キミに届く、一枚の勇気

伊咲 汐恩

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4.小さな光、隣に

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 ――私が学校に到着して教室に入ると、ざわめきに包まれた。
 席を目指して歩くと、空気の色が変わっていくのを察した。
 目線を流すと、クラスメイトと目が合う。
 でも、すかさず目を逸らされる。
 昨日刈谷くんが助けてくれたからだ――。

 胸がズキンと痛んだ。
 ヒソヒソと噂話が広がっていくばかり。
 誰も止めようとしない。

「どうやら三角関係らしいよ」
「メガネにおかっぱちゃんでも、女の顔するんだぁ」
「それって、刈谷くんがイケメンだったからだよね」

 胸に小さな槍が降り注いだまま、机の上に荷物を置いた。
 みんな、適当なことばかり。
 私の気持ちなんて、なにも知らないくせに。

 机にカバンを叩きつけて教室を飛び出し、体育館裏に向かった。
 到着した途端、拳が揺れる。

「どうして私だけがこんな目に……」

 一人でいれば、傷つかない。
 空気のような存在なら、みんなの視界に入らないから。
 でも、小さなミスが火種に。
 まさか噂話に発展するなんて。

 恋なんて、するんじゃなかった。
 一人で盛り上がってた自分が、バカみたい……。
 遠くから、足音がこちらに近づいてきた。

「なんか辛そうだけど、大丈夫?」

 窮屈な気持ちのまま振り向く。
 後ろには刈谷くんがいた。
 ふいっと目を逸らす。

「どうして、ここへ……」
「校舎を周ってたら迷子になって」

 誰にも会いたくなかった。
 昨日から、刈谷くんには惨めな姿しか晒してない。

「……と言うのは、嘘」

 心臓が揺れ、自然と口が開いた。

「えっ」
「なんか、思い詰めてるように見えたから、あとをつけた」

 心配してくれたのかな。
 でも、そんな価値すら私にはない。

「……あ、あの。私のことは気にしなくて大丈夫です」

 瞳を揺らしたまま、彼の横を走り抜けた。
 でもその足は、彼の二、三歩先で止める。

「言い忘れたんですけど」
「なに?」
「うちに泊めたこと、秘密にしてもらえませんか?」

 これ以上、噂話になるのが怖い。
 お礼なんてしてほしくないし。
 卒業まで心に波風立たせたくないし。

「どうして?」
「誤解や勘違いをされたら、困りますから」

 言葉を切り取るように、足を進めた。
 可愛げがないことくらいわかってる。
 でも、また刈谷くんを巻き込みたくなかった。

 ――中庭のベンチに腰を下ろして、スマホを開いた。
 定型文だらけの告白文章を削除する。
 自分を惨めにするだけの告白。
 言う勇気がないくせに、勝手に盛り上がってた。

 鼻頭を赤くしたまま画面をタップしていると、LINEの通知が入った――ママからだ。

『ちゃんと栄養のあるごはん食べてるの?』
『この前みたいに、提出物は遅れないように出してね』

 心配はいつも口だけ。
 本当に心配してるなら、大家族の中の”私だけ”を家から追い出さない。

 じわりと滲んだ瞳は、画面の文字を歪ませている。
 これ以上、画面を見つめなくてもいいと言っているかのように。

 ――でも、そんな私に転機が起きた。
 たった一枚の紙きれが、暗いトンネルに光を差し込むことになるなんて、このときは知るはずもなかった。

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