【完結】マッチョ大好きマチョ村(松村)さん、異世界転生したらそこは筋肉パラダイスでした!

櫻野くるみ

文字の大きさ
2 / 9

筋肉嫌いなカレン

しおりを挟む
それは繰り返される日常の、ありふれた一日の朝だった。
カレンはいつものように洗い終わった洗濯物を物干し竿にかけていた。

「今日は暑くなるから、すぐに乾きそうね」
「そうだね。でもここしばらく天気が悪かったから凄い量だけどね。一度に干すのは無理かも」

洗濯物を広げていた母が、久しぶりの太陽に嬉しそうに空を見上げる。
カレンも日差しに目を細めつつも、洗い終わったばかりの山盛りの洗濯物を前にすでに心が折れそうだった。
洗っただけで、もうへとへとだったのである。

少し離れた場所ではいつものように非番の騎士が自主練として剣を振っているが、特に興味も湧かず、カレンの中では風景の一部になっていた。
カレン母子の二人は騎士団の寮で働いている為、騎士はもはや家族同然、見慣れた存在なのだ。
あっちもマッチョ、こっちもマッチョ、どこを見てもマッチョしかいないこの寮に、カレンは十歳の頃から住んでいる。
騎士だった父が任務で命を落とし、大黒柱を失ったカレンの母がこの寮で働きだしたからだ。
住み込みで働く母と一緒にここで暮らし始めたカレンも、十七歳となった今では立派に家政婦として男所帯の寮を家事面で支えていた。

まったく、どうして騎士ってこう馬鹿でかいのかしら。
洗い物も増えるし、食べる量も尋常じゃないし、ほんと不経済よね。

亡くなったカレンの父も騎士だった為、当然立派な体付きをしていてマッチョ体型だった。
しかしいくら鍛えていても、父は命を落としてしまった。
筋肉は父を守ってはくれなかったのである。
そのことが子供心にショックだったのか、カレンは筋肉が好きではなかった。
マッチョだった父を失った悲しみが原因となり、筋肉への嫌悪感が芽生えたとしても誰にもそれを咎めることは出来ないだろう。

『あーもう、なんで騎士ってこんなにムキムキで暑苦しいのかしら』『また体が大きくなったんじゃないの? 邪魔だし空気が薄くなる気がするからやめて』

普段から騎士と筋肉に対して暴言を吐きまくっているカレンだったが、生い立ちと見た目の可愛らしさからすべてを許されていた。
元々男ばかりの騎士団寮ではカレンはお姫様のように大切にされていたのである。
キツイ言動にも彼らは面白そうに笑い、わざと揶揄うようにカレンに筋肉を見せつけていた。
カレンも寛大な騎士たちに甘えている自覚がありつつも、彼女の筋肉嫌いは寮の全員に浸透していたのだった。

「カレンちゃーん、こっちも追加ねー」
「え、まだあるの? いくら雨が続いていたからってみんな洗い物を溜めすぎじゃないの?」

今日は午後から仕事だと言っていた騎士のホセが、籠を持って立っていた。
洗濯物の多さに気が遠くなりそうだ。

「悪いと思ってるって。でも今日は団長がお土産買ってくるってよ? 『近々新人も入って来るし、カレンのご機嫌をとっておかないとなー』って朝言ってた」
「ホセさん、お土産は嬉しいけれど、そういうことは私には黙っておくべきなんじゃないかしら?」
「カレン、文句ばっかり言っていないで手を動かしなさい」
「はーーい」

母に怒られたカレンが濡れたタオルを手に取ろうとしゃがんだ時だった。
「カレン!!」
「危ない!!」

母とホセの叫ぶ声が聞こえた直後、カレンは頭に衝撃を感じた。
気を失う前に見えたものはシーツやシャツの白さで、どうやら竿が落ちてきたらしい。

そういえば物干し竿の根本のほうが腐食してきてたんだわ。
きっと今日の重みに耐えきれずに折れちゃったのね。
私、また死んじゃうのかしら……ん? また?

カレンの意識はそこで途切れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

異世界推し生活のすすめ

八尋
恋愛
 現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。  この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。  身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。  異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。​​​​​​​​​​​​​​​​ 完結済み、定期的にアップしていく予定です。 完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。 作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。 誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。 なろうにもアップ予定です。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

処理中です...