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しおりを挟む挙式数日前になってもベンラント王子は姿を見せようとしなかった、あまりに不自然な事にオズワルト公爵家は「ほんとうは匿われているのでは」と疑念を持つ。
「お父様、如何いたしましょう。婚礼の儀式の予行練習もできません」
レイシアの問いに卿は蒼い顔をして首を振る、その表情はどうにもならないのだと物語っていた。彼は何を思ったのかガバリと膝を付くと「申し訳ない」と頭を床に着けた。
「お父様……そんなことをされても」
「あぁ、わかっている、お前の心臓を捕られている以上は従う他ないのだから。あの日、お前から目を離すべきではなかった。許しておくれ」
父親の懺悔を虚しく聞きながらレイシアは止めてくださいと言葉を振絞る。
あの日――。
レイシアは治癒能力に目覚めた事を家族でお祝いをしていた。
しかもただの治癒ではなく欠損した身体をも元に戻す高度なものだった。誉れ高いことだと一族で湧いたのだ、やがて、そのことを聞きつけた王族から使者がやって来て『是非一度お目通りを』と通達してきた。
初めて謁見をした時、レイシアは僅か14歳だった。
ガルダ王もデリア王妃も優し気に語り掛けてきて『国のために働らいてくれないか』と懇願してきた。幼い彼女はひとつ返事で『困っている方がいるのならば』と了承する。
そして、王妃は『美味しいお菓子を食べていきなさい』とサロンにレイシアを招いた。王妃自ら招いたとあれば断わるのは失礼だと判断した。
――これが良くなかった。
王妃は闇魔法の使い手でレイシアに呪いを掛けた、それは”囚われた心臓”というものだった。
一枚のクッキーにその呪いは掛けられおり、知らずに食べた彼女は苦しみだし心臓を捕られた。
『あぁ……心臓が……鼓動はどこ?』
『良い子ねお嬢ちゃん、貴女の能力がなんとしてでも欲しいの。私の息子に嫁ぎなさい、でないと……わかるわよね?』
絶望に染まる彼女の瞳は『悪魔め』と王妃を睨んだ。
その日から彼女は登城をして先王の世話を強いられた。先王は寝たきりで手足を動かすこともままならない状態だ。次第に治癒が施された老体はゆっくりと身体を動かすほどに回復した。
『あぁ、先王グラン様!ご回復お喜び申し上げます』
王妃はレイシアを撥ね退けて先王に抱き着いた、その姿はただならぬ関係に映った。王妃は先王を愛していたのだ。
『……おお、私の為に済まない事をした、今後も宜しく頼む』
レイシアはただ黙って頷く他ない。事情を知るのは王妃と彼女の家族だけなのだ。
『良くってレイシア、このことは誰にも口外してはなりません。わかっていて?』
『はい、王妃様……』
琥珀の瓶に押し込められた彼女の心臓を王妃は怪しく笑いながらそう言った。自分の心臓を恨めしく見つめるレイシアはどんなに悔しくても抵抗できずにいた。
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