不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ

文字の大きさ
21 / 53
第一章

21、俺のところに来いよ

しおりを挟む
 友人邸での初めてのお泊まりは、(俺の大失態を除いて)とにかく最高だった。
 特にランデルと一緒に行った王都の広場。あそこにはたくさんの屋台が並んでいてとても面白かった。

 俺はどんな時でもオーティスのことを考えてしまうみたいで、『広場で食べた串焼鳥もオーティスはやっぱり上品に食べるのかな』とか、『ホクホクの焼き芋をハフハフしながら食べてるところが見てみたいな』なんて、何かあるたびにあれこれ想像してクスッと笑ってしまった。

 まだまだ居候生活は始まったばかり。一緒にやってみたいことがたっくさんある。

(それに、今夜はオーティスのベッドに入ってぎゅう~ってくっついてやるんだ。早く会いたいなぁ)

 ウォルマン家の馬車に揺られながら、この後のお楽しみを想像して俺の口元は自然と弧を描いていた。

 もうすぐ到着する、そんな時だった。
 オーティスの屋敷から一台の馬車が出発。すれ違いざま、キャビンの中の人物に思わず目を見張った。
 屋敷に到着した俺をぽよぽよズが出迎えてくれたのだが、そこにオーティスの姿はない。

「オーティスは?」
「ご主人様はお休みになっています」
「さっき、この屋敷から第二王女の乗った馬車が出ていったけど」

 執事ポックスの目が僅かに泳いだ。ポル、ポム、ポニなんか動揺しまくって目をぐるぐるさせるものだから、侍女長ポミィに無言の圧をかけられている。

(やっぱり何かあるんだ)
 乱れる感情を抑えたくて力一杯胸元を握り締める。

 オーティスの隠し事なら一つ心当たりがあるけど、できればその予想は外れていてほしい。
 彼の婚約者についてずっと考えないようにしてきたけど、いずれ知ることになるなら……今、自分で確かめてやる!

「俺、オーティスに帰ったって挨拶してくる!」
「い、今は……お待ちくださいフィル様!」

 ぽよぽよズが全力で俺を止めにかかる。それならこちらは全力で進むだけ。両手・両足・胸に彼らを引っ付けて、引きずる足を一心不乱に前に出す。半ば意地になって進んだ結果、俺はついにオーティスの部屋に乗り込んだ。

「オーティス帰ったよ!」

 ベッドに横たわる彼から返事はない。
(寝てるのかな……)

「オーティス!」
 すぐそばまで行こうとして踏み出した足は、数歩も行かぬうちに止まってしまった。

 薄着で眠るオーティスの胸元がはだけて丸見えなのだ。しかも赤らめた顔と少し乱れた息遣いが夜の彼を思い出させる。
 思い出したくもないのに頬を染めて微笑む第二王女ナタリーの顔がはっきりと脳裏に浮かび上がって、目の前が真っ暗になった。


「ポックス……俺、食欲ないからもう寝る……」

 ふらふらと部屋を出た俺は、足元がおぼつかないまま自分のベッドに潜り込んで小さく丸まった。

 次男のオーティスが侯爵邸を出てわざわざこの屋敷を建てた理由。俺は彼が誰かと結婚の準備を進めているからだと推測していた。けど、まさかその相手がナタリーだったなんて考えもしなかった。

 ナタリーは今年二十一歳。第三側妃ミレーヌの娘で俺の腹違いの姉だ。

 この国の女性の多くは二十歳までに結婚する。たった一歳適齢期を過ぎただけでも「行き遅れ」と陰口を叩く輩がいる中で、なぜ彼女が今日まで結婚しなかったのか。その理由がもしも『オーティスが大魔法師になるのを待っていたから』だとしたら合点がいく。

 ただ彼女がオーティスと婚約しているとは聞いたことがない。陛下やミレーヌ妃から反対されているのだろうか。所謂禁断の恋?

(よりによって、俺を蔑ろにしていた奴らの一人を選ぶことないじゃん……)


「オーティスのバカ野郎」

 それが精一杯の悪口だった。

 痛いのもつらいのも苦しいのも、もう十分経験したと思う。簡単にへこたれるような俺じゃない。でも、オーティスのことになるとどうしてこんなに弱くなってしまうんだろう。

『好き』って嬉しくて楽しいけど、その分悲しくて痛い。誤魔化そうとすればするほど胸が詰まって左目からこぼれ落ちた涙が右目に伝った。


 ――『フィルは俺の運命の人だから』

 なぜかランデルに言われた言葉が頭に浮かぶ。俺は何かに縋り付きたくて、彼からもらったお守りのネックレスを両手で握り締めた。


 ◇◇◇

「フィル、今日隙だらけだぞ。どした?」

 模擬剣を下ろしたランデルが心配そうに首を傾げた。

「えっ……と……うぅ……」

 突然だばーっと泣き出した俺にランデルが「えっ!?」とわたわたする。
(だって俺失恋したんだもん。いつもと同じになんてできないよぉ……)

「そういえば、今朝はあの人の送迎じゃなかったね」

 今朝は苦手な早起きをしてオーティスが目覚める前に出てきた。彼の顔を見たら泣くか悪態をついてしまいそうだったから。

 魔法師団と騎士団は協力関係にあるし、ナタリーと結婚したらどうやったって彼との縁は切れそうにない。亀裂を作るより、少し離れて近付きすぎてしまった距離を戻した方がいいと思う。

(となるとオーティスの屋敷を出なくちゃいけないよな。やっとそばにいられるようになったのに……居候生活はもう終わりなんだ。可愛いぽよぽよズともお別れなんて寂しいよ)

「ふぇ……」
 悲しみの淵に立たされて、またしてもだばーと涙の大洪水が起こる。

「嫌なことでもあった? 大魔法師とケンカしたのか?」
「ケンカはしてないけど……」

 嫌なことはあった。「ううん」と塞ぎ込む俺に向かって、ランデルはニコッと笑って言った。

「じゃあさ、俺んとこにこいよ。俺と一緒に暮らそう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

騎士団長の初恋を実らせるつもりが、うっかり恋に落ちました~心の声が聞こえる第五王子は街で人気の占い師~

まんまる
BL
現王の第五王子として生まれたノア(21)は見た目こそ王族の血を濃く引いているものの、王城では影が薄く、いてもいなくても誰も気付かないような存在だ。 そんなノアは生まれつき他人(ひと)の心の声が聞こえる能力を持っていて、こっそり王城を抜け出しては、それを活かして街で占いをやっていた。 18歳で始めた占いも気付けば3年が経ち、今ではよく当たると評判の人気の占い師になっていた。 そんなある日、ノアが占いをする《金色(こんじき)の占いの館》に第一騎士団の団長、クレイン侯爵家の嫡男アルバート(32)が訪ねてくる。 ノアは能力を使って、アルバートの『初恋の相手に会いたい』と言う願いを叶えるようとするが、アルバートの真面目で優しい人柄に触れいくうちに、ついうっかりアルバートを好きになってしまう。 真面目で一途な騎士団長×前向きに生きる国民思いの第五王子 いろいろツッコミ所があるお話ですが、温かい目で読んでいただけたら嬉しいです。 ( )は心の声です。 Rシーンは※付けます。

勇者は魔王!?〜愛を知らない勇者は、魔王に溺愛されて幸せになります〜

天宮叶
BL
十歳の誕生日の日に森に捨てられたソルは、ある日、森の中で見つけた遺跡で言葉を話す剣を手に入れた。新しい友達ができたことを喜んでいると、突然、目の前に魔王が現れる。 魔王は幼いソルを気にかけ、魔王城へと連れていくと部屋を与え、優しく接してくれる。 初めは戸惑っていたソルだったが、魔王や魔王城に暮らす人々の優しさに触れ、少しずつ心を開いていく。 いつの間にか魔王のことを好きになっていたソル。2人は少しずつ想いを交わしていくが、魔王城で暮らすようになって十年目のある日、ソルは自身が勇者であり、魔王の敵だと知ってしまい_____。 溺愛しすぎな無口隠れ執着魔王 × 純粋で努力家な勇者 【受け】 ソル(勇者) 10歳→20歳 金髪・青眼 ・10歳のとき両親に森へ捨てられ、魔王に拾われた。自身が勇者だとは気づいていない。努力家で純粋。闇魔法以外の全属性を使える。 ノクス(魔王) 黒髪・赤目 年齢不明 ・ソルを拾い育てる。段々とソルに惹かれていく。闇魔法の使い手であり、歴代最強と言われる魔王。無口だが、ソルを溺愛している。 今作は、受けの幼少期からスタートします。それに伴い、攻めとのガッツリイチャイチャは、成人編が始まってからとなりますのでご了承ください。 BL大賞参加作品です‼️ 本編完結済み

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

生贄傷物令息は竜人の寵愛で甘く蕩ける

てんつぶ
BL
「僕を食べてもらっても構わない。だからどうか――」 庶子として育ったカラヒは母の死後、引き取られた伯爵家でメイドにすら嗤われる下働き以下の生活を強いられていた。その上義兄からは火傷を負わされるほどの異常な執着を示される。 そんなある日、義母である伯爵夫人はカラヒを神竜の生贄に捧げると言いだして――? 「カラヒ。おれの番いは嫌か」 助けてくれた神竜・エヴィルはカラヒを愛を囁くものの、カラヒは彼の秘密を知ってしまった。 どうして初対面のカラヒを愛する「フリ」をするのか。 どうして竜が言葉を話せるのか。 所詮偽りの番いだとカラヒは分かってしまった。それでも――。

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

処理中です...