元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)

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相変わらずの盛況ぶりを見せる騎士団鍛錬場の外壁では美女たちが犇めく。
ちょっとした諍いは毎度のことで、時々見かねた騎士たちが代わる代わる窘めにやってくる。
一瞬だけしおらしい態度になる野次馬達だったが、目当ての白騎士ではないとぶーたれた。

「はぁ……ルディが直接苦言を伝えに行くもんかよ、餌にしかなんねぇじゃん」
「飢えたなんとかにってヤツか?」
「そうそれ」

晩秋へと季節は動き、猛暑に疲弊することはなくなったが通う婦人たちが急増してしまったのは宜しくない。
その群れの中に先日遭遇したメルゥの姿があった、ルチャーナは気が付いていたが見て見ぬふりを貫く。

「関わったらロクなことにならん」
「ん?ルー、なんか言ったか」

「なんでもない……藁人形と遊んでくる」
「お、おい、打ち合いしてくれるんじゃないのかよ?」

そんな気分ではないとビルを除けて、ルチャーナは鍛錬場の奥へ消えてしまった。
目当ての白騎士が遠くなったと肩を落とした野次馬たちは少しづつ散っていく。やっと静かになったと騎士達は鍛錬に勤しむのだった。

「あぁ、白騎士と呼ばれてますのね、ルディ様♡その優しい眼差しはあの日と同じだわ」
胸の前に手を交差させてウットリした表情を見せるメルゥ、それに気が付いたどこかの婦人が目ざとく彼女に詰問してきた。

「そこの貴女、ずいぶん白騎士様に詳しいようね。どういうこと?」
「え?……あら、私はあの方と運命の出会いをしただけです。うふ、素敵な微笑みでしたわ」

「んまぁ!?」「なんと図々しい言い草!」「どうやって取り入ったのよ!」
口撃を仕掛けてきたご婦人方は狩る者の目でメルゥを囲った。嫉妬に狂った女ほど恐ろしいものはない。
もみくちゃにされたメルゥは石畳に倒され、踏み潰され蹴られた。尖ったヒールが幾度も彼女の身体に食い込んだ。

尋常ではない騒ぎに流石に騎士団が動いた、もちろんその中にはルディも含まれる。

「ええい!止さないか見苦しい、言い合いならば目を瞑るが暴力は看過できんぞ!」
鍛錬場にいた一番の上官である少尉が声高に割って入った、リンチに参加していた幾人かは逃亡したが渦中にいた女子が数名捕縛された。

騒ぎの種であるルディことルチャーナは上官に腰を折って詫びを入れた、謝罪は受け取られたが彼女に咎は及ばなかった。あくまで騒いだのは無作法な女子たちなのだからとその場は納められた。


その後、負傷したメルゥは騎士団内の医務室へ保護された。見ぬふりも出来ないとルチャーナは見舞いに出向いた。
その行為がメルゥを増長させることになった。

白騎士に縋りついた彼女はとんでもないことを言い出した。
「わたしとても怖かったのですわ!あぁ、我が君ルディ様……傷物になった私を娶ってくださいな、きっと良き妻になりますわ、これでもわたしは家事が得意なんですの!なんせ名家アゴストに仕えていたんですもの」
「……」

「なぁルディ、なに言ってんだコイツ?打ちどころが悪かったのか」

同行していたビルが汚らわしい物を見るように包帯だらけのメルゥを睨みつける。
調子に乗らせたら駄目だと叫ぶとビルはルチャーナの腕を引いて病室を乱暴に出て行った。



「言わせたまんまで何をしてんだ?お人好しにもほどがあるぞ」
「……そうだな、……ふふ、くくくくっ……ハハハハハッヒッ!い、息ができないブフーッ!」


腹を抱えて笑い出したルチャーナに目を白黒させるビルは気が触れたのかと心配する。

「ハハッ、すまない。あまりに滑稽で醜く愉快な寸劇を見せられたものだからさ。アハハハハッこれほど面白い笑劇はないと思うぞ」
「お、おい!?だいじょうぶか?」


終いには床に転げまわり笑いが止まらないルディに「精神科はどこだ!」と大騒ぎしたビルである。


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