二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)

岬 空弥

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愛されない可哀想な女の完成

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 後日、きちんとした正装で再び現れたユーレットは、エリシアと彼女の両親の前で正式に婚約の申し込みをした。
あれほど侯爵家に囚われてほしくない。本当に好きな人と一緒になってほしいと、自分の想いを断ち切る決心をしていたエリシアだったが、

「爵位なんてどうでもいい。俺はエリシアが好きだ。だからどうしてもエリシアと結婚したい」

顔を赤くしながらまるで怒っているようなプロポーズの言葉を受けると、嬉しさのあまり息が出来なくなるほどに号泣してしまい、ユーレットに心配されながらもあっさりと陥落してしまったのだ。

両親と話をするユーレットは、相変わらず礼儀正しく品の良い青年であった。しかしその視線がエリシアに向くなり、本物のユーレットがひょいと顔を出すのだ。

俯いたままボソボソと話しかけて来たユーレットが、チラリとエリシアを見てそっと手を繋いできた。それだけでエリシアの心は空をも飛べるほどにときめいてしまう。

(駄目、もう無理、こんなの・・・ああん、たまらないわ! 仏頂面でなにかモゴモゴと言ってるわ。声が小さくて全然聞き取れないけど、耳が真っ赤になってる・・・。ああ、ユーレット・・・あなたってばなんて可愛いの!?)




 婚約が決まってからの二人は、周りが引くほどに仲が良かった。嬉しそうに彼に寄り添うエリシアは、いつ見ても幸せいっぱいの顔をしていたし、二年間、自分の幼さを反省し続けたユーレットは決して口数は多くないものの自分の気持ちだけは、はっきりとエリシアに伝えているのが見て取れた。

二人が無事に婚約できたことをユーレットの家族もエリシアの友人達もとても喜んでくれた。

「そうか・・・、これまでユーレットに教え込んできたことが、エリシア嬢にしたら余計なお世話だったって訳か・・・」

はぁー・・・と、大きな溜息を吐くユーレットの兄は、疲れ切ったように背中を丸めてお茶を飲んでいた。

「せっかく私達で、どこに出しても恥ずかしくない理想的な男性に育て上げたというのに、エリシアったら本当に男を見る目がないんだから!」

「でも、あのままの彼ではコットワール侯爵家に入るのは無理だったんだから、結果的に良かったってことよね?」

そう言って笑う友人達は、全く悪びれていなかった。
確かに彼女達の言うことは間違っていない。この常識に囚われた社会において、社交のひとつもできないでは、この先間違いなく困るだろう。ましてや実家で領地の仕事を手伝いながら経営学まで学んでくれたユーレットにはもちろん、協力してくれたご家族にも感謝でいっぱいである。

しかし・・・、

やりすぎなのだ!

彼らはどれほど鍛え上げてくれたのだろう。今の人当たりの良いユーレットでは、社交どころか周りの女性達を無駄に惹きつけ過ぎている。
現に今だって自分達の視線の先では、ユーレットを真ん中にして二人の令嬢が彼の両腕に子猿のようにぶら下がっている。

「でも・・・あそこまで女たらしにする必要あったの?」

エリシアの友人に向ける目は厳しい。

結局、甘やかに微笑む紳士的なユーレットは、エリシアの前でだけ無口でぶっきら棒の本性を丸出しにしているということになる。それはつまり、婚約者にだけ感じの悪い男ってことだ。
そうなるとエリシアは 「爵位を餌に婚約者を縛り付ける愛されない女」 ということになってしまうのだ。

「もう、なんなのよぉー! 私のユーレットなのにぃ!!」

キィー!! と歯を食いしばり、地団駄でも踏みそうなエリシアをユーレットに絡みついている二人の女性が見ている。そして勝ち誇ったようないやらしい笑みを堪えながら彼に顔を寄せて耳打ちした。

「ねえ、ユーレット様。ほら、エリシア様を見てくださいな。こちらを見ながらあのように悔しそうなお顔をされて。ふふふっ、あれほどの想いがあるのに全然相手にされないなんて、なんてお可哀想な方なのかしら」

しかし、そんなエリシアを見たユーレットは目を細めて微笑んだ。耳を少し赤らめたその顔は、まるで彼女が愛おしくてたまらないと言っているように見える。

「ははっ、では私もそろそろ婚約者のところに行きましょうか。申し訳ありませんが失礼いたしますね」

優しく微笑んだユーレットは、「もう行ってしまうのですか!?まだいいではありませんか」 と引き止める彼女達を振り切るようにエリシアの方に歩き出した。

ユーレットは歩きながら緩んだ顔を引き締める。先ほどまでの締まりのない顔がエリシアに好まれないことを知っている彼は、今や上手に二面性を使いこなしていた。
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