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記憶にございません
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何処に行くかも告げずベイトンは朝早くから出掛けて行った、宵っ張りなミレネはボンヤリと彼の姿を見たが、無反応でいつもの気まぐれだろうと相手にせず微睡の中へ沈んで寝息をたてた。
「ふぅ、一瞬焦ったが寝ぼけたミレネには気づかれずに済んだな」
これからかつての婚約者の元に向かうのだからバレたら気まずいし、良い顔はしないだろう。
「辛抱してくれミレネ、これからもキミと優雅に何不自由せずに暮らす為なんだ」
一張羅を着こんだベイトンは姿だけは立派になって、澄ました顔で馬車に乗り込んだ。手鏡を翳して前髪を整えた、彼は「相変わらずに美しい顔をしている」と自画自賛して満足そうに微笑む。
一方で、これから招かれざる珍客がくるとは夢にも思っていないポラーナは、習慣になっている庭の水やりに精を出していた。
「お嬢様、そちらはあっしがやりますからどうかその辺で」
「あらぁ、まだよ。それに動いた方が朝ご飯はおいしいの。ね?お願いよ」
「仕方ないですねぇ」
庭師は好々爺顔で「ではお願いします」とその場を離れた。
しばらくして、そろそろ終わりにしましょうと片付け始めるポラーナの耳に調子はずれな鼻歌が聞こえてきた。確か、いま流行っている吟遊詩人が歌っているものだ。ポラーナはあからさまに嫌な顔をして「歌が良くても歌人が酷いと不快になる」と言った。
「あぁ、この歌の良さが分からないとは……呆れたよ、やはりセンスが壊滅的だねアッハッハ!」
「どちら様でしょう、とても不快ですわ」
鼻に皺を寄せた彼女は数歩下がる、まるで亀虫を数匹潰したかのような反応だ。それでもその人物は「恥ずかしがっているのだね、それとも拗ねてるの?」と聞く耳を持たない。
「やぁ、愛しの我がプリンセス。ポラーナ・アーリエントよ、長い事待たせたね。失われた記憶と共に私は舞い戻った!そう、思いだしたのさ何もかもね!輝かしい愛の日々を取り戻そうじゃないか!」
「は?」
嫌悪丸出しにしたポラーナは大声で侍従たちを呼んだ、忽ち執事を始めメイドや護衛騎士たちが包囲した。一瞬怯んだ男は「何を大袈裟な」と笑う。
「私だよベイトンだ、忘れたわけじゃないだろう?私達の愛は永遠だと誓いあったじゃないか!」
「悍ましい」
「え?なんだってポラーナ、私だよ美しいキミの恋人ベイトンだよ。ハハッ、ちょっとばかり記憶を失くして余所見をしてしまったが、私は思い出したのだ。キミを心から愛していたのだと」
のうのうと嘘を吐くベイトンに吐き気を催したポラーナはふらりとよろける。ジリジリと距離を詰めていく従者らは「お嬢様に近づくな」と威嚇した。
「どういうつもりだお前達!伯爵令息である私を……」
「ふぅ、一瞬焦ったが寝ぼけたミレネには気づかれずに済んだな」
これからかつての婚約者の元に向かうのだからバレたら気まずいし、良い顔はしないだろう。
「辛抱してくれミレネ、これからもキミと優雅に何不自由せずに暮らす為なんだ」
一張羅を着こんだベイトンは姿だけは立派になって、澄ました顔で馬車に乗り込んだ。手鏡を翳して前髪を整えた、彼は「相変わらずに美しい顔をしている」と自画自賛して満足そうに微笑む。
一方で、これから招かれざる珍客がくるとは夢にも思っていないポラーナは、習慣になっている庭の水やりに精を出していた。
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「仕方ないですねぇ」
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しばらくして、そろそろ終わりにしましょうと片付け始めるポラーナの耳に調子はずれな鼻歌が聞こえてきた。確か、いま流行っている吟遊詩人が歌っているものだ。ポラーナはあからさまに嫌な顔をして「歌が良くても歌人が酷いと不快になる」と言った。
「あぁ、この歌の良さが分からないとは……呆れたよ、やはりセンスが壊滅的だねアッハッハ!」
「どちら様でしょう、とても不快ですわ」
鼻に皺を寄せた彼女は数歩下がる、まるで亀虫を数匹潰したかのような反応だ。それでもその人物は「恥ずかしがっているのだね、それとも拗ねてるの?」と聞く耳を持たない。
「やぁ、愛しの我がプリンセス。ポラーナ・アーリエントよ、長い事待たせたね。失われた記憶と共に私は舞い戻った!そう、思いだしたのさ何もかもね!輝かしい愛の日々を取り戻そうじゃないか!」
「は?」
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のうのうと嘘を吐くベイトンに吐き気を催したポラーナはふらりとよろける。ジリジリと距離を詰めていく従者らは「お嬢様に近づくな」と威嚇した。
「どういうつもりだお前達!伯爵令息である私を……」
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