虚言癖の友人を娶るなら、お覚悟くださいね。

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
20 / 23

19

しおりを挟む
「結婚まで後半年か……あぁボクは良く耐えたものだ」オフェリアに手を出していない事を自画自賛する王子だったが、褒める者はいない。王族にとって一線を越えてはならない事は当たり前の慣習だからだ。
王族の居住スペースは最上階とその下で、異例で与えられたオフェリアの居室は王女の部屋に当たる。時々アルベリックが用もないのに彼女の居室前の廊下をうろつくことが目撃されたが侍従たちは「見なかった」ことにしていた。
それでもたまに油断をして王妃に見つかっては扇で盛大に叩かれていた。

オフェリアはというと結婚式当日に王子の使う白いクラバットに刺繍を刺していた。白糸で刺すので目立ちはしないが光の当たり具合で浮かび上がるのは美しいものである。ベタではあったが白い薔薇を縫い付けていた。
”あなたを愛しています”という花言葉を用いる為である。
「ふう、もう少しで完成ね。急に刺してみたくなったけどなんとかなりそう」
彼女はお式まで内緒にしていたかったのだが、目敏い王子にすぐにバレてしまった。少し残念に思ったが大はしゃぎして喜んだ彼に「仕方ないわ」と諦めた。

「うふ、面差しはすっかり成人なのに子供っぽいのよね」
婚約してからいろいろあったが、王子の背丈は10センチほど伸びて背伸びしないと顔に触れられなくなっていた。
侍従らの目を盗んで頬にキスが出来なくなったことを少し残念に思うのだった。
そんな事を考えていたら控えていた侍女が「お茶にいたしましょう」と声かけて来た、彼女は刺繍に夢中で気が付かなかったが時計の針は15時を回っていた。

「ありがとう、王妃様に戴いた紅茶が飲みたいわ、それからジャムクッキーを出しましょう貴女も一緒にね!」肩をゴリゴリ解しながら言う。
「まあ!私も宜しいんですか?あ、でしたら使いにだしてるメイドも宜しいでしょうか?」
水差しの交換にでているらしいメイドを思って侍女はお願いした。
「もちろんだわ、遠慮しないで頂戴!美味しいものは分けて食べたほうがより美味しいのよ」
快諾した主に侍女が礼を述べたと同時にメイドが戻ってきた、身内だけの茶会を開こうとオフェリアが言ったのだが託けを頼まれたらしいメイドが「王妃様がお呼びです、お茶はそちらで召し上がってください」と頭を下げた。

「そう、仕方ないわね。お茶はアナタたちだけで楽しんで頂戴な」
侍女が付いて行くと申し出たが、一階上に行くだけだからと断り、廊下にいた護衛だけを連れてオフェリアは向かう。急にどうしたことだろうと彼女は訝しんだが、王族の気まぐれは珍しいことではない。

「参りました王妃様」優雅にお辞儀をして王妃の居室に訪れたオフェリアだったが、招かれたのは自分だけではないと気が付く。愛しい婚約者アルベリックと見慣れない少女がそこにいた。
顔を上げた瞬間に睨まれた気がしたが、少女は能面のような顔になって澄ましている。ただ、それだけなら捨て置いたのだが、少女が彼の腕に絡まるようにしていたことが気になった。

”何者かしら?”頬に手を当てて困惑のポーズをとりアルベリックを見つめるも彼は苦笑するだけだった。

***

王妃がそれぞれ席に着くように言った、とうぜん婚約者の自分が彼の隣にと思ったが少女が邪魔をしてきて叶わなかった。そして「私この城に慣れてないからなにかと不安でぇ側にいたいのぉ」と半べそを掻いて王子を見上げていた。
”誰かに似ている”とオフェリアは嫌な気分になったが、やむなく対面に座る。各人に茶が行き渡ったタイミングで王妃が飲む前に「挨拶なさい」と少女に言った。
「え~?先ほどしたばかりですぅ、まさかこの女に頭を下げろと?私は王女ですわ」
身分差を武器に抵抗する少女だったが王妃は口だけ弧を描いて真顔になる、かなり立腹している時の表情だった。

「挨拶をなさい、元王女」と命令口調の王妃はかなり怖い。
するとグズグズとしながらやっと立ち上がった少女は「アルニ王国のルルーラ第二王女ですわ!」とソッポを向いたまま自己紹介をする。
国名を聞いたオフェリアは少し意地悪したくなって「あぁ、我が国の保護下になった気の毒な方ね」と良い笑顔を返した。
その言葉に怒った元王女は「なんですって!この下賤の者が!」と反論してくる。
元と言われたにも拘わらず彼女はいまだ王族気取りのようである。

「国家が解体されようが私は生粋の王族で王女よ!なんでお前なんかに愛想を振り撒かなければならないの!」
言葉が過ぎる少女はピリピリした空気が読めないらしい。
「……ルルーラ、言葉を慎みなさい、父君は処刑され王家が解体された今、あなたの身分はありません平民同然ですよ。彼女はアルと結婚して侯爵夫人になるのです、身分を弁えるのはお前ですよ」

その言葉にも屈しない元王女ルルーラはとんでもないことを言いだした。
「でしたら私がその女に代わりアル様と結婚しますわ!そうすれば問題ないじゃない!」
「は?……キミは彼女を侮辱するのか?」
オフェリアを溺愛している王子に”その女”と言ったのは拙かった。

「だーって、2歳も年上の”オバサン”より若くて可愛い私のほうが万倍良いはずよ!」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。

【完結】とある婚約破棄にまつわる群像劇~婚約破棄に巻き込まれましたが、脇役だって幸せになりたいんです~

小笠原 ゆか
恋愛
とある王国で起きた婚約破棄に巻き込まれた人々の話。 第一王子の婚約者である公爵令嬢を蹴落とし、男爵令嬢を正妃にする計画を父から聞かされたメイベル・オニキス伯爵令嬢。高位貴族を侍らせる身持ちの悪い男爵令嬢を正妃など有り得ない。しかし、大人達は計画を進め、自分の力では止めることは出来そうにない。その上、始末が悪いことにメイベルの婚約者もまた男爵令嬢の取り巻きになり下がっていた。 2021.9.19 タイトルを少し変更しました。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう

水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。 しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。 マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。 マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。 そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。 しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。 怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。 そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。 そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~

水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。 ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。 しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。 彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。 「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」 「分かりました。二度と貴方には関わりません」 何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。 そんな中、彼女を見つめる者が居て―― ◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。 ※他サイトでも連載しています

婚約破棄をした相手方は知らぬところで没落して行きました

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢だったアンネリーは婚約者であり、侯爵でもあるスティーブンに真実の愛がどうたらという理由で婚約破棄されてしまった。 悲しみに暮れたアンネリーだったが、偶々、公爵令息のジョージと再会し交流を深めていく。 アンネリーがジョージと楽しく生活をしている中、真実の愛に目覚めたらしいスティーブンには様々な災厄? が降りかかることになり……まさに因果応報の事態が起きるのであった。

処理中です...