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珍事件から1週間後、騎士団の会議室で騒動に関わりある者たちが召集された。
場を仕切るのは第二王子オルランドである、そしてその横で仏頂面をした平騎士ビルがいつもの騎士服ではなく鮮やかな赤紫のマントを羽織っていた。縁装飾の白い毛皮が身分の高さを印象付ける、極めつけは王族の紋章が大きく輝く白地のサーコートで金糸の縁取りが目に痛い。
重厚な長テーブルに着くのは将軍をはじめ騎士総団長と中尉、少尉の顔が並ぶ。末席にはルディが座った。
それを護るように並ぶのは当日に鍛錬場にいた騎士達である、みんな無法者を睨みつけている。
拘束具を着けられたラミロ親子は悔しそうに歯噛みして白騎士ルディを睨んだが王族達の怒気に当たられて短く悲鳴をあげた。
第二王子は面白い余興でも始めるように笑うとこう言った。
「さて本来ならば平民を裁くのは街の下級裁判所だが、我の身分上そこに出向くのは外聞が悪いのでね。こうして騎士団の一室を借りることになった。みんな私の我儘に答えてくれて礼を言おう」
ビル以外の者が一斉に会釈して応えた、ラミロ親子は床に転がされているのでなにも出来ない。
「では早速本題だ、何故あのような強行に走ったのか申し開きしたまえ」
「嫌疑人、畏まって答えよ。王子殿下の御前で虚偽を申した場合は即刻、胴体から首が離れると思え」
将軍が殿下の質疑を補佐するように威嚇の言葉を放つ。
するとラミロは青白く震えあがり今にも失禁しそうになった、辛うじて耐えたのは僅かに残った矜持を発揮したお陰だ。
「わ、私はただ……内縁の妻を誑かした者に報復に来ただけでございます。愛するメルゥは足げく騎士団の鍛錬場へ通っていました、それはそこにいる白騎士に恋慕したせいなのです!妻は我らの世話を放棄し金も入れなくなり家出までしたのです。私達には幼い子がいるのに!こんな理不尽な不幸があるでしょうか!私達の家庭を壊したそこの騎士に是非とも罰を!」
良く口が回るものだと全員が変な感心をした、ニタニタと聞き入っていたオルランドだったが徐々に険しい表情に変わっていく、将軍以下もしかりである。
「ふむ、なるほど……妻に裏切られた哀れな夫か素晴らしい名演技だったぞ」
「な!私は演技など!」
立ち上がって抗議しようとしたラミロだったが拘束具がそれを許さなかった、薄灰のそれが手足をきつく締め付け芋虫のようにグニグニ這うことしかできない。
「醜いな、貴様にとって妻とは都合の良い奴隷なのか?世話だの金だのと……自身は働いていないようだな、報告書によれば母親も同様なのだろう?幼子を抱えて外で稼ぐ従順な妻、家に帰ればゴミのような夫と義母の世話か?なんと哀れなのだ生き地獄ではないか」
殿下の言葉に同調した騎士達は「逃げられて当然」「こんなクズ見たことがない」とラミロを非難した。
終いには役立たずの無能と言われ恥晒しにされたラミロは激高して赤黒い顔で怒りに震えたが、王族の手前黙るほかなかった。
母のほうはジメジメと泣くばかりで味方する余裕はない。
「わ、私は貴族です!冷たい父に捨てられた身、市井で働くなど出来やしない!平民如きに使われるなどなんという屈辱か!有り得ない、有り得ないんだ!」
尚も己の主張をするラミロは侮蔑の視線で射られてもなりふり構っておられなず咆えた。そんな訴えなど誰の耳にも届かない。
「愚かな……身分詐称は重罪だ、貴様の父は爵位を手放しておる。当然お前達親子も貴族ではない。それくらい幼児でも理解することだぞ?頭に詰まっているのは馬糞かなにかか?」
「んな!?そ、そんな……私は生粋の貴族です、この身が朽ちるまで私の心は貴族なのです!」
「はぁ、心は貴族?3年前貴様はなにをしたか忘れたのか、公爵家との婚姻を足蹴にして逃げた分際だ。その行為にどこに貴族の矜持がある、責務を放棄した男に貴族を名乗る資格はない恥を知れ」
「そんな、そんなぁーー!私は真実の愛を求めただけなのに!許さない世間の方がどうかしている!」
プライドの塊であるラミロは、最後の切り札である身分を失っていると看破されてズタボロになった。
はずなのだが……。
「ふ、ふひっふひひひひ……ならば返り咲けば良いだけ!再び公爵家の娘と縁を結び直せば良い!あのヒョロガリ女が嫁にいけたとは思えない!私が貰ってやると言えば喜ぶはずだぁ!元よりその為に戻って来たのだからな!」
その言葉を聞いたルチャーナは身震いしてえずいたがなんとか耐えた。
「……貴様は噂以上に下品で陳腐な男だな、問答する時間がもったいなくなったよ」
流石の殿下も話にならないと匙を投げた、それから斜め前にいた男に一瞥した。なにかの指示か。
すると正面から左側の席に控えていた大柄な男が突然立ちあがり、そのまま床を大きく揺らして芋虫の所へやって来た。
そして芋虫ラミロの瘦躯が宙を舞った、幾度も幾度も拳で叩くものだからずっと空中に浮いているかのようだった。
あまりの衝撃に拘束具さえ裂けて飛び散った。
容赦のない最後の一撃で、吹き飛んだ彼の身体はぐしゃりと床に落ちた。右腕と右足が逆方向へ曲がっていた。
場を仕切るのは第二王子オルランドである、そしてその横で仏頂面をした平騎士ビルがいつもの騎士服ではなく鮮やかな赤紫のマントを羽織っていた。縁装飾の白い毛皮が身分の高さを印象付ける、極めつけは王族の紋章が大きく輝く白地のサーコートで金糸の縁取りが目に痛い。
重厚な長テーブルに着くのは将軍をはじめ騎士総団長と中尉、少尉の顔が並ぶ。末席にはルディが座った。
それを護るように並ぶのは当日に鍛錬場にいた騎士達である、みんな無法者を睨みつけている。
拘束具を着けられたラミロ親子は悔しそうに歯噛みして白騎士ルディを睨んだが王族達の怒気に当たられて短く悲鳴をあげた。
第二王子は面白い余興でも始めるように笑うとこう言った。
「さて本来ならば平民を裁くのは街の下級裁判所だが、我の身分上そこに出向くのは外聞が悪いのでね。こうして騎士団の一室を借りることになった。みんな私の我儘に答えてくれて礼を言おう」
ビル以外の者が一斉に会釈して応えた、ラミロ親子は床に転がされているのでなにも出来ない。
「では早速本題だ、何故あのような強行に走ったのか申し開きしたまえ」
「嫌疑人、畏まって答えよ。王子殿下の御前で虚偽を申した場合は即刻、胴体から首が離れると思え」
将軍が殿下の質疑を補佐するように威嚇の言葉を放つ。
するとラミロは青白く震えあがり今にも失禁しそうになった、辛うじて耐えたのは僅かに残った矜持を発揮したお陰だ。
「わ、私はただ……内縁の妻を誑かした者に報復に来ただけでございます。愛するメルゥは足げく騎士団の鍛錬場へ通っていました、それはそこにいる白騎士に恋慕したせいなのです!妻は我らの世話を放棄し金も入れなくなり家出までしたのです。私達には幼い子がいるのに!こんな理不尽な不幸があるでしょうか!私達の家庭を壊したそこの騎士に是非とも罰を!」
良く口が回るものだと全員が変な感心をした、ニタニタと聞き入っていたオルランドだったが徐々に険しい表情に変わっていく、将軍以下もしかりである。
「ふむ、なるほど……妻に裏切られた哀れな夫か素晴らしい名演技だったぞ」
「な!私は演技など!」
立ち上がって抗議しようとしたラミロだったが拘束具がそれを許さなかった、薄灰のそれが手足をきつく締め付け芋虫のようにグニグニ這うことしかできない。
「醜いな、貴様にとって妻とは都合の良い奴隷なのか?世話だの金だのと……自身は働いていないようだな、報告書によれば母親も同様なのだろう?幼子を抱えて外で稼ぐ従順な妻、家に帰ればゴミのような夫と義母の世話か?なんと哀れなのだ生き地獄ではないか」
殿下の言葉に同調した騎士達は「逃げられて当然」「こんなクズ見たことがない」とラミロを非難した。
終いには役立たずの無能と言われ恥晒しにされたラミロは激高して赤黒い顔で怒りに震えたが、王族の手前黙るほかなかった。
母のほうはジメジメと泣くばかりで味方する余裕はない。
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尚も己の主張をするラミロは侮蔑の視線で射られてもなりふり構っておられなず咆えた。そんな訴えなど誰の耳にも届かない。
「愚かな……身分詐称は重罪だ、貴様の父は爵位を手放しておる。当然お前達親子も貴族ではない。それくらい幼児でも理解することだぞ?頭に詰まっているのは馬糞かなにかか?」
「んな!?そ、そんな……私は生粋の貴族です、この身が朽ちるまで私の心は貴族なのです!」
「はぁ、心は貴族?3年前貴様はなにをしたか忘れたのか、公爵家との婚姻を足蹴にして逃げた分際だ。その行為にどこに貴族の矜持がある、責務を放棄した男に貴族を名乗る資格はない恥を知れ」
「そんな、そんなぁーー!私は真実の愛を求めただけなのに!許さない世間の方がどうかしている!」
プライドの塊であるラミロは、最後の切り札である身分を失っていると看破されてズタボロになった。
はずなのだが……。
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流石の殿下も話にならないと匙を投げた、それから斜め前にいた男に一瞥した。なにかの指示か。
すると正面から左側の席に控えていた大柄な男が突然立ちあがり、そのまま床を大きく揺らして芋虫の所へやって来た。
そして芋虫ラミロの瘦躯が宙を舞った、幾度も幾度も拳で叩くものだからずっと空中に浮いているかのようだった。
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