9 / 21
9
しおりを挟む
相変わらずの盛況ぶりを見せる騎士団鍛錬場の外壁では美女たちが犇めく。
ちょっとした諍いは毎度のことで、時々見かねた騎士たちが代わる代わる窘めにやってくる。
一瞬だけしおらしい態度になる野次馬達だったが、目当ての白騎士ではないとぶーたれた。
「はぁ……ルディが直接苦言を伝えに行くもんかよ、餌にしかなんねぇじゃん」
「飢えたなんとかにってヤツか?」
「そうそれ」
晩秋へと季節は動き、猛暑に疲弊することはなくなったが通う婦人たちが急増してしまったのは宜しくない。
その群れの中に先日遭遇したメルゥの姿があった、ルチャーナは気が付いていたが見て見ぬふりを貫く。
「関わったらロクなことにならん」
「ん?ルー、なんか言ったか」
「なんでもない……藁人形と遊んでくる」
「お、おい、打ち合いしてくれるんじゃないのかよ?」
そんな気分ではないとビルを除けて、ルチャーナは鍛錬場の奥へ消えてしまった。
目当ての白騎士が遠くなったと肩を落とした野次馬たちは少しづつ散っていく。やっと静かになったと騎士達は鍛錬に勤しむのだった。
「あぁ、白騎士と呼ばれてますのね、ルディ様♡その優しい眼差しはあの日と同じだわ」
胸の前に手を交差させてウットリした表情を見せるメルゥ、それに気が付いたどこかの婦人が目ざとく彼女に詰問してきた。
「そこの貴女、ずいぶん白騎士様に詳しいようね。どういうこと?」
「え?……あら、私はあの方と運命の出会いをしただけです。うふ、素敵な微笑みでしたわ」
「んまぁ!?」「なんと図々しい言い草!」「どうやって取り入ったのよ!」
口撃を仕掛けてきたご婦人方は狩る者の目でメルゥを囲った。嫉妬に狂った女ほど恐ろしいものはない。
もみくちゃにされたメルゥは石畳に倒され、踏み潰され蹴られた。尖ったヒールが幾度も彼女の身体に食い込んだ。
尋常ではない騒ぎに流石に騎士団が動いた、もちろんその中にはルディも含まれる。
「ええい!止さないか見苦しい、言い合いならば目を瞑るが暴力は看過できんぞ!」
鍛錬場にいた一番の上官である少尉が声高に割って入った、リンチに参加していた幾人かは逃亡したが渦中にいた女子が数名捕縛された。
騒ぎの種であるルディことルチャーナは上官に腰を折って詫びを入れた、謝罪は受け取られたが彼女に咎は及ばなかった。あくまで騒いだのは無作法な女子たちなのだからとその場は納められた。
その後、負傷したメルゥは騎士団内の医務室へ保護された。見ぬふりも出来ないとルチャーナは見舞いに出向いた。
その行為がメルゥを増長させることになった。
白騎士に縋りついた彼女はとんでもないことを言い出した。
「わたしとても怖かったのですわ!あぁ、我が君ルディ様……傷物になった私を娶ってくださいな、きっと良き妻になりますわ、これでもわたしは家事が得意なんですの!なんせ名家アゴストに仕えていたんですもの」
「……」
「なぁルディ、なに言ってんだコイツ?打ちどころが悪かったのか」
同行していたビルが汚らわしい物を見るように包帯だらけのメルゥを睨みつける。
調子に乗らせたら駄目だと叫ぶとビルはルチャーナの腕を引いて病室を乱暴に出て行った。
「言わせたまんまで何をしてんだ?お人好しにもほどがあるぞ」
「……そうだな、……ふふ、くくくくっ……ハハハハハッヒッ!い、息ができないブフーッ!」
腹を抱えて笑い出したルチャーナに目を白黒させるビルは気が触れたのかと心配する。
「ハハッ、すまない。あまりに滑稽で醜く愉快な寸劇を見せられたものだからさ。アハハハハッこれほど面白い笑劇はないと思うぞ」
「お、おい!?だいじょうぶか?」
終いには床に転げまわり笑いが止まらないルディに「精神科はどこだ!」と大騒ぎしたビルである。
ちょっとした諍いは毎度のことで、時々見かねた騎士たちが代わる代わる窘めにやってくる。
一瞬だけしおらしい態度になる野次馬達だったが、目当ての白騎士ではないとぶーたれた。
「はぁ……ルディが直接苦言を伝えに行くもんかよ、餌にしかなんねぇじゃん」
「飢えたなんとかにってヤツか?」
「そうそれ」
晩秋へと季節は動き、猛暑に疲弊することはなくなったが通う婦人たちが急増してしまったのは宜しくない。
その群れの中に先日遭遇したメルゥの姿があった、ルチャーナは気が付いていたが見て見ぬふりを貫く。
「関わったらロクなことにならん」
「ん?ルー、なんか言ったか」
「なんでもない……藁人形と遊んでくる」
「お、おい、打ち合いしてくれるんじゃないのかよ?」
そんな気分ではないとビルを除けて、ルチャーナは鍛錬場の奥へ消えてしまった。
目当ての白騎士が遠くなったと肩を落とした野次馬たちは少しづつ散っていく。やっと静かになったと騎士達は鍛錬に勤しむのだった。
「あぁ、白騎士と呼ばれてますのね、ルディ様♡その優しい眼差しはあの日と同じだわ」
胸の前に手を交差させてウットリした表情を見せるメルゥ、それに気が付いたどこかの婦人が目ざとく彼女に詰問してきた。
「そこの貴女、ずいぶん白騎士様に詳しいようね。どういうこと?」
「え?……あら、私はあの方と運命の出会いをしただけです。うふ、素敵な微笑みでしたわ」
「んまぁ!?」「なんと図々しい言い草!」「どうやって取り入ったのよ!」
口撃を仕掛けてきたご婦人方は狩る者の目でメルゥを囲った。嫉妬に狂った女ほど恐ろしいものはない。
もみくちゃにされたメルゥは石畳に倒され、踏み潰され蹴られた。尖ったヒールが幾度も彼女の身体に食い込んだ。
尋常ではない騒ぎに流石に騎士団が動いた、もちろんその中にはルディも含まれる。
「ええい!止さないか見苦しい、言い合いならば目を瞑るが暴力は看過できんぞ!」
鍛錬場にいた一番の上官である少尉が声高に割って入った、リンチに参加していた幾人かは逃亡したが渦中にいた女子が数名捕縛された。
騒ぎの種であるルディことルチャーナは上官に腰を折って詫びを入れた、謝罪は受け取られたが彼女に咎は及ばなかった。あくまで騒いだのは無作法な女子たちなのだからとその場は納められた。
その後、負傷したメルゥは騎士団内の医務室へ保護された。見ぬふりも出来ないとルチャーナは見舞いに出向いた。
その行為がメルゥを増長させることになった。
白騎士に縋りついた彼女はとんでもないことを言い出した。
「わたしとても怖かったのですわ!あぁ、我が君ルディ様……傷物になった私を娶ってくださいな、きっと良き妻になりますわ、これでもわたしは家事が得意なんですの!なんせ名家アゴストに仕えていたんですもの」
「……」
「なぁルディ、なに言ってんだコイツ?打ちどころが悪かったのか」
同行していたビルが汚らわしい物を見るように包帯だらけのメルゥを睨みつける。
調子に乗らせたら駄目だと叫ぶとビルはルチャーナの腕を引いて病室を乱暴に出て行った。
「言わせたまんまで何をしてんだ?お人好しにもほどがあるぞ」
「……そうだな、……ふふ、くくくくっ……ハハハハハッヒッ!い、息ができないブフーッ!」
腹を抱えて笑い出したルチャーナに目を白黒させるビルは気が触れたのかと心配する。
「ハハッ、すまない。あまりに滑稽で醜く愉快な寸劇を見せられたものだからさ。アハハハハッこれほど面白い笑劇はないと思うぞ」
「お、おい!?だいじょうぶか?」
終いには床に転げまわり笑いが止まらないルディに「精神科はどこだ!」と大騒ぎしたビルである。
37
あなたにおすすめの小説
どうぞお好きになさってください
はなまる
恋愛
ミュリアンナ・ベネットは20歳。母は隣国のフューデン辺境伯の娘でミュリアンナは私生児。母は再婚してシガレス国のベネット辺境伯に嫁いだ。
兄がふたりいてとてもかわいがってくれた。そのベネット辺境伯の窮地を救うための婚約、結婚だった。相手はアッシュ・レーヴェン。女遊びの激しい男だった。レーヴェン公爵は結婚相手のいない息子の相手にミュリアンナを選んだのだ。
結婚生活は2年目で最悪。でも、白い結婚の約束は取り付けたし、まだ令息なので大した仕事もない。1年目は社交もしたが2年目からは年の半分はベネット辺境伯領に帰っていた。
だが王女リベラが国に帰って来て夫アッシュの状況は変わって行くことに。
そんな時ミュリアンナはルカが好きだと再認識するが過去に取り返しのつかない失態をしている事を思い出して。
なのにやたらに兄の友人であるルカ・マクファーレン公爵令息が自分に構って来て。
どうして?
個人の勝手な創作の世界です。誤字脱字あると思います、お見苦しい点もありますがどうぞご理解お願いします。必ず最終話まで書きますので最期までよろしくお願いします。
大事な婚約者が傷付けられたので全力で報復する事にした。
オーガスト
恋愛
イーデルハイト王国王太子・ルカリオは王家の唯一の王位継承者。1,000年の歴史を誇る大陸最古の王家の存亡は彼とその婚約者の肩に掛かっている。そんなルカリオの婚約者の名はルーシェ。王国3大貴族に名を連ねる侯爵家の長女であり、才色兼備で知られていた。
ルカリオはそんな彼女と共に王家の未来を明るい物とするべく奮闘していたのだがある日ルーシェは婚約の解消を願い出て辺境の別荘に引きこもってしまう。
突然の申し出に困惑する彼だが侯爵から原因となった雑誌を見せられ激怒
全力で報復する事にした。
ノーリアリティ&ノークオリティご注意
振られたから諦めるつもりだったのに…
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。
自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。
その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。
一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…
婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
“ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う
棚から現ナマ
恋愛
いままで虐げられてきたから “ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う? 侯爵令嬢のアイリス=ハーナンは、成人を祝うパーティー会場の中央で、私から全てを奪ってきた両親と妹を相手に “ざまぁ” を行っていた。私の幼馴染である王子様に協力してもらってね! アーネスト王子、私の恋人のフリをよろしくね! 恋人のフリよ、フリ。フリって言っているでしょう! ちょっと近すぎるわよ。肩を抱かないでいいし、腰を抱き寄せないでいいから。抱きしめないでいいってば。だからフリって言っているじゃない。何で皆の前でプロポーズなんかするのよっ!! 頑張って “ざまぁ” しようとしているのに、何故か違う方向に話が行ってしまう、ハッピーエンドなお話。
他サイトにも投稿しています。
姉の代わりになど嫁ぎません!私は殿方との縁がなく地味で可哀相な女ではないのだから─。
coco
恋愛
殿方との縁がなく地味で可哀相な女。
お姉様は私の事をそう言うけど…あの、何か勘違いしてません?
私は、あなたの代わりになど嫁ぎませんので─。
誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。
しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。
幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。
その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。
実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。
やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。
妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。
絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。
なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。
妹の方がかわいいからと婚約破棄されましたが、あとで後悔しても知りませんよ?
志鷹 志紀
恋愛
「すまない、キミのことを愛することができなくなった」
第二王子は私を謁見の間に連れてきて、そう告げた。
「つまり、婚約破棄ということですね。一応、理由を聞いてもよろしいですか?」
「キミの妹こそが、僕の運命の相手だったんだよ」
「そうですわ、お姉様」
王子は私の妹を抱き、嫌な笑みを浮かべている。
「ええ、私は構いませんけれど……あとで後悔しても知りませんよ?」
私だけが知っている妹の秘密。
それを知らずに、妹に恋をするなんて……愚かな人ですね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる