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しおりを挟むそれなりに財を築いたロインド商会は中堅にまでに成長していた、それが丸っと自分のものになると思ったジャックはすっかり有頂天になっていた。確かに彼の功績はあったが影響力を及ぼすほどではない。それでも販路を確定したロインドの力は揺るぎようがないだろう。
ある日、愚かにもジャックは商会主催の顧客謝恩パーティに愛人アンナ・パレナを同行させてしまう。逸る気持ちはわかるが些か軽率な行為だった。
商会の顔として客に挨拶してまわったが遠巻きにヒソヒソされていたことに気が付いていない。しかも、本妻にして頭取であるカトリーヌ・ロインドを差し置いて良い顔をするわけがないのだ。
「あんな女だが財力だけはあるんだ、先代から受け継いだ商家はそこそこだぞ」
「まぁ素敵!私は愛人から商家夫人、いいえ男爵夫人になれるのね」
「ふふ、そういう事さ!今から顔を広めて置いて損はない」
空気の読めない二人は壁際でコソリとそんな話で盛り上がっていた。
蔑ろにされている本妻だったが、そんな彼女を気遣う人物がいた。
「やあ、カトリーヌ。久しぶりだね」
「まぁ!フェリクス・ガドナル伯爵様、お久しぶりでございます」
伯爵は若くして奥方に先立たれた方で、未だに亡き奥方を忘れられずにいた。当然、未婚女性たちからはアプローチされていたが、相手にせずのらりくらりしていた、そんなだから浮いた話も聞かない。
「……ご主人はずいぶんと大胆な方だ、この国は愛人を持つことは良しとしないのに」
「ふふ、仕方ありませんわ。私が至らないから」
カトリーヌは自虐気味にそう言って目を伏せる、やはり子を成せない体なことを負い目に見ていた。何より今は体調が優れず半日しか働いていない。
「顔色が優れないようだ、少し休まれては?」
「ええ、ですがお客様の接待がございますから、お気遣いだけいただきますわ」
「カトリーヌ……」
儚げに笑う彼女はそう言うと客人に声を掛けられてそちらに向かってしまう。名残惜しそうにその背中を目で追い肩を竦めるフェリクスであった。
『あぁ、許されるのならば……いいや、誑かすような行為は良くないな』
彼は近くにあったワインを傾け苦い思いを飲み干す。
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