完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
8 / 30

回復役の仕事

しおりを挟む
「デヤァ!」
「ぎひぃ!」
「ファイアバレット!」
「ひひゃっ!」
「こら、後衛はもっと下がれ!邪魔だ」
「はぃ~!」

剣戟を目の当たりにするのは初めてなノチェであるが、やはり不慣れなことは間違いない。距離感が掴めないまま初戦闘は終わった。
「……自分がいる必要があるのでしょうか」
初戦敗退したような気分のまま、後衛の仕事は終わった。実際は初心者用の手堅い仕事で順当だ。だが、やはり成功とは程遠いと思えてならない。

「実際の仕事を見て貰ったわけだが、どうだ?上手く立ち回れそうか?」
「……ぜんぜん、だめでした。自分はどこにいて、どこへ向かうべきかすら」
しょんぼり気味のノチェは初参戦の手応えを自分なりに評価したが、すべてがダメダメで足を引っ張ってしまったことを猛省していた。そして、山と積まれた芋虫型の魔物を見て青くなる。

「え~と、やっぱり手堅くFランクの仕事を地道に……」
「うん、そうか。怒鳴って悪かった、次は立ち位置を配慮しておこう。後衛は俺達の数メートル背後にいろ」
「え……いやそういう事じゃなくて」
ちっともこちらの意見を聞いて貰えないことに愕然とするノチェは、早くも後悔していた。

「いやすまないな。うちのリーダーは言い出したら聞かなくて」
「は、い……」
「慣れてくれよな!あ、自分は攻撃魔法だけに集中してるからよろしく」
「……はい」

前衛タンク役のパウドと攻撃魔法に特化しているらしいレタルは気さくに話しかけてくれるが、そういうことじゃないと言いたい。
「はぁ……一体どうしろと」
「まぁまぁ、初めての対戦にしてはうまく行ったはずだぜ」
「本当にそう思ってます?」

今のところは大きく消耗する場面ではないので、回復魔法は必要とされていない。それが余計にノチェを圧迫しているのだが、その空気を読む相手はいないようだ。


***

「よおし!昨日に引き続き気張って行こうぜ。今日は飛行タイプの魔物退治だ、うち漏らしは任せたぜ」
「え?」
「おうよ、任せろ!」
「ええ!?」
うち漏らしと聞かされたノチェは青くなったが、攻撃魔法特化のレタルはやる気満々だ。回復魔法で一体なにが出来るだろうとオロオロしてしまう。

「ほら、リーダーその説明じゃだめだ。意味不明過ぎる」
「え、そっかぁ?」
タンク役のパウドが肩を竦めて「ダメだ、こいつ」とやっていた。もっと言ってやってくれとノチェはうんうんと頷く。

「うち漏らしたら回復特化のノチェは何もできやしない。お前が両手両足を縛られて戦えと言われてるようなもんだ」
「あ、……そっか。悪かった、ええと後衛は結界を張って待機しててくれ。できるか?俺達が交代で参戦できるように」
「あ、はい!それならできます」
結界魔法は得意なのでホッと息を吐く、タンク役のパウドが「任せたぜ」と肩を叩く。嬉しくなったノチェは誇らしげにしていた。




「ふぅ~休憩しようぜ、お疲れさん」
「お疲れ」
「は、はい。お疲れ様です」
休憩と言われて落ち着いたノチェは小範囲に結界を張って待機していた。それを見たレタルは「長時間張るのはどうかと思う」と言ってきた。
「え?大丈夫ですよ、これくらい、いつものことでしたし」
「いつものこと?」
「はい、結界を張ってそのうえで回復するのは骨ですがやって出来ないことは」
「ええええ!?うっそでしょ!」

どういう状況でそんな無駄遣いをしてきたのかと素っ頓狂な声を上げられた。言われたノチェはキョトンとしている。
「あの……何か間違っていましたか?とある場所では日常茶飯事でしたので」
「日常って、キミはとんでもないな上級以上だよ」
回復魔法を酷使してきた彼女にとっては当たり前になっていた事だ、今更ながら恐れ入ると彼らは思う。

リーダーであるティアは頭を掻きながら話かけてきた。
「ノチェ、なんていうか……あ~あんま気張り過ぎないでな?それから古傷の回復も忘れないで」
「はい、ありがとうございます」
ノチェは古すぎる傷痕が残る右側の頬を思わず手にした。顔面に残るそれを一番気にしている。

「顔面か……可哀そうに」
「え、あの?」
彼の大きな手が彼女の右側へ添えられた、手厚く介抱できない己を恥じて「申し訳ない」と呟いた。古傷はさすがに乱暴な事は出来ないからという理由だ。
「気にしないでください、これでもちょっとづつ回復してますから」
「うん、だけど……やはり気になってな」

憐憫な顔をする彼に、気持ちだけで嬉しいとノチェは笑う。





しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

私は『選んだ』

ルーシャオ
恋愛
フィオレ侯爵家次女セラフィーヌは、いつも姉マルグレーテに『選ばさせられていた』。好きなお菓子も、ペットの犬も、ドレスもアクセサリも先に選ぶよう仕向けられ、そして当然のように姉に取られる。姉はそれを「先にいいものを選んで私に持ってきてくれている」と理解し、フィオレ侯爵も咎めることはない。 『選ばされて』姉に譲るセラフィーヌは、結婚相手までも同じように取られてしまう。姉はバルフォリア公爵家へ嫁ぐのに、セラフィーヌは貴族ですらない資産家のクレイトン卿の元へ嫁がされることに。 セラフィーヌはすっかり諦め、クレイトン卿が継承するという子爵領へ先に向かうよう家を追い出されるが、辿り着いた子爵領はすっかり自由で豊かな土地で——?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

能ある妃は身分を隠す

赤羽夕夜
恋愛
セラス・フィーは異国で勉学に励む為に、学園に通っていた。――がその卒業パーティーの日のことだった。 言われもない罪でコンペーニュ王国第三王子、アレッシオから婚約破棄を大体的に告げられる。 全てにおいて「身に覚えのない」セラスは、反論をするが、大衆を前に恥を掻かせ、利益を得ようとしか思っていないアレッシオにどうするべきかと、考えているとセラスの前に現れたのは――。

婚約破棄と言われても、貴男の事など知りません。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 若き女当主、ルイジア公爵ローザ嬢は、王太子の婚約舞踏会だという事で、仕方なく王都にやってきていた。十三歳で初陣を飾ってから、常に王国のために最前線で戦ってきたローザは、ミルバル皇国から嫁いできた王妃に支配される下劣な社交界が大嫌いだった。公爵家当主の義務で嫌々参加していたローザだったが、王太子から戦場で兵士と閨を共にするお前などと婚約するのは嫌だと、意味不明な罵りを受けた。王家王国のために戦場で命がけの戦いをしてくれた、将兵を侮辱されたローザは、その怒りを込めた一撃を放った。

学園は悪役令嬢に乗っ取られた!

こもろう
恋愛
王立魔法学園。その学園祭の初日の開会式で、事件は起こった。 第一王子アレクシスとその側近たち、そして彼らにエスコートされた男爵令嬢が壇上に立ち、高々とアレクシス王子と侯爵令嬢ユーフェミアの婚約を破棄すると告げたのだ。ユーフェミアを断罪しはじめる彼ら。しかしユーフェミアの方が上手だった? 悪役にされた令嬢が、王子たちにひたすらざまあ返しをするイベントが、今始まる。 登場人物に真っ当な人間はなし。ご都合主義展開。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

愚かな貴族を飼う国なら滅びて当然《完結》

アーエル
恋愛
「滅ぼしていい?」 「滅ぼしちゃった方がいい」 そんな言葉で消える国。 自業自得ですよ。 ✰ 一万文字(ちょっと)作品 ‪☆他社でも公開

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

処理中です...