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筋肉嫌いなカレン
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それは繰り返される日常の、ありふれた一日の朝だった。
カレンはいつものように洗い終わった洗濯物を物干し竿にかけていた。
「今日は暑くなるから、すぐに乾きそうね」
「そうだね。でもここしばらく天気が悪かったから凄い量だけどね。一度に干すのは無理かも」
洗濯物を広げていた母が、久しぶりの太陽に嬉しそうに空を見上げる。
カレンも日差しに目を細めつつも、洗い終わったばかりの山盛りの洗濯物を前にすでに心が折れそうだった。
洗っただけで、もうへとへとだったのである。
少し離れた場所ではいつものように非番の騎士が自主練として剣を振っているが、特に興味も湧かず、カレンの中では風景の一部になっていた。
カレン母子の二人は騎士団の寮で働いている為、騎士はもはや家族同然、見慣れた存在なのだ。
あっちもマッチョ、こっちもマッチョ、どこを見てもマッチョしかいないこの寮に、カレンは十歳の頃から住んでいる。
騎士だった父が任務で命を落とし、大黒柱を失ったカレンの母がこの寮で働きだしたからだ。
住み込みで働く母と一緒にここで暮らし始めたカレンも、十七歳となった今では立派に家政婦として男所帯の寮を家事面で支えていた。
まったく、どうして騎士ってこう馬鹿でかいのかしら。
洗い物も増えるし、食べる量も尋常じゃないし、ほんと不経済よね。
亡くなったカレンの父も騎士だった為、当然立派な体付きをしていてマッチョ体型だった。
しかしいくら鍛えていても、父は命を落としてしまった。
筋肉は父を守ってはくれなかったのである。
そのことが子供心にショックだったのか、カレンは筋肉が好きではなかった。
マッチョだった父を失った悲しみが原因となり、筋肉への嫌悪感が芽生えたとしても誰にもそれを咎めることは出来ないだろう。
『あーもう、なんで騎士ってこんなにムキムキで暑苦しいのかしら』『また体が大きくなったんじゃないの? 邪魔だし空気が薄くなる気がするからやめて』
普段から騎士と筋肉に対して暴言を吐きまくっているカレンだったが、生い立ちと見た目の可愛らしさからすべてを許されていた。
元々男ばかりの騎士団寮ではカレンはお姫様のように大切にされていたのである。
キツイ言動にも彼らは面白そうに笑い、わざと揶揄うようにカレンに筋肉を見せつけていた。
カレンも寛大な騎士たちに甘えている自覚がありつつも、彼女の筋肉嫌いは寮の全員に浸透していたのだった。
「カレンちゃーん、こっちも追加ねー」
「え、まだあるの? いくら雨が続いていたからってみんな洗い物を溜めすぎじゃないの?」
今日は午後から仕事だと言っていた騎士のホセが、籠を持って立っていた。
洗濯物の多さに気が遠くなりそうだ。
「悪いと思ってるって。でも今日は団長がお土産買ってくるってよ? 『近々新人も入って来るし、カレンのご機嫌をとっておかないとなー』って朝言ってた」
「ホセさん、お土産は嬉しいけれど、そういうことは私には黙っておくべきなんじゃないかしら?」
「カレン、文句ばっかり言っていないで手を動かしなさい」
「はーーい」
母に怒られたカレンが濡れたタオルを手に取ろうとしゃがんだ時だった。
「カレン!!」
「危ない!!」
母とホセの叫ぶ声が聞こえた直後、カレンは頭に衝撃を感じた。
気を失う前に見えたものはシーツやシャツの白さで、どうやら竿が落ちてきたらしい。
そういえば物干し竿の根本のほうが腐食してきてたんだわ。
きっと今日の重みに耐えきれずに折れちゃったのね。
私、また死んじゃうのかしら……ん? また?
カレンの意識はそこで途切れた。
カレンはいつものように洗い終わった洗濯物を物干し竿にかけていた。
「今日は暑くなるから、すぐに乾きそうね」
「そうだね。でもここしばらく天気が悪かったから凄い量だけどね。一度に干すのは無理かも」
洗濯物を広げていた母が、久しぶりの太陽に嬉しそうに空を見上げる。
カレンも日差しに目を細めつつも、洗い終わったばかりの山盛りの洗濯物を前にすでに心が折れそうだった。
洗っただけで、もうへとへとだったのである。
少し離れた場所ではいつものように非番の騎士が自主練として剣を振っているが、特に興味も湧かず、カレンの中では風景の一部になっていた。
カレン母子の二人は騎士団の寮で働いている為、騎士はもはや家族同然、見慣れた存在なのだ。
あっちもマッチョ、こっちもマッチョ、どこを見てもマッチョしかいないこの寮に、カレンは十歳の頃から住んでいる。
騎士だった父が任務で命を落とし、大黒柱を失ったカレンの母がこの寮で働きだしたからだ。
住み込みで働く母と一緒にここで暮らし始めたカレンも、十七歳となった今では立派に家政婦として男所帯の寮を家事面で支えていた。
まったく、どうして騎士ってこう馬鹿でかいのかしら。
洗い物も増えるし、食べる量も尋常じゃないし、ほんと不経済よね。
亡くなったカレンの父も騎士だった為、当然立派な体付きをしていてマッチョ体型だった。
しかしいくら鍛えていても、父は命を落としてしまった。
筋肉は父を守ってはくれなかったのである。
そのことが子供心にショックだったのか、カレンは筋肉が好きではなかった。
マッチョだった父を失った悲しみが原因となり、筋肉への嫌悪感が芽生えたとしても誰にもそれを咎めることは出来ないだろう。
『あーもう、なんで騎士ってこんなにムキムキで暑苦しいのかしら』『また体が大きくなったんじゃないの? 邪魔だし空気が薄くなる気がするからやめて』
普段から騎士と筋肉に対して暴言を吐きまくっているカレンだったが、生い立ちと見た目の可愛らしさからすべてを許されていた。
元々男ばかりの騎士団寮ではカレンはお姫様のように大切にされていたのである。
キツイ言動にも彼らは面白そうに笑い、わざと揶揄うようにカレンに筋肉を見せつけていた。
カレンも寛大な騎士たちに甘えている自覚がありつつも、彼女の筋肉嫌いは寮の全員に浸透していたのだった。
「カレンちゃーん、こっちも追加ねー」
「え、まだあるの? いくら雨が続いていたからってみんな洗い物を溜めすぎじゃないの?」
今日は午後から仕事だと言っていた騎士のホセが、籠を持って立っていた。
洗濯物の多さに気が遠くなりそうだ。
「悪いと思ってるって。でも今日は団長がお土産買ってくるってよ? 『近々新人も入って来るし、カレンのご機嫌をとっておかないとなー』って朝言ってた」
「ホセさん、お土産は嬉しいけれど、そういうことは私には黙っておくべきなんじゃないかしら?」
「カレン、文句ばっかり言っていないで手を動かしなさい」
「はーーい」
母に怒られたカレンが濡れたタオルを手に取ろうとしゃがんだ時だった。
「カレン!!」
「危ない!!」
母とホセの叫ぶ声が聞こえた直後、カレンは頭に衝撃を感じた。
気を失う前に見えたものはシーツやシャツの白さで、どうやら竿が落ちてきたらしい。
そういえば物干し竿の根本のほうが腐食してきてたんだわ。
きっと今日の重みに耐えきれずに折れちゃったのね。
私、また死んじゃうのかしら……ん? また?
カレンの意識はそこで途切れた。
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