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いきなり婚約破棄をされた娘リリジュアを父カルスフット公爵は詰った、発端はどうであれ王子の手綱を上手く引けなかったのは娘が悪いと決めつける。
「暫く頭を冷やすが良い、部屋にて軟禁だ」
「お、お父様。そんな……あんまりです」
娘の言い分を聞かず真偽はどうあれ王妃の座につけない役立たずは要らんと怒鳴った。野心家で頑迷な公爵は女子供のことを政治の道具としてしか見ていないのだ。
私室から出られない娘を案じて見舞いにやってきた母は、滂沱に涙を流して詫びる。
「ごめんなさいリリ、私は何もできないの……なんてもどかしい。父上が御存命だったら少しは違うのに」
「お母様……いいえ、心を砕いてくださるだけで私は嬉しいです」
優しかった祖父の面影を持つ母の顔を見て、リリジュアは作り笑いで応えるしか出来ない。亡き祖父は現王の叔父に当たり王族の血を引いていた。発言力の強さを考えるに孫のリリジュアは冷遇されることはなかったに違いない。
入り婿の父だが、病気がちの母では当主は務まらず、座を譲るしかなかったのだ。
「ああ、いっそのことあなたと二人で他国へ亡命でもしようかしら……私、少しばかり策があるのよ。貴女が王子と婚約する前のことなのだけど……どうにかならないかしら」
母親は少しばかり遠い目をして窓辺を見つめるのだ。
「まぁお母様……お体に障ります、あまり思いつめないで」
一方で王城では……
まさか婚約破棄までするとは思わなかったカレドナ王女だったが、これは幸いと喜ぶ。
「うふふふ~義姉にならないのなら良い結果だわぁ!アーハハハッいい気味!」
想定外の出来事だが、怠惰な姫は勤勉な義姉と比較されることがないと笑う。多少の悪さをしても王城で目立つことはないだろうと軽い頭は考える。
すべての悪事は国王夫妻に筒抜けであるとは知らないままなのだ。
「はぁ~良い事があるとお茶まで格段に美味しいわ、キャハハハッ!ほらアンタ達も笑いなさいよ」
「は、はい王女様」壁に控えていた侍女達は苦笑いで応える。小遣い欲しさと悪戯心で良くない噂を撒いてしまった彼女らは、婚約破棄の影響を恐れていた。
貴族子女でもある侍女達は王太子選考に影響を及ぼすことなのだと理解していたのだ。気が付かないのは王女と王子だけなのだ。
そして、二週間後。彼女らは思い知ることになる。
***
「いよいよ、王太子の指名の日がやってきたな!」
長子であるテスタシモン王子は幼少より母である王妃から「選ばれるのは貴方よ」と聞かされて育った。だがそれはリリジュアと結婚したらの話なのだが、彼はそんな裏事情を知ろうとしなかった。遠巻きにそのような約束事があるのだと王と王妃から小言のように聞かされていたが「自分が第一王子だからリリが嫁に来る」と曲解していた。
美丈夫で賢そうな容姿はしていたが、それは外見だけに過ぎないのだ。
内外の為政者達から陰で”金箔で包んだ泥団子”と揶揄されていることなど王子は知らなかった。
王太子発表がされるその祝宴の席には、友好を結んでいる各国の重鎮が多勢招かれていた。八つの国が治る大陸において中堅国であるコアブルト国はそれなりに注目を集める存在なのだ。強みは鉱山とやや狭いが肥沃な土地に生える良質な薬草だ。高度な薬草学を培った国を帝国すら賞賛する。
だが、現王は決して増長してはならないと慎重な態度でいる。薬学は他国でも研究が進んでいる、いつ何時その名誉が覆るかと恐れていた。
そんな様子を見たテスタシモン王子は「肝の小さいことだ」と密かに侮蔑していた。
「私が王の座についた暁には大々的に薬草学の強化を図ろう、王都学園内において専攻する者を優遇するのだ」
賓客の対面に座っていたテスタシモンは大口を叩く、太鼓持ちの側近たちは「やんややんや」と彼を持ち上げる。
その様を静観していた第二王子エルジールは”今更だ”と呆れている。
見知った大臣がエルジール王子に目配せして『相変わらずの泥団子』と囁いた。
「ん?なんだ団子がどうした?肉団子はグレイビーソースに限るぞ」
「……兄上、会食の時間には早すぎます」
「暫く頭を冷やすが良い、部屋にて軟禁だ」
「お、お父様。そんな……あんまりです」
娘の言い分を聞かず真偽はどうあれ王妃の座につけない役立たずは要らんと怒鳴った。野心家で頑迷な公爵は女子供のことを政治の道具としてしか見ていないのだ。
私室から出られない娘を案じて見舞いにやってきた母は、滂沱に涙を流して詫びる。
「ごめんなさいリリ、私は何もできないの……なんてもどかしい。父上が御存命だったら少しは違うのに」
「お母様……いいえ、心を砕いてくださるだけで私は嬉しいです」
優しかった祖父の面影を持つ母の顔を見て、リリジュアは作り笑いで応えるしか出来ない。亡き祖父は現王の叔父に当たり王族の血を引いていた。発言力の強さを考えるに孫のリリジュアは冷遇されることはなかったに違いない。
入り婿の父だが、病気がちの母では当主は務まらず、座を譲るしかなかったのだ。
「ああ、いっそのことあなたと二人で他国へ亡命でもしようかしら……私、少しばかり策があるのよ。貴女が王子と婚約する前のことなのだけど……どうにかならないかしら」
母親は少しばかり遠い目をして窓辺を見つめるのだ。
「まぁお母様……お体に障ります、あまり思いつめないで」
一方で王城では……
まさか婚約破棄までするとは思わなかったカレドナ王女だったが、これは幸いと喜ぶ。
「うふふふ~義姉にならないのなら良い結果だわぁ!アーハハハッいい気味!」
想定外の出来事だが、怠惰な姫は勤勉な義姉と比較されることがないと笑う。多少の悪さをしても王城で目立つことはないだろうと軽い頭は考える。
すべての悪事は国王夫妻に筒抜けであるとは知らないままなのだ。
「はぁ~良い事があるとお茶まで格段に美味しいわ、キャハハハッ!ほらアンタ達も笑いなさいよ」
「は、はい王女様」壁に控えていた侍女達は苦笑いで応える。小遣い欲しさと悪戯心で良くない噂を撒いてしまった彼女らは、婚約破棄の影響を恐れていた。
貴族子女でもある侍女達は王太子選考に影響を及ぼすことなのだと理解していたのだ。気が付かないのは王女と王子だけなのだ。
そして、二週間後。彼女らは思い知ることになる。
***
「いよいよ、王太子の指名の日がやってきたな!」
長子であるテスタシモン王子は幼少より母である王妃から「選ばれるのは貴方よ」と聞かされて育った。だがそれはリリジュアと結婚したらの話なのだが、彼はそんな裏事情を知ろうとしなかった。遠巻きにそのような約束事があるのだと王と王妃から小言のように聞かされていたが「自分が第一王子だからリリが嫁に来る」と曲解していた。
美丈夫で賢そうな容姿はしていたが、それは外見だけに過ぎないのだ。
内外の為政者達から陰で”金箔で包んだ泥団子”と揶揄されていることなど王子は知らなかった。
王太子発表がされるその祝宴の席には、友好を結んでいる各国の重鎮が多勢招かれていた。八つの国が治る大陸において中堅国であるコアブルト国はそれなりに注目を集める存在なのだ。強みは鉱山とやや狭いが肥沃な土地に生える良質な薬草だ。高度な薬草学を培った国を帝国すら賞賛する。
だが、現王は決して増長してはならないと慎重な態度でいる。薬学は他国でも研究が進んでいる、いつ何時その名誉が覆るかと恐れていた。
そんな様子を見たテスタシモン王子は「肝の小さいことだ」と密かに侮蔑していた。
「私が王の座についた暁には大々的に薬草学の強化を図ろう、王都学園内において専攻する者を優遇するのだ」
賓客の対面に座っていたテスタシモンは大口を叩く、太鼓持ちの側近たちは「やんややんや」と彼を持ち上げる。
その様を静観していた第二王子エルジールは”今更だ”と呆れている。
見知った大臣がエルジール王子に目配せして『相変わらずの泥団子』と囁いた。
「ん?なんだ団子がどうした?肉団子はグレイビーソースに限るぞ」
「……兄上、会食の時間には早すぎます」
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