ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery

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デートしようと思ったら思いのほか自分がクズすぎて詰んでる

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あの日、碧斗と付き合う!とノリで言ってからもうすでに1カ月が経とうとしていた。

「ああ、もう……女の子不足!」

いつもの感じだったら、きっともう誰かを好きになっていて、誰かに告白しているところなのに……今は当然そんな余裕がない。
なんにせよ、女子と近づくきっかけすらないんだからな。
朝は碧斗の送り迎えから始まり、家に帰るまで碧斗と過ごす始末。
恋に落ちる余裕もない状況だ。

「はぁ……」

俺は大きなため息をついた。
俺は普通の恋がしてえだけなのに……。

マジでどうしたらいいんだ……。

机に顔を伏せたその時。

「ていうかさ、私……昨日彼氏と別れたわ」

すぐ前の席で、女子たちがヒソヒソと話しているのが耳に入った。

「え、早くない!?ついこの間付き合ったばっかじゃん」
「なんかねー、最初はいいと思ったんだけど蛙化しちゃって」

……蛙化?
俺は思わず耳をそばだてた。

「マジ?なんで?」 

「なんかデート中にちょっと店員さんにあたりが強かったり?後優柔不断だったりしてさ、頼りないわ~と思っちゃって。そこから全部が目についちゃってもう無理だって思ったんだよね」

「あー……分かる」

そ、そうなのか!?
たったそれだけで無理ってなるのか!?

「付き合う前はめっちゃカッコイイと思ったんだけど、イメージ崩れちゃってさ。ソッコー帰って、夜にメッセージで別れようって送ったよね」

「それは冷めるわぁ」

女子コエ―!
するとそれを聞いていた悠馬が言う。

「今は、付き合うのが難しいんじゃなくて付き合った後の方が難しいよね」

こそっと一樹と話をしている。

「たしかに蛙化っていつなるか分からないし、こっちには理解しがたいこともあるしね」

その時、俺は顔をガバッと上げた。

それだ!それに決まりだ!
俺と碧斗はちゃんとデートっていうデートをしたことはない。

1日中一緒にいて、いつもと違うことをすれば俺の嫌なところが目に入ること間違い無し!

そうと決まれば簡単だ。

「碧斗、今週の日曜日あいてるか?どこか出かけようぜ」
「それってデートのお誘いってこと?」

「ああ、そうだ!デートのお誘いだ」

自信満々言うと、碧斗は嬉しそうな顔をした。

「もちろんだよ!」

絶対に、お前に蛙化させて、別れてもらうぞ……!
 
そして日曜日。
俺は、部屋に差し込む強すぎる日差しで目を覚ました。

……ん? まぶし……。

寝ぼけ眼で枕元のスマホを手探りで掴む。
時間を確認しようと画面をタップした瞬間、表示された時刻に俺は息を呑んだ。

【 12 : 35 】

……は?
血の気が引いた。

碧斗との待ち合わせは、駅前に午前十時。
……マジかよ!?

蛙化作戦として、約束の時間にちょっと遅れてくるというセコい嫌がらせを実行するつもりだったが、まさかの二時間半オーバー。
これはさすがにやりすぎだ。

スマホを見ると、碧斗からの不在着信が5件。
メッセージも3件入っていた。

「やっべえええ!!」

俺はベッドから転げ落ちるようにして、適当な服を掴んで着替える。

もはや作戦どころではない。
碧斗のやつ、どうしてるだろう。

どこか店にでも入ってくれてればいいが……。
駅へ向かう坂道を全力で駆け下りる。

すると、ロータリーが見えてきた。

人混みの向こう日陰に立つ長身の影がひとつ。
黒のキャップ、薄いグレーのシャツに黒のスラックス。

碧斗だ!

「ご、ごめん!寝坊した!」

息が詰まって、言葉が途切れる。
碧斗はキャップのつばを指で持ち上げ、少しだけ目を細めた。

「おはよう」

うお……カッコイイ。
私服もそりゃセンスがあるが、こいつ、やっぱイケメンだ。

改めてまじまじと見てしまう。
ってそうじゃなくて。

「本当悪かった……」
「いいよ、全然」

2時間遅刻されて怒りもせず笑顔を見せるなんて……。

「ずっと待ってたのか?」
「うん、いつ来るか分からなかったから」

マジかよ……忠犬じゃあるまいし……。
すると碧斗は無言でコンビニのビニール袋を差し出した。

中には冷えたお茶が入っている。

「お前……これ」
「走って来ると思ったから」

「碧斗~~~」

なんて気が利くやつなんだ。

デキすぎてる。
やっぱり碧斗がなんであんなにモテるのかは分かる気がする。

すると、碧斗は俺を見て、なぜかくすりと笑う。

……ん?

「ここ、寝癖ついてる。かわいいね」

碧斗の指先が、俺の髪のぴょこんと跳ねた部分をちょん、と軽くつついた。

「う、うるせぇ……!」

慌てて俺も手で撫でつけるけど、なかなか直らなかった。

「じゃ、行こ」

そう言って、ためらいもなく手を差し出した。

「えっ、なにこれ」
「だってデートでしょ?……ダメ?」

上目遣いでたずねて来る碧斗。
手繋ぐのかよ!

ダメだろ!と思ったが、今日は蛙化作戦を実行するために来たんだ。

ここで手繋を拒否してデートが上手くいかなかったら、それこそ用意してる作戦が無駄になっちまう。
まずはデートとして上手くやらなくちゃな。

俺は、意を決して差し出された碧斗の手を繋いだ。
碧斗は一瞬驚いたように目を見開いた後、本当に嬉しそうに笑った。

俺と手繋げてそんなに嬉しいのかよ。
変なやつ……。

こうして俺たちは映画館に行くことになった。
この映画ずっと見たかったんだよな……。

戦隊ものの映画なんだけど、前にいい感じになったかなちゃんを連れていった時は、こてんぱに言われたっけ。

『自分の見たいやつに付き合わせないで!最低』

今でも覚えてる……苦い思い出だ。
チケットを発券機で出した後フード売り場が目に入った。

やっぱり、映画にはポップコーンだよな!

「いいか、碧斗……言っとくが俺はなぁ……」

得意げに言い出した俺の言葉を、碧斗が途中で切ってくる。

「映画はポップコーンを買って見る派、だろ?」
「お、おお……」

「いつものソルトとキャラメルのハーフでいい?」
「おう……」

そっか、碧斗とは何回かみんなで映画にも行ったし知ってるのか。
コイツすげぇな……。

碧斗はポップコーンとドリンクを頼んでくれた。

頼んだのは俺がファミレスとかに行ったらいつも飲むコーラだ。
すげぇ……完璧だ……。

席に座るとワクワクが高鳴ってきて、俺の口数は増えていった。

「なぁ碧斗。今回の監督、昔のシリーズの第18話で一回だけメガホン取った人でさ。その時の演出がマニアの間で神回って言われてて……今回の赤の必殺技のバンク、絶対その時のオマージュ入れてくると思うんだよな!」

語ってからはっと気づいた。

やべ、かなちゃんにこてんぱに言われた時の俺が出てる。

でもいいのか……碧斗には嫌われるためにやってるんだからな。

そう思って碧斗の顔を見てみると、普通に感心した顔で俺を見ていた。

「へえ、そうなんだ。凪、本当そういうの詳しいよな」
「お、おう……」

「そういう話も聞けるから、俺……凪と映画見るの好きなんだ」

なんかポジティブな反応返ってきたんだけどおおおおお。
なんでコイツには聞かないんだ?

やっぱりあれか、戦隊系は男はみんな好きってことか。

恋愛ものとかにすりゃ、よかった……。

けっきょく映画はふたりしてバッチリ楽しんでしまった。

「はぁ……最高だった」

でもなんの作戦も実行できてねぇ。 

映画館を出て、すぐ近くのショッピングモールに向かう。 

マズイ、このままじゃ普通に楽しいデートで終わっちまう。
俺は蛙化作戦をしにきたんだぞ!

忘れるな……!
ショッピングモールにつくと碧斗は言う。

「凪、どこみたい?」
「あー……どこでもいい」

俺はスマホをいじりながら、わざと気のない返事をした。

「じゃあ服でも見る?」
「えー、服は別に。疲れたし」

どうだ、このやる気のなさ。
せっかくのデートなのにこんな態度を取られたら、普通なら「帰る!」とブチ切れるところだろう。

チラリと碧斗の様子を伺う。
すると碧斗は、困るどころか優しく微笑んでいた。

「そっか。それならあそこのカフェで座って話そっか」
「あ、うん……」

なんかそんなに気にしてなさそう?

碧斗って冷静に心が広いよな。

ちょっとのことじゃ怒らないし、優しいんだよな。
ってしみじみ思っている場合じゃない!

今日決めるんだ、俺!
碧斗に別れようって言わせるんだろう!?

カフェに入り、俺はさらに作戦を続行した。

 「俺、これとこれと……あとこれも」

大量のスイーツを注文作戦。

「凪、そんなに食べられるの?」 
「おう、残したら碧斗が食えばいいだろ」

まぁ俺……本当は全部たべれるんだけど!
どうだ、この自分勝手ムーブ! 

さあ、引け!
ドン引いてくれ! 

しかし碧斗は、ニコニコしながら俺を見ていた。

「うん、食べるよ」

そして運ばれてきたパンケーキを切り分けながら言った。 

「凪が食べてるの見るの、好きなんだ」
「……は?」

「お腹いっぱい食べてね」

そう言って、俺の口元についたクリームを指で拭い、それを自分の口へと運ぶ。

「ん、甘い」 
「……っ!」

ドクン、と心臓が跳ねた。 

や、やめろやめろ。
この彼氏ムーブ。
ドキドキすんだよ!!

「凪、顔赤いよ?」
「う、うるせぇ!」

俺は慌ててアイスティーを飲み干した。
けっきょく、その後も俺の作戦はことごとく失敗に終わった。

帰り道。
夕日が伸びる川沿いの道を、俺はとぼとぼと歩いていた。

「はぁ……」

また失敗した……。
俺の疲労感とは対照的に隣を歩く碧斗は、満足そうにニコニコしている。

「今日は楽しかったね、凪」

「……おう」

なんでだ。
なんで碧斗は、こんな俺のこと好きでいられるんだよ!

俺なんてガサツなところもあるし、カッコよくもないしモテないし?
碧斗ならもっと美人で、性格のいい子と付き合えるはずだろう!?


モヤモヤとした疑問が、口をついて出た。

「碧斗は俺になにされたら嫌がるんだよ」

俺がぽつりとたずねると、碧斗は考えるようにあごに手をあてた。

「なに、嫌がられたいの?」
「ちょっと……」

疲れた顔でそんなことを言うと、碧斗はくすりと笑う。

「凪って変わってるね。そんな癖があったなんて」
「ねぇよ」

変わってるのは俺じゃなくて碧斗の方だろうが。
だいたい悠馬も一樹も俺のことだらしないとか言ってくるし、女子といい感じになっても告白をOKしてもらえないのとかも全部俺のがさつな性格があるからだ。

でも碧斗だけは俺のここが嫌だって言ってこねぇんだよなぁ。

どうしてなんだ……。

「まぁでも1つあるよ、されたら嫌なこと」
「なんだよ?」

俺が前を向きながら尋ねると、碧斗は言った。

「凪が俺をダシに使って女の子のこと誘ったりすることかな……」
「はあ?」

じゃあ今日は無理じゃねぇか。
今は女の子いねぇし……俺にナンパ力はない!

とりあえず失敗ってことだな……。
そうこうしているうちに俺たちは別れ道となる交差点までやってきた。

「じゃあな」
「うん、また明日」

また作戦を練り直さなきゃいけない。
俺は背を向けた。

「……凪」

呼び止められて足を止める。
振り返ると、碧斗が何かを言いたげに視線を彷徨わせていた。

「なに?」
「あっ、あの……今日さ」

碧斗はギュッと自分のカバンの持ち手を握りしめる。

「もう少し、一緒にいられないかなって……」
「え?」 

「俺の家……たぶん、今日も誰も帰ってこないと思うから」

消え入りそうな声だった。
碧斗の顔を見ると、捨てられた子犬みたいに寂しげな表情を浮かべている。

いつもの碧斗とは違う。

俺は知っている。
碧斗の家のこと。母親が仕事で忙しくて、いつも家にひとりでいること。

中学の頃、その寂しさを埋めるために夜の街を彷徨っていたこと。

「……っ」
俺が言葉に詰まっていると、碧斗はハッとしたように顔を上げた。

そして無理やり作ったような笑顔を見せる。

「やっぱりウソ。ごめん、変なこと言って」
「おい」

「じゃあね、また明日」

碧斗は逃げるように踵を返し、歩き出そうとする。

……バカ。
素直に言えよ。

恋人ごっこだとか、蛙化だとか、そんなことは今どうでもいい。
ただ友達としてあいつをひとりにしておけなかった。

「待てよ!」

俺はとっさに手を伸ばし、碧斗の腕を強く掴んだ。

「凪……?」

驚いて振り返る碧斗に、俺は明るく言った。

「碧斗の家で夕飯でも食おうぜ。久しぶりに碧斗の家で漫画も読みてぇし」

俺がそう言うと、碧斗はふわりと柔らかく笑った。

「……うん」

その笑顔を見て、俺はホッと胸を撫で下ろした。 

やっぱりあいつには、寂しい顔より笑った顔の方が似合ってるって思うんだ。

それから碧斗の家についた。

まだお腹が空いていない俺たちは、碧斗の部屋で漫画を読むことにした。

俺は本棚から読みかけだった漫画を手に取り、クッションを抱えてゴロリと横になった。 
それがいつものポジ。

碧斗も俺の隣に座り、スマホをいじり始めた。

静かな部屋に、俺がページをめくる音だけが響く。
今日はなんとなく、この静けさが心地よかった。

「凪、そこ読み終わった?」 
「ん? ああ、もうちょい」

碧斗が俺の手元を覗き込もうとして、身を乗り出してきた。 

俺もページをめくろうと顔を上げる。

──ピタッ。
動きが止まった。

鼻先が触れそうなくらい近くに碧斗の顔があった。

長いまつ毛。通った鼻筋。 少し色素の薄い瞳がまっすぐに俺を映している。
やっぱりカッコイイよな。

碧斗は顔が整ってるし、手繋いだり、ハグしたりはギリ友達の延長でできるかもしれねぇけど……。

付き合うってことは、その先も望んでるってことなのか?
そんなの本当に俺と出来るのか?

単純な疑問が浮かび、俺はそれをそのまま聞いてしまう。

「なぁ……碧斗。お前さ」
「ん?」

「俺と……キスとか、できんの?」

言った瞬間、後悔した。

なに聞いてんだ俺は!
こんな雰囲気で聞くことじゃねぇだろ!

すると碧斗は真剣な顔で答える。

「……出来るよ」

えっ。
碧斗の手が伸びてきて、俺の頬をそっと包み込む。

逃げる間もなかった。 
碧斗の顔が傾き、俺の視界が彼の前髪で覆われる。

近づく顔。 重なる吐息。
 俺はとっさに目をギュッとつむり、肩を強張らせた。

(く、来る……っ!)

しかし。

「……」

いつまで経っても、触れる感触は来なかった。 

恐る恐る薄目を開けると、碧斗は笑った。

「でも、今はまだしない」 

碧斗はパッと体を離すと、何食わぬ顔で元の体勢に戻った。
取り残された俺は、しばらく状況が理解できず、口をパクパクとさせることしかできなかった。

ドキドキした……。
心臓がうるさい。

ダメだ。
漫画の内容なんか、もう一ミリも頭に入ってこない。

もううう!!!変なことするなよな!

それは俺はちょいちょい青斗を意識しながら漫画を読んでいた。

しかし、その後は普通で拍子抜けした俺はいつも通り漫画に視線を向ける。

それから、昼間の疲れもあったのか気づいたら俺は眠ってしまった。

……ん。
ふと意識が浮上する。
なんか、暑いと思って振り返ると。

「……っ!?」 

俺の腰に、碧斗の腕がしっかりと回されていた。

こいつ……! 
人が寝てる間に、なんて体勢で寝てやがるんだ! 

俺が腕を解こうと身じろぎしたその時。

「……ん……ぅ」

耳元で、寝息混じりの声が聞こえる。
そして碧斗は小さく言った。

「……ごめんね……凪」

か細い、今にも消え入りそうな声。
俺の動きがピタリと止まる。

ごめんね、って。 なにを謝ってんだよ。

「……バカ」

俺は回された腕を解くのを諦めた。 
そして、後ろにいる碧斗の方へ手を伸ばし、そのサラサラした髪をそっと撫でた。 

「謝ってんじゃねぇよ」


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