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33.なくしたもの、見つけたもの
しおりを挟む――体育の授業中。
曇り空に包まれる中、校庭でハードル高跳びが行われていた。
順番を並んでいると、背後がどよめきに包まる。
「大丈夫?」
「保健室、連れて行ったほうがよくない?」
誰か怪我をしたのかな。
振り向くと、刈谷くんが顔をしかめたまま足首を押さえている。
心臓が跳ねた。
気づけば、刈谷くんを中心に人の輪ができていく。
気付いたときには、そこを目掛けて走った。
「刈谷くっ……」
様子を伺っている生徒たちの後ろから、声をかけようと思った。
でも、その言葉は再び喉の奥へ押し込められ、足が止まった。
友達だけど、近すぎちゃいけない――そんな気がした。
集団に背中を向けて、二、三歩離れた。
刈谷くんから私の姿は見えないほうがいい。
私も友達だからって、彼に頼り過ぎちゃいけない。
これ以上近づいたら、また傷つきそうで――。
「肩に手回して。体起こすから」
「塚田、ありがとう」
「いいよ。片足踏ん張って。せーのっ!」
その声を背中で浴びて、足を止めた。
振り向くと、刈谷くんと目が合う。
胸がぎゅっと苦しくなって、さっと視線を落とした。
こんなの友達以下だ。
どうして、こんなに苦しいの――。
――授業後。
ぼーっとしたまま更衣室で着替えを終え、教室に向かった。
俯いたまま廊下を歩く。
階段のところで、ジャージを着ている女子生徒と接触。
彼女が持っていたバケツの中身が溢れて、私の制服にかかる。
ブレザーから、水がポタポタと滴った。
「あーーっ、ごめん! 平気?」
「だ、大丈夫です。こちらこそ、ぼーっとしていたから。ハンカチあるんで」
遠慮がちに首を振った。
「本当にごめんね」
「平気ですから、気にしないでください」
彼女と別れ、ハンカチを取り出そうと思ってポケットに手を突っ込む。
――ない。
いくら漁っても、”いつもの感触”が指に触れない。
両方のポケットを探した。
出てくるのは、スマホとリップクリームとハンカチだけ。
「ない……ない……ない!!」
額に冷や汗がにじみ出た。
お助け券……どこかに落としてしまった。
もしかしたら、さっきの更衣室?
更衣室に走り向かった。
使っていたロッカーや付近を探した――でも、見つからない。
教室に行って、自分の席付近を探したけど、そこにもない。
一体、どこへ……。
心臓音が、耳の奥でこだましていた。
最後に触ったのはいつだろう。
記憶を遡っていると、今朝自転車にぶつかりそうになってしまったときのことを思い出す。
たしかあのとき、お助け券はポケットに入れたはずなのに。
不安がよぎって、喉の奥が苦しくなった。
――放課後。
お助け券を落としたと思われる、橋へ向かった。
でも見つからない。
もしやと思って橋の下の川を覗く。
「風で飛ばされちゃったのかな」
橋の脇の階段を下りて、川に向かった。
冷たい風にさらされながら、枯れ草をかきわける。
昨晩雨が降っていたせいか、足元はぬかるみ、気づいたときには制服はどろだらけに。
諦めかかったそのとき、一匹の猫が目に入った。
「ニャー」と小さく泣いて、背中を向ける。
ついていくと、岩の隙間で足を止めた。
なんとなく近辺を眺めると、お助け券が流れ着いていた。
「あった……」
手で水滴を払って、文字を見た。
水に浸ったせいか、紙はヨレヨレで、私の心の迷いのようにインクが滲んでいる。
「私ったら、バカ……。こんな紙切れ、なんの価値もないのに諦めきれないなんて……」
他の人からしたら、レシートに落書きがしてあるだけ。
きっと、遊び書いたんだろうとしか思わない。
でも、私にとっては彼との思い出そのものだった。
この紙を失うのが怖かったんじゃない。
彼との時間まで失ってしまいそうな気がした。
きっと、自分でも気づかない間に、このお助け券に救われ続けていたのだろう。
「おかえり……」
瞳に涙が滲んだ。
自分でもこんなに必死に探すなんて、バカバカしいと思ってる。
けれど、無意識に触るくらい、私にとって安心材料だった。
いつも彼が見守ってくれている気がしたから。
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