秀頼に迫られた選択〜トヨトミ・プリンスの究極生存戦略〜

中野八郎

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第一部 大坂の変

第一章 大坂城に覆う暗雲

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 慶長十六年(西暦1611年)二月二十四日 京・二条城

 京の春はまだ浅い。冷たい風が障子を震わせ、庭の梅がようやくほころび始めて、白い花弁が淡い光に揺れている。空気には冬の名残がありながら、どこか柔らかな匂いが混じっていた。
 城下の道では早春の陽を受けて瓦屋根が鈍く光り、町家の軒先に干された白布が風に揺れる。人々の声は遠く、駕籠の中に届くのは車輪の軋みと馬の鼻息だけだった。秀頼は目を閉じ、揺れに身を任せながら胸中に重い影を抱えている。
 差し込む光は柔らかいが、その光は秀頼の胸には届かず、影だけが深まっていく。芽吹きの季節にあっても、その心は曇り、冷たい理が静かに渦を巻いていた。
 濃紺の直衣に金糸の家紋が光り、髷を結い、烏帽子を正しく戴いた姿は若き当主の威を示している。しかし、その威の奥に潜むのは父の影と時代の重圧であった。
「父の遺したものは、城と名ばかりにあらず。血と怨嗟なり。武をもって挑んだ父は滅びぬ。われは、血を流さぬ天下を望む」
『孫子曰く、「戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」』
 その言葉が秀頼の胸に響く。『戦わずして勝つ――これぞ、我が道なり』
 駕籠の外、二条城の石垣が見え始めた。白壁は春の光を受けてなお冷たく、巨大な門は沈黙のまま威圧を放っている。
 秀頼は静かに息を吐き、胸の奥で理を研ぎ澄ませた。今日の言葉ひとつが豊臣の未来を決する――その覚悟だけが、揺れる駕籠の中で確かに燃えていた。


 前日、千姫と二人きりで茶を囲んだひとときが脳裏に浮かぶ。

 嫁いできて八年、二人は夫婦というより、むしろ信頼し合う兄妹のような関係であった。千姫は母の重すぎる期待から逃れるために、秀頼にとって唯一の心の寄り処であり、理解者でもある。
 縁側に春の光が差し込み、庭の梅が白い花をほころばせていた。千姫は淡紅の打掛をまとい、白粉の肌に紅を差した唇が柔らかく微笑む。
「殿、怖うございますか?」
 千姫は首をかしげ、淡紅の打掛の袖が春の光を受けて揺れた。
「怖いというより、重うございます」
 秀頼は苦笑し、茶碗を指先で転がす。
「重うございますなら、笑うて軽うなされませ」
 千姫の声は柔らかく、庭の梅の香りとともに広がった。
「笑顔にて天下は守れぬ」
 秀頼の言葉は低く、胸の奥で冷たい理が渦を巻いていた。
「狸は笑顔に弱うございますと聞き及びました」
 千姫は小さく笑みを浮かべ、白粉の頬に春の光が差した。
「狸は笑顔より、理にこそ弱し」
 秀頼は静かに答え、その眼差しに決意の影が宿る。
「案ずることはございませぬ。おじい様は、ただ殿にお会いしたかっただけでございまする」
 千姫はそっと秀頼の手に触れた。その託しない笑顔は、いつも秀頼の心を癒していく。この娘がいる限り、理は揺るがぬ――そう思えた。
 その時、襖が静かに開き、お奈津が現れる。藍色の打掛に身を包み、丸髷を結った姿は落ち着きと威厳を漂わせていた。
「御台様、殿のお心を煩わせぬよう、私はただ淀様のお言葉をお伝えに参ったまで」
 礼儀正しい声だが、その眼差しに一瞬、嫉妬の影がよぎった。
「明日、大御所様にお目通りなされる故、早々ご用意なされるがよろしゅうございます」
「存じておる」
 秀頼は束の間の安寧さえ母の影に侵されることに、胸の奥で重い息を吐いた。
「せめて、ひと時の休みを許してほしい」
「殿、そうおっしゃらずに参りましょう。淀様のお心は正しゅうございます」
 千姫までそう言えば、秀頼は仕方なく、お奈津とともにその場を後にした。
『二人の視線が交わるたび、空気が冷える。距離を置く――それが、千を守るための道だ』
 秀頼は胸中で静かに呟いた。


「豊臣殿、どうぞお入り」
 案内の声に、秀頼は我に返った。声は本多正純のものであった。家康の腹心にして、礼儀作法に通じた男である。
「はっはあ、ご苦労にございます」
 秀頼はゆるやかに立ち上がり、奥へと進む。加藤清正も後ろに続いた。
 広間には障子越しの光が差し、家康が束帯姿で静かに座していた。黒の烏帽子、濃茶の直衣に金糸の家紋――老将の眼は鋭く、若き当主を射抜く。
 秀頼は優雅に座し、深く頭を下げた。その声は器量を感じさせる落ち着きがあった。
「大御所様、此度お招きいただき、かたじけなく存じます。遥々のお旅、まことにご苦労にございまする」
 目の前の若者の振る舞いに、家康は暗に思う。
『これはこれは……我が子、秀忠にも勝る器量よ。声に曇りなく、礼も整っている。だが――』
 家康の眼はさらに深く秀頼を探った。
『その奥に影がある。何かを隠しているか……いや、秩序を語る器量はある。だが、若さゆえの危うさも見える。秩序か、野望か――見極めねばならぬ』
「いえいえ、とんでもない。余はただ、可愛い孫娘がお慕い申す殿方に、一目お会いしたかっただけにござる。本日こうしてお目にかかり、誠に立派なお方でございますな」
 家康は本心を一切漏らさず、建前の美しい言葉を静かに紡いだ。
「はっはあ、もったいないお言葉、光栄に存じまする」
 秀頼は柔らかな笑みを浮かべ、胸の奥でわずかな安堵を覚えた。
「豊臣殿は、今年おいくつでござりまする?」
 家康の声音は隣家の翁のように穏やかであった。だが、その眼差しには鋭い光が潜んでいる。秀頼の警戒を解きつつ、心の奥を探る一手――。
「十九にございます」
 秀頼は答えながら、己が家康の掌の上で舞っていることを、うすうす感じていた。

「というより、本日は大御所様に、ささやかな土産をお持ち参りました。清正殿、お願い致しまする」
 秀頼は後ろに控える加藤清正に声をかけた。
「はっはあ!」
 清正は力強く応じ、後ろに命じる。
「参れ!」
 お使いたちが列をなし、数多の箱を運び込む。畳の上に整然と並べられた箱の蓋が、次々と開かれた。
「大御所様、薄き品にて、誠に恐れ入りまするが、どうぞご覧くださりませ」
 秀頼は自ら箱を開け、一つずつ品を示した。畳の上に並ぶ箱の蓋が静かに外され、広間に香木の幽かな香りが漂う。
「まずは唐物の茶入れにございます。肩衝の名物にて、千利休以来、茶の湯の誉れ高き品にございます。武家の和を結ぶ器、どうぞお目に留め置かれませ」
 秀頼の声は落ち着き、所作は優雅であった。
「こちらは伽羅の香木にて、遠き南蛮より渡りしもの。茶席を清める香り、まことに幽玄にございます」
 香りが広間に満ち、家康はわずかに鼻を動かした。
「さらに、絹織の錦にございます。堺の名工の手によるものにて、御台様にもお喜びいただけるかと存じまする」
 秀頼は箱を開ける手を止めず、言葉に曇りはない。
「最後に、金銀細工の器にございます。細工の妙、どうぞお目に留め置かれませ」
 家康は静かに頷き、眼差しを秀頼に向けた。
「これはご丁寧に、ありがたいな。豊臣殿は品への心得、なかなかのものにございますな」
 家康は隣家の翁を演じるかのように、柔らかな笑みを浮かべた。
「お言葉に返すものはございませぬ」
 秀頼はその意図を察しながらも、見透かせぬ己が、胸中に淡き苦みを残した。少なくとも、豊臣家に恥をかけぬこと、そして徳川家との良好な関係を保つこと――それが今の務めである。

 家康はふと話題を変え、柔らかな声音で探りを入れた。
「豊臣殿は、関ヶ原の事、ご存じでござるか?」
 その一言に、秀頼の胸は凍り付いた。誤り一つが命取り――その予感が胸を刺す。
「はっはあ、あの頃はまだ幼うございましたが、母上よりも聞き及んでおります。大御所様のおかげにて、この世に泰平が訪れたと」
 秀頼の声は静かであったが、胸の奥では炎が揺れていた。
 淀殿から聞かされたのは、家康が豊臣家の忠臣・石田三成を討ち、天下を奪った敵という言葉。だが、それを口にすることは、子供でも知っている――絶対に許されぬ真実であった。
 家康の真意は見透かせぬ。だが、今は敵ではない。それだけは、秀頼にも分かっていた。
「分かってくれて嬉しいな。豊臣殿は、この泰平の世をいかがお考えか?」
 家康は容赦なく、秀頼の本心を深く探り続けた。
「世は静まった。されど、その静けさは脆うございます」
 秀頼は深く頭を下げたまま、言葉を選んで答えた。
 悔しさ――それは家康に頭を垂れることへの感情ではない。一方的に心を覗かれることへの苦みであった。
「ほう、続けて申してみよ」
 家康の声音は楽しげであったが、その眼差しには鋭い光が潜んでいる。
「嵐を恐れる者は、嵐を呼びます。秩序を守るには、戦ではなく理が要りまする」
「理だけで世は治まらぬ」
 家康の眉がわずかに動いた。
 秀頼は静かに膝を進め、頭を上げた。その眼差しは家康をまっすぐ射抜く。声には力が宿っていた。
「そのためなら……何でもやってみたいと存じます。豊臣の名も、城も、父の遺産も――改めて、この世にふさわしくしたい」
 家康の眼が細くなる。
『若者の理想は、時に剣より鋭い。試す。秩序か、野望か――見極めねばならぬ』
「ほははは……よかろう、さすが余の孫娘が見定めた殿方でございますな!」
 家康は改めて軽い言葉に切り替えた。
「御台様は、健やかに過ごしておられるか」
 家康の声音は柔らかいが、その眼差しには探る光が潜んでいる。
 秀頼は礼を尽くして答える。
「はい。徳川様のご厚情に感謝しております」
 言葉は整っていた。だが、わずかな間があり、その奥に影が差した。
 家康はその揺らぎを見逃さなかった。
『何か事情があるな……でも、深刻なことじゃないだろう。秀頼なら、悪くはしないはずだ』
 障子越しの光が二人の影を長く伸ばす。香木の香りが漂う中、面会は静かに幕を閉じた。
  

 外に出ると、清正は秀頼に歩み寄り、深く頭を下げた。石畳に膝をつき、その巨体が春の陽光の下で影を落とす。
「本日の殿のお振る舞い、まことに見事にございました。この清正、命を賭して殿に従い続けること、ここにお誓い申し上げまする」
 秀頼はわずかに笑みを浮かべ、静かに首を振った。その表情には、老成した諦念が漂っている。
「もうよせ、清正殿。余は父と違い、関白でもござらぬ。余に従うて得られるものなど、何もない」
 声に滲む淡い諦めは、十九歳の若者が背負うには重すぎる現実の重みだった。
 ――今さら勢力を築くには、潮時は過ぎた。天下を握るのは家康。余計な動きをすれば、必ずや災いが降りかかる。自分にも、愛する者にも。
「ですが、亡き太閤殿下の悲願は……」
 清正の眼には、なお消えぬ炎が宿っていた。彼にとって秀吉の遺志は絶対であり、その実現こそが武士としての誇りであった。拳を握りしめ、声は震えている。
 秀頼は静かに清正の肩に手を置いた。その手は思いのほか温かく、清正の心に複雑な感情を呼び起こす。
「よいのだ。亡き父は多くの非を重ねた。余は、その恨みを引き継がせぬ。もし穏便に治まるなら、臣下となることなど、軽きことと存ずる」
 清正は言葉を失い、深く頭を垂れた。主君の高潔さと、それがもたらす絶望的な現実に打ちのめされている。
「……殿。承知仕りました。では、この清正、ここにて失礼致しまする」
 その背中には、武士としての誇りと忠義の間で引き裂かれる男の哀しみが刻まれていた。秀頼はそれに気づきながらも、止める言葉を持たない。静かに歩を進めるしかなかった。
 だが清正の胸には、まだ火種が残っていた――豊臣の栄光を取り戻す日がいつか来ると信じて。
 残念ながら、その日を彼が見ることは、永遠に叶わなかった。


 大坂城に戻ると、空はすでに藍色に沈み、星がまばらに光っていた。
 館の奥では、淀殿、千姫、お奈津、お藤が呼び集められていた。これは秀頼が城内にいない折の、定例の集まりである。女たちだけの、静かな戦場だった。

 淀殿は濃紫の打掛に身を包み、金の簪をきらめかせながら孫・国松を膝に抱き、満面の笑みを浮かべていた。その傍らでは、侍女の腕に幼き姫が抱かれているが、淀殿の視線は国松にのみ注がれ、他の子には一瞥もくれない。
 お奈津は、淡い藍色の打掛に身を包み、髪は上品な丸髷に結い上げ、銀の簪が灯りを受けて静かに輝いている。白粉は控えめながら、眉は細く整えられ、唇には薄紅が差されていた。姿勢は正しく、袖の動きも優雅で、京の公家出身らしい静かな誇りが漂う。千姫に向ける視線には、文化的自信と家格の誇りが滲んでいる。
 お藤は、深い紅色の打掛に身を包み、髪は艶やかに結い上げ、金の櫛と真珠の簪が華やかさを添えている。白粉はやや濃く、頬にはほんのり紅が差され、唇はしっかりと紅を引いていた。成田家の格式を示す帯飾りが、彼女の立場を静かに主張している。控えめな所作の奥には、城内の動きに常に目を光らせる防衛の知恵が感じられる。侍女たちの所作にもさりげなく指示を与え、奥の秩序を保っている。
 千姫は、打掛の袖を膝の上に重ね、静かに座していた。城外で徳川との交渉を担う一方、城内では孤独を感じていた。世継ぎ問題に悩みながらも、外交の要としての責任を背負っている。

 お奈津は静かに座し、千姫に微かな優越感を漂わせる視線を送る。 「母上は国松に甘えすぎでございます」 お奈津は親しげな声で淀殿に語りかける。まるで実の娘のように。
「よいではないか。まだ幼子にございますし、我が豊臣家の大事な世継ぎでござるよ」 淀殿は満足げに頷き、国松を膝に抱いたまま、二人の側室を見渡して言葉を続ける。
「お奈津の方も、お藤の方も、よく家のために尽くしてくれている。和歌も茶道も、京や江戸の誉れに恥じぬ腕前。豊臣家の文化も、そなたたちのおかげで高まっておる」
 お藤は、静かに国松の様子を見守りながら、柔らかな声で淀殿に言葉をかける。 「国松様は、ますますご立派に育っておられます。母上のご慈愛の賜物にございます」 お藤の声は控えめだが、成田家の誇りと品格が滲んでいる。
 その言葉には、千姫への直接の難癖はないものの、明らかに“外された”空気が漂う。千姫は、毎度この空気に耐えていた。淀殿に叩かれたり罵られたりすることはない。だが、この無言の圧力――見せつけるような空間が、彼女には何より辛かった。自分だけが部外者であるかのような疎外感。
「世継ぎを産むのは武家の女の定めにて……御台様も、よう見ておきなされ」 淀殿は冷ややかな視線を千姫に送り、言葉を落とした。その声には、明らかな当てつけが込められている。
「はい……」 千姫は視線を落とし、小さく答える。その声には、止める力を持たぬ己への悔しさが滲んでいた。畳の縁を見つめる眼に、涙が宿りそうになる。

「母上、ただいま戻り参りました」 秀頼は、千姫への視線を逸らすため、静かにその場へ割って入った。空気の重さを察し、救いの手を差し伸べるように。
「ああ、秀頼か。家康公とのご会見はいかがでございましたか?」 淀殿の声には切望が滲んでいた。それは大坂城の安堵への願いと、かつての栄光への執念である。幼き頃に父を失い、母も死に追い込まれ――大人になるかならぬうちに、親の仇である秀吉に身を委ねて得た今日。それを手放すなど、到底許せぬ。
「はっはあ、大御所様はとても穏やかな方で、お千が申した通り、お話しやすい方にございました」 秀頼は、嘘を交えて答えた。本当のことを言えば、千姫の境遇はさらに悪くなるに違いない。

 この瞬間、秀頼の胸に冷たい刃が刺さる。
『千は子を産めぬわけではない。母上がいつも妨げてきたのだ……。お奈津を使って割り込ませたり、家康公と敵対しようとしたり――もし子を授かれば、親子ともに不幸を招く。それなのに、その言葉を千に浴びせるとは』
 これは父・豊臣秀吉が残した最大の負の遺産である――秀頼はそう悟っていた。母がこの城にいる限り、徳川との安寧は訪れぬ。胸の奥に、冷たい予感が静かに広がっていく。
「左様でござるか……」
 淀殿の声には、明らかな落胆が滲んでいた。愛する息子が、憎む相手に懐柔されるなど、夢にも見たくはなかった。自ら多くの犠牲を払い、あの"ハゲネズミ"を耐え忍び、ようやく天下人の母となったというのに――家康はそのすべてを壊し、孫娘で息子の心までも奪おうとしている。
 この思いを、秀頼が知るはずもない。彼はただ、天下の泰平と家族の平穏を望んでいるだけだった。


 夜の大坂城は静まり返っていた。月明かりが障子を透かし、廊下に淡い影を落としている。
 秀頼は文机に向かい、筆を握ったまま動かない。母の言葉が耳に残り、千姫の悲しげな表情が瞼に浮かぶ。
「殿……」
 柔らかな声が背後から響いた。お奈津が灯りを手に立っていた。夜着に身を包んだ姿は、昼間の礼装とは違う親しみやすさを漂わせている。
「御身が曇っておられるように見えまして」
 秀頼は筆を置き、静かに息を吐いた。肩の力が抜け、十九歳の青年の脆さが表面に現れる。
「母上の言葉が胸に残る。家康公への不信、そして千に向けられた棘は、私にも刺さる」
「御台様は、殿のお心を信じておられます。……清正様も同じ。家を守るために、殿が選ばれる道ならば」
 お奈津は一歩近づき、その声は穏やかだった。灯りの光が二人の間に温かな空間を作り出している。
 秀頼はその言葉に、わずかな安らぎを覚えた。彼女の肩に手を置く。
『血は残した。だが、愛する者を犠牲にするつもりはない』
 その独白は、灯りの中で静かに溶けていった。
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