『悪の幹部ですが、正義のヒーローの愛が重すぎて殉職しそうです』

るみ乃。

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第5章 密室の看病

25.光差す場所へ、二人で

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 岩盤が、低く軋むような音を立てて崩れた。
 次の瞬間、暗闇しかなかった密室に、一本の白い光が差し込む。
 ……眩しい。

 反射的に目を細めた、その直後。

「救助成功! 生存者発見!」

 上から降ってくる声と足音。
 現実が、まとめて押し寄せてきた。
 ……終わった、のか。

 そう考えた瞬間、身体ががふわりと浮く。

「おい、待て。歩け――」
「ダメです。ヒーロー的判断です」

 抗議しかけた声は、途中で止まる。
 当然のように俺を横抱きにしていた。

「怪我人は大人しくしてください」

 淡々とした声。
 もうそこには、密室で見せていた熱はない。
 “ヒーロー”の顔だ。

 瓦礫の向こう、光の射す方へ。

 ……地上に出れば、元通りだ。
 俺は、追われる側。
 こいつは、追う側。
 そう分かっているのに。

 腕の中から降ろされる距離が近づくにつれ、
 胸の奥に、理由の分からないざわつきが生まれていた
 救助隊の姿がはっきり見え始める。
 この距離が、終わりの合図だ。

 ……妙だな。

 早く離れたいはずなのに、
 胸の奥に、ほんの少しだけ引っかかるもの……

 救助隊の手が伸びる、その直前。
 光希が、ほんの一瞬だけ足を止めた。

「瀬戸さん、また、会いにきます」

 それだけ。
 脅しでも、宣言でもない。
 なのに……胸の奥に、熱が残る。

 一拍遅れて、低く続く。
「今度は、もっとちゃんとした場所で」

 ……何を指しているのか、聞くまでもない。
 俺は何も答えられなかった……
 抱いていた腕が離れ、体温が、すっと引いていく。

 担架に乗せられ、視界が揺れる中で、
 俺は無意識に、光の中に立つ背中を探していた。

 振り返らない。
 それが、あいつの選んだ“正しさ”なのだろう。

 救急車のドアが閉まり、サイレンが鳴り始める。
 ……助かった。それだけのはずなのに。
 胸の奥に残ったのは、安堵よりも、
 名残のような感覚だった。光の中に立つ、あの背中。

 まっすぐで、眩しくて――
 さっきまでより、少し遠い。

 救急車のドアが閉まり、サイレンが鳴り出す。

「次はどんな顔で来る気だ、あいつ……」

 呆れ半分、溜息半分。
 それでも、口元がわずかに緩んだ。

 俺、ホント馬鹿だな。
 追われる側が、追う者の影を探してどうする。


 でも……

 次に会う光景を、
 次に交わす言葉を、
 無意識に想像してしまう自分がいる。

 来るな、と願っている。
 でも、来るだろう、とも思っている。
 矛盾した感情を抱えたまま、救急車は走り出した。
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