完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます

音爽(ネソウ)

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無事にインパジオへ入国をしたリリジュア親子は王城の離宮に居室を与えられて心穏やかな日々を送っていた。到着した当初は遠慮をして小さな屋敷を借りると申し出たが、現王がそれを許さなかった。
「大切な未来の娘に何かあったら事だ、蛮行に及ぶ輩は泥団子男だけとは思わんことだ」
強面でやや威嚇するような物言いなインパジオ王ではあるが心根はかなり優しい御仁のようだ。

対面したばかりの時には委縮したリリジュアだったが、微笑むとフリードベルに似た優しい黄金の瞳であると気が付いた。ちなみにインパジオ王妃は王子が十二歳の頃に天に召されたと聞いている。一途な王は後妻を娶らず独り身を貫いているらしい。
「そうか、私の瞳は父上ににているのか、長く母の面差しに似ていると言われていたので意外だな」
「たしかに全体の相貌は王様とは似てないけど、瞳の色と優しく笑う表情が同じよ」

「父上は頑固だがとても優しいんだ、仲良くなってくれると嬉しいな」
「ええ、もちろんよ」
母子の茶の席に乱入したフリードベルは政務を早めに処理して寛いでいる。仕事が捗るので城の者は誰も諌言はしない。何もかもが元婚約者とは違い過ぎてリリジュアの心は翻弄され気味だ。
誘拐未遂の事後処理の事を耳にしてる彼女だが、訃報が届いた時は少しばかり驚いたが悲しい感情はまったく浮かばなかった。

そんな自分は冷徹なのだろうかと彼女は悩みもしたが、数日後にはすっかり頭から消え去っていた。腹黒王女とがめつい父のせいで散々な思い出しかない生国にはなんの未練もないのだ。

いま目の前で幼少の頃の思い出話を楽しそうに語る彼の顔をじっと見つめて、いつの間にか惚れていることに気が付く。薄っすら頬を染て俯いた、そんな彼女に彼が気が付く。
「どうかした?」
「貴方に会えて良かったなと思っていたのよ、婚約者が最初から貴方だったらと思うと少し悔しい」
「ああ……、婚姻の申し込みは私の方が先だったんだけどね。コアブルト王が了承しなかったんだ、国交を考えれば良縁のはずだが、キミに恋していたテスタシモン王子と結ばせたかったのだろう。彼は子息に甘いからね」

「彼が私に恋をしていた?初耳だわ、てっきり政略ゆえとばかり」
「そうなのかい?意外だなぁ……バカな上にチキンだったのか。いや止めよう故人の悪口は良くないね」
「ふふ、泥団子の話だから大丈夫よ」
辛辣なことをさらりと言う彼女は鬱憤を晴らしたいのだろうか。今更に消えた男の気持ちなど知った事ではないだろうが、鬱積していた負の感情は簡単に消化できるものではない。

話題を変えて週末は連休を取って王都の散策や遠出でもどうだろうかとフリードベルは誘う。するとリリジュアの顔が見る見ると晴れやかになった。
「ふふ、ベルとならばどこへ行っても楽しいはずよ。なんなら中庭でもかまわない」
「嬉しいがさすがに城の庭では私がつまらないな、まぁ任せておいて」
「楽しみにしているわ」
すっかり二人の世界に浸ってしまった茶の席だ、いつのまにか母ジュリエは退席していて離宮内のサロンへ侍女を連れて移動していた。

サロンから続くバルコニーへ出て風に当たっていると丁度真正面に薔薇園が見えた、残念ながら時季外れとあり緑色のアーチと垣根しかない。それでも十分に美しいと婦人は思う。
簡易なテーブルでボンヤリしていると庭師らしき人物が手入れに忙しくしているのが視界の端に映る。どうやらあちらもバルコニーにいた人物に気が付いたらしく手を振る。
「尽力している方がいてこその美しさなのね」婦人は感謝の意を述べてそちらの方へ会釈した。

麦藁帽子をかぶり直したその者は再び作業へ戻る、しかし、婦人は視線を向けたままだ。どこかで見たような気がしたからだ。そしてその庭師と話がしてみたいと欲が出た。
「あの方に差し入れなどしたら不躾かしら?」
「いいえ、きっと喜ばれるでしょう。庭仕事は喉が渇きやすいですから」
侍女にそう言われた彼女はその気になる、早速と冷茶を仕込み切り分けた梨とラスクをバスケットに入れて離宮を下りた。

護衛と侍女を連れた婦人はいそいそと薔薇園へと急いだ。
「ごきげんよう、ご精がでますわね。休憩などいかがでしょうか、茶と水菓子がございます」
「おや、これはお気遣い恐れ入ります。カルスフット婦人」
「え、わたくしを御存じでしたの?」
思わぬことにジュリエは驚いて庭師の顔をまじまじと見る、やはりどこかで見受けた相貌だった。

「これは失礼、この恰好ですからな。宰相のエイルマーです、歓迎晩餐以来ですね」
「まぁまぁ!こちらこそ失礼いたしました、どこかでお見かけしたと……なるほど謎が解けました!」
婦人は少女のように笑って手を叩いた、その仕草を見た宰相は可愛らしい方だと微笑む。

せっかくだからと近くの四阿へ移動して細やかな茶会を開いた。
「秋とはいえ動くと汗ばみますね、冷たい茶が有難い」
「喜んでいただけで良かったですわ、お邪魔じゃないかと……勇気を出してみるものですね」
薔薇園の手入れは仕事の合間に行っている趣味だということを述べて、晩秋になれば再び花を咲かせる薔薇があるのだと聞かされたジュリエは楽しみだと言って微笑む。

宰相のエイルマーは、王と同じく若くして妻を亡くしていると聞いた。どうやらその時期に流行っていた病のせいらしい。
「お辛かったでしょうに……」
「いいえ、存外気楽な独り身も悪くなかった。しかし、今後を考えると寂しいとも思いますな」
まだ、働き盛りの四十代のエイルマーは子もいない。仕事に精を出し過ぎた結果だと笑う。そして、元夫人のジュリエもまだ三十代後半だ。

まだわからないが共に伴侶を失った境遇だ、遅咲きの恋も良いかもしれない。



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