キミに届く、一枚の勇気

伊咲 汐恩

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30.愛されていなかったと思っていた

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 ――夕方。ママがパートから帰宅する時間を狙って、実家の門の前で待っていた。
 夕日に照らされながら、揺れる感情と戦う。
 暫く待つと、ママは両手に買い物袋をぶら下げ、家のほうに向かってきた。
 私に気づくいたように、目を見開く。

「ママ……」

 そばに駆け寄ると、ママは足を止めた。

「なにか用?」

 私が連絡をよこさなかったせいか、ママはいつも通り強い口調に。
 胸がちくりと痛む。
 拳を握ってうんと頷き、見上げた。

「どうして、私を一人暮らしさせたの?」

 ずっと聞きたかった。
 でも、怖くて言えなかった――足手まといだったと言われるのが怖かったから。
 ママは黙ったまま、家の鍵を開ける。

「もっと家に居たかった。弟や妹たちと同じように甘えたかった。どうして私だけ大切にされなかったんだろうって……」

 気付いたときには、肩が震えていた。
 17年分の想いが、今ここに。
 もう二度と後悔したくない――強くなりたい。
 ママはもちろん、刈谷くんのことだって。

「ミナ……」

 ママは私を見つめた。
 でも、私は目線を落とした。
 私たちを照らしている夕焼けがやけに眩しかったから。

「いつも弟や妹の世話。『ミナはお姉ちゃんだからしっかりしなきゃね』って、我慢ばかりさせられていた」

 ”お姉ちゃん”なんて辞めたい。
 いままで何度思ったことだろう。

「でも私だって、ママの子なんだよ。頑張ったときは頭を撫でてもらいたかったし、抱きしめてほしかった。”お姉ちゃん”のプレッシャーなんて要らない」

 いつしか目頭が熱くなっていた。
 喉の奥で言いたいことが渋滞していた分、止まらない。

「『大好きだよ』って、言ってほしかった。家族として必要なんじゃなくて、一人の娘としてママに愛されたかったよ」

 そよぐ風が、ママの方に髪を靡かせていた。
 ママに気持ちを届けているかのように。
 ママは、私の手を取った。

「ごめんね。そんな風に思ってるなんて、考えたことがなかったの」

 すごくあたたかい手。
 最後に触れたのは、いつだっただろう――。

「ミナは甘えん坊で、甘やかしたままだったら、苦しいことに立ち向かえないと思った。人一倍、強くたくましく育ってほしかったから」

 ママは瞳に涙を滲ませている。

「それがまさか、裏目に出ていたなんてね。一人暮らしをさせたのは、精一杯の愛情よ」
「えっ」
「不器用でごめんね。でも、後悔してない。こんなにダメなママでも、ミナがちゃんと育ってくれてるから」

 ママは手を強く握ってきた。
 弱い心に、エールを送っているかのように。

 ――愛されていないと思っていた。
 でも、愛しているからこそ、崖の上に立たせていた。
 私は、まだ弱い。
 ママの考えなんて、想像すらしてなかった。

『ミナはいつもそう。傷つくのが嫌で衝突を避けてる。それって、正しい守り方なわけ?』

 刈谷くんが言ってた通り、私は目の前の壁に立ち向かわなかった。
 でも、壁を乗り越えた先に見えたのは――希望。

 ママと別れた後、眩しい日差しの方に向かって、お助け券を掲げた。
 ポケットに入れているせいか、結構しわくちゃだ。
 でもこれを見るたびに、一番最初に助けてくれた日のことを思い出す。

 少しは前に進めたかな。
 刈谷くんに指摘されなければ、このまま気づかなかったよ。
 気持ちを伝えるって、結構大変なんだね。
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