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第一章
21、俺のところに来いよ
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友人邸での初めてのお泊まりは、(俺の大失態を除いて)とにかく最高だった。
特にランデルと一緒に行った王都の広場。あそこにはたくさんの屋台が並んでいてとても面白かった。
俺はどんな時でもオーティスのことを考えてしまうみたいで、『広場で食べた串焼鳥もオーティスはやっぱり上品に食べるのかな』とか、『ホクホクの焼き芋をハフハフしながら食べてるところが見てみたいな』なんて、何かあるたびにあれこれ想像してクスッと笑ってしまった。
まだまだ居候生活は始まったばかり。一緒にやってみたいことがたっくさんある。
(それに、今夜はオーティスのベッドに入ってぎゅう~ってくっついてやるんだ。早く会いたいなぁ)
ウォルマン家の馬車に揺られながら、この後のお楽しみを想像して俺の口元は自然と弧を描いていた。
もうすぐ到着する、そんな時だった。
オーティスの屋敷から一台の馬車が出発。すれ違いざま、キャビンの中の人物に思わず目を見張った。
屋敷に到着した俺をぽよぽよズが出迎えてくれたのだが、そこにオーティスの姿はない。
「オーティスは?」
「ご主人様はお休みになっています」
「さっき、この屋敷から第二王女の乗った馬車が出ていったけど」
執事ポックスの目が僅かに泳いだ。ポル、ポム、ポニなんか動揺しまくって目をぐるぐるさせるものだから、侍女長ポミィに無言の圧をかけられている。
(やっぱり何かあるんだ)
乱れる感情を抑えたくて力一杯胸元を握り締める。
オーティスの隠し事なら一つ心当たりがあるけど、できればその予想は外れていてほしい。
彼の婚約者についてずっと考えないようにしてきたけど、いずれ知ることになるなら……今、自分で確かめてやる!
「俺、オーティスに帰ったって挨拶してくる!」
「い、今は……お待ちくださいフィル様!」
ぽよぽよズが全力で俺を止めにかかる。それならこちらは全力で進むだけ。両手・両足・胸に彼らを引っ付けて、引きずる足を一心不乱に前に出す。半ば意地になって進んだ結果、俺はついにオーティスの部屋に乗り込んだ。
「オーティス帰ったよ!」
ベッドに横たわる彼から返事はない。
(寝てるのかな……)
「オーティス!」
すぐそばまで行こうとして踏み出した足は、数歩も行かぬうちに止まってしまった。
薄着で眠るオーティスの胸元がはだけて丸見えなのだ。しかも赤らめた顔と少し乱れた息遣いが夜の彼を思い出させる。
思い出したくもないのに頬を染めて微笑む第二王女ナタリーの顔がはっきりと脳裏に浮かび上がって、目の前が真っ暗になった。
「ポックス……俺、食欲ないからもう寝る……」
ふらふらと部屋を出た俺は、足元がおぼつかないまま自分のベッドに潜り込んで小さく丸まった。
次男のオーティスが侯爵邸を出てわざわざこの屋敷を建てた理由。俺は彼が誰かと結婚の準備を進めているからだと推測していた。けど、まさかその相手がナタリーだったなんて考えもしなかった。
ナタリーは今年二十一歳。第三側妃ミレーヌの娘で俺の腹違いの姉だ。
この国の女性の多くは二十歳までに結婚する。たった一歳適齢期を過ぎただけでも「行き遅れ」と陰口を叩く輩がいる中で、なぜ彼女が今日まで結婚しなかったのか。その理由がもしも『オーティスが大魔法師になるのを待っていたから』だとしたら合点がいく。
ただ彼女がオーティスと婚約しているとは聞いたことがない。陛下やミレーヌ妃から反対されているのだろうか。所謂禁断の恋?
(よりによって、俺を蔑ろにしていた奴らの一人を選ぶことないじゃん……)
「オーティスのバカ野郎」
それが精一杯の悪口だった。
痛いのもつらいのも苦しいのも、もう十分経験したと思う。簡単にへこたれるような俺じゃない。でも、オーティスのことになるとどうしてこんなに弱くなってしまうんだろう。
『好き』って嬉しくて楽しいけど、その分悲しくて痛い。誤魔化そうとすればするほど胸が詰まって左目からこぼれ落ちた涙が右目に伝った。
――『フィルは俺の運命の人だから』
なぜかランデルに言われた言葉が頭に浮かぶ。俺は何かに縋り付きたくて、彼からもらったお守りのネックレスを両手で握り締めた。
◇◇◇
「フィル、今日隙だらけだぞ。どした?」
模擬剣を下ろしたランデルが心配そうに首を傾げた。
「えっ……と……うぅ……」
突然だばーっと泣き出した俺にランデルが「えっ!?」とわたわたする。
(だって俺失恋したんだもん。いつもと同じになんてできないよぉ……)
「そういえば、今朝はあの人の送迎じゃなかったね」
今朝は苦手な早起きをしてオーティスが目覚める前に出てきた。彼の顔を見たら泣くか悪態をついてしまいそうだったから。
魔法師団と騎士団は協力関係にあるし、ナタリーと結婚したらどうやったって彼との縁は切れそうにない。亀裂を作るより、少し離れて近付きすぎてしまった距離を戻した方がいいと思う。
(となるとオーティスの屋敷を出なくちゃいけないよな。やっとそばにいられるようになったのに……居候生活はもう終わりなんだ。可愛いぽよぽよズともお別れなんて寂しいよ)
「ふぇ……」
悲しみの淵に立たされて、またしてもだばーと涙の大洪水が起こる。
「嫌なことでもあった? 大魔法師とケンカしたのか?」
「ケンカはしてないけど……」
嫌なことはあった。「ううん」と塞ぎ込む俺に向かって、ランデルはニコッと笑って言った。
「じゃあさ、俺んとこにこいよ。俺と一緒に暮らそう」
特にランデルと一緒に行った王都の広場。あそこにはたくさんの屋台が並んでいてとても面白かった。
俺はどんな時でもオーティスのことを考えてしまうみたいで、『広場で食べた串焼鳥もオーティスはやっぱり上品に食べるのかな』とか、『ホクホクの焼き芋をハフハフしながら食べてるところが見てみたいな』なんて、何かあるたびにあれこれ想像してクスッと笑ってしまった。
まだまだ居候生活は始まったばかり。一緒にやってみたいことがたっくさんある。
(それに、今夜はオーティスのベッドに入ってぎゅう~ってくっついてやるんだ。早く会いたいなぁ)
ウォルマン家の馬車に揺られながら、この後のお楽しみを想像して俺の口元は自然と弧を描いていた。
もうすぐ到着する、そんな時だった。
オーティスの屋敷から一台の馬車が出発。すれ違いざま、キャビンの中の人物に思わず目を見張った。
屋敷に到着した俺をぽよぽよズが出迎えてくれたのだが、そこにオーティスの姿はない。
「オーティスは?」
「ご主人様はお休みになっています」
「さっき、この屋敷から第二王女の乗った馬車が出ていったけど」
執事ポックスの目が僅かに泳いだ。ポル、ポム、ポニなんか動揺しまくって目をぐるぐるさせるものだから、侍女長ポミィに無言の圧をかけられている。
(やっぱり何かあるんだ)
乱れる感情を抑えたくて力一杯胸元を握り締める。
オーティスの隠し事なら一つ心当たりがあるけど、できればその予想は外れていてほしい。
彼の婚約者についてずっと考えないようにしてきたけど、いずれ知ることになるなら……今、自分で確かめてやる!
「俺、オーティスに帰ったって挨拶してくる!」
「い、今は……お待ちくださいフィル様!」
ぽよぽよズが全力で俺を止めにかかる。それならこちらは全力で進むだけ。両手・両足・胸に彼らを引っ付けて、引きずる足を一心不乱に前に出す。半ば意地になって進んだ結果、俺はついにオーティスの部屋に乗り込んだ。
「オーティス帰ったよ!」
ベッドに横たわる彼から返事はない。
(寝てるのかな……)
「オーティス!」
すぐそばまで行こうとして踏み出した足は、数歩も行かぬうちに止まってしまった。
薄着で眠るオーティスの胸元がはだけて丸見えなのだ。しかも赤らめた顔と少し乱れた息遣いが夜の彼を思い出させる。
思い出したくもないのに頬を染めて微笑む第二王女ナタリーの顔がはっきりと脳裏に浮かび上がって、目の前が真っ暗になった。
「ポックス……俺、食欲ないからもう寝る……」
ふらふらと部屋を出た俺は、足元がおぼつかないまま自分のベッドに潜り込んで小さく丸まった。
次男のオーティスが侯爵邸を出てわざわざこの屋敷を建てた理由。俺は彼が誰かと結婚の準備を進めているからだと推測していた。けど、まさかその相手がナタリーだったなんて考えもしなかった。
ナタリーは今年二十一歳。第三側妃ミレーヌの娘で俺の腹違いの姉だ。
この国の女性の多くは二十歳までに結婚する。たった一歳適齢期を過ぎただけでも「行き遅れ」と陰口を叩く輩がいる中で、なぜ彼女が今日まで結婚しなかったのか。その理由がもしも『オーティスが大魔法師になるのを待っていたから』だとしたら合点がいく。
ただ彼女がオーティスと婚約しているとは聞いたことがない。陛下やミレーヌ妃から反対されているのだろうか。所謂禁断の恋?
(よりによって、俺を蔑ろにしていた奴らの一人を選ぶことないじゃん……)
「オーティスのバカ野郎」
それが精一杯の悪口だった。
痛いのもつらいのも苦しいのも、もう十分経験したと思う。簡単にへこたれるような俺じゃない。でも、オーティスのことになるとどうしてこんなに弱くなってしまうんだろう。
『好き』って嬉しくて楽しいけど、その分悲しくて痛い。誤魔化そうとすればするほど胸が詰まって左目からこぼれ落ちた涙が右目に伝った。
――『フィルは俺の運命の人だから』
なぜかランデルに言われた言葉が頭に浮かぶ。俺は何かに縋り付きたくて、彼からもらったお守りのネックレスを両手で握り締めた。
◇◇◇
「フィル、今日隙だらけだぞ。どした?」
模擬剣を下ろしたランデルが心配そうに首を傾げた。
「えっ……と……うぅ……」
突然だばーっと泣き出した俺にランデルが「えっ!?」とわたわたする。
(だって俺失恋したんだもん。いつもと同じになんてできないよぉ……)
「そういえば、今朝はあの人の送迎じゃなかったね」
今朝は苦手な早起きをしてオーティスが目覚める前に出てきた。彼の顔を見たら泣くか悪態をついてしまいそうだったから。
魔法師団と騎士団は協力関係にあるし、ナタリーと結婚したらどうやったって彼との縁は切れそうにない。亀裂を作るより、少し離れて近付きすぎてしまった距離を戻した方がいいと思う。
(となるとオーティスの屋敷を出なくちゃいけないよな。やっとそばにいられるようになったのに……居候生活はもう終わりなんだ。可愛いぽよぽよズともお別れなんて寂しいよ)
「ふぇ……」
悲しみの淵に立たされて、またしてもだばーと涙の大洪水が起こる。
「嫌なことでもあった? 大魔法師とケンカしたのか?」
「ケンカはしてないけど……」
嫌なことはあった。「ううん」と塞ぎ込む俺に向かって、ランデルはニコッと笑って言った。
「じゃあさ、俺んとこにこいよ。俺と一緒に暮らそう」
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