完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます

音爽(ネソウ)

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10 断罪その2

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「ちょっとそこの者、ハーブティーを淹れて頂戴な」
「畏まりました」
命令された侍女は茶請けにとマドレーヌを添えて王女に差し出す。王女はそれを礼も言わず受け取りモシャモシャと咀嚼しだす。カルスフット公爵家の事情を知らないカレドナ王女は馬車に揺られているところなのだ。
我儘王女が城から飛び出し目指すのは愛しい殿方が逗留している屋敷である。

「あぁ、夜会以来お会いできていないわ。とっても心配……女狐に噛まれてないと良いけど」
不甲斐ない兄王子テスタシモンが、リリジュアとの再婚約に失敗して荒んでいた彼女だが、自ら出向いてフリードベルを説得することにしたのだ。
「ほんっと使えない兄だこと!見目だけは良いのだから無理矢理にでも既成事実を作ってしまえば良いのに、愚図で困ったものだわ」

王女は自分の軽い頭のことを棚に上げて、うまく行かない事はすべてテスタシモンのせいであると愚痴るのだ。フリードベル王太子が滞在している屋敷へ何度も手紙を届けていたが一向に返事は来ていない。呆れられているか拒絶されていると普通の子女なら察して身を引くものだが、王女は違う。
「あぁ切ない……きっと公爵家の者が手紙を遺棄しているのやも腹立たしいこと!」

王城近くに居を構えているカルスフット家だが、馬車がいつまで経っても止まらない。不審に思った王女はステッキで車体の天井をガンガン叩く。すると前方から「通りで事故があったので遠回り中でございます」と返答がきた。
「まぁ、なんてついてないの!恋には障害が……つきものと言うけれどまさにそれ……ね。フワァ……」
馬車に揺られているうちに眠気を催したらしい王女は舟を漕ぎ出した。

「着きましたら起こします」という侍女の気配りを耳にした彼女は素直に眠りに落ちる。深い寝息を確認した侍女は馭者へ壁越しに数度ノックして合図を送った。
「やっと寝落ちたのかい、では本来の目的地に向かおうかね」
「ええ、お願いします。私はこの先で降りますね」
車輪の動きが緩やかになり路肩に寄ると止まることのない馬車から侍女が飛び降りた。お転婆な事だが彼女はお仕着せを纏った女騎士だった。睡眠薬入りの焼き菓子の残りを街角のゴミ箱へ廃棄して手を掃う。

「どうぞ良い旅を

***

カレドナが意識を取り戻したのは日付が変わった昼時だった。
前日に寝落ちしたほぼ同時刻だったので、彼女は日が変わったことに気が付いていない。しかし、自身の置かれた環境が一変していたことには流石に気が付く。
「ど、どこ?なんて粗末な部屋なのかしら、石壁が剥き出しだなんて公爵家の懐事情は悪いのね!」
寝起き早々に毒を吐くカレドナである、彼女が目覚めた気配に気が付いたらしい屋敷の者が部屋へ入って来る。

「やっとお目覚めですか、朝の礼拝に間に合わなくて残念です。その分、午後は働いてくださいね」
「は、働く?私が?」
「そうですよ、Sr.カレドナ。使徒職は毎日のことです、聖務に従事することで私達は神に愛され愛しみ恩寵を賜るのですよ」
目の前の立つ少し頑固そうな初老の女を見上げて、カレドナは混乱する。彼女が何を言っているのか理解に苦しんでいる。

「せいむ?は?何をいっているのオバサン」
寝起きで頭が回らないという状況で目を瞬かせる彼女の状態を無視してその人物はピシャリと言う。
「さあ、身支度をしてこれを持ちなさい、働からずもの食うべからず」
初老の女はモタモタしているカレドナを叱咤してバケツを押し付けた、少しかび臭い襤褸雑巾が一枚、底に入っている。

訳が分からないまま引っ張られ連れて来られたのは井戸だった。どうやら水汲みをしろとのことだ、ここにきてやっと元王女は状況を把握していつもの勢いを取り戻す。古びたバケツを放り投げて癇癪を起した。
「巫山戯んじゃないわよ!どうしてこの私が下女のような仕事をしなきゃならないの!アンタ何様!?」
「……私はこの教会にお世話になって十五年のシスターです、それ以上でも以下でもない」
「はあ?なにそれ、ここは教会だというの?私が来たかったのはフリードベル様が滞在する屋敷だわ。何をしてくれてんのよ馭者と護衛はどこ?侍女はどこよ!」

金切声を上げて抵抗するカレドナだったが、目の前にいる修道女さえ相手にしなかった。井戸を遠巻きにして作業しているシスターたちはほんの一瞬だけ視線を向けただけで黙々と己に課された仕事を熟す。
「お仕事に不満があるのならそれも由……お恵みはないと思いなさい」
「おめぐみ?」
「……日々の糧のことですよsr.カレドナ。生きたいのなら生かされるように動くしかないのです、強制はしませんよ、ここはそういう所です。主神に仕えるのが嫌ならばここから去れば良いだけ」

「あらそう、それは良かったわ!一旦城へ戻ることにするわ、仕切り直しよ」
着ていたドレスも寄れて皺だらけで御髪も大分乱れていたために帰ることにしたようだ。だが、肝心の従者たちが側にいない。
「馬車はどこ?城の馭者はどこに」
「そんなものとっくにいませんよ。ここは人里から遠く隔絶された北の山麓の教会にして修道院、帰りたいのなら徒歩です」
「はあーーーーー!?」

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