29 / 50
第二章 神器
圧巻
しおりを挟む
クレーターの中にいる妖魔たちは少し、特殊だった。
何が特殊か。
それは、妖魔たちの群れの動き方だった。
最初は不規則に蠢いていた彼らが、今ではまるで見えざる号令を受けたかのように整然と戦闘態勢を取っている。歪な体が引き締まり、闇に溶け込んでいた瞳が一斉に光を帯びる。その目は獲物を捉えた肉食獣のような鋭さを持ち、殺意を滲ませていた。
長くしなやかな触手が岩肌を叩き、骨のように硬い手足が地面を削る。獣のように四足で駆ける者もいれば、二足で直立しながらその手に黒い刃のようなものを生やす者もいる。中には、背を丸めながら空気を震わせるほどの咆哮を上げ、全身から黒い霧を放つ個体もいた。
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
それぞれの妖魔が、まるで一つの意思を共有しているかのように陣形を組む。前線に立つのは、鎧のような外殻を持つ大型の個体たち。無数の目が岩の隙間から覗き、敵の動きを逃さぬようにしている。その後方では、長い腕を持つ異形が何かを詠唱するかのように不気味な音を発し、空間を歪めている。地面には黒いひび割れが走り、そこから這い出すようにさらに小型の魔物たちが次々と生まれ、戦列に加わっていく。
無秩序に見えたその動きには、確かな目的と戦術があった。その動きはもはや、ただの怪物の群れではない。
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
これは、戦争のための軍勢だった。
「ぶっね」
そんな妖魔たちが矛先として牙をむいているのはたった一人の少年であった。
妖魔たちの群れがたった一人の人間を叩き潰す───、そんなの、簡単であるはずだった。
「流石に刀一本でこれをしのぐのは至難の業にも程があるんだけどっ!?」
クレーターの中で不満げに声をあげているその少年は自分へと迫る妖魔の軍勢を圧倒的な力で抑え込んだ。
最初の一発によって無秩序に散らされた妖魔たち。
その無秩序の攻勢はもちろん、秩序がとれた後の攻撃まで、完璧に防ぎ切っていた。
「ふっ」
少年が振るう刀は確実に目の前の妖魔を斬り裂くばかりか、背後にいる妖魔たちまでただの剣圧だけでぶっ潰している。
それを高速に繰り返している少年を前に、妖魔たちは何もできない。真っすぐに向かって行っても、そのすべてが全面において灰燼に帰すのであるから。
少年は一つの場所に留まるのではなく、至るところに移動して剣を振るい続けることより、面をすべて押しつぶしていた。剣だけで、面で迫ってくる妖魔の軍勢を押しとどめていたのだ。
「無駄だよ」
それでもなお、妖魔たちの手段はただの力押しだけではない。
盾のように立ちふさがり、突っ込む妖魔たちの後ろでは、長い腕を持つ異形が何かを詠唱するかのように不気味な音を発し、空間を歪めている。
その妖魔たちがその長い腕を振るえば、空間を切り裂くような妖魔たちの攻撃が世界を駆け抜ける。それは、炎の玉であり、風の刃であり、雷鳴である。
だが、それに向かって少年が刀を振るうだけで、忽然とそれらは姿を消す。ただ、発動したという事実を消されて。
「おォォォッ!?」
そして、その対処に少年が刀を振るい、眼前の敵に振らなくなった時であっても、少年に隙はない。
刀を握ってない手に握られている鞘で殴り、足で蹴り、妖魔たちを消し飛ばしている。
すべてが少年に跳ねのけられていた。
「それも、無駄」
当然、妖魔たちとて無策ではない。
挟み撃ちにしようと色々動いているのだが、その動きの変化を捉えた少年が立ち位置を大きく変え、どうあっても挟み撃ちの態勢にはならないような位置取りへと移動していた。
完全に場の動きを読んでいなければ出来ぬ神業だが、それを少年は当然のように行っていた。
「……末恐ろしいですね」
その様を、少年が、有馬優斗が無双する様を眺める歩佳がぼそりを言葉を漏らす。
「これが、まだ陰陽師になって一週間も経っていない男の姿ですか?まだ、何の術式も使っていないんですよ」
「……そう。そうっ!すごく、強い」
「えぇ……私よりも、確実に。ここまで凄いと、嫉妬する気すらなくなりますね。私たちの上にいる人間だって、これに勝てるとは誰も思っていないですよ?一体一体が二級妖魔で構成される群れであり、全体の脅威度であれば一級妖魔の中でも上位。何でしたら、超級妖魔にさえ、分類されてもおかしくない奴ですよ」
「……同年代の、強い奴っ!」
「どうですか?貴方のお眼鏡にかないましたか?」
「もちろん……あれは、私の婚約者っ」
歩佳の隣にいる美紀はその幼い顔立ちでひときわ輝く大きな瞳をより輝かせながら、優斗のことを眺めていた。
「そうですか」
判断基準は強さだけ。
強さしか見ていない美紀は、自分よりも強い優斗を見て、すぐにでも己の婚約者に相応しいとの決断を下す。実に単純な思考回路。
決断だった。
「……彼に組み伏せられる。ゾッとしますね」
そんな美紀の隣で、歩佳の方は体を震わせるのだった。
その震えは一体なんであるか───それは。
「(天才なんていなくなってしまえ)」
天賦の才を持ったものに対する嫉妬であろうか……?
何が特殊か。
それは、妖魔たちの群れの動き方だった。
最初は不規則に蠢いていた彼らが、今ではまるで見えざる号令を受けたかのように整然と戦闘態勢を取っている。歪な体が引き締まり、闇に溶け込んでいた瞳が一斉に光を帯びる。その目は獲物を捉えた肉食獣のような鋭さを持ち、殺意を滲ませていた。
長くしなやかな触手が岩肌を叩き、骨のように硬い手足が地面を削る。獣のように四足で駆ける者もいれば、二足で直立しながらその手に黒い刃のようなものを生やす者もいる。中には、背を丸めながら空気を震わせるほどの咆哮を上げ、全身から黒い霧を放つ個体もいた。
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
それぞれの妖魔が、まるで一つの意思を共有しているかのように陣形を組む。前線に立つのは、鎧のような外殻を持つ大型の個体たち。無数の目が岩の隙間から覗き、敵の動きを逃さぬようにしている。その後方では、長い腕を持つ異形が何かを詠唱するかのように不気味な音を発し、空間を歪めている。地面には黒いひび割れが走り、そこから這い出すようにさらに小型の魔物たちが次々と生まれ、戦列に加わっていく。
無秩序に見えたその動きには、確かな目的と戦術があった。その動きはもはや、ただの怪物の群れではない。
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
「おぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」
これは、戦争のための軍勢だった。
「ぶっね」
そんな妖魔たちが矛先として牙をむいているのはたった一人の少年であった。
妖魔たちの群れがたった一人の人間を叩き潰す───、そんなの、簡単であるはずだった。
「流石に刀一本でこれをしのぐのは至難の業にも程があるんだけどっ!?」
クレーターの中で不満げに声をあげているその少年は自分へと迫る妖魔の軍勢を圧倒的な力で抑え込んだ。
最初の一発によって無秩序に散らされた妖魔たち。
その無秩序の攻勢はもちろん、秩序がとれた後の攻撃まで、完璧に防ぎ切っていた。
「ふっ」
少年が振るう刀は確実に目の前の妖魔を斬り裂くばかりか、背後にいる妖魔たちまでただの剣圧だけでぶっ潰している。
それを高速に繰り返している少年を前に、妖魔たちは何もできない。真っすぐに向かって行っても、そのすべてが全面において灰燼に帰すのであるから。
少年は一つの場所に留まるのではなく、至るところに移動して剣を振るい続けることより、面をすべて押しつぶしていた。剣だけで、面で迫ってくる妖魔の軍勢を押しとどめていたのだ。
「無駄だよ」
それでもなお、妖魔たちの手段はただの力押しだけではない。
盾のように立ちふさがり、突っ込む妖魔たちの後ろでは、長い腕を持つ異形が何かを詠唱するかのように不気味な音を発し、空間を歪めている。
その妖魔たちがその長い腕を振るえば、空間を切り裂くような妖魔たちの攻撃が世界を駆け抜ける。それは、炎の玉であり、風の刃であり、雷鳴である。
だが、それに向かって少年が刀を振るうだけで、忽然とそれらは姿を消す。ただ、発動したという事実を消されて。
「おォォォッ!?」
そして、その対処に少年が刀を振るい、眼前の敵に振らなくなった時であっても、少年に隙はない。
刀を握ってない手に握られている鞘で殴り、足で蹴り、妖魔たちを消し飛ばしている。
すべてが少年に跳ねのけられていた。
「それも、無駄」
当然、妖魔たちとて無策ではない。
挟み撃ちにしようと色々動いているのだが、その動きの変化を捉えた少年が立ち位置を大きく変え、どうあっても挟み撃ちの態勢にはならないような位置取りへと移動していた。
完全に場の動きを読んでいなければ出来ぬ神業だが、それを少年は当然のように行っていた。
「……末恐ろしいですね」
その様を、少年が、有馬優斗が無双する様を眺める歩佳がぼそりを言葉を漏らす。
「これが、まだ陰陽師になって一週間も経っていない男の姿ですか?まだ、何の術式も使っていないんですよ」
「……そう。そうっ!すごく、強い」
「えぇ……私よりも、確実に。ここまで凄いと、嫉妬する気すらなくなりますね。私たちの上にいる人間だって、これに勝てるとは誰も思っていないですよ?一体一体が二級妖魔で構成される群れであり、全体の脅威度であれば一級妖魔の中でも上位。何でしたら、超級妖魔にさえ、分類されてもおかしくない奴ですよ」
「……同年代の、強い奴っ!」
「どうですか?貴方のお眼鏡にかないましたか?」
「もちろん……あれは、私の婚約者っ」
歩佳の隣にいる美紀はその幼い顔立ちでひときわ輝く大きな瞳をより輝かせながら、優斗のことを眺めていた。
「そうですか」
判断基準は強さだけ。
強さしか見ていない美紀は、自分よりも強い優斗を見て、すぐにでも己の婚約者に相応しいとの決断を下す。実に単純な思考回路。
決断だった。
「……彼に組み伏せられる。ゾッとしますね」
そんな美紀の隣で、歩佳の方は体を震わせるのだった。
その震えは一体なんであるか───それは。
「(天才なんていなくなってしまえ)」
天賦の才を持ったものに対する嫉妬であろうか……?
10
あなたにおすすめの小説
付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜
咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。
そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。
「アランくん。今日も来てくれたのね」
そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。
そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。
「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」
と相談すれば、
「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。
そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。
興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。
ようやく俺は気づいたんだ。
リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜
大沢ピヨ氏
ファンタジー
地味で不遇な風魔法──でも、使い方しだいで!?
どこにでもいる男子高校生が、意識高い系お嬢様に巻き込まれ、毎日ダンジョン通いで魔法検証&お小遣い稼ぎ! 目指せ収入UP。 検証と実験で、風と火が火花を散らす!? 青春と魔法と通帳残高、ぜんぶ大事。 風魔法、実は“混ぜるな危険…
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる