『悪の幹部ですが、正義のヒーローの愛が重すぎて殉職しそうです』

るみ乃。

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第3章 やさしさが、鎖に変わるまで

12.医務室の秘密と、交わされた約束

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 ……冷たい。
 ああ、倒れたんだ、僕。

 雨音が遠くなって、代わりに聞こえてきたのは、
 規則正しい足音と低い呼吸。
 次に気づいたとき、僕は医務室のベッドに寝かされていた。

「……起きてるのか」

 この声。
 さっき、僕の訓練を止めた男。

 薄く目を開けると、彼はもう手当を始めていた。
 濡れた制服を手際よく外し、傷口を確認して、消毒。
 無駄がなくて、迷いもない。
 ……ひどく、優しい。

 なにこれ。ズルくない?

 僕は嫌われ者だ。
 才能があるって言われて、でも扱いづらいって顔をされて、
 結局は距離を置かれる存在。
 それなのに、この人は当然みたいに、僕を「守る側」の顔で見ている。

「……なんで助けたんですか」

 自分でも驚くほど、声が震えていた。

「僕みたいな、生意気で、出来損ないを」

 半分は挑発。半分は確認。ちょっと試すつもりだった。
 否定されるか、説教されるか、距離を置かれるか。
 そのどれでもいい。だって、慣れてるから。

 なのに。

「君が将来、誰かの光になると思ったからだ」

 静かで、まっすぐで、逃げ場のない声。

 ……もぉ、反則だよ。
 そんな言葉、簡単に言わないでほしい。

 胸の奥が、ぎゅっと掴まれたみたいに痛くなった。
 誰かの光?そんなもの、考えたこともなかった。
 でも……
 この人にそう言われると、否定できなかった。

 男は、それ以上何も言わず、包帯を整えて立ち上がった。
 去り際、ポケットからハンカチを一枚取り出して、僕の枕元に置く。

「濡れたままだと冷える。使え」

 それだけ。
 ……あ、もう行っちゃうんだ。

 引き止めたいのに、言葉が出ない。
 だから僕は、代わりにそのハンカチをぎゅっと握りしめた。

 まだ、あったかい。この人の体温が、残ってる。

 この瞬間、はっきり分かった。
 僕にとっての「正義」は、もう世界とか平和とかじゃない。

 ねえ、分かってる?
 あなたはただ手を差し伸べただけかもしれないけど、
 僕はもう、戻れなくなった。

 一度、こんなふうに見つめられたら。
 一度、肯定されたら。
 だって。
 一度その光を見せられたら……

 ……大丈夫。
 ちゃんと、期待に応えるから。
 あなたが望む「ヒーロー」になるから。

 その代わり――
 最後まで、責任とって?
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