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1.声にできなかった告白
しおりを挟む――乾いた風によって心がひび割れそうになっていた、10月上旬。
ざわめきに包まれている高校の教室内で、机の横にスマホを落としてしまった。
拾おうとした瞬間、クラスメイトの石塚くんの手が先にスマホへ。
彼は関わってはいけない人。みんな気づいてる。
揺れた瞳で見上げた。
彼は画面に目線を滑らせている。
「なにこれ。告白?」
――終わった。
「……うっわ、ガチなやつ? 完全にコピペじゃね?」
私は意中の日下部くんへの告白を、メモアプリに打ち込んでいたところだった。
一生懸命書いたのに。
額から熱が引いていき、心臓が低い音を立てる。
「かっ、返してください……」
息を呑み、手を差し伸ばした。
でも石塚くんは、薄笑いしながらスマホを掲げる。
「『日下部くんへ。入学直後からずっと気になっていました。好きです。私と付き合ってください』だってさ! ほぼ定型文じゃん」
「……っ」
「厚木ってさ、おとなしいくせにやるじゃん。あははは……」
石塚くんは、小バカにしたように笑った。
そのせいで、教室中に笑い声が伝染していく。
私はスマホを取り上げようとするが、彼は体を反対方向へ。
伸ばした指先が下りた瞬間、思った。
人と距離をとり続けていた自分が、間違っていたと――。
こんなに惨めな想いをしたのは、生まれて初めて。
似たような境遇に出くわしたときは、遠目から眺めていた。
自分がこうなったら、絶対に嫌だなって。
でもまさか、火の粉が自分に降り注いでしまうなんて。
心臓の音が体中に響いた。
反論すればいいものの、いつもみたく喉の奥で言葉が詰まっている。
「……っ」
廊下には、ひとだかりができていた。
たぶん惨めな私を見に来たんだろう。
日下部くんは、高校に入って一番に声をかけてくれた人だった。
「ほらほら、意中の日下部登場だよ~」
他の男子に連れられてきた日下部くん。私のすぐ隣へ寄せられた。
困った顔に、私は罪悪感が膨らんでいく。
「うわぁ、運命の瞬間! 動画撮っちゃおーっと」
「日下部くんの返事が気になる~」
「こ~くはく! こ~くはく!」
パンッ……パンッ……。
気持ちを煽るように、みんなは手を叩いてリズムを刻んだ。
私は、鼓動よりも少し遅いリズムを聞きながら、荒い息を押し殺す。
軽く見回すと、ポツポツとカメラを向ける人もいる。
見世物じゃない――。
胸元をぎゅっと掴んだ。
大きく深呼吸して、口を固く結ぶ。
高校生活は、できる限り人目に触れられたくなかった。
期待の目で見られていた重圧感が、逃げ出したくなるほど苦しかったから。
地味に過ごしていれば、傷つくことなんてない。
そう思っていたのに。
日下部くんが「やめろってば!」とみんなに言った。
けれど、ざわめきは収まらない。
私のせいで、日下部くんまで困らせちゃってる。どうしよう。
すると――。
「……それ、おまえが同じ立場でも笑えるやつ?」
廊下方面から差し込んできた男子の声が、教室内のざわめきをかき消した。
見ると、見覚えのない金髪の生徒の姿が――誰?
心拍が上がり、息を飲む。
みんなの目線が、彼に集まる。
「なに、おまえ。こいつのこと庇ってんの? もしかして、三角関係だったりして」
石塚くんは、彼に指先を向ける。
クラスメイトの噂話は、右肩上がりに。
すると彼は呆れたように息を吐き、茶化してきた男子にゆっくり目線を合わせ、教室の中へ。
「転校初日にケンカ売ってんの?」
白けた目で、机をドンッと蹴りつける。
空気が割れたように、教室内は静まり返った。
タッタッタ……。
彼の足音だけが耳に入る。
ピタリと止まると、石塚くんからスマホを奪い取り、私に向けた。
「我慢してたら、苦しくなるよ」
「えっ……」
見上げると、その瞳は濁りのない輝きを放っている。
「…………俺、みたいにね」
最後は小声で囁いていたけど、少し寂しそうに聞こえた。
ぴくんぴくんと揺れた指先で、彼からスマホを受け取る。
戻ってきたスマホに、深いため息を落とした。
不穏な空気を沈めるかのように、チャイムが鳴った。
みんなはざわつきながら、パラパラと着席する。
「はい、みんな席に座ってー」
担任教師がガラリと扉を開け、教室に入り、彼に自己紹介を勧めた。
――刈谷聡太。
髪は短くて金髪。強面な風貌だけど、瞳の奥は澄んでいる。
じっと見つめていると、彼と目が合った。
気まずくて、サッと俯く。
地味メガネの私とは、対称的な彼。
さっきは助けてもらったけど、これから先、関わることはない。
どう見ても、私たちに共通点はないし。
でもこの出会いが、安全運転を繰り返していた私が変わるきっかけになるとは、まだ知らない――。
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