拗れた恋の行方

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
7 / 15

しおりを挟む
愚行を繰り返してきたグランがやっと復学したのは夏休み直前のことだった。
親睦パーティの1週間まえのことだ。


血走った目でナリレットがいる教室へ向かったが当然面会はできなかった。
なんの為に男女分けにしているのか理解していないグラン。


「くそ!規則規則……学園とはなんて融通の利かない場所なんだ!」
グランは苛立ち紛れに目の前にあった屑箱を蹴った。

しかし、運悪く誰かが捨てた古いインク壺が跳ねてグランに攻撃してきた。
腐敗した黒インクを顔と肩に浴びてしまう。


「臭っ!最悪だチクショー!」
大慌てで手巾で拭うも後の祭りで、顔面はともかく制服は染みで台無しになった。
ケガが治った矢先、不敬で罰を受けた彼、先日に謹慎が解けてやっと袖を通した新しい服は一瞬でゴミになったのだ。


汚れた上着を投げ捨て家へ帰ろうとしたグランに声を掛ける者がいた。

「あらあら、御気の毒に……これをお使いなさいませ」
「だ、誰だ!?」

見覚えのない女生徒が艶やかな黒髪を払いながら微笑みかけてきた。背後には取り巻きが数人侍っていた。
なかなかの美少女だったが、グランは”ナーナの方が100倍可愛い”と思った。


「気が利くな、俺様はグラン。名前を聞いても良いか?礼をしたい」
「……私はブリトニー。エント伯爵家の娘ですわ」

身分差を弁えず罰を受けたばかりのグランは流石にたじろいだ。
またも身分上のものに横柄な物言いを働いたと顔色を悪くして、下を向いてしまう。

子爵家で暴れたその後、貴族牢に20日間入れられ反省文を毎日100枚書かされた、解放されたと思えば家に着くなり父親にボコボコにされ地下牢に1週間放置された。愚かなグランも二度と御免だと思った。


「身分を気にしているのならご心配なく、責めるつもりはありません」
「そ、そうか有難い」

グランは冷や汗とインクを拭い、借りたばかりの手巾をポケットに捩じ込んで代わりのハンカチを贈ると約束した。

「ふふ、乱暴者と聞いてましたが存外優しいですのね」
「え、いやその。理由も無く怒ったり暴れないよ、優しいのはブリトニー嬢のほうだし」

「まぁそうですの、聞いた話とだいぶ違いますのね」
「え?聞いた話とは」


ブリトニーは扇で面を隠すと噂で聞いた話に色を付けて話した。
『身分差を弁えない男は侯爵家へ散々不敬を働き、嫉妬で我を忘れ松葉杖でナリレットに大怪我を負わせて逃走した。』

それを聞いたグランは反論した。
「違う!なんだそれは!確かにナリレットの裏切りに怒ったけれどケガなんてさせてないぞ!逃げても無い」
「裏切り?それは婚約の話かしら?」

「え?こ、婚約!?」

「あら、ご存じないの。ナリレット嬢とアリスター様は婚約しましたのよ。学園内でも人目を憚らずイチャイチャと破廉恥なことをなさいますのよ」


婚約の話を初めて耳にしたグランは絶望で目の前が真っ暗になった。
「そ、そんな!俺のナーナがどうして!?これは酷い裏切りだ!許せない!許せないぞ!」

ブリトニーは憎悪に震えるグランを面白そうに見つめると嘯く。
「身の程を弁えないのはナリレット嬢なのですわ、それを知らしめてやろうではないですか?」

悪女の囁きにビクリと肩を揺らすグラン、再び目に生気が戻った。

「なにか考えがあるのか、ブリトニー嬢」
「もちろんですわ」

黒曜石のような瞳を爛々と輝かせてブリトニーは黒く微笑んだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しい人へ~愛しているから私を捨てて下さい~

ともどーも
恋愛
 伯爵令嬢シャティアナは幼馴染みで五歳年上の侯爵子息ノーランドと兄妹のように育ち、必然的に恋仲になり、婚約目前と言われていた。  しかし、シャティアナの母親は二人の婚約を認めず、頑なに反対していた。  シャティアナの父は侯爵家との縁続きになるのを望んでいたため、母親の反対を押切り、シャティアナの誕生日パーティーでノーランドとの婚約を発表した。  みんなに祝福され、とても幸せだったその日の夜、ベッドで寝ていると母親が馬乗りになり、自分にナイフを突き刺そうとしていた。  母親がなぜノーランドとの婚約をあんなに反対したのか…。  母親の告白にシャティアナは絶望し、ノーランドとの婚約破棄の為に動き出す。  貴方を愛してる。  どうか私を捨てて下さい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 全14話です。 楽しんで頂ければ幸いです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私の落ち度で投稿途中にデータが消えてしまい、ご心配をお掛けして申し訳ありません。 運営の許可をへて再投稿致しました。 今後このような事が無いように投稿していく所存です。 ご不快な思いをされた方には、この場にて謝罪させていただければと思います。 申し訳ありませんでした。

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

紫水晶の瞳は私を捕らえる

satomi
恋愛
クレイグ侯爵家次女のパトリシア。彼女は長女とは違い、夜会などの雰囲気が苦手。 夜会の喧騒を逃れて庭に出たものの、聞こえてくるのは男女の交わりのような嬌声。 そこで出会った美しい男性。そんな男性の特に紫水晶のような瞳に吸い込まれるように体を任せてしまいました。それから彼女の人生が変わるのです。

【完結】親の理想は都合の良い令嬢~愛されることを諦めて毒親から逃げたら幸せになれました。後悔はしません。

涼石
恋愛
毒親の自覚がないオリスナ=クルード子爵とその妻マリア。 その長女アリシアは両親からの愛情に飢えていた。 親の都合に振り回され、親の決めた相手と結婚するが、これがクズな男で大失敗。 家族と離れて暮らすようになったアリシアの元に、死の間際だという父オリスナが書いた手紙が届く。 その手紙はアリシアを激怒させる。 書きたいものを心のままに書いた話です。 毒親に悩まされている人たちが、一日でも早く毒親と絶縁できますように。 本編終了しました。 本編に登場したエミリア視点で追加の話を書き終えました。 本編を補足した感じになってます。@全4話

未来予知できる王太子妃は断罪返しを開始します

もるだ
恋愛
未来で起こる出来事が分かるクラーラは、王宮で開催されるパーティーの会場で大好きな婚約者──ルーカス王太子殿下から謀反を企てたと断罪される。王太子妃を狙うマリアに嵌められたと予知したクラーラは、断罪返しを開始する!

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

それは確かに真実の愛

宝月 蓮
恋愛
レルヒェンフェルト伯爵令嬢ルーツィエには悩みがあった。それは幼馴染であるビューロウ侯爵令息ヤーコブが髪質のことを散々いじってくること。やめて欲しいと伝えても全くやめてくれないのである。いつも「冗談だから」で済まされてしまうのだ。おまけに嫌がったらこちらが悪者にされてしまう。 そんなある日、ルーツィエは君主の家系であるリヒネットシュタイン公家の第三公子クラウスと出会う。クラウスはルーツィエの髪型を素敵だと褒めてくれた。彼はヤーコブとは違い、ルーツィエの嫌がることは全くしない。そしてルーツィエとクラウスは交流をしていくうちにお互い惹かれ合っていた。 そんな中、ルーツィエとヤーコブの婚約が決まってしまう。ヤーコブなんかとは絶対に結婚したくないルーツィエはクラウスに助けを求めた。 そしてクラウスがある行動を起こすのであるが、果たしてその結果は……? 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

公爵令嬢ローズは悪役か?

瑞多美音
恋愛
「婚約を解消してくれ。貴方もわかっているだろう?」 公爵令嬢のローズは皇太子であるテオドール殿下に婚約解消を申し込まれた。 隣に令嬢をくっつけていなければそれなりの対応をしただろう。しかし、馬鹿にされて黙っているローズではない。目には目を歯には歯を。  「うちの影、優秀でしてよ?」 転ばぬ先の杖……ならぬ影。 婚約解消と貴族と平民と……どこでどう繋がっているかなんて誰にもわからないという話。 独自設定を含みます。

処理中です...