(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)

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公開処刑は華やかに(ざまぁ)

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分を弁えずに抗い続ける彼らに、元貴族らしく散っていただくことにしましたの。
断罪の場はなんと王妃様がご用意してくださった。

「ふふ、面白いことに参加せずにおれないじゃない!」
ウキウキと準備をなさる姿は悪戯を楽しむ少女のようだわ。
仕方ないわねぇ、元ガバイカ家は王家から嫌われているから容赦しないでしょうね。

王弟様のことがなくても、領地を食い散らかしていた一族はどちらにせよ嫌悪の対象だったの。
曲がったことが何より嫌いな国王陛下は、もとから潰す予定だったと漏らしたそう。
我がスペンサー家が横取りして申し訳ないかも。

畏れ多くも王城の一角で開かれた断罪の場は”仮面舞踏会”ですわ。
誰も彼も気兼ねなく断罪劇を鑑賞できるようにと王妃様の計らいよ。
素敵な罵詈雑言が聞けることでしょう。


「このような大ホールが城の地下にあるとは知りませんでしたわ」
何の為に造られたかは怖いので聞かないわ。心の平穏のためにね!

王子が設置したであろう電飾で輝くホールは、眩しく輝きギラギラと目を攻撃してくるわ。
少しやり過ぎなのでは……。

「スゴイだろう?前世のディスコクラブを再現してみたんだよ。恥ずかしながら私も通ったものだよ」
「は、はぁ……私は田舎出身なのでクラブなど知りませんわ」

ディスコ……つまり王子はバブリーな時代を生きてきた方なのね。
私とは生きた時系列が違うみたい。巨大な電話を持って歩いたのかしら?

貴族のみなさんは派手好きが多いようで、すぐに馴染んでおられた。
私の目には不思議な空間にしか見えない、舞台は近代なのに音楽はクラッシック、紳士淑女の纏う衣服は中世なのだもの。

酷くちぐはぐで、なんともはや……。

私が呆れていると流れていた曲調が変わり、無礼講の宴が始まった。
とうぜん主催の言葉などない、身分を明かさないための仮面だものね。

楽団が奏でる曲が流行りのものに変化して、どこからか呼ばれた歌姫が美声を披露する。
恐ろしく美しい歌声に私は鳥肌が立ち感動したわ。

「なんて綺麗な歌声でしょう、あら?これは音痴の吟遊詩人の流行り歌では?」
私の驚きの声を拾った王妃様が説明してくださる。

「そうよ、私が呼び寄せた歌姫なの。市井で燻ぶるには惜しいと思ってね。王家専属に抜擢したのよ」
「まぁ、そうでしたの!」

ん、待って!?市井ってことは……王妃様。
私の浮かんだ疑問を王妃様は華麗に躱す、なんてこと侍従の皆様を気の毒に思うわ。
きっと扇の裏で蠱惑に微笑まれてるのでしょうね。

んん、さて。そろそろメインキャストが出てくるはずよね楽しみましょう。
私は狐の仮面を付けた王子を見上げた、視線を感じた王子の口が弧を描く。


***

ホールの出入り口付近で騒めきが起こる。

粗末な形をした男女が断罪の場に放り込まれた所のようね。
さぁ、踊りなさい。ここは貴方達の為に用意された大舞台よ!


顔色の悪いおどおどしたイーライと、何かを勘違いしてか高揚した様子のポリーがホールを見回す。
明らかに場違いだと認識しているのは二人以外でしょう。

薄汚れた体のまま安っぽい衣服を着せられている、もちろん二人には仮面など与えていない。
矜持を砕かれて羞恥を思う存分その身に刻み付けて頂戴。


餌を撒かれた仮面の貴族達はサワサワと獲物に向かって嫌味を口にする。
それはとめどなく流れ、供物にされたイーライとポリーの心が抉られていく。

「薄汚いゴミが紛れているわ」「面の顔が厚いのだろう恥を知れ」「嫌だ、なんだか臭いわ」
「見てあのドレス、雑巾のようだわ通りで臭いのね」「どうやら獣が迷いこんだらしい」等など。


さすが口さがない貴族は見事な口撃をすると感心したわ。
腹黒な彼らが今では頼もしい味方だと言える。
立場が逆転したらと想像したら恐ろしくて背筋が凍る思いだ。

晒しあげられた二人はブルブルと震えて、行き場のない怒りを抑え込んでいる。
ごめん、良い気味。

やがて二人は壁際に逃げようとしたが、周囲はそれを許すわけがない。
「どうしたお前達、下民には生涯味わえない素晴らしい宴だぞ。存分に楽しめ」
「そうだ、盗人には破格の招待だ。感謝することだ」

「な!なんだと!?ボクを侮辱するか!名を名乗れ!成敗してくれる」

仮面舞踏会で名を名乗れ、最低なマナー違反に取り囲んだ貴族達が失笑する。
興が覚める言い分に益々罵詈雑言が降り注いだ。

だが、気が強いポリーは黙っていない、キィキィ声で反論する。
「私は伯爵夫人になる者よ!無礼にもほどがあるわ、謝りなさいよ!だいたい自分の領地から野菜を捥いで罪になるわけがないわ!貴族ってバカしかいないのかしら!」

するとご婦人の一人がポリーを目掛けてパイを投げつけた。

グシャリと潰れる音がして、顔面をクリームで強打されたポリーは悲鳴をあげた。
口と鼻にクリームが入り込み、「ぶべぶべ」と汚い音を立てて笑い者にされていた。

「ぐああ!なんなの!?王妃様から招待を受けた客なのよ巫山戯ないでよ!私を誰だと思っているの!」
「さて、誰かしら?」

喚くポリーの目前に気高い声が響いた。
王妃様だ、なんてこと!あんなに間近に対峙されるなんて!

警備はついていたが、私と王子は心配になり騒ぎの渦中へと動くことにしたわ。
平民のポリーは貴族社会を知らない、遥か高見におわす王妃様の声を知るわけがない。
無体を働かないうちに止めねば。

案の定、癇癪を起したポリーは王妃様へ飛び掛かろうとしていた。
「王妃様!」声ばかりが逸り私を苛立たせた。

急ぎたくても重いドレスが身体の邪魔をする。高すぎるヒールが足の速度を落としてしまう。
山猫を模した仮面が視界を狭めて思うように動けない。
あぁ、ダメ遠すぎる!

その刹那、打撃音と耳を劈く悲鳴が中央で炸裂した。
思わず目を覆ってしまった、王妃様に何が起こったか怖い!

「アリス、落ち着いて。大丈夫のようだ」
王子の落ち着いた声に、そろそろと覆った手を除ける。

眼前にあったのは、堂々と立つオオカミの仮面を被った王妃様と無様に床に転がる何かだった。
護衛がなにかしたわけではなさそうだ、彼らの手は剣の柄に触れたまま動いていないもの。

ではどうして?
ポリーと思われる汚い何かは顔面から血を流して気絶していた。

「わたくしに勝とうなど百万年早くてよ小娘。ホホホホッ!」
扇でブンブンと空を斬る王妃様に唖然としたわ、彼女が振り回すそれは鉄扇だったのよ。

「ひぃ、通りで重そうな音がしたわけね」

王族たるもの、不測の事態を考慮して身を守る程度の武術は嗜んでいるらしい。
怒らせたらあかん人だった。
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