2 / 23
2
しおりを挟む
「ひどいわ、ひどいわ!どうして私がメイドのふりなんてしなきゃならないの!?彼がせっかく綺麗なドレスを買ってくれたのに!お仕着せじゃ意味がないわ!」
王女の茶会当日に無理矢理についてこようとしたロミーであったが、貴族子女でなければ入場できないと説明して「お付きのメイドならば控室までは入れる」と我儘を受け入れたのだが話が通じない。
「えーんえーん!どうして!?ねぇおじ様!私もドレスを着てお茶会に行きたいのー!リアの親友なんだもの良いでしょ」
子供のように大泣きして伯爵にお願いをするロミーだったが嘘泣きなのは明白だった。伯爵は嫌悪の表情を剥き出しにして「いい加減にしろ!大馬鹿者が!平民風情が王城に入れるか!」と怒鳴りつけた。
「ひぎ!!」
大声で拒否されるとは思っていなかった彼女は怯んで後ろにコケた、拍子にドレスの裾に踵が引っ掛かってビリビリと破けてしまう。
「きゃー!私のドレスが!」
上品で繊細な布で作られたドレスはとても脆く、無惨に裂けてしまった。
「ひどーい!おじ様まで私に意地悪するのねー!うわわーーーーん!」
今度は本気で泣き始めたロミーだったが、伯爵が相手にするわけもなく屋敷から放り出された。我慢にも限界だとたいへん立腹した伯爵は屋敷中に緘口令を敷いた。ロミーがここに出入りし生活してという痕跡は抹消され、彼女は二度と伯爵邸に入れなくなった。
「もっと早くそうすべきでしたわよ、貴方」奥方がチクリと言う。
「うむ、済まなかった……オフェリアが寂しがると思っていてな。庭師の娘だからと居室まで与えてしまった。いまでは毒にしかならん」
「お父様、私の為に申し訳ありませんでした。甘やかして側に置いた私が悪いのです、それから茶会から戻りましたら大切な話がありますの」
珍しく神妙な顔の娘を見て、伯爵はざわつく心をなんとか抑えて彼女を見送った。
「気を付けて行くのだぞ」
「はい、早めに戻りますわ!」
***
王女の茶会は香しい春の花園で行われた、招待客たちは贅を尽くした装いで見栄を切り参加する。”我が家こそが力を持っている”と王族に誇示するのである。
「お招きありがとうございます、アンネリ殿下」
花束と贈り物を持参したオフェリアが丁寧に挨拶をした、それを大歓迎と言って抱きしめてきたアンネリ王女は「いつでもいらして欲しいのに、貴女ったらちっとも来ないのね」と口を尖らせた。
「ふふ、アンネリ殿下ったら、申し訳ありません婚約のことでバタバタしてましたの」
婚約披露パーティには王女も招いていたが、スケジュールが合わず断念したのであった。代わりにオフェリアのもとには店が開けるほどの花々と大きなケーキが届けられていた。
「ケーキは美味しかったかしら?特注なのよ!」
「ええ、とっても美味しかったですわ。なにかの花の香がしました」
「うふ、そうなの。桜の塩漬けを使った生地とクリームを……って!そんなことより!あの平民がやらかしたそうね!だいじょうぶだったの?縁を切りなさいとあれほど言ってたのに」
一気に捲し立てられたオフェリアは苦笑いをして当日の話を少しづつ吐露した。それから婚約者セシルの心変わりの兆しがあったことなど……。
詳細を聞いた王女は自分の事のように怒って「婚約破棄一択よ!私のリアをバカにして!」と声高に言った。
「殿下の忠告を聞かなかった私が悪いのです」
「そうよ!貴女は優し過ぎるの!そんなことじゃ社交界で生き残れないわ!それから殿下じゃなくてアンネと呼びなさい何度も言ったでしょ」
「はい、で……アンネ様」
本当の親友はここにいたのである。
***
「チクショー!なんで締め出されたのよ!」本性を剥き出しにして歩くロミーは当てもなくガニマタで歩いた。庭師を父に持つロミーは伯爵邸の使用人部屋まで与えられていたが、我儘放題の生活を奪われて途方に暮れる。
爪を噛みギチギチとながら「どうしたものか」と街中を彷徨った。
噴水広場にいつの間にか辿り着き喉が渇き飢えていたことに気が付く、屋敷へ戻ってなにか拝借してこようかと悩んだ。だが捕縛されたら折檻された後に牢獄だと思ったら足が竦んだ。空腹に耐えていたら屋台のほうから美味しい匂いがしてきた。買い食いする親子が目の前をうろついてロミーを苛立たせた。
「きぃーー!どいつもこいつも!皆消えちゃえ!」
悪態をついても事態は好転しない、無い頭で考えた結果、茶会から帰って来るリアに泣きついて元通りの生活をしてやろうと考えた。
「そうと決まれば屋敷の前で待ってやる!リアはお人好しだもの上手くいくわ」
ニタニタと不気味な笑みを浮かべて屋敷のほうへ戻って行く。悪鬼のように歪んだ顔のロミーに、すれ違う人々が「なんだアレは」と畏怖して避けて行く。
邸近くへ潜んだロミーだったが、待てど暮らせど伯爵家の馬車は帰ってこない。
イライラがつのる彼女であるが待つほかない。路地で縮こまっていると豪奢な馬車が彼女から数メートル先で止まった。伯爵家の馬車ではないと知ったロミーは「チッ」と舌打ちするが見知った顔が降りて来た。
「やあ!キミはロミーじゃないか!嬉しいな送ったドレスを着てくれたんだね、茶会はどうだった?」
「あ、セシルさま。セシルさまセシルさまーーーー!」
獲物を捕らえた彼女は遠慮なく彼の胸に飛びついた。
王女の茶会当日に無理矢理についてこようとしたロミーであったが、貴族子女でなければ入場できないと説明して「お付きのメイドならば控室までは入れる」と我儘を受け入れたのだが話が通じない。
「えーんえーん!どうして!?ねぇおじ様!私もドレスを着てお茶会に行きたいのー!リアの親友なんだもの良いでしょ」
子供のように大泣きして伯爵にお願いをするロミーだったが嘘泣きなのは明白だった。伯爵は嫌悪の表情を剥き出しにして「いい加減にしろ!大馬鹿者が!平民風情が王城に入れるか!」と怒鳴りつけた。
「ひぎ!!」
大声で拒否されるとは思っていなかった彼女は怯んで後ろにコケた、拍子にドレスの裾に踵が引っ掛かってビリビリと破けてしまう。
「きゃー!私のドレスが!」
上品で繊細な布で作られたドレスはとても脆く、無惨に裂けてしまった。
「ひどーい!おじ様まで私に意地悪するのねー!うわわーーーーん!」
今度は本気で泣き始めたロミーだったが、伯爵が相手にするわけもなく屋敷から放り出された。我慢にも限界だとたいへん立腹した伯爵は屋敷中に緘口令を敷いた。ロミーがここに出入りし生活してという痕跡は抹消され、彼女は二度と伯爵邸に入れなくなった。
「もっと早くそうすべきでしたわよ、貴方」奥方がチクリと言う。
「うむ、済まなかった……オフェリアが寂しがると思っていてな。庭師の娘だからと居室まで与えてしまった。いまでは毒にしかならん」
「お父様、私の為に申し訳ありませんでした。甘やかして側に置いた私が悪いのです、それから茶会から戻りましたら大切な話がありますの」
珍しく神妙な顔の娘を見て、伯爵はざわつく心をなんとか抑えて彼女を見送った。
「気を付けて行くのだぞ」
「はい、早めに戻りますわ!」
***
王女の茶会は香しい春の花園で行われた、招待客たちは贅を尽くした装いで見栄を切り参加する。”我が家こそが力を持っている”と王族に誇示するのである。
「お招きありがとうございます、アンネリ殿下」
花束と贈り物を持参したオフェリアが丁寧に挨拶をした、それを大歓迎と言って抱きしめてきたアンネリ王女は「いつでもいらして欲しいのに、貴女ったらちっとも来ないのね」と口を尖らせた。
「ふふ、アンネリ殿下ったら、申し訳ありません婚約のことでバタバタしてましたの」
婚約披露パーティには王女も招いていたが、スケジュールが合わず断念したのであった。代わりにオフェリアのもとには店が開けるほどの花々と大きなケーキが届けられていた。
「ケーキは美味しかったかしら?特注なのよ!」
「ええ、とっても美味しかったですわ。なにかの花の香がしました」
「うふ、そうなの。桜の塩漬けを使った生地とクリームを……って!そんなことより!あの平民がやらかしたそうね!だいじょうぶだったの?縁を切りなさいとあれほど言ってたのに」
一気に捲し立てられたオフェリアは苦笑いをして当日の話を少しづつ吐露した。それから婚約者セシルの心変わりの兆しがあったことなど……。
詳細を聞いた王女は自分の事のように怒って「婚約破棄一択よ!私のリアをバカにして!」と声高に言った。
「殿下の忠告を聞かなかった私が悪いのです」
「そうよ!貴女は優し過ぎるの!そんなことじゃ社交界で生き残れないわ!それから殿下じゃなくてアンネと呼びなさい何度も言ったでしょ」
「はい、で……アンネ様」
本当の親友はここにいたのである。
***
「チクショー!なんで締め出されたのよ!」本性を剥き出しにして歩くロミーは当てもなくガニマタで歩いた。庭師を父に持つロミーは伯爵邸の使用人部屋まで与えられていたが、我儘放題の生活を奪われて途方に暮れる。
爪を噛みギチギチとながら「どうしたものか」と街中を彷徨った。
噴水広場にいつの間にか辿り着き喉が渇き飢えていたことに気が付く、屋敷へ戻ってなにか拝借してこようかと悩んだ。だが捕縛されたら折檻された後に牢獄だと思ったら足が竦んだ。空腹に耐えていたら屋台のほうから美味しい匂いがしてきた。買い食いする親子が目の前をうろついてロミーを苛立たせた。
「きぃーー!どいつもこいつも!皆消えちゃえ!」
悪態をついても事態は好転しない、無い頭で考えた結果、茶会から帰って来るリアに泣きついて元通りの生活をしてやろうと考えた。
「そうと決まれば屋敷の前で待ってやる!リアはお人好しだもの上手くいくわ」
ニタニタと不気味な笑みを浮かべて屋敷のほうへ戻って行く。悪鬼のように歪んだ顔のロミーに、すれ違う人々が「なんだアレは」と畏怖して避けて行く。
邸近くへ潜んだロミーだったが、待てど暮らせど伯爵家の馬車は帰ってこない。
イライラがつのる彼女であるが待つほかない。路地で縮こまっていると豪奢な馬車が彼女から数メートル先で止まった。伯爵家の馬車ではないと知ったロミーは「チッ」と舌打ちするが見知った顔が降りて来た。
「やあ!キミはロミーじゃないか!嬉しいな送ったドレスを着てくれたんだね、茶会はどうだった?」
「あ、セシルさま。セシルさまセシルさまーーーー!」
獲物を捕らえた彼女は遠慮なく彼の胸に飛びついた。
63
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?
ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。
【完結】とある婚約破棄にまつわる群像劇~婚約破棄に巻き込まれましたが、脇役だって幸せになりたいんです~
小笠原 ゆか
恋愛
とある王国で起きた婚約破棄に巻き込まれた人々の話。
第一王子の婚約者である公爵令嬢を蹴落とし、男爵令嬢を正妃にする計画を父から聞かされたメイベル・オニキス伯爵令嬢。高位貴族を侍らせる身持ちの悪い男爵令嬢を正妃など有り得ない。しかし、大人達は計画を進め、自分の力では止めることは出来そうにない。その上、始末が悪いことにメイベルの婚約者もまた男爵令嬢の取り巻きになり下がっていた。
2021.9.19 タイトルを少し変更しました。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう
水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。
しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。
マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。
マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。
そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。
しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。
怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。
そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。
そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……
そちらがその気なら、こちらもそれなりに。
直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。
それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。
真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。
※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。
リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。
※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。
…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
★HOTランキング2位
★人気ランキング7位
たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!
復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。
ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。
しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。
彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。
「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」
「分かりました。二度と貴方には関わりません」
何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。
そんな中、彼女を見つめる者が居て――
◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。
※他サイトでも連載しています
婚約破棄をした相手方は知らぬところで没落して行きました
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢だったアンネリーは婚約者であり、侯爵でもあるスティーブンに真実の愛がどうたらという理由で婚約破棄されてしまった。
悲しみに暮れたアンネリーだったが、偶々、公爵令息のジョージと再会し交流を深めていく。
アンネリーがジョージと楽しく生活をしている中、真実の愛に目覚めたらしいスティーブンには様々な災厄? が降りかかることになり……まさに因果応報の事態が起きるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる