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「ねぇねぇセシー、おかしいわ。今日も硬い黒パンと水だけの食事なのよ!」
手抜きどころではない粗末な食事を出されて、メイドは何をやっているのだとロミーは癇癪を起す。今日のことばかりではなく十日ほど前から食事のレベルが下がり出していた。
内装だけは立派な別荘の食堂、愛し合う二人だけの晩餐だというのに、我儘ロミーは不満タラタラであった。それを宥めるようにセシルは手を上下に動かして言う。
「ここは山の別荘だ、食材を運ぶのには日数がいる。馬車を使っても五日はかかるんだ、少し耐えてくれないか?」
「往復で10日もかかるとして遅すぎるでしょ!今日の朝には届いてたはずだわ」
別荘で暮らし始めて約5カ月目、いままでは貧しい食事など出されたことが無いと掘り返して、ロミーは納得がいかないと怒った。そんな事情はセシルとて気が付いていた、だが”長雨で悪路になったせい””馭者が怠けているせい”と己に言い聞かせている。頭に浮かんだ疑念を「なにかの間違い」と押し込めて来た。
「パンがあるだけ有難い、綺麗な水だって市井の者は飲めないことがあると聞くよ。ボク達は恵まれているほうさ」
彼は窶れた頬を揺らして千切ったパンをもそもそと咀嚼した。彼の中に食生活を改善するという意識はなさそうだ。
いよいよ我慢ならなくなったロミーは「温かいスープと炙り肉が出ないなら食べない」と怒鳴って寝室へ行ってしまった。
それを無言で見送っていたセシルは「我儘も過ぎれば嫌悪の対象だな」と呟く。
「明日は山菜でも採らせようか」
セシルは頭は悪いが謙虚に生きることくらいは知っていた。
厳しい母に「末っ子の貴方は良縁に恵まれず市井に下る事になるかもしれない、辛いことがあっても慎ましく生きなさい」と散々言われて育った。
けれど、どうしてだかセシルは現実から目を背ける癖が付いてホラを吹くようになった。
勉強が嫌いなくせに修了したと親に告げ、友人たちには有りもしない貯蓄を自慢した。「出来た三男」となにも知らない周囲は認めてしまいオフェリアとの縁談が出た。それはすぐに裏切ったのだが。
長兄はなにもせずとも家を継げるし、次兄は祖母方の子爵を受け継ぐ。三男の自分だけ何も貰えない。
「どうしてボクは最後に生まれたのだろう」
***
貧相な晩餐から数日後。
ようやく荷が届いたが三級麦とクズ芋ばかりが荷台を埋め尽くしていた。
荷下ろしを手伝う下女は「またか気の毒に」と言う、通いの下女の家のほうが余程豊かな食事をしていたからだ。
当初は若夫婦と聞いて信じていたが、いまはワケアリの恋人と気づいてしまった。
これらのものはセシルが買ったものではない、実家からのお情けに過ぎないのだ。彼は働いていないし生活費がだせるわけもない。
下女が籠を持ち上げると隅の方に干し肉を見つけた、これがあるならスープができるだろうと安心した。
面倒な女主人もこれで大人しくなるだろうと思った。
「今日で暇を貰うけどねーあの子は調理できるのかな?」
馭者も下女も別荘を管理するために住み込んでいたが、セシルの親から退職金を貰い辞めることが決定している。
そうとは知らない彼らは今後どうするのか、下女は気の毒に思うもどうにもできない。
昼食のテーブルにスープが湯気を立てていたことにロミーは歓喜した。
「やっと仕事したようね!仕方ないから食べてあげる!」
糧への礼も述べず、いきなりスープ皿に飛びついて彼女は食べ始めた。食事のマナーなど気にする女ではない。塩気が少し足りないと文句だけは一丁前に言う。
「ロミー、落ち着いて食べて頬に色々付いていて汚いよ」さすがにセシルが窘める言葉を吐いた。だが大人しく受け入れる彼女ではない。
「あにお、ういにあべでいいえお!」
「……」
口にものを入れたまま喋るものだから聞き取りが困難で彼をイライラさせた。容姿だけは彼の好みだったが性格の悪さがだんだん露見して引いてしまうことが増えた。それでも愛情は持っている、惚れた弱みは続きそうだ。
彼は食事の手を止めて久しぶりに届いた日付の古い新聞を読むことにした。
父親の配慮に感謝してから面白い記事はないかと探す、すると2面に渡り王家の公表した記事に釘付けになった。
”国中がショック!アンネリ王女の真実”という見出しが目に飛び込む。
「な、長年娘として育てられた王子!?なんだこれは……ハハハ、王女の友人だったリアはさぞかし驚いたろうな」
他人事のように流し読みしていた彼だが、次の報せに目を剥いた。
『王女改めアルベリック第二王子が御婚約、お相手はコリンソン伯爵令嬢』
そんなバカなと声を荒げるセシルに対面にいたロミーがビックリする。
「むぐ……なにを慌てているの?せっかくの干し肉を堪能してたのに飲み込んじゃったわ」
「……キミの姉が、リアが王子と婚約したそうだ」
「はぁ!?噓でしょ!あんな平凡な顔のあの子が?私は信じませんからね」
ギャンギャンと咆える彼女に、王都新聞を読めと押し付けたが「字なんて読めないわ」と突き返された。
手抜きどころではない粗末な食事を出されて、メイドは何をやっているのだとロミーは癇癪を起す。今日のことばかりではなく十日ほど前から食事のレベルが下がり出していた。
内装だけは立派な別荘の食堂、愛し合う二人だけの晩餐だというのに、我儘ロミーは不満タラタラであった。それを宥めるようにセシルは手を上下に動かして言う。
「ここは山の別荘だ、食材を運ぶのには日数がいる。馬車を使っても五日はかかるんだ、少し耐えてくれないか?」
「往復で10日もかかるとして遅すぎるでしょ!今日の朝には届いてたはずだわ」
別荘で暮らし始めて約5カ月目、いままでは貧しい食事など出されたことが無いと掘り返して、ロミーは納得がいかないと怒った。そんな事情はセシルとて気が付いていた、だが”長雨で悪路になったせい””馭者が怠けているせい”と己に言い聞かせている。頭に浮かんだ疑念を「なにかの間違い」と押し込めて来た。
「パンがあるだけ有難い、綺麗な水だって市井の者は飲めないことがあると聞くよ。ボク達は恵まれているほうさ」
彼は窶れた頬を揺らして千切ったパンをもそもそと咀嚼した。彼の中に食生活を改善するという意識はなさそうだ。
いよいよ我慢ならなくなったロミーは「温かいスープと炙り肉が出ないなら食べない」と怒鳴って寝室へ行ってしまった。
それを無言で見送っていたセシルは「我儘も過ぎれば嫌悪の対象だな」と呟く。
「明日は山菜でも採らせようか」
セシルは頭は悪いが謙虚に生きることくらいは知っていた。
厳しい母に「末っ子の貴方は良縁に恵まれず市井に下る事になるかもしれない、辛いことがあっても慎ましく生きなさい」と散々言われて育った。
けれど、どうしてだかセシルは現実から目を背ける癖が付いてホラを吹くようになった。
勉強が嫌いなくせに修了したと親に告げ、友人たちには有りもしない貯蓄を自慢した。「出来た三男」となにも知らない周囲は認めてしまいオフェリアとの縁談が出た。それはすぐに裏切ったのだが。
長兄はなにもせずとも家を継げるし、次兄は祖母方の子爵を受け継ぐ。三男の自分だけ何も貰えない。
「どうしてボクは最後に生まれたのだろう」
***
貧相な晩餐から数日後。
ようやく荷が届いたが三級麦とクズ芋ばかりが荷台を埋め尽くしていた。
荷下ろしを手伝う下女は「またか気の毒に」と言う、通いの下女の家のほうが余程豊かな食事をしていたからだ。
当初は若夫婦と聞いて信じていたが、いまはワケアリの恋人と気づいてしまった。
これらのものはセシルが買ったものではない、実家からのお情けに過ぎないのだ。彼は働いていないし生活費がだせるわけもない。
下女が籠を持ち上げると隅の方に干し肉を見つけた、これがあるならスープができるだろうと安心した。
面倒な女主人もこれで大人しくなるだろうと思った。
「今日で暇を貰うけどねーあの子は調理できるのかな?」
馭者も下女も別荘を管理するために住み込んでいたが、セシルの親から退職金を貰い辞めることが決定している。
そうとは知らない彼らは今後どうするのか、下女は気の毒に思うもどうにもできない。
昼食のテーブルにスープが湯気を立てていたことにロミーは歓喜した。
「やっと仕事したようね!仕方ないから食べてあげる!」
糧への礼も述べず、いきなりスープ皿に飛びついて彼女は食べ始めた。食事のマナーなど気にする女ではない。塩気が少し足りないと文句だけは一丁前に言う。
「ロミー、落ち着いて食べて頬に色々付いていて汚いよ」さすがにセシルが窘める言葉を吐いた。だが大人しく受け入れる彼女ではない。
「あにお、ういにあべでいいえお!」
「……」
口にものを入れたまま喋るものだから聞き取りが困難で彼をイライラさせた。容姿だけは彼の好みだったが性格の悪さがだんだん露見して引いてしまうことが増えた。それでも愛情は持っている、惚れた弱みは続きそうだ。
彼は食事の手を止めて久しぶりに届いた日付の古い新聞を読むことにした。
父親の配慮に感謝してから面白い記事はないかと探す、すると2面に渡り王家の公表した記事に釘付けになった。
”国中がショック!アンネリ王女の真実”という見出しが目に飛び込む。
「な、長年娘として育てられた王子!?なんだこれは……ハハハ、王女の友人だったリアはさぞかし驚いたろうな」
他人事のように流し読みしていた彼だが、次の報せに目を剥いた。
『王女改めアルベリック第二王子が御婚約、お相手はコリンソン伯爵令嬢』
そんなバカなと声を荒げるセシルに対面にいたロミーがビックリする。
「むぐ……なにを慌てているの?せっかくの干し肉を堪能してたのに飲み込んじゃったわ」
「……キミの姉が、リアが王子と婚約したそうだ」
「はぁ!?噓でしょ!あんな平凡な顔のあの子が?私は信じませんからね」
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