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【高城の章】
6 ヒントってなんの?(1)
しおりを挟む上靴を脱ぎ捨てる。
神楽坂先生に気付かれないよう足音を忍ばせながら、高城は第一校舎三階の廊下を走ったが、すでに塚田の姿はどこにもなかった。
「第二校舎へ逃げたのか……? それとも、どこかの教室に……」
ひとつずつ、教室のなかをのぞき込みながら塚田を捜す。
暗い教室の床に黒い塊が転がっているのを見つけるたびに、高城の心臓は早鐘を打った。
それらが文化祭の出し物の一部だったり、準備で出たゴミをまとめたもだとわかると、高城はほっと一安心したが、緊張を解かずに、また次の教室へ向かう。
階段を下り、二階へ足を踏み入れたとたん、暗い廊下から、ぴしゃりと教室の引き戸が閉まる音が聞こえた。
(あきらかに、俺から逃げている) 高城はそう思った。
(俺の気配を神楽坂先生だと勘違いしているんだ。あれは徹だ!)
高城は嬉しくなって足音も気にせず、思いきり廊下を走った。そして直前に閉まった教室の引き戸を、いきおいよく開ける。
「徹!」
そのとたん、高城は胸ぐらをつかまれて、暗い教室のなかに引きずり込まれた。抵抗もできないまま窓際まで引きずられる。
高城はパニックにおちいりながらも、胸ぐらをつかむその腕を力いっぱい引っかいた。
「痛いよ、ばか! セオリーは叩くだろ。引っかくって、ネコか!」
その怒鳴り声は、塚田だった。
塚田は高城の頭を上から押して、無理矢理しゃがみ込ませると、しいっと指で黙るように指示を出し、その指で窓の外を指し示した。
「神楽坂先生だ!」
高城が押し殺した声で言った。
塚田が黙ってうなずく。
「ようやく第二校舎に戻っていったんだ。悪かったな、捜しているのは気付いたんだが、タイミング的に出て行けなくて」
「そんなことより、よく逃げ切ったな徹。おまえ、音楽室で先生に見つかっただろ? あのとき、俺も奥の音楽準備室にいたんだよ」
「知ってる。監視してたんだ、間違いが起きないように」
「間違い?」
「ああ、つまり……」
塚田は窓から視線を外すことなく、坊主頭を引っかきながらこたえた。
「音楽室の窓から、第二校舎の廊下が監視できるんだ。タイミングを間違えて、神楽坂先生に見つからないように」
「やることは同じだな」 高城がにやりと笑った。
「音楽準備室にも小窓があって、第二校舎が丸見えなんだよ。こうして神楽坂先生の姿が見えるうちは、第一校舎は安全だからな。音楽準備室に戻ろう。そこに佐倉もいるんだ」
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