主は青褪めて震え出した。

「スタンピード……そんな!あれは稀な現象で数百年度に一度のはずじゃ」
「その数百年に一度が今年ってこったろうよ」
「ひぃぃ!」
大変な惨事が数週間以内に起こると知らされた店主はパニックに陥り、いますぐに亡命すると荷を纏めだす。国を棄てるような行為は認められないと騎士は怒鳴った。

国全体が大騒動にならないよう噂が広まぬように尽力する騎士団だったが、人の口に戸は立てられないものだ。口伝で広まったスタンピードの噂のせいで食糧を始めとする物資の買い占めが始まってしまう。
物価の高騰の足は速くとどまらない。

***

その影響はロクサーヌの元にもすぐに及ぶ。
身体能力を底上げする魔石作りに拍車をかける事態になったのだ、侯爵夫妻は金儲けの好機と見るべきか災害に怯えるべきか複雑な心境らしい。
「まったく……まるで他人事みたいに、緊急事態ですのよ!儲け度外視で頒布すべきでしょう」
「そうは言ってもねロクサーヌ、物価高の煽りでうちも困窮しているのよ?只同然で防具屋に売るなど」
夫人の言うことは一理あるがいまは非常事態である、夜通し作ると気合を入れた嫁は忙しく動いた。品数を増やしても価格は上げてはならないと彼女は義両親を窘める。



「嫁ときたら全然聞く耳を持たないのよ、頑固ったらねぇ。そりゃ人の命優先だけれど――グチグチグチ」
本邸からやってきて愚痴りだす母親の応対をする息子は顔色が優れない、愛人を匿っている彼はバレやしないかと肝を冷やすのだ。
儲け話どころではない彼は秘密の居室でマリエッタが大人しいままでいるか気が気ではない。

「ちょっと聞いているの、シル!」
「あ、あぁ……ロクサーヌが生意気って話だろう?きっと徹夜してイライラしてるのさ、放っておきなよ。たくさん魔石を作っているなら安泰じゃないか」
「そうだと良いんだけど」
愚痴が少し収まった時、二階の窓がガシャンと音を立てた。どうやらマリエッタが癇癪を起したようだ。恐れていたことが起きてシルヴァンは青くなった。

「何ごとなの、うちから派遣した侍従はちゃんと働いているの?」
「そ、それは問題ないさ、きっと掃除の最中で…」
しかし、話の途中でまたも音が成り、彼女の金切声が聞こえた。愛する男の名を連呼している。

「……彼方を呼んでいるようね」
「え、うん。昨夜連れ込んだ娼婦が原因かと……」
あろうことか秘密の恋人を誤魔化すために娼婦よばわりしたのだ。これには壁に控えていた侍女たちが瞠目する。
「まぁ、遊びはほどほどになさいね。妻を蔑ろにすると後が怖いわよ」
「うん、気を付けるよ」

なんとか下手な嘘で誤魔化して母親を本邸まで送ることになった、玄関を出ると馬車止めの辺りに壊れた椅子の残骸が目に映った。窓から投げ落としたらしい、激しい音はこれかとシルヴァンは頭を抑え母の視界に入らないよう体で隠す。
「さぁ母上、本邸へ急ごう。伯爵夫人とお茶会を開くのでしょ?」
「ええ、そうね急がなくちゃ!」

送り届けてすぐにとんぼ返りした彼を待っていたのは仏頂面の恋人の姿だった。
「酷いわシルビー、御義母様となら顔見知りですのに!お茶をご一緒するくらい良かったじゃない!」
相変わらず立場をわかっていないマリエッタはぷっくりと頬を膨らまて抗議してくる。幼い子供のようなその表情は滑稽だ。

「まぁまぁ……放っておいて済まない、寂しがらせた分は埋め合わせするから、ね?今宵はたっぷり愛し合おうじゃないか」
抱き寄せて耳元で甘く囁くシルヴァンの吐息に刺激された彼女は何かが疼いたらしくクネクネと身体を揺らした。
「約束よ、姉の所は行かないでよね?」
「ああ、当然さ。あんなマグロ女なんてつまらないからな」

彼は心にもない事を言って恋人を喜ばせた。実際は妖艶な肢体の姉との行為にのめり込みつつあった。ただ、その相手がダッチワイフとは気づかないままなのが笑える。あの初夜の後にロクサーヌは魔道具を試行錯誤して完璧な木偶人形を仕上げたのだ。

そして、その日の晩。
胸元が寂しい幼児体型のマリエッタが蕩けるような愛撫に嬌声を上げる姿があった。
「ああ素敵よ、私のシルビー……ハァァン♡」
色気は足りないが反応が薄いロクサーヌ(人形)に比べて可愛く喜ぶ彼女はやはり愛らしいと彼は満足する。
「可愛いよマリィ、キミは最高だ」
「はぅん♡」

胸の飾りと下半身の赤く尖った所を刺激する度に、彼女は身体を跳ねさせて善がり狂う。
そのうちベッドを破壊するのではと心配になるほどマリエッタは愛欲に溺れて跳ねまわるのだった。

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