元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)

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平民用の牢獄に収監されたラミロ親子はそれぞれ離れた房へ入った。重症を負ったラミロは独房へ母親は雑居房で罪を償うことになった。ラミロは本来医務室で治療を受けるはずだったが、悪質な者と判断した第二王子の命により冷遇となった。

「あのようなゴミの為に税金を使いたくないからな、週一回治療を受けられるだけ温情だと思って欲しいよ」

冷徹な判断をしたオルランドは執務の休憩中にそう漏らしつつ熱い茶を啜った。
ひと時の茶の時間に同席したのは総団長にしてルチャーナの父アダルジーザである、娘を愚弄したラミロに報復する機会を貰ったことに感謝を述べに来たところだ。


「一応は片付いたと安心したかね?」
「そうですなぁ……アレが大人しく刑期を務めれば良いのですが」

追い詰められたバカは何をしでかすかわからない事を知る彼は危惧していた。伊達に騎士団を纏めていない。
失うものがなくなった愚者は侮れないのだと彼は言う。

「娘のことになると心配性な父なのだな、さすがの魔王も実は人の子だったか」
「揶揄って下さいますな、6年前の隣国との小競り合いの際に暴れ過ぎたせいでそう呼ばれますが……いまとなっては黒歴史です」


彼は少し遠い目をしてから茶を啜った、少々熱すぎたのか咽ってしまう。
そこへ扉を叩く音が響いた、王子が入室を許可すると淡い金髪を揺らめかせる女性が入ってきて礼を取る。

「おお、ルチャーナ嬢その姿を拝見するのは久しぶりだね。やはり君のはドレスが似合うと思うよ」
「……恐れ入ります、お世辞でも嬉しいですわ」

若干引き気味の笑顔を王子に見せるルチャーナは持参した銀のトレーを静かにテーブルへ置いた。自ら焼いたビスコッティとボンボリーニだと言って先ずは毒見にと父親にすすめた。


すると破顔したアダルジーザが飲み込むような勢いで二つとも頬張った、どちらも美味いと絶賛したので王子も負けじと取り皿を大盛にして食べだした。

「ふふ、おかわりがございますわ。ゆっくり味わってください」
「ありがとう、ちなみにだけど兄上には差し入れしないのかい?」

そう言われたルチャーナは目を見開いて驚いたが、すぐに冷静な顔に戻り「サヴィノ殿下には会っていません」と答えた。下級騎士ビルが王子と知っても二人の関係に変化はないようだ。


「そうか、なにかと君に絡んでいたようだから……ふーん、進展がないな残念だよ」
オルランド王子は肉喰い狼に見せかけた羊だと彼を揶揄して寂しそうに笑った。


「知らなかったこととはいえ、私はだいぶ失礼な物言いをしておりました。それに私は男性として騎士職に就いていましたもの、今さら女として見るはずが」

彼女が己を卑下して笑った時だ、音もなく入室してきた噂の人物が会話に割って入る。
「俺はルーが女の子だと気が付いていたよ」
「……王子殿下、失礼いたしました」


ルチャーナはスイッと立ち上がって礼をとった、王族とその臣下であると弁えた態度を見せつけられたビルは複雑な顔をする。


「もう、ビルと呼んで小突いてくれないのかな?」
「……鍛錬場にてお望みでしたらいつでも、手加減は致しかねますが」

彼女はそう言い返してニィっと歯を見せた、淑女としてはかなりはしたない表情だった。
するとサヴィノは嬉しそうに笑い返して「上等だ!」と言った。


「なんだ、私が心配することでもなかったね。ねぇ?アダルジーザよ」
急に話をふられたアダルジーザは些か挙動不審になり歯切れの悪い返事をしてやり過ごした。害虫駆除をしたばかりの父親としては複雑な思いなのだろう。


***

二人で話したいと言ったサヴィノはルチャーナを王族用の庭園へ連れ出した。
だが甘い雰囲気とはいかない様子。


「ビルと呼んでも?」
「あぁ、もちろんだ」


それに甘えることにしたルチャーナは金髪のカツラを脱ぎ、男の声に戻って詰問する。
「ビル、お前はなぜ身分を隠して平騎士に紛れていた?下手をすれば不敬で騎士団が壊滅する」

真っ直ぐなその眼差しはとても冷えていて、ビルの後ろめたい心に突き刺さった。
耐えがたくなった彼は視線を外して謝罪する。

「それは……すまなかった。待遇と態度とかで問題にするつもりはないそれは安心してくれ本当だ!身分を隠したのは俺の生い立ちにあるんだ聞いてくれるか?」

いつになく真剣なビルの態度にルチャーナは頷いて応えた。


「俺は第一王子だが側室の息子だ、弟は正妃の子だ。これが厄介事のはじまりなんだ、王の後継は誕生した順か、はたまた妻の身分差かで大きく分かれ派閥ができた。よくある事さ、ここまではキミの耳にも入っているだろう?」

「あぁ、そうだな王弟が第一王子派を作り、正妃の実父であるダガン公爵筆頭の第二王子派。それぞれ甲乙つけがたい権力を持っている。私も拮抗していると認識していた。」

ビルは軽く頷き肯定した、だがそれを崩す事件が幼少期にあったと告白した。




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