拗れた恋の行方

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
8 / 15

8 愚者

しおりを挟む
とある日の昼、ブリトニーとグランが共に行動しているのが生徒達の目に留まる。
指定制服以外のものを身に着けひけらかしていたからだ。


本来は白色のアスコットを付ける男子だが、グランは黒色を身に着けている。そして、ブリトニーのリボンも違反しており、白色ではなく濃紺だ。

これは互いの瞳の色であると主張している。
どういう意図なのか読めない生徒達はざわついた、勤勉である者ならば装いだからだ。



いつも通り仲睦まじく食堂にいたアリスターとナリレットは周囲の異変に気が付かない。
丁度デザートのプディングを食べさせ合っているところだった。


”エヘンオホン”とワザとらしい咳払いが彼らのすぐ側で聞こえた。
無粋なヤツは誰だとアリスターは不機嫌な顔で咳払いの方を向く。


そこには嫉妬に歪んだグランと意地悪そうな笑顔のブリトニーが立っていた。
アリスターは明らかに興ざめした顔になると無視してデザートの余韻に戻った。


しかし、無視された側は諦めない。

「おい!俺様たちが挨拶に来てやったのに無視とは良い度胸だ!」
相変わらずのグランは不遜な態度を崩さない。


「はぁ、キミは鳥頭なのかい?謹慎処分では甘かったようだね。”学園内は身分差なく”なんて建前なんだよ、ここは小規模の社交界なのさ、その調子で卒業したら鼻つまみ者だぞ」


「な……そ、それは」
低位貴族である男爵家次男のグランは威勢が急激に萎んでいった。
だが隣にいたブリトニーは怯まずに出しゃばる。


「お食事中失礼しました、私はブリトニー・エント伯爵家の次女ですわ」
「……だからなに?」

「んん!この度私達は仮婚約しましたのでご挨拶に参りましたの」
ブリトニーはそう言って微笑むと、ナリレットのほうへ挑戦的な眼差しを向けた。


名は知っていても面識のないナリレットはキョトリとした表情だ。
悪意を感じ取ったが理由がわからないからだ。


「是非、おふたりに仮婚約パーティへ来ていただきたいのです!だって幼馴染の門出ですもの!そうでしょうナリレット様」

以前ならばともかく、格上の侯爵嬢のナリレットを見下した態度のブリトニーにアリスターは睨みつける。
「ほんとに失礼な人達だな、彼女は私の婚約者で」
「あら、結婚してないのだもの子爵家でしょう?」

アリスターの言葉を遮ってまで主張するブリトニーに周囲はざわついた。
それに気が付いたグランが慌て出した。

「ブリトニー!止さないか!なんか様子がおかしいぞ」
「煩いわね、ヘタレは黙ってなさいよ!」

組んでいた腕を乱暴に外してブリトニーは二通の招待状をテーブルに置いた。
「いらしてくださるでしょ?ナリレット様ァ」
「……それは侯爵家としてでしょうか?」

「あらやだ!今から侯爵夫人気取りなの?なんて厭らしい人なのかしらこれだから低位の者は!アリスター様、いっそのこと婚約相手を交換した方がいいわ!そうよ!身分的にも申し分ないわ、私こそ侯爵夫人に相応しいわ!」

「そうだね、ブリトニーと言う通りだ!ナリレットは俺様の婚約者になるべきなのさ!相応しい同士が良いに決まっている!」


尻込みしていたグランはブリトニーのいちゃもんに便乗して、とんでもないことを言いだした。
勢いがついたバカは手に負えない。


「さっきから勘違いした発言だ、彼女の叔父ファンティ侯爵家へ養女に入った。つまり子爵ではなく侯爵家の者なのだよ、結婚するまでもなくね。婚約発表の際に各家へ報せたはずだけどな」

「「!?」」

それを聞いた愚かな二人は固まって言葉に詰まってしまう。
グランは再び不敬を重ね、ブリトニーは赤恥をかき不敬を働いた。


「ところで気になってたんですけど」
経緯を見守っていたナリレットが急に声を挟む。

「な、なんでしょうか……ファンティ嬢」すっかり意気消沈したブリトニーが震え声で問う。


「指定したカラーを無視したということは『学園に不満あり』と主張する行為に他ならないですわ」
「え……どういう?」

「アスコットとリボンの色が違いますでしょ。無期限停学、もしくは退学にされても文句は言えないですね」
「な、なんでそうなるのです!たかが色が違うだけで」


ナリレットは少し呆れ顔で生徒手帳を開いた。
「いかなる理由があろうと校則指定の服装を拒否、又は違反する者は厳罰に処すると書いてありますわ」

いくつかの箇条書き部分を指差してナリレットはブリトニーに見せた。

「そんなの知らないわ!だって狡いわよ、こんな小さい文字でびっしりと!」
「狡いもなにも……入学するさいに宣誓して手帳を受け取ったでしょう?有り得ませんわ」

そう言えば入学式の時に教員から一人一人受け取ったことを思い出す。
長くて肩が凝る入学式で、学園長がなにか長々と読み上げていたことを思い出す。それこそが校則だったのだ。

ブリトニーは面倒なことを全て聞き流していた。



その後、学園から厳重注意を受けたブリトニーとグランは反省文500枚と夏季休暇中の課題を2倍受け取ることになった。

ちなみに仮婚約の話は虚言である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しい人へ~愛しているから私を捨てて下さい~

ともどーも
恋愛
 伯爵令嬢シャティアナは幼馴染みで五歳年上の侯爵子息ノーランドと兄妹のように育ち、必然的に恋仲になり、婚約目前と言われていた。  しかし、シャティアナの母親は二人の婚約を認めず、頑なに反対していた。  シャティアナの父は侯爵家との縁続きになるのを望んでいたため、母親の反対を押切り、シャティアナの誕生日パーティーでノーランドとの婚約を発表した。  みんなに祝福され、とても幸せだったその日の夜、ベッドで寝ていると母親が馬乗りになり、自分にナイフを突き刺そうとしていた。  母親がなぜノーランドとの婚約をあんなに反対したのか…。  母親の告白にシャティアナは絶望し、ノーランドとの婚約破棄の為に動き出す。  貴方を愛してる。  どうか私を捨てて下さい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 全14話です。 楽しんで頂ければ幸いです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私の落ち度で投稿途中にデータが消えてしまい、ご心配をお掛けして申し訳ありません。 運営の許可をへて再投稿致しました。 今後このような事が無いように投稿していく所存です。 ご不快な思いをされた方には、この場にて謝罪させていただければと思います。 申し訳ありませんでした。

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

紫水晶の瞳は私を捕らえる

satomi
恋愛
クレイグ侯爵家次女のパトリシア。彼女は長女とは違い、夜会などの雰囲気が苦手。 夜会の喧騒を逃れて庭に出たものの、聞こえてくるのは男女の交わりのような嬌声。 そこで出会った美しい男性。そんな男性の特に紫水晶のような瞳に吸い込まれるように体を任せてしまいました。それから彼女の人生が変わるのです。

【完結】親の理想は都合の良い令嬢~愛されることを諦めて毒親から逃げたら幸せになれました。後悔はしません。

涼石
恋愛
毒親の自覚がないオリスナ=クルード子爵とその妻マリア。 その長女アリシアは両親からの愛情に飢えていた。 親の都合に振り回され、親の決めた相手と結婚するが、これがクズな男で大失敗。 家族と離れて暮らすようになったアリシアの元に、死の間際だという父オリスナが書いた手紙が届く。 その手紙はアリシアを激怒させる。 書きたいものを心のままに書いた話です。 毒親に悩まされている人たちが、一日でも早く毒親と絶縁できますように。 本編終了しました。 本編に登場したエミリア視点で追加の話を書き終えました。 本編を補足した感じになってます。@全4話

未来予知できる王太子妃は断罪返しを開始します

もるだ
恋愛
未来で起こる出来事が分かるクラーラは、王宮で開催されるパーティーの会場で大好きな婚約者──ルーカス王太子殿下から謀反を企てたと断罪される。王太子妃を狙うマリアに嵌められたと予知したクラーラは、断罪返しを開始する!

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

それは確かに真実の愛

宝月 蓮
恋愛
レルヒェンフェルト伯爵令嬢ルーツィエには悩みがあった。それは幼馴染であるビューロウ侯爵令息ヤーコブが髪質のことを散々いじってくること。やめて欲しいと伝えても全くやめてくれないのである。いつも「冗談だから」で済まされてしまうのだ。おまけに嫌がったらこちらが悪者にされてしまう。 そんなある日、ルーツィエは君主の家系であるリヒネットシュタイン公家の第三公子クラウスと出会う。クラウスはルーツィエの髪型を素敵だと褒めてくれた。彼はヤーコブとは違い、ルーツィエの嫌がることは全くしない。そしてルーツィエとクラウスは交流をしていくうちにお互い惹かれ合っていた。 そんな中、ルーツィエとヤーコブの婚約が決まってしまう。ヤーコブなんかとは絶対に結婚したくないルーツィエはクラウスに助けを求めた。 そしてクラウスがある行動を起こすのであるが、果たしてその結果は……? 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

公爵令嬢ローズは悪役か?

瑞多美音
恋愛
「婚約を解消してくれ。貴方もわかっているだろう?」 公爵令嬢のローズは皇太子であるテオドール殿下に婚約解消を申し込まれた。 隣に令嬢をくっつけていなければそれなりの対応をしただろう。しかし、馬鹿にされて黙っているローズではない。目には目を歯には歯を。  「うちの影、優秀でしてよ?」 転ばぬ先の杖……ならぬ影。 婚約解消と貴族と平民と……どこでどう繋がっているかなんて誰にもわからないという話。 独自設定を含みます。

処理中です...