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しおりを挟む戦いから三十日後、車椅子を動かしながら魔法師団の庭を移動するアランの姿があった。火傷負い引き攣れた皮膚が痛々しい。今日は同僚に火傷の後を治して貰う日だ。それからもう一つ目的があった、恋人であるナタリーの姿を探している。
彼女は彼の降格を知ると急に余所余所しくなっていた、病棟へ見舞いにも碌に訪れない彼女に苛立っていた。まさかこのまま見捨てる気ではないかと気が気ではない。
「くそっ!後方支援してるはずがあの場にいなかった……」
彼女は戦況が思わしくないと知るやさっさと逃げおおせていたのだ、命令違反をしていた斥候部隊なのだから当然と言えばそうなのだが悔しくて仕方がない。
「文句の一つも言ってやらなければ気が済まない!」
彼はブツブツと恨み言をいいながら約束していた魔法師に会いに行く。皮膚が引き攣れる度に苛立ちが募った。
「やあ、ビル。約束通り会いに来た、宜しく頼むよ」
「え?ああ、そうだっけ」
すっとボケた言い方をする同僚に苦虫を噛んだような顔をするアランである。すると同僚は「悪ぃ、冗談さ」と言って肩を竦めた。
「じゃ、ほら払うものがあるだろう?ほれほれ」
「……金をとるのかよ、まぁいいけど」
金貨の入った革袋を渡すと「確かに受け取った」とビルは言った、そして一番傷跡が酷い左半分の顔を治してやる。引き攣れが少し良くなった気がする。次々と治癒を施しケロイドはなくなった。
「ほい、これで傷跡は残っていないだろ」
「ああ、ありがとう。ついでに足も治してくれると助かる」
「はあ?それは無理だと言っただろう、魔力切れ起こして倒れちまうよ」
「……やっぱりそうか」
彼は複雑骨折した足を恨めしそうに睨んだ、自然治癒による回復は半年以上はかかる。いますぐ治して汚名返上したいアランは歯噛みする。
「ところでなんであの日だけ調子が悪かったんだ?炎壁で一気に殲滅するつもりだったんだろう?」
「そ、それは……良く分からないんだ。魔法を展開してすぐに力が出なくなって」
魔力切れとは違う症状に彼は戸惑いを隠せない、実はアンクレットによる底上げをしていた事など頭から忘れている。愚かにも程がある。
「魔法は使えるんだ、だけど効果が薄くなって」
「それってさ器用貧乏ってやつじゃねぇか、技は使えても効力が薄いってそういう事だろう?」
「なんだって……」
そこで彼は思い当たることがあるとハッとした。右足にあったアンクレットのことを漸く思い出したのだ。
『ねぇアラン、貴方は魔法はいろいろ使えるけれど魔法の効力はいまいちなの。なんと言うか魔力は膨大だけれどそれを駆使する能力が……そこでね』
サビーナの言葉を思い出した彼は愕然とする、燃料タンクは満タンでも火力が細すぎるという彼女の指摘を思い出したのだ。
「なんてことだ!アンクレットに込めた魔力開放の力が衰えていたのか」
「え?なんだってアラン?」
そこに聞き慣れた甘ったるい言い回しをする声が聞こえてきてビクリとした。ナタリー・ロメルの声だった。治癒室を抜け出し、愛しくも腹立たしいその声を聞いたアランは”キッ”と睨みつける。
「やっと見つけたぞ、ナタリー!どうして見舞いに来ないんだ!」
「え……あらぁ、アランじゃない」
彼女は上背がある将校にしな垂れかかっていた、階級は少尉と見られる騎士だった。
「何をしているんだナタリー!キミは……」
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