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11.レシピ本
しおりを挟む――同日の放課後。
私は終礼直後に莉麻ちゃんを呼び止めた。
ひと気のない校舎の裏へつれていき、漬物石が乗ったような重い口を開く。
「急な話なんだけど……。私、夏休みに引っ越しすることになったの」
「えっ、ウソでしょ」
「再開発地域に済んでいるから立ち退きするように通告されていて……。だから、今後はお弁当を作れなくなったの」
申し訳ないと思いながらも正直に話した。
すると、彼女は腕を組んで眉間にシワを寄せる。
「急にそんなことを言われてもねぇ」
「だよね……。少し前から気になっていたんだけど、もしかして莉麻ちゃんは先輩のことが好きなのかなって」
「好きだよ。どんな手段を使っても手に入れたい。だから、このタイミングでお弁当を作れないと言われても……」
「ごめんね。約束を破る形になっちゃって」
悪いと思って素直に謝った。しかし、彼女は指先をトントンと小刻みに叩きつける。
「じゃあ、今後はどうすればいいのよ。あたしが代わりにお弁当を作れとでも言うの?」
「そうしてくれると助かる。私はもう二度と作れないから……」
「そんなの無理に決まってるじゃない! あたしはすみれちゃんのように器用じゃないの」
彼女が怒ることは想定内だったので、事前に用意していたものをカバンから出した。
「これがあればきっと困らないと思う」
「なにそれ」
「お弁当のレシピ。新汰先輩にお弁当を渡したあの日から毎日書きつづっていたの」
「なぁんだ。いいもの持ってるじゃない」
レシピノートを受け取った彼女は、パラパラとページをめくる。
このノートは彼との思い出だった。好きと言ってたメニューには二重丸をしていたし、ノートを開く度に彼の笑顔を思い出していたから。
「へぇ~、これならメニューに困らないかも。色鉛筆でカラフルに色が塗ってあるからすごくわかりやすい」
「よかった。気に入ってくれたみたいで」
「ありがと。今後はこのレシピを見て作るよ。いままでお疲れ様!」
すれ違いざまにポンポンと肩を叩いて校舎へ向かう彼女。
問題が解決したので「じゃあ、明日からよろしくお願いします」と背中に言ったら、彼女は振り向きもせずに呟いた。
「じゃあ、もう見張られなくて済むんだよね」
本音が届いた瞬間、ナイフで胸をえぐられたような気分に。
たしかにそう。毎日扉越しに二人の会話を聞き取って、インスタでのやりとりに誤差が生じないように努力していたことが、彼女にとっては迷惑だったから。
「……ごめんなさい。ごめんなっ……さい…………」
唇が震えたまま喉の奥から声を絞り出したけど、それが届いたかどうかわからない。
ウソをついた自分が悪いんだから、早く現実を受け止めなきゃいけないのにね。
私は体中から溢れる感情を抑えながら、反省点を振り返った。
それと同時に、もう二度と先輩へお弁当を渡せなくなると思うだけで悲しくなる。
でも、これでいいんだよね……。
――夜、SINからDMが送られてきた。
そこには、『ごちそうさま。今日もお弁当おいしかったよ』と書いてある。
彼は、私のお弁当が今日で最後だということを知らない。
明日から莉麻ちゃんがお弁当を作ることになるけど、彼はインスタを毎日見てるから、私のお弁当の画像を載せたらバイオレットが別人だということがバレちゃうよね。
それなら、仕方ない……。
私は3年ちょっと続けたインスタのアカウントを退会した。
明日からバイオレットの役割を彼女に託すために……。
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