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第二章
30、デート2 安易に揶揄うのは止めましょう
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個室に案内されると、頃合いを見計らって次々とケーキが運ばれてきた。
「おぉ」
ずらりと並んだ手のひらサイズの可愛らしいケーキに思わず感嘆の声を上げた。
(なるほど……満月だ)
プティ・プレーヌリュヌ。店名どおり、小さいな丸い形にぽよぽよズの姿が重なる。
「なぁオーティス。この真っ白いチーズケーキ、ぽよぽよズみたいで可愛いな。お土産に買って帰ろうよ」
クスッと上品に笑ったオーティスは「フィル様ならそう仰ると思いました」と柔らかく目を細めた。
混ぜ合わせた果物によって淡いピンクだったりオレンジだったりして、テーブルがちょっとした花畑のように見えてくる。
「あっ、これ。マルメロのジャムがかかってる」
「本当ですね」
「昔住んでた小屋の横にマルメロの木が生えてたんだ。実がなると母さんがジャムを作ってくれてさ、それが大好きだったんだ。この匂い……懐かしい」
林檎に似た甘い香り。マルメロの果実を煮詰めている母の足に抱き付いて「まだぁ?」と問いかければ、「もう少し待っててね」と笑顔で頭を撫でてくれる。こういう時、もう一度母さんに会えたらなと思う。
「フィル様。お母様のお墓参りに行きましょう」
「そうだな。婚約が決まったら一緒に報告しに行こう」
「はい」
母との思い出は、あの頃の楽しさと同時に切なさも胸に抱かせる。せっかくの王都デートなのにしんみりとしてしまった。母さんなら「楽しみなさいよ!」と背中をバシッと叩くだろう。
「いただこうか」
「はい、フィル様」
俺たちの間にほんわかと温かな空気が流れた。
(いただこうと言ったものの、どの子から食べよう。悩むところだけど最初はやっぱりこれかな)
ぽよぽよズ激似の真っ白なレアチーズケーキを口に運んだ。
「わっ……これ美味し! …………あのさ、今日はありがとう。オーティスのご家族にきちんと挨拶ができて良かった」
「いえ。お礼を申し上げるのは私の方です」
「一言目に変なこと言ったのはご愛嬌な」
いきなり「息子さんと結婚させてください」だなんて、何度思い出しても恥ずかしい。「緊張しすぎた」と付け足すと、
「変なことだなんて! とても感動しました」
オーティスの食い気味な反論が嬉しくて、「またまた~」と苦笑いに照れ笑いが加わる。
「そういやエリオお兄さんの子供たち、当たり前だけどオーティスの子供の頃に似てたな」
「子供の頃の私はどんな感じでした?」
「え~?」
オーティスってば、めちゃくちゃ『聞きたい』って顔してる。面と向かって言うのは照れ臭いけど、こんな風に気持ちを伝える機会もそうはない。思い切って言っちゃおうか。
「あーっと……第一印象は、めちゃくちゃ格好良い……かな。物静かなんだけど無口ってわけでもなくて、話し方が優しくてたまに笑うと可愛くて……」
『――おやめください!!』
幼い頃の記憶がよぎる。
俺を守るためにアンドレアスたちの前に飛び出してくれたオーティス。今よりもずっと小さな後ろ姿だった。
「…………弱かった俺を守ってくれた、強い人。やっぱり本人を目の前にして言うのは恥ずかしいな」
「……今は? 今の私はどうですか?」
まだ言わせる気なのか? 目を輝かせちゃって、欲張りだな。
「今? 今もめちゃくちゃ格好良いし、優しくて大好きだよ」
そうだ、少し揶揄ってやろう。俺ばっかり言わせた罰だ。
「ねえ、知ってる? オーティスって機嫌が良い時に目を伏せて少しだけ微笑む癖があるんだよ。そういうの可愛いよね」
「…………」
(あ、あれ? そんなに驚いた顔して……もしかして知らなかったの? しかもなんか小刻みに震えてる)
全身にじわりと嫌な汗をかく。適当に話を変えようかなぁ……と別の話題を振ろうとした時、オーティスが自分の前に並べられていたケーキを全てこちらに寄せてきた。
「全部……フィル様が食べてください」
「え? 俺一人でこんなに食べられ……」
俯いたオーティスの顔が見えるように首を低く傾け、そのままテーブルに片頬をペタッとくっ付けた。
心がムズムズする。嬉しくてニヤけてしまうのを必死に抑え込む。
「オーティス~耳が赤くなってる。もしかして照れたのか? 王都に来る途中、馬車の中であんなにも恥ずかしいことしたのに?」
自分の小さな癖がそんなに恥ずかしかったの? めちゃくちゃ可愛い!
「こ、こんな所でそんな話を……誰が聞いているか分かりませんし……」
「ここは個室だよ? 誰がいるの? 俺とオーティスの二人きりじゃん。ねえ、早く帰って続きしよ?」
オーティスってば、耳だけでなく首筋まで赤くなってる。可愛い反応に俺の心は満腹だ。そろそろ終わりにしようかな……。
「……フィル様」
「ん?」
「それ以上揶揄うと……今夜虐めますよ」
(え! 馬車の中でも結構俺のこと虐めてたよ!? それは避け……)
「――っ!?」
顔を上げたオーティスに心臓がドクンッと跳ねる。
困ったような怒ったような。顔を真っ赤にして、拗ねた子供のように口をムッと結んで俺を睨んでる。
(その表情はまずいって……あぁぁぁ)
やりすぎた。全身が熱くて心臓が爆発しそう。これ以上目を合わせていられないと、今度は俺が下を向いてしまった。
「フィル様、こちらを見てください」
「む、無理です…………ごめんなさい」
そしてまた一つ。愚かな俺は教訓を得たのだった。
「おぉ」
ずらりと並んだ手のひらサイズの可愛らしいケーキに思わず感嘆の声を上げた。
(なるほど……満月だ)
プティ・プレーヌリュヌ。店名どおり、小さいな丸い形にぽよぽよズの姿が重なる。
「なぁオーティス。この真っ白いチーズケーキ、ぽよぽよズみたいで可愛いな。お土産に買って帰ろうよ」
クスッと上品に笑ったオーティスは「フィル様ならそう仰ると思いました」と柔らかく目を細めた。
混ぜ合わせた果物によって淡いピンクだったりオレンジだったりして、テーブルがちょっとした花畑のように見えてくる。
「あっ、これ。マルメロのジャムがかかってる」
「本当ですね」
「昔住んでた小屋の横にマルメロの木が生えてたんだ。実がなると母さんがジャムを作ってくれてさ、それが大好きだったんだ。この匂い……懐かしい」
林檎に似た甘い香り。マルメロの果実を煮詰めている母の足に抱き付いて「まだぁ?」と問いかければ、「もう少し待っててね」と笑顔で頭を撫でてくれる。こういう時、もう一度母さんに会えたらなと思う。
「フィル様。お母様のお墓参りに行きましょう」
「そうだな。婚約が決まったら一緒に報告しに行こう」
「はい」
母との思い出は、あの頃の楽しさと同時に切なさも胸に抱かせる。せっかくの王都デートなのにしんみりとしてしまった。母さんなら「楽しみなさいよ!」と背中をバシッと叩くだろう。
「いただこうか」
「はい、フィル様」
俺たちの間にほんわかと温かな空気が流れた。
(いただこうと言ったものの、どの子から食べよう。悩むところだけど最初はやっぱりこれかな)
ぽよぽよズ激似の真っ白なレアチーズケーキを口に運んだ。
「わっ……これ美味し! …………あのさ、今日はありがとう。オーティスのご家族にきちんと挨拶ができて良かった」
「いえ。お礼を申し上げるのは私の方です」
「一言目に変なこと言ったのはご愛嬌な」
いきなり「息子さんと結婚させてください」だなんて、何度思い出しても恥ずかしい。「緊張しすぎた」と付け足すと、
「変なことだなんて! とても感動しました」
オーティスの食い気味な反論が嬉しくて、「またまた~」と苦笑いに照れ笑いが加わる。
「そういやエリオお兄さんの子供たち、当たり前だけどオーティスの子供の頃に似てたな」
「子供の頃の私はどんな感じでした?」
「え~?」
オーティスってば、めちゃくちゃ『聞きたい』って顔してる。面と向かって言うのは照れ臭いけど、こんな風に気持ちを伝える機会もそうはない。思い切って言っちゃおうか。
「あーっと……第一印象は、めちゃくちゃ格好良い……かな。物静かなんだけど無口ってわけでもなくて、話し方が優しくてたまに笑うと可愛くて……」
『――おやめください!!』
幼い頃の記憶がよぎる。
俺を守るためにアンドレアスたちの前に飛び出してくれたオーティス。今よりもずっと小さな後ろ姿だった。
「…………弱かった俺を守ってくれた、強い人。やっぱり本人を目の前にして言うのは恥ずかしいな」
「……今は? 今の私はどうですか?」
まだ言わせる気なのか? 目を輝かせちゃって、欲張りだな。
「今? 今もめちゃくちゃ格好良いし、優しくて大好きだよ」
そうだ、少し揶揄ってやろう。俺ばっかり言わせた罰だ。
「ねえ、知ってる? オーティスって機嫌が良い時に目を伏せて少しだけ微笑む癖があるんだよ。そういうの可愛いよね」
「…………」
(あ、あれ? そんなに驚いた顔して……もしかして知らなかったの? しかもなんか小刻みに震えてる)
全身にじわりと嫌な汗をかく。適当に話を変えようかなぁ……と別の話題を振ろうとした時、オーティスが自分の前に並べられていたケーキを全てこちらに寄せてきた。
「全部……フィル様が食べてください」
「え? 俺一人でこんなに食べられ……」
俯いたオーティスの顔が見えるように首を低く傾け、そのままテーブルに片頬をペタッとくっ付けた。
心がムズムズする。嬉しくてニヤけてしまうのを必死に抑え込む。
「オーティス~耳が赤くなってる。もしかして照れたのか? 王都に来る途中、馬車の中であんなにも恥ずかしいことしたのに?」
自分の小さな癖がそんなに恥ずかしかったの? めちゃくちゃ可愛い!
「こ、こんな所でそんな話を……誰が聞いているか分かりませんし……」
「ここは個室だよ? 誰がいるの? 俺とオーティスの二人きりじゃん。ねえ、早く帰って続きしよ?」
オーティスってば、耳だけでなく首筋まで赤くなってる。可愛い反応に俺の心は満腹だ。そろそろ終わりにしようかな……。
「……フィル様」
「ん?」
「それ以上揶揄うと……今夜虐めますよ」
(え! 馬車の中でも結構俺のこと虐めてたよ!? それは避け……)
「――っ!?」
顔を上げたオーティスに心臓がドクンッと跳ねる。
困ったような怒ったような。顔を真っ赤にして、拗ねた子供のように口をムッと結んで俺を睨んでる。
(その表情はまずいって……あぁぁぁ)
やりすぎた。全身が熱くて心臓が爆発しそう。これ以上目を合わせていられないと、今度は俺が下を向いてしまった。
「フィル様、こちらを見てください」
「む、無理です…………ごめんなさい」
そしてまた一つ。愚かな俺は教訓を得たのだった。
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