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「まあ、それではあの区画が復興する兆しが出てきましたの?」
「多くの民が住み暮らせる目途はまだまだ立たないけど、人手不足が解決したからね。廃屋になってしまった家の解体と瓦礫なんかの撤去は骨だから、それが進めば更に土地の開拓も着手できる」
あの事件から1週間ほど経ち、落ち着いた頃合いで二人は茶会を開いた。
事のあらましを聞かされたオフェリアの両親は大変驚き、言うまでもなくセシルの愚行に大激怒した。そして、娘の安全に敏感になり過ぎてしまった彼らは「是非とも娘に城内に部屋を」と訴えてきた。困惑するオフェリアと大喜びの王子の反応は真逆に近かった。
だが「同室ではない」と王妃に言われて悄気た王子である、節度を守りなさいと叱責を食らったのは三日前だ。
「私の為に部屋を用意して頂いて……心苦しいですわ。異例なことだもの」
「それならボクの部屋へおいでよ!清掃もベッドメイクも楽になってメイドも喜ぶ!」
「却下ですわ、それに我が家から優秀な侍女がきております」
「ぐっ……」
同衾などもっての他とオフェリアは王妃以上に厳しい、衣服や装飾品なども記念日以外は王子から受け取らないと言った。王子妃の予算があっても無駄遣いを許さないと彼女は言う。民の血税は有用に使うべきと遠慮の旨を伝えた。その姿勢に感銘した王妃は「いっそ王太子妃に向いている」と言い出す。
青褪めたアルベリックは「冗談でも止めてくれ!」と猛抗議をした。
兄である王太子は「そんなことは0%だから安心しろ」と慰めたが、王妃の目に本気の色があったとアルベリックは胃を痛めた。
「まったく、母上は冗談を言う人じゃないから油断ならないよ」
「そんな、王太子殿下には婚約者がおられますわ。たしか公爵令嬢ですね、伯爵令嬢の私が選ばれるわけがないわ」
身分差をあげて畏れ多いと彼女は頭を振った、すると「身分差がなければ兄上を選ぶの」と王子は拗ねる。
「ぷふっ!アルったら嫌だわ。私の可愛い人、拗ねないで」
「だってさー……ボクばっかり好きみたいで狡い」
そんな彼の膨れた頬にリップ音が小さく鳴った、不意打ちのご褒美を貰った王子は見事な熟れたトマトになった。
***
「ここへ来るのは初めてだね、足元に気を付けて」
「ええ、ありがとう」
いま彼らが居るのは旧カグデマク町である、月に一度の視察に訪れたところだ。
かなり寂れてしまっているが、かつては温泉が湧き出ていて人気の療養地だったのだ。しかし、いつの間にか湯瀑量が減って行き、いまでは湧き水程度にちょろちょろ出ているだけなのだ。
引き籠り生活に辟易していたオフェリアは「是非、視察の同行を」と願いでたのである、珍しいお強請りにアルベリックはふたつ返事で許可した。
もちろん、しっかり護衛が付けられたし王子専属の暗黒騎士まで影より護りを固めている。
「こうしていても暗黒騎士様は見ていらっしゃるの?」
「ああ、もちろんさ。ただ表には顔を出さないんだ。ボクさえ顔を知らない、影から影へと移動して神出鬼没なものだから地面にできる影に住んでるのかと思うほどさ」
そう説明する王子の言葉に彼女は驚き「面白い方々ですわ!」と言った。道化師かなにかと勘違いしていないかと王子は苦笑いする。
馬車から離れて数分も歩けば田舎特有のボコボコとした畔道が見えてくる。泥濘も点在していた。
これでは荷馬車が通ることが困難で資材を運ぶのに苦労しそうだとオフェリアは思う。道路整備の着手はしているがこれまでは人手が足りずにいたらしい。
「まずは整備が先で瓦礫の撤去はそれからだな」
「そうですの、道造りは大変ですのね。あら、あそこに大きな岩が……」
旧集落の中央あたりに、行く手を阻むように成人男子の背丈ほどの岩が転がっていた。これを動かすのは容易でなないだろう。
「以前住んでいた人々はこれを避けて歩いていたのかしら?」
大きく丸い岩を見上げて彼女は関心する、どこから転がってきたのかと不思議がっている。廃れた町は山からは遠いので少し不自然さを感じるのだった。
「岩が気になるのかい?」
「ええ、だって変なんだもの……ひょっとして湯が枯れた原因と遠からず関係があるんじゃないのかしら?」
彼女の指摘にそんなバカなと王子は思う、しかし、捨て置けないとも感じるのだった。
「なるほど、温泉の調査団を今一度召喚すべきかもしれないな」湯が戻ってくれば再び湯の町として復活するかもしれないと考えた。
「ところで復興の兆しとはなんですの?湯は枯れたままですわ」
「ああ、ここから少し歩いて説明しよう。その先に理由があるから」
彼は優しく手を取って彼女をエスコートする、彼女は丈夫なブーツを履いてきたから平気だと断ったが触れていたい王子は無視して進んだ。
「まったく……アルは強引ね」
「はは、まあまあ面白いものも見物できるからさ」
面白い物と聞いたオフェリアは急に元気が出てきて、王子を急かすように手を引き始める。どちらが案内役かわからない。
「どこですの面白いも……あ!」
到着したそこには思いがけない人物が作業服を着て土塊を均したり、邪魔な石粒を運んでいたではないか。
「……セシル、それにロミー」
かつての婚約者と元友人のロミーが泥まみれになって開拓作業に従事していた。潔癖気味だったセシルが汗だくでスコップを不器用に扱い土を被っている、我儘ばかりのロミーも土塊と格闘している。
すると視線を感じたらしい二人がオフェリアの姿を目に捉えた……。
「多くの民が住み暮らせる目途はまだまだ立たないけど、人手不足が解決したからね。廃屋になってしまった家の解体と瓦礫なんかの撤去は骨だから、それが進めば更に土地の開拓も着手できる」
あの事件から1週間ほど経ち、落ち着いた頃合いで二人は茶会を開いた。
事のあらましを聞かされたオフェリアの両親は大変驚き、言うまでもなくセシルの愚行に大激怒した。そして、娘の安全に敏感になり過ぎてしまった彼らは「是非とも娘に城内に部屋を」と訴えてきた。困惑するオフェリアと大喜びの王子の反応は真逆に近かった。
だが「同室ではない」と王妃に言われて悄気た王子である、節度を守りなさいと叱責を食らったのは三日前だ。
「私の為に部屋を用意して頂いて……心苦しいですわ。異例なことだもの」
「それならボクの部屋へおいでよ!清掃もベッドメイクも楽になってメイドも喜ぶ!」
「却下ですわ、それに我が家から優秀な侍女がきております」
「ぐっ……」
同衾などもっての他とオフェリアは王妃以上に厳しい、衣服や装飾品なども記念日以外は王子から受け取らないと言った。王子妃の予算があっても無駄遣いを許さないと彼女は言う。民の血税は有用に使うべきと遠慮の旨を伝えた。その姿勢に感銘した王妃は「いっそ王太子妃に向いている」と言い出す。
青褪めたアルベリックは「冗談でも止めてくれ!」と猛抗議をした。
兄である王太子は「そんなことは0%だから安心しろ」と慰めたが、王妃の目に本気の色があったとアルベリックは胃を痛めた。
「まったく、母上は冗談を言う人じゃないから油断ならないよ」
「そんな、王太子殿下には婚約者がおられますわ。たしか公爵令嬢ですね、伯爵令嬢の私が選ばれるわけがないわ」
身分差をあげて畏れ多いと彼女は頭を振った、すると「身分差がなければ兄上を選ぶの」と王子は拗ねる。
「ぷふっ!アルったら嫌だわ。私の可愛い人、拗ねないで」
「だってさー……ボクばっかり好きみたいで狡い」
そんな彼の膨れた頬にリップ音が小さく鳴った、不意打ちのご褒美を貰った王子は見事な熟れたトマトになった。
***
「ここへ来るのは初めてだね、足元に気を付けて」
「ええ、ありがとう」
いま彼らが居るのは旧カグデマク町である、月に一度の視察に訪れたところだ。
かなり寂れてしまっているが、かつては温泉が湧き出ていて人気の療養地だったのだ。しかし、いつの間にか湯瀑量が減って行き、いまでは湧き水程度にちょろちょろ出ているだけなのだ。
引き籠り生活に辟易していたオフェリアは「是非、視察の同行を」と願いでたのである、珍しいお強請りにアルベリックはふたつ返事で許可した。
もちろん、しっかり護衛が付けられたし王子専属の暗黒騎士まで影より護りを固めている。
「こうしていても暗黒騎士様は見ていらっしゃるの?」
「ああ、もちろんさ。ただ表には顔を出さないんだ。ボクさえ顔を知らない、影から影へと移動して神出鬼没なものだから地面にできる影に住んでるのかと思うほどさ」
そう説明する王子の言葉に彼女は驚き「面白い方々ですわ!」と言った。道化師かなにかと勘違いしていないかと王子は苦笑いする。
馬車から離れて数分も歩けば田舎特有のボコボコとした畔道が見えてくる。泥濘も点在していた。
これでは荷馬車が通ることが困難で資材を運ぶのに苦労しそうだとオフェリアは思う。道路整備の着手はしているがこれまでは人手が足りずにいたらしい。
「まずは整備が先で瓦礫の撤去はそれからだな」
「そうですの、道造りは大変ですのね。あら、あそこに大きな岩が……」
旧集落の中央あたりに、行く手を阻むように成人男子の背丈ほどの岩が転がっていた。これを動かすのは容易でなないだろう。
「以前住んでいた人々はこれを避けて歩いていたのかしら?」
大きく丸い岩を見上げて彼女は関心する、どこから転がってきたのかと不思議がっている。廃れた町は山からは遠いので少し不自然さを感じるのだった。
「岩が気になるのかい?」
「ええ、だって変なんだもの……ひょっとして湯が枯れた原因と遠からず関係があるんじゃないのかしら?」
彼女の指摘にそんなバカなと王子は思う、しかし、捨て置けないとも感じるのだった。
「なるほど、温泉の調査団を今一度召喚すべきかもしれないな」湯が戻ってくれば再び湯の町として復活するかもしれないと考えた。
「ところで復興の兆しとはなんですの?湯は枯れたままですわ」
「ああ、ここから少し歩いて説明しよう。その先に理由があるから」
彼は優しく手を取って彼女をエスコートする、彼女は丈夫なブーツを履いてきたから平気だと断ったが触れていたい王子は無視して進んだ。
「まったく……アルは強引ね」
「はは、まあまあ面白いものも見物できるからさ」
面白い物と聞いたオフェリアは急に元気が出てきて、王子を急かすように手を引き始める。どちらが案内役かわからない。
「どこですの面白いも……あ!」
到着したそこには思いがけない人物が作業服を着て土塊を均したり、邪魔な石粒を運んでいたではないか。
「……セシル、それにロミー」
かつての婚約者と元友人のロミーが泥まみれになって開拓作業に従事していた。潔癖気味だったセシルが汗だくでスコップを不器用に扱い土を被っている、我儘ばかりのロミーも土塊と格闘している。
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