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最終回 甘ったれな彼と甘やかしたい彼女
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エリシアには拒絶されてしまったが、彼女に会えない間に学んだことは決して無駄なことではない。
学び直した礼儀作法や作り込まれた紳士的仮面は、なにも女性の目を引く為だけのものではないのだ。いくらエリシアが優秀な次期当主であったとしても、やはり女性というだけで下に見られることは多いだろう。その上結婚相手が、社交下手で何の役にも立たないユーレットであれば、コットワール侯爵家の先行きは不穏なものに違いなかった。
だが、知識と常識を身に付けた今のユーレットであれば、結婚後にエリシアを支えながらコットワール侯爵家を立派に盛り立てて行けることだろう。
であれば、エリシアがいくら嫉妬で機嫌を悪くしようと、これは二人の将来のための立派な社交術となるのだ。
「いくよ」
不機嫌な顔で近付いて来たユーレットは、いつものようにエリシアとは視線も合わせない。
つい先ほどまで嫉妬で口を尖らせていたエリシアになどお構いなしに、彼はその手を引いて歩き出した。
「え?どこに行くのユーレット、私、まだ踊ってないわよ?ねぇ、一曲くらい一緒に踊りましょうよー」
そんな非難の声にも返事ひとつしない彼は、誰が見ても感じの悪い婚約者であった。これではエリシアが婚約者に相手にされていないと噂になるのも仕方のないことである。
だが、それに対して彼女の友人達は、もう以前のような非難の目を向けることはなかった。
なぜなら、二人が向かった先にある胸やけするほどの甘い空気を彼女達はうんざりするほど見せられてきたからである。
「あのー、ユーレット様がどちらに行かれたかご存知でしょうか?」
「わたくしたち、ユーレット様のお気持ちを尊重したいと思いまして・・・」
「エリシア様に無理やりお相手をさせられていると聞いたものですから」
何も分かっていない三人の女性に対し、エリシアの友人達は口の端を吊り上げてにっこりと微笑む。その底意地悪く輝く瞳は、まるで悪魔のようにさえ見える。
「あちらよ」
「何か面白いものが見られるかもしれませんわよ・・・。うふふ、こっそり様子を窺うとよろしいかと・・・」
「ええ。決して足音など立てずに・・・静かに・・・ね」
絶対に何か企んでいる笑顔に恐怖を感じながらも、彼女達は言われた通りにユーレットのもとへと忍び寄った。
そして、そこから聞こえてきたものは・・・。
「あん、・・・ちょっと、駄目よ、こんな所で」
「やだ。我慢できない」
木陰に隠れる彼女達の目に入って来たものは、エリシアの両手を一括りに拘束したユーレットの熱烈なキスの嵐であった。真っ赤な顔をしながら体を捩ってまで抵抗しているエリシアを押さえつけて、ユーレットの口づけが顔中に降り注がれている。
「エリシア、愛してる。・・・ねえ、さっき嫉妬してた?」
「ユーレット、・・・ちょっ、お化粧が・・おちる・・」
「ねえ、嫉妬してたよね!?」
「人が来たら・・・んっ、困るから!」
「やっぱり嫉妬したんだ。エリシア、可愛い。・・・ねえ、もう、ここでいい?」
エリシアの鎖骨に舌を這わせているユーレットが射貫くような獰猛な眼差しで彼女を見上げていた。その瞳に捕らわれながら(いいってなに?)と首を傾げていたエリシアだったが、彼が何を求めているのかをようやく理解すると、小さな悲鳴を上げながらなんとか逃れようと抵抗の力を強めた。
「やめて! 駄目よ、ちょっと、嫌だったら!!離してユーレット、冗談はやめて!!」
「だってエリシア、こんなに綺麗だし・・・もう我慢できない」
ぼそぼそ呟くユーレットの顔があまりにも真顔で、エリシアは恐怖で顔を引き攣らせた。
「お、お願いよ。お願いだからこんな所で、ほんと勘弁して!!」
(へ?なにこれ。なんか・・・見てはいけないものを見てしまったような?)
(なんてことなの!?ユーレット様、あんなにエリシア様に冷たい態度を取っておいて、これは一体どういうことなの!?)
(やだ!!これって、もしかして既成事実を作ろうとしてるってこと!?嘘でしょう、真面目なエリシア様が襲われてるじゃない! ええっ!?そんなに好きだったの!?)
「俺は今すぐにでも結婚したいのに、義父上が婚約期間も必要だって言うから・・・」
「いや、だからって、ちょっ、やめっ、誰か来る前に少し離れてって―――」
「嫌だ!子供が出来れば直ぐに結婚できるし」
「だからって、こんな場所でなんて嫌よ!!ユーレット、あなた本当にどうしちゃったのよ!」
「・・・・だってさっき、俺以外の男と楽しそうに話してたし・・・」
(はあ!?なにこれ!?ユーレット様って、エリシア様を嫌うどころか逆に骨抜きにされてるってこと!?)
(えぇー、やだぁ・・・。エリシア様に嫉妬した?とか聞いておいて、実際に嫉妬に狂っておかしくなってるのはユーレット様ってこと?)
(はぁー・・・なんてばかばかしいのかしら。こんなくだらないものを見せられるなんて)
ふて腐れた子供のようにエリシアを睨んでいるユーレットと、眉を下げながらもどこか嬉しそうにユーレットの頭を撫でるエリシア。
そんな二人に嫌気がさした令嬢達は、苦々しい思いに顔を歪めた。
そこには付け入る隙などなかった。完全敗北とはこのことだろう。エリシアの友人達が見せた不気味な笑みの理由はこれだったのだ。
(ふん!くだらない!)
そして彼女達は、静かにその場を立ち去って行った。
その後もユーレットの社交術に魅了された令嬢を何人も見かけるが、二人の愛情を見せつけられる度に、本人達の知らぬ間に勝手に敗北して立ち去って行った。
結婚後も外で紳士を演じるユーレットは、真面目なエリシアと共にコットワール侯爵家を繁栄させた。
彼女の前でだけ素を見せる夫を 「カワイイ、大好き!!」 と、妻のエリシアはいくつになっても甘やかすのだった。
――END――
※ この後、おまけのお話に続きます。
学び直した礼儀作法や作り込まれた紳士的仮面は、なにも女性の目を引く為だけのものではないのだ。いくらエリシアが優秀な次期当主であったとしても、やはり女性というだけで下に見られることは多いだろう。その上結婚相手が、社交下手で何の役にも立たないユーレットであれば、コットワール侯爵家の先行きは不穏なものに違いなかった。
だが、知識と常識を身に付けた今のユーレットであれば、結婚後にエリシアを支えながらコットワール侯爵家を立派に盛り立てて行けることだろう。
であれば、エリシアがいくら嫉妬で機嫌を悪くしようと、これは二人の将来のための立派な社交術となるのだ。
「いくよ」
不機嫌な顔で近付いて来たユーレットは、いつものようにエリシアとは視線も合わせない。
つい先ほどまで嫉妬で口を尖らせていたエリシアになどお構いなしに、彼はその手を引いて歩き出した。
「え?どこに行くのユーレット、私、まだ踊ってないわよ?ねぇ、一曲くらい一緒に踊りましょうよー」
そんな非難の声にも返事ひとつしない彼は、誰が見ても感じの悪い婚約者であった。これではエリシアが婚約者に相手にされていないと噂になるのも仕方のないことである。
だが、それに対して彼女の友人達は、もう以前のような非難の目を向けることはなかった。
なぜなら、二人が向かった先にある胸やけするほどの甘い空気を彼女達はうんざりするほど見せられてきたからである。
「あのー、ユーレット様がどちらに行かれたかご存知でしょうか?」
「わたくしたち、ユーレット様のお気持ちを尊重したいと思いまして・・・」
「エリシア様に無理やりお相手をさせられていると聞いたものですから」
何も分かっていない三人の女性に対し、エリシアの友人達は口の端を吊り上げてにっこりと微笑む。その底意地悪く輝く瞳は、まるで悪魔のようにさえ見える。
「あちらよ」
「何か面白いものが見られるかもしれませんわよ・・・。うふふ、こっそり様子を窺うとよろしいかと・・・」
「ええ。決して足音など立てずに・・・静かに・・・ね」
絶対に何か企んでいる笑顔に恐怖を感じながらも、彼女達は言われた通りにユーレットのもとへと忍び寄った。
そして、そこから聞こえてきたものは・・・。
「あん、・・・ちょっと、駄目よ、こんな所で」
「やだ。我慢できない」
木陰に隠れる彼女達の目に入って来たものは、エリシアの両手を一括りに拘束したユーレットの熱烈なキスの嵐であった。真っ赤な顔をしながら体を捩ってまで抵抗しているエリシアを押さえつけて、ユーレットの口づけが顔中に降り注がれている。
「エリシア、愛してる。・・・ねえ、さっき嫉妬してた?」
「ユーレット、・・・ちょっ、お化粧が・・おちる・・」
「ねえ、嫉妬してたよね!?」
「人が来たら・・・んっ、困るから!」
「やっぱり嫉妬したんだ。エリシア、可愛い。・・・ねえ、もう、ここでいい?」
エリシアの鎖骨に舌を這わせているユーレットが射貫くような獰猛な眼差しで彼女を見上げていた。その瞳に捕らわれながら(いいってなに?)と首を傾げていたエリシアだったが、彼が何を求めているのかをようやく理解すると、小さな悲鳴を上げながらなんとか逃れようと抵抗の力を強めた。
「やめて! 駄目よ、ちょっと、嫌だったら!!離してユーレット、冗談はやめて!!」
「だってエリシア、こんなに綺麗だし・・・もう我慢できない」
ぼそぼそ呟くユーレットの顔があまりにも真顔で、エリシアは恐怖で顔を引き攣らせた。
「お、お願いよ。お願いだからこんな所で、ほんと勘弁して!!」
(へ?なにこれ。なんか・・・見てはいけないものを見てしまったような?)
(なんてことなの!?ユーレット様、あんなにエリシア様に冷たい態度を取っておいて、これは一体どういうことなの!?)
(やだ!!これって、もしかして既成事実を作ろうとしてるってこと!?嘘でしょう、真面目なエリシア様が襲われてるじゃない! ええっ!?そんなに好きだったの!?)
「俺は今すぐにでも結婚したいのに、義父上が婚約期間も必要だって言うから・・・」
「いや、だからって、ちょっ、やめっ、誰か来る前に少し離れてって―――」
「嫌だ!子供が出来れば直ぐに結婚できるし」
「だからって、こんな場所でなんて嫌よ!!ユーレット、あなた本当にどうしちゃったのよ!」
「・・・・だってさっき、俺以外の男と楽しそうに話してたし・・・」
(はあ!?なにこれ!?ユーレット様って、エリシア様を嫌うどころか逆に骨抜きにされてるってこと!?)
(えぇー、やだぁ・・・。エリシア様に嫉妬した?とか聞いておいて、実際に嫉妬に狂っておかしくなってるのはユーレット様ってこと?)
(はぁー・・・なんてばかばかしいのかしら。こんなくだらないものを見せられるなんて)
ふて腐れた子供のようにエリシアを睨んでいるユーレットと、眉を下げながらもどこか嬉しそうにユーレットの頭を撫でるエリシア。
そんな二人に嫌気がさした令嬢達は、苦々しい思いに顔を歪めた。
そこには付け入る隙などなかった。完全敗北とはこのことだろう。エリシアの友人達が見せた不気味な笑みの理由はこれだったのだ。
(ふん!くだらない!)
そして彼女達は、静かにその場を立ち去って行った。
その後もユーレットの社交術に魅了された令嬢を何人も見かけるが、二人の愛情を見せつけられる度に、本人達の知らぬ間に勝手に敗北して立ち去って行った。
結婚後も外で紳士を演じるユーレットは、真面目なエリシアと共にコットワール侯爵家を繁栄させた。
彼女の前でだけ素を見せる夫を 「カワイイ、大好き!!」 と、妻のエリシアはいくつになっても甘やかすのだった。
――END――
※ この後、おまけのお話に続きます。
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