完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう

音爽(ネソウ)

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都合の良い喪失

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一日経ったが相変わらずポラーナの目は赤く腫れていて、酷い有様だと兄に揶揄われる。彼女は膨れっ面をして「不細工なのはわかっています」と視線を外す。

「いや、ブサイクとは思ってないよ。ただ、ブフッ!面白い顔だなぁって……プクククッ」
「兄様!酷い酷い!ブサイクだとおっしゃってるようなものでしょう!」
「あーはははははっ!」
笑い転げる兄と半べその妹の図はまるで幼少期に戻ったようだと使用人たちは温かく見守るのだ。

「一時期はどうなるかと肝を冷やしましたが」
「ええ、この分ならポラーナ様は大丈夫でしょう」
メイド達はこそこそと仕事の合間に、二人の触れ合いを眺めては仲の良い御兄妹だと微笑む。



「まったく兄様は!ふう……漸く腫れが引いたわ、見返そうと思えばまた遠出なさるなんて、帰ってきたらただじゃおかないから」
綺麗になった目元にそっと手を触れる、痛みはないが少しだけ荒れていると思った彼女は「何を塗れば良いかしら」と頭を悩ませる。

そんな時、珍しく屋敷にいた父から呼び出しを受ける。ポラーナはきっとベイトン絡みだろうと蒼くなった。やっと忘れかけていた所だと言うのに憂鬱だと顔を曇らせるのだ。
「参りました、お父様」
「うむ、入りなさい。甘い香りのフレバリーティーでもどうかね」
「はい、いただきますわ」

厳格な父アーリエント卿は眉一つも動かさずそう言ってのける。鬼能面ようだと人々から揶揄されるが、ポラーナは知っている。本当は優しい方で可愛いものが好きで、物凄い甘党だということを。
父は角砂糖5個ほどいれてからお茶を飲み、茶請けに出されたドーナツにかぶり付く。

「ごほん、ベイトン・ラルダスの容態だが別段心配することはないそうだ。頭を強打したそうだが、脳に異常はない。記憶を失くされていると聞くがこれがどうにも……」
「あら、何かありまして?」
彼女は心配する振りをして怪訝な顔をしてみせる、心は病んでいたが裏切った相手をいつまでも思うほど、お人好しではない。

「はぁ~どうにも都合が良すぎるのだ、ポラーナに関するものばかり欠落しておる。私はあの男は記憶喪失を演じていると思っている」
「まあ、お医者さまも同じ見解ですの?」
「……金を掴ませているのか知らんが一時的に記憶の混乱が認められると言うのだよ。侯爵家から医者を派遣させても良いが、疑っていると知れると思わぬ軋轢を生みかねん」
「そうですか」

淡々とこの事実を飲み込んでいる娘の様子を見て「おや?」と思う卿である。
「どうした?もっと心を乱すかと思えば冷静なのだな」
「だって御父様、怪我をしたと言うのに帰国早々に女性を侍らせていたのですよ。ベッドの上ではしたない行為をするのを私は見ました、これを見てしまった以上嫌悪の対象ですわ」

少し温くなった茶を一気に飲み込むと「婚約解消一択ですわ」と晴れやかに言ってのけた。






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