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同時刻、階下にいた一団は上から届いてくる音を聞き「意外と激しいプレイをしている」と大きな勘違いをしていた。若造セシルががっついているのだろうと誰もが思っていた、悲鳴をあげているのは男のほうだとは気が付いていない。
「二階には録音機を仕掛けたんだろうな。せっかくの悲劇を記録しとかないと醜聞の証拠にならねぇから」
「へい、ベッドの下と壁、天井に仕掛けておきやした」カシラの問いに対し手下の一人が愉快そうな声で答える。
闇ギルドは事の始終を記録している、もちろんセシルがバーに現れた時からだ。不測の事態が起きた時に、依頼人が契約を反故して逃亡するのを阻止する理由もあるが、場合によっては被害者側へ脅しをかける材料に使うのだ。
今回はビビリすぎるセシルの性格を考慮しての記録と言えた。貧弱なヤツほど裏切る傾向がある事を彼らは知っているのだ。
そして待機してから30分ほど経った頃、ガタゴトと激しかった上階が静まった。
漸く欲を吐き出して落ち着いたと判断した彼らは、些か下卑た笑みを浮かべていた。後程、録音された情交を見分と称して楽しむのだろう、誰かが「酒の肴だ」と呟いた。
記録係らしい数人が足早に二階へと駆け上っていった、おそらく情事直後のふたりを写真に残すためと思われた。
そして、カシラと残った手下たちは逃走の準備にかかる。
足が付きそうな物品は処分しなければならない、待機中に出た煙草の吸殻や紙くずを残すのは拙い。厳つい彼らが箒をかけ床をを拭く様は滑稽だ。
「残るのは二階だけだな、おい、連中に早くしろとはっぱかけてきな!5分以内にずらかるぞ」
すべて上手く事が運んだとギルマスことカシラは大いに満足そうだ。
しかし、順当だと思っていたカシラであったが、待てど暮せど二階の連中が戻る気配がないと苛立つ。
「まさか乱交でも始めやがったか」と彼は額に怒り筋を膨らませた、情事の後を見て余計な欲を出すバカは少なからずいるからだ。カシラが自ら出向こうとしたが阻む者が現れる。
「二階に出向かずとも大丈夫ですよ、王子殿下が華麗に悪漢どもを処分されました。さて、残るはアナタ方だけです。厄介な闇ギルドは今宵殲滅されます、素晴らしい記念日だ」
「なんだと!誰だてめぇは!」
いきなり現れた怪人にカシラは唾を飛ばして激高し、手下に向かって「囲い込め」と指示をした。だが、動く気配がない。手下十数人は立ったまま白目を剥き気絶していたからだ。
「あぁ、申し遅れました。王子殿下側近が一人、闇に生きるしがない暗黒騎士でございます。闇には闇で対抗させていただきました。今頃は我の仲間達が表の見張り番達を捕縛しているでしょう」
黑い甲冑と黒いマントを翻した人物から細い声が聞こえた。顔は確認できないが女性と思われる。
「な、な……暗黒……ひぃ!伝承に過ぎないと思っていたのに」
王家を護るために存在すると言われていた伝説の闇騎士団、暗黒騎士達が実在していたことに彼は慄く。
暗黒騎士は音もなく現れ、標的を漏れなく処理すると言われる。名の通り暗躍するのが彼らの仕事である。
***
セシルはもちろん、闇ギルドの連中は一網打尽にされた。
居城で報を待っていた国王は、カーテン裏からぬるりと現れた伝令により耳打ちされて笑みを零した。
「君達は仕事が早いな、いつも通り褒美を多めに遣わす。部隊長に労いを伝えておくれ」
「御意」
短く返事したソレは音もなく闇夜に消えていった。
「ふむ、どのような身体能力を持っているやら未だにワシとてわからん」
王は棚から琥珀の瓶を鷲掴んで氷を沈めておいたグラスへ酒を注いだ。国に巣喰うゴミ虫の一つを潰せたことの祝杯だ。
「ふぅ……潰してもまたすぐ湧くのであろうな。刹那の安寧に乾杯だ」腸に染みる熱を楽しむ王はゆっくり目を瞑って、明日に控える会議について思考を巡らせた。
「ただいま、ボクの女神。ぜんぶやっつけてきたよ!」
オフェリアが待っていた部屋へアルベリック王子は女装したまま飛び込んで来て声を張り上げた。
すぐさま抱き着こうとしたが「ダメだ、あの男が汚い手でベタベタ触ったからな」と残念そうに数歩離れる。
「まあまあ……私の身代わりなんて危険なことを」
王族を護るべきは臣下の私だと彼女は涙目で訴えたが、王族こそ遣える民を護る盾だとアルベリックは引かない。
強情な物言いにオフェリアは呆れて、それからすぐに「湯浴みとお着換えを」と怒った。
帰城した王子の姿は綺麗とは言い難い、枯れ葉や埃で御髪が乱れており、ドレスは数か所破けていた。
「うむ、襲われたんだから仕方ないよね」
「お、おそわれ……イヤー!王子のバカ!危険な事を!ちょっとそこにお坐りなさいませ!」
吉報を持って来たはずの彼だったが、愛しい婚約者に小一時間ほど説教される羽目になった。
「このバカ王子!バカバカバカ!どれほど私が心配したかわかる!?」
「ごめんなひゃい!」
「二階には録音機を仕掛けたんだろうな。せっかくの悲劇を記録しとかないと醜聞の証拠にならねぇから」
「へい、ベッドの下と壁、天井に仕掛けておきやした」カシラの問いに対し手下の一人が愉快そうな声で答える。
闇ギルドは事の始終を記録している、もちろんセシルがバーに現れた時からだ。不測の事態が起きた時に、依頼人が契約を反故して逃亡するのを阻止する理由もあるが、場合によっては被害者側へ脅しをかける材料に使うのだ。
今回はビビリすぎるセシルの性格を考慮しての記録と言えた。貧弱なヤツほど裏切る傾向がある事を彼らは知っているのだ。
そして待機してから30分ほど経った頃、ガタゴトと激しかった上階が静まった。
漸く欲を吐き出して落ち着いたと判断した彼らは、些か下卑た笑みを浮かべていた。後程、録音された情交を見分と称して楽しむのだろう、誰かが「酒の肴だ」と呟いた。
記録係らしい数人が足早に二階へと駆け上っていった、おそらく情事直後のふたりを写真に残すためと思われた。
そして、カシラと残った手下たちは逃走の準備にかかる。
足が付きそうな物品は処分しなければならない、待機中に出た煙草の吸殻や紙くずを残すのは拙い。厳つい彼らが箒をかけ床をを拭く様は滑稽だ。
「残るのは二階だけだな、おい、連中に早くしろとはっぱかけてきな!5分以内にずらかるぞ」
すべて上手く事が運んだとギルマスことカシラは大いに満足そうだ。
しかし、順当だと思っていたカシラであったが、待てど暮せど二階の連中が戻る気配がないと苛立つ。
「まさか乱交でも始めやがったか」と彼は額に怒り筋を膨らませた、情事の後を見て余計な欲を出すバカは少なからずいるからだ。カシラが自ら出向こうとしたが阻む者が現れる。
「二階に出向かずとも大丈夫ですよ、王子殿下が華麗に悪漢どもを処分されました。さて、残るはアナタ方だけです。厄介な闇ギルドは今宵殲滅されます、素晴らしい記念日だ」
「なんだと!誰だてめぇは!」
いきなり現れた怪人にカシラは唾を飛ばして激高し、手下に向かって「囲い込め」と指示をした。だが、動く気配がない。手下十数人は立ったまま白目を剥き気絶していたからだ。
「あぁ、申し遅れました。王子殿下側近が一人、闇に生きるしがない暗黒騎士でございます。闇には闇で対抗させていただきました。今頃は我の仲間達が表の見張り番達を捕縛しているでしょう」
黑い甲冑と黒いマントを翻した人物から細い声が聞こえた。顔は確認できないが女性と思われる。
「な、な……暗黒……ひぃ!伝承に過ぎないと思っていたのに」
王家を護るために存在すると言われていた伝説の闇騎士団、暗黒騎士達が実在していたことに彼は慄く。
暗黒騎士は音もなく現れ、標的を漏れなく処理すると言われる。名の通り暗躍するのが彼らの仕事である。
***
セシルはもちろん、闇ギルドの連中は一網打尽にされた。
居城で報を待っていた国王は、カーテン裏からぬるりと現れた伝令により耳打ちされて笑みを零した。
「君達は仕事が早いな、いつも通り褒美を多めに遣わす。部隊長に労いを伝えておくれ」
「御意」
短く返事したソレは音もなく闇夜に消えていった。
「ふむ、どのような身体能力を持っているやら未だにワシとてわからん」
王は棚から琥珀の瓶を鷲掴んで氷を沈めておいたグラスへ酒を注いだ。国に巣喰うゴミ虫の一つを潰せたことの祝杯だ。
「ふぅ……潰してもまたすぐ湧くのであろうな。刹那の安寧に乾杯だ」腸に染みる熱を楽しむ王はゆっくり目を瞑って、明日に控える会議について思考を巡らせた。
「ただいま、ボクの女神。ぜんぶやっつけてきたよ!」
オフェリアが待っていた部屋へアルベリック王子は女装したまま飛び込んで来て声を張り上げた。
すぐさま抱き着こうとしたが「ダメだ、あの男が汚い手でベタベタ触ったからな」と残念そうに数歩離れる。
「まあまあ……私の身代わりなんて危険なことを」
王族を護るべきは臣下の私だと彼女は涙目で訴えたが、王族こそ遣える民を護る盾だとアルベリックは引かない。
強情な物言いにオフェリアは呆れて、それからすぐに「湯浴みとお着換えを」と怒った。
帰城した王子の姿は綺麗とは言い難い、枯れ葉や埃で御髪が乱れており、ドレスは数か所破けていた。
「うむ、襲われたんだから仕方ないよね」
「お、おそわれ……イヤー!王子のバカ!危険な事を!ちょっとそこにお坐りなさいませ!」
吉報を持って来たはずの彼だったが、愛しい婚約者に小一時間ほど説教される羽目になった。
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「ごめんなひゃい!」
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