完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)

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挙式当日。

やっとベンラント・ボリスベル王太子が姿を現した、だが、その姿は異様で黒く長い覆面を肩まで垂らしていた。背格好はベンラントに見えたが果たして本物かどうかは怪しい。

『嘘でしょう、花嫁が顔を隠すのは当然としてこれはないわ!』
躊躇するレイシア・オズワルトを、彼は祭壇の横でただ黙って花嫁の到着を待っていた。覆面には視線を確保する二つの穴が空けらていたが、黒く塗りつぶされたように見えはしなかった。

「レイシア、行こうか。殿下がお待ちだ」
「え、えぇ、お父様」
父親に促されておずおずと歩を進めだした、ウェディングアイルの両脇には招かれた貴族達がいて好奇の目に晒される。まるで針の筵を歩いているようだと彼女は思う。



「……殿下、本物ですか?声をお聞かせ下さい」
「…………」
だが彼が語ることはない、宣誓の言葉が聞けるまでお預けのようだ。レイシアはギュッと手にしたブーケを握り潰しそうになった。すでに花が萎れかかっている。


そして、滔々と神父の言葉が会場に響き渡る、皆は沈黙を守って儀式が終わるのを待った。そしていよいよ”妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?”と問われた。

レイシアは真横にいる新郎をジッと見つめる、言葉を一字一句聞き漏らすまいとゴクリと固唾を飲んだ。ところが彼は頷くだけで言葉を発しなかった。彼女は驚いて「どうして!」とつい言ってしまう。

「あー新婦静粛に……彼を夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」
「……え」
ここに来て彼女は言葉を濁した、訝しむ神父の視線と会場の席からざわめきが聞こえた。すると下座にいた王妃が「レイシア!ハッキリと発言なさい!」と叱責してきたではないか。これも異例のことで一部の貴族はなんて式なんだと怒りを露わにする。

「あ、……私は…………誓えません、こんな……覆面をしたままの相手とは無理です!」
レイシアは心からそう叫び式場を氷付かせた。


***

「なんてことを!台無しだわ、何もかも!」
王妃は地団駄を踏んで怒り狂っていた、その横にいた王が「お前は一体……」と呆れる。髪を振り乱しキィーキィーと騒ぎたてる王妃に手を焼く王は「別室に行かせよ」と騎士たちに命令した。


「ゴホン!皆の者、余の言葉を聞くが良い、仕切り直しだ。神父よ誓いの言葉を今一度やり直せ」
「しょ、承知しました」
「そんな!」

納得いかないレイシアは苛立ったがどうにもならない状況だ。彼女はジワリと涙が溢れそうになる。土壇場で中止させようとした事が失敗に終わり肩を落とす。

「妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」と再び問われた新郎は頷かず黒い覆いを剥ぎ取りこう言った。
「あぁ、私は誓うともレイシア嬢を我妻とする!」
「え……そんな、貴方はまぁ……なんてことかしら」

覆面から出たのはベンラントなどではなくエイルナー殿下その人だった。








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