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二人は四阿に腰を下ろすと、護衛達に少し距離を取らせてから改めて話しをする。空にはアキアカネの大群が舞い飛び秋が深まった事を報せていた。
「俺は幼少期に喘息に悩まされていた、ある日酷く咳き込んで熱が出て寝込んだんだ。息苦しさと熱により痛みで俺は食事もままならない、なので特別食を作ったと侍女が……それに毒が盛られていた。だけど侍女は騙されていただけだった、滋養に良い薬草だと吹き込まれ薬湯を作ったんだ。嘘を教えたのは正妃の実母らしい、証拠がないことで不問になったがね。俺は辛うじて早い処置を受けて事なきを得た」
それをきっかけに王城を離れて、王家の別荘で治療に専念することになったとビルは言った。
「そうだったのか……しかし無事で良かった。喘息は改善したのだろう?」
「あぁ、静養したお陰で14歳の頃には完治した、だが虚弱さは変わらない。俺はそのまま静養地に籠り体力をつけることにした、そして16歳の時に身分を隠して騎士団へ入団したんだ。」
ビルはそのまま一兵卒として生涯を送るつもりだったと告白した。
しかし、彼の容姿は側室にそっくりで上層部にはすぐにばれたという。やがて王族の耳にも届きしばし揉めたという。
その後、何度か暴漢に襲われることがあったが返り討ちにしたとビルは踏ん反った。
その様子が道化じみていて、ルチャーナは思わず吹き出す。
「なるほど返り討ちにか……ビルは私に手加減していたのか?」
「待て、騎士団内で弱い振りをする意味がない、ルーは普通に強すぎるんだ!」
そうだろうかと腑に落ちないルチャーナであるが、ビルが”騎士の名誉に誓う”と言ったので引くことにした。
「正妃は出来た方で派閥の暗躍を許さなかった、卑劣なマネを繰り返すなら絶縁とまで実家に恫喝したようだ。さすがの公爵も大人しくならざるをえなくなった。父王も事の大きさを考慮して爵位を落とし伯爵位にさせた。一気に力を失った正妃の両親は蟄居したよ」
「そうだったのか、水面下ではそのような……ふむ、ダガン卿は領地運営で大損害を出し王の逆鱗に触れて失脚したと噂で聞いたがフェイクだったのだな」
「そういうことだ、何もしていない弟が哀れでならない。だから王太子の座は彼にと思っている。俺はこの通りフラフラしたヤツだからな玉座など堅そうで嫌だよ痔になっちまう」
「ぶふっ!お前なんてこと……ふははははっ」
それからビルは騎士団内での振る舞いや、給金が出る度に街へ繰り出すことを理由にあげた。
しかし、ルチャーナはそれこそがフェイクだろうと苦笑したが言葉は飲み込んだ。高位貴族は慈善家が多い、彼女もまた福祉施設慰問などを行っている、時々ビルの相貌に似た人物が教会や孤児院へ物品などを寄付していると耳にした。
おそらく給金のほとんどはそれに消えている。
「真実に蓋をするのは難しいものさ」
彼女は暗にビルの善行を指して言ったが当人には別の意味に届いたようだ。
「そうか、そうだな。悪事は露見するものだよな」
「……うん?」
その後、日常へ戻った彼らはいつも通り切磋琢磨するのだ。
しかし、ルチャーナが違う顔を見せるようになったと騎士団内で囁かれた。
男装の麗人ルディ・テスタードから、不思議な色気が漂うようになったと察知したのは見物にやってくるご婦人方だった。
「なんと、麗しさに磨きがかかりましたわね!」
「ええ!そうですわ、纏う空気が煌めいていますのよ!」
「あぁ、美しい……益々と遠いお方になってしまわれた、そう思いますわ」
「だけどそこが良いのですわ~、皆のルディ様ですもの」
連日のように響いていた絹を裂くような黄色い声がおさまり、うっとりと静かに拝顔するようになった外壁が違う意味で怖いと騎士たちは思うのだった。
「静かになったなら良かったじゃないか?」
「いや、そうなんだが……なんていうかな、ねっとり纏わりつくような視線がな」
「どっちにしろ見学制限はまったなしだな」
騎士達とご婦人方の温度差は相変わらずである。
「なぁルー、今日こそは街へでようぜ」
「そうだな、教会か孤児院へなら喜んで付いて行こう」
「な!?」
季節はやがて晩秋になり、肌を撫でる風が冷たくなった。
王都から離れた場所に佇む堅牢な施設から、ふたつの陰がよろよろと歩き出した。
ガタガタの粗末な車椅子を押す老女と、それに乗る不機嫌そうな男が王都の中心街へと動き出した。
「俺は幼少期に喘息に悩まされていた、ある日酷く咳き込んで熱が出て寝込んだんだ。息苦しさと熱により痛みで俺は食事もままならない、なので特別食を作ったと侍女が……それに毒が盛られていた。だけど侍女は騙されていただけだった、滋養に良い薬草だと吹き込まれ薬湯を作ったんだ。嘘を教えたのは正妃の実母らしい、証拠がないことで不問になったがね。俺は辛うじて早い処置を受けて事なきを得た」
それをきっかけに王城を離れて、王家の別荘で治療に専念することになったとビルは言った。
「そうだったのか……しかし無事で良かった。喘息は改善したのだろう?」
「あぁ、静養したお陰で14歳の頃には完治した、だが虚弱さは変わらない。俺はそのまま静養地に籠り体力をつけることにした、そして16歳の時に身分を隠して騎士団へ入団したんだ。」
ビルはそのまま一兵卒として生涯を送るつもりだったと告白した。
しかし、彼の容姿は側室にそっくりで上層部にはすぐにばれたという。やがて王族の耳にも届きしばし揉めたという。
その後、何度か暴漢に襲われることがあったが返り討ちにしたとビルは踏ん反った。
その様子が道化じみていて、ルチャーナは思わず吹き出す。
「なるほど返り討ちにか……ビルは私に手加減していたのか?」
「待て、騎士団内で弱い振りをする意味がない、ルーは普通に強すぎるんだ!」
そうだろうかと腑に落ちないルチャーナであるが、ビルが”騎士の名誉に誓う”と言ったので引くことにした。
「正妃は出来た方で派閥の暗躍を許さなかった、卑劣なマネを繰り返すなら絶縁とまで実家に恫喝したようだ。さすがの公爵も大人しくならざるをえなくなった。父王も事の大きさを考慮して爵位を落とし伯爵位にさせた。一気に力を失った正妃の両親は蟄居したよ」
「そうだったのか、水面下ではそのような……ふむ、ダガン卿は領地運営で大損害を出し王の逆鱗に触れて失脚したと噂で聞いたがフェイクだったのだな」
「そういうことだ、何もしていない弟が哀れでならない。だから王太子の座は彼にと思っている。俺はこの通りフラフラしたヤツだからな玉座など堅そうで嫌だよ痔になっちまう」
「ぶふっ!お前なんてこと……ふははははっ」
それからビルは騎士団内での振る舞いや、給金が出る度に街へ繰り出すことを理由にあげた。
しかし、ルチャーナはそれこそがフェイクだろうと苦笑したが言葉は飲み込んだ。高位貴族は慈善家が多い、彼女もまた福祉施設慰問などを行っている、時々ビルの相貌に似た人物が教会や孤児院へ物品などを寄付していると耳にした。
おそらく給金のほとんどはそれに消えている。
「真実に蓋をするのは難しいものさ」
彼女は暗にビルの善行を指して言ったが当人には別の意味に届いたようだ。
「そうか、そうだな。悪事は露見するものだよな」
「……うん?」
その後、日常へ戻った彼らはいつも通り切磋琢磨するのだ。
しかし、ルチャーナが違う顔を見せるようになったと騎士団内で囁かれた。
男装の麗人ルディ・テスタードから、不思議な色気が漂うようになったと察知したのは見物にやってくるご婦人方だった。
「なんと、麗しさに磨きがかかりましたわね!」
「ええ!そうですわ、纏う空気が煌めいていますのよ!」
「あぁ、美しい……益々と遠いお方になってしまわれた、そう思いますわ」
「だけどそこが良いのですわ~、皆のルディ様ですもの」
連日のように響いていた絹を裂くような黄色い声がおさまり、うっとりと静かに拝顔するようになった外壁が違う意味で怖いと騎士たちは思うのだった。
「静かになったなら良かったじゃないか?」
「いや、そうなんだが……なんていうかな、ねっとり纏わりつくような視線がな」
「どっちにしろ見学制限はまったなしだな」
騎士達とご婦人方の温度差は相変わらずである。
「なぁルー、今日こそは街へでようぜ」
「そうだな、教会か孤児院へなら喜んで付いて行こう」
「な!?」
季節はやがて晩秋になり、肌を撫でる風が冷たくなった。
王都から離れた場所に佇む堅牢な施設から、ふたつの陰がよろよろと歩き出した。
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