融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)

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不敬の罪でダニエルは鞭打ち100回の上、2週間の断食を強いられた。
打たれた体の激痛と空腹で、獄中で嘆き苦しみ大騒ぎを連日していた。

「反省の色がみえねぇな、大分軽い方だぞ。極刑を免れたのは貴族令嬢の温情だ有難く思え」
2週間ぶりの水と硬いパンを置いて看守が去って行く。

「なにが温情だ……俺は元公爵の息子なんだぞ!畜生!あの女調子に乗りやがって」
鞭で皮膚の表面を裂かれた背中がジリジリと痛む。
それが余計に彼を苛立たせて逆恨みの思いはつのるばかりだった。
農夫として更生の片鱗を見せたかと思えば、かつての妻を見た途端に湧きあがる怨嗟の念が止めらなかった。
ダニエルは何ひとつ変わっていない。

投獄されて1か月後、開放されたダニエルは痩せこけた体に鞭を打ち、愛しいレイチェルが留置された詰所へ急いだ。



面会で通された地下牢はダニエルが居た平民街のより清潔だった。
特別冷遇されたわけでもないと知り、ダニエルは少し安堵した。だが処刑待ちという立場は変わらない。

案内した看守は「面会は10分だ」とぶっきら棒に言って入口へ戻っていった。
地下1階の独房の一番奥にレイチェルがいた。だがそれは溺愛していた容姿とは大きくかけ離れていた。

「レ……イチェル?いや部屋が違うのか?」
独房の中にいた女はオーガのような容姿だった、人違いだと看守を呼ぼうとしたダニエル。
しかし彼を呼ぶ声に足を止めた。

「ダニー……ダニーよね?あぁごめんなさい、あの時はどうかしてたわ。逃げた私を許して」
聞き覚えがあるその声にダニエルは愕然とする。

猪豚の化け物のような女がレイチェルだなんて俄かに信じ難かった。
両腕で自身を抱きカタカタ震えるダニエル、「嘘だ、何かの間違いだ」とブツブツ呟く。

「ダニー?」
ごそごそと毛布から這い出てきたレイチェルが鉄格子近くへやってきた。
肥えた体から酸化した脂臭さが漂う、ダニーは顔を顰めて後ずさる。

「なによその態度!ほんのちょっと太っただけでしょ、恋人が苦しんでるのよ!すぐに減刑の申し立てしなさいよ!どうせお金もないんでしょ、ディアヌに媚びてなんとかしなさい!」

「ギャアギャアと醜く騒ぐこれが俺のレイチェルだと?」
そんなバカなとダニエルは叫び牢屋から飛び出した。後方から女がなにか叫んでいたが聞きたくないと耳を塞いだ。

「ディアヌに媚びれ?ふざけるな!物乞いのような真似誰がするものか!」
悪夢から覚めたような顔でダニエルは農場へ逃げ帰った。


しかし、ひと月も不在だった期間に投獄されていた事が露見して、あえなく農場をクビになった。
自棄を起こしたダニエルは亡き父親と同じに落ちていった。

やがて炭鉱で使役される奴隷にまで身を落とした、灰を患ってしまう仕事に従事する者は長く生きられない。
それが愚息ダニエルの運命だったのかもしれない。


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