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激動篇
若木は湖に魅せられて
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若草色の髪をした少年が銀の獅子に跨り、清い水が湧くと謳われる地へ訪れていた。
山深いそこには涼やかで美しい湖があるという。
清らかな湖底には精霊の祠が眠ると伝承があった、かつてはディライル国に君臨した欲深い王がその精霊に何度も求婚したが怒りに触れ滅びたという。
「面白い昔話じゃないか、ねぇアリエラ。愚かな人間はいつの世にもいるのだね」
勝気そうな緑の瞳を怪しく光らせ少年が言う。
銀の獅子は退屈そうに欠伸をすると、旋回してから目的の湖畔へ向かって下りて行く。
一陣の風に煽られた湖面に波が立って模様を描いた。
やがて水面が静まると蒼く澄んだ湖面の下に魚が泳いでいるのが目に留まった。
「わぁ、あまりに綺麗で水がないみたいに錯覚するよ」
恐れもせずに湖に足を入れた少年はヒンヤリした水を楽しみだした。
冷たさに慣れて、静かに泳ぎ始めた少年を追うように魚たちが群れて泳ぎ出す。
「ふふふ、ボクの魔力を食べようとしてるみたい。貪欲だなぁ。ねぇアリエラもおいで?」
「……やめておこう、我はここで昼寝している」
「なんだい、つまんないの」
すいすいと気持ち良く湖面の中央あたりに泳ぎついた時だった、魚群がグルグルと旋回して渦を作り出した。
少年は慌てて湖岸へ戻ろうと足掻いたが間に合わなかった。
激しい水流に勝てないと身を任せれば、とうとう最深部へ流されてしまう。
無数の泡が彼を包み湖底の祠へ吸い込んでしまった。
祠の奥は不思議と空気があって溺れることはなかった。
少年は臆することなく奥へとヒタヒタ歩いた、奥から誰かの溜息が聞こえた。
そこには妖艶な肢体をくねらせて、梅花藻のベットに横たわる美女が気怠い様子で少年を待っていた。
「手荒い歓迎だねぇ、おはようウンディーネ様」
「待ち兼ねたわ、ドリアード王。シルからすぐに私が目覚めたと報せはあったでしょう?」
すると少年は肩を竦めて言い返す。
「ボクは父上の代理だよ。ドリアード王の末っ子さ。ちょっと地上はややこしいことになっててね」
「なんですって?ドリュアスではないというの、瓜二つじゃないの!」
あのちびっこが王になって国を統治する世になったなど不思議な気分だとウンディーネは言った。
ドリュアスの息子と名乗った少年は、ウンディーネが長い眠りについていた間の事を話して聞かせた。
大まかにはシルフィードから聞いた話と合致していて退屈そうだ。
「それで、あの子の国がややこしいってどういうこと?」
「あぁ、欲をかいた隣国の王がメリアーデ国を攻めてきたんだ。相手は狡賢い戦法で翻弄してたけど父にはゲノーモス様とサラマンデル様が付いてるからすぐ終わるでしょ」
それを聞いたウンディーネは相変わらず人間はバカで可愛いと笑う。
「ふふ、私に恋した薄らハゲも似たようなバカだったわ」
「へー、どんなバカ?」
かつて王だった男にしつこく求婚された話を聞かせると少年は腹を抱えて笑った。
恋に溺れた愚かな王が国を滅ぼしたと聞いたからだ。
ウンディーネは悪戯っぽくウィンクして続ける。
「結婚と言えば、貴方のお父様に私から求婚したこともあったわ」
「へぇ?初耳だね。でも母様がいるからダメだよ」
まだ純朴そうな少年にかつてのドリュアスの影を見た彼女はこう言った。
「ねぇ、私と結婚してみない?精霊同士も楽しいかもしれないわ」
「……ふーん。そうだね、悪くないかな?」
深い森の湖近くに人々が集まり住みつき、やがて小さな集落が出来たという。
そこは水と緑の精霊に護られ恵まれた地になった。
ただし、そこの魚を食べると陸へ戻れなくなるという奇妙な噂話が流れた。
湖底に棲む精霊に魅入られて帰れないのだと……。
fin
山深いそこには涼やかで美しい湖があるという。
清らかな湖底には精霊の祠が眠ると伝承があった、かつてはディライル国に君臨した欲深い王がその精霊に何度も求婚したが怒りに触れ滅びたという。
「面白い昔話じゃないか、ねぇアリエラ。愚かな人間はいつの世にもいるのだね」
勝気そうな緑の瞳を怪しく光らせ少年が言う。
銀の獅子は退屈そうに欠伸をすると、旋回してから目的の湖畔へ向かって下りて行く。
一陣の風に煽られた湖面に波が立って模様を描いた。
やがて水面が静まると蒼く澄んだ湖面の下に魚が泳いでいるのが目に留まった。
「わぁ、あまりに綺麗で水がないみたいに錯覚するよ」
恐れもせずに湖に足を入れた少年はヒンヤリした水を楽しみだした。
冷たさに慣れて、静かに泳ぎ始めた少年を追うように魚たちが群れて泳ぎ出す。
「ふふふ、ボクの魔力を食べようとしてるみたい。貪欲だなぁ。ねぇアリエラもおいで?」
「……やめておこう、我はここで昼寝している」
「なんだい、つまんないの」
すいすいと気持ち良く湖面の中央あたりに泳ぎついた時だった、魚群がグルグルと旋回して渦を作り出した。
少年は慌てて湖岸へ戻ろうと足掻いたが間に合わなかった。
激しい水流に勝てないと身を任せれば、とうとう最深部へ流されてしまう。
無数の泡が彼を包み湖底の祠へ吸い込んでしまった。
祠の奥は不思議と空気があって溺れることはなかった。
少年は臆することなく奥へとヒタヒタ歩いた、奥から誰かの溜息が聞こえた。
そこには妖艶な肢体をくねらせて、梅花藻のベットに横たわる美女が気怠い様子で少年を待っていた。
「手荒い歓迎だねぇ、おはようウンディーネ様」
「待ち兼ねたわ、ドリアード王。シルからすぐに私が目覚めたと報せはあったでしょう?」
すると少年は肩を竦めて言い返す。
「ボクは父上の代理だよ。ドリアード王の末っ子さ。ちょっと地上はややこしいことになっててね」
「なんですって?ドリュアスではないというの、瓜二つじゃないの!」
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ドリュアスの息子と名乗った少年は、ウンディーネが長い眠りについていた間の事を話して聞かせた。
大まかにはシルフィードから聞いた話と合致していて退屈そうだ。
「それで、あの子の国がややこしいってどういうこと?」
「あぁ、欲をかいた隣国の王がメリアーデ国を攻めてきたんだ。相手は狡賢い戦法で翻弄してたけど父にはゲノーモス様とサラマンデル様が付いてるからすぐ終わるでしょ」
それを聞いたウンディーネは相変わらず人間はバカで可愛いと笑う。
「ふふ、私に恋した薄らハゲも似たようなバカだったわ」
「へー、どんなバカ?」
かつて王だった男にしつこく求婚された話を聞かせると少年は腹を抱えて笑った。
恋に溺れた愚かな王が国を滅ぼしたと聞いたからだ。
ウンディーネは悪戯っぽくウィンクして続ける。
「結婚と言えば、貴方のお父様に私から求婚したこともあったわ」
「へぇ?初耳だね。でも母様がいるからダメだよ」
まだ純朴そうな少年にかつてのドリュアスの影を見た彼女はこう言った。
「ねぇ、私と結婚してみない?精霊同士も楽しいかもしれないわ」
「……ふーん。そうだね、悪くないかな?」
深い森の湖近くに人々が集まり住みつき、やがて小さな集落が出来たという。
そこは水と緑の精霊に護られ恵まれた地になった。
ただし、そこの魚を食べると陸へ戻れなくなるという奇妙な噂話が流れた。
湖底に棲む精霊に魅入られて帰れないのだと……。
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