ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

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幼馴染と同居生活

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「お帰り隼人。疲れたでしょう?」

「ただいま美羽。まぁ少しだけね」

私は玄関で仕事帰りの同居人を出迎えた。

私、葉山美羽。現在29歳。
仕事は保育士をしている。

今日は私の方が帰宅が早いから、ご飯を作って幼馴染の同居人隼人を出迎えた。

隼人は部屋に入るなり、鼻をすんすんと動かす。

「カレーの匂いがする!」
「実はカレー作りました!」

彼の名前は遠山隼人、5カ月前に30歳になったばかり。
職業はパイロットで、1日中帰って来なかったり、夜の帰宅が遅かったりまちまちだ。

隼人とは幼稚園の頃から一緒で、小、中、高、大と同じ学校。
大学では同じサークルに入っていたので、本当にずーっと一緒。

職場は違うけど、大学卒業してから一緒に暮らしてるため、もうかれこれ25年くらいの付き合いになる。

下手すれば親よりも一緒にいる時間が長いかもしれない。

そんなわけでお互いの知らないことはないってくらい、相手のことをよく知ってる。
でも、私たちはあくまで幼馴染の関係。

付き合ってるとか、男女の関係があるとかは全くない。

「はぁ~美羽のご飯食べられるなんて嬉しいよ」


いつもは隼人が料理を作ってくれるんだけど、今日は体力もあったし、たまには料理くらいしようかなと思って簡単に作れそうなカレーを作ることにした。

隼人は無邪気な笑顔を浮かべ、すぐに部屋着に着替えてリビングにやってきた。

「っていっても上手く作れてるか分からないよ?」

実は私、料理があんまり得意じゃない。

いつも隼人が「俺が作るよ」と言ってくれるから、甘えっちゃってて……普段ほとんど料理はしない。

「大丈夫、美羽の作ったものならなんだって嬉しいよ」

私はカレーを器に盛ると、リビングに並べた。
隼人が丁寧に手を合わせる。

「いただきます」

私も自分の作ったカレーを食べてみるけれど……。

「う“……堅い」

じゃがいもや、ニンジンが完全に煮え切っていなかった。

美味しくない……。
煮込む時間が足りなかったのかな……。

「ごめん美味しくないよね、やっぱり出前でも取ろうか」

私が提案するけれど、隼人は気にせず食べている。

「美味しいよ!」

そしてもりもり食べると、空のお皿を私に向けた。

「おかわりもらうね」
「えっ、隼人……本当に無理はしなくていいから!」

「無理なんかしてないよ。美羽のカレーいくらでも食べれそう」

気を遣ってくれてるんだろうな。

隼人はすごく優しい。
人のことを否定したりしないし、いつも優しく包みこんでくれる。

本当は疲れてる隼人が喜んでくれたらと思って作ったけど、どうしていつも上手くいかないかな……。

私がうつむくと隼人が言う。

「美羽、落ち込むことないよ」
「だって……カレーもまともに作れないなんて」

もうすぐ30になるのに恥ずかしい。

いくらだって料理を作る機会はあった。
でも、実家を出た後はいつだって側に隼人がいてくれたから、作らずにここまで来てしまったんだ。

「苦手なのに作ってくれたんだよね。美羽の気持ちが嬉しいよ。でも落ち込むことないよ、俺が毎回やってあげるから」

この優しさが私をダメにするんだよなぁ……。
それを分かっていて甘え続けているんだから、私もたいがいだ。

「そういえば、この間の合コンはどうだったの?」

隼人が話題を変えるように聞いてくる。

「あっ、それね!えっと……その……」

私はそこまで言って言葉を濁した。

先週、友達が合コンを開いてくれた。
しかし、結果は……。

「全然誰からも連絡来なかった……」

完敗。

「そうだったんだ」

合コンは誘われたら毎回参加するようにしているけど、いつも同じ結果だ。

「話してる時はすごいいい感じだったんだよ?趣味も合いそうだし、優しい人で……なのに合コン終わったらぱったり連絡が来なくて……」

合コンをしてる時は上手くいったなんて思っていたのに、終わってから連絡が来ることがない。
毎回このパターンだ。

「やっぱり私って女として魅力がないのかな?」

ため息交じりに答えると、隼人は言った。

「そんなことないよ。美羽は女性らしいし、いいところはいっぱいあるよ」

「隼人~」

そう言ってくれるのは隼人だけだ。
実際のところ、返事が来ないってことは私に興味がないってことだよね。

「あーもう、どうしよう。このまま独り身だったら……一人寂しくお酒を飲んで働く生活なんて嫌だよ~」

もうすぐ30歳になる。
周りの人はもう、幸せな家庭を築いていて、子どもがいる人だってたくさんいる。

この調子じゃ一生独身になってしまうかもしれない。

「大丈夫だよ、俺が側にいてあげるから」
「隼人だっていつ結婚するか分からないじゃん!」

「うーん、そうかな?」
「そうだって!」

隼人は背も高くモデルみたいに鼻筋も通っていて、外を歩けば何人もの女の子に声をかけられる。
しかも誰にでも優しくて、気遣いが出来るからめちゃくちゃ女子にモテるんだ。

今の職業だってパイロットだし、合コンなんてしたら女性全員が隼人の虜になってしまうだろう。

そんな隼人に今の今まで相手がいないのは不思議だけど、もし隼人に相手が出来たら、私はすぐに家を出て行くつもりだ。

お互いに相手が出来たら同棲は解消しようと約束をしている。
だから私も彼氏を作って、そろそろ一人立ちしようって考えてるのに……それが全然上手くいかないんだよね。

「はぁ……」

隼人と一緒に暮らし出してから、もう7年か。
7年も一緒に暮らしていると、隼人のいない生活に違和感を感じそうだよ。

そもそも付き合ってもいない私と隼人が一緒に暮らしているのは、わけがあった。


『よーし、今日から一人暮らしスタートだ』

大学を卒業して、東京での就職を決めた私は、大学の知人が紹介してくれた物件で一人暮らしをすることになっていた。

隼人の友達のご両親が不動産会社をやってくれているところで、私は安心して家の契約をした。

そして、いざ一人暮らし生活スタート!という時に告げられたのが、部屋の準備が出来ていないということ。
話しをすると、どうやら不動産会社の人が間違えて契約をしてしまい、二重契約が発生していたらしい。

困った私は、同じように東京に就職している隼人に連絡をした。
すると、隼人はすぐに飛んできてくれて、状況を聞くなり言ってくれたんだ。

『家が決まるまではうちに住んだらいいよ』

そして自分の今住んでいる家を貸してくれることになった。

もともと一人暮らしをはじめてから家具を揃えようと思っていた私はほとんど荷物がなく、簡単に移動が出来た。
隼人の家は一人で暮らすには十分の広さの2LDK。

都会までアクセスしやすく、新卒でこんなにいい家住める!?っていうくらいいい家に住んでいた。

『す、すごいね……こんな家に住んでるなんて……』

『大学の時から株に興味があってさ、それで貯蓄はあるから思い切って広い家にしたんだ』

か、株!?
隼人そんなのにまで手出してたんだ……。

ただ遊んでいた私とは大違いだ。
パイロットに合格したって聞いた時も驚いたけど、ちょっと私の幼馴染デキすぎやしません?

『だから家賃とか気にしなくていいよ』

『でも、さすがに申し訳ないからいくらか払わせて……』

『本当に気にしないで。新卒で心細い中、人がいてくれるって思ったら俺もありがたいからさ』


それから、隼人との同居生活がはじまった。

最初、期間は1週間程度と決めていて、そこで不動産会社が必死で条件に合う場所を探してくれることになった。

生活するにあたってやっぱり家賃か食事代だけでも払わせて欲しいと言ったんだけど、隼人は頑なに受け取ってはくれなかった。


それならせめて家事だけでも役に立とうと思っていたんだけど……。

『美味しい……!アクアパッツァって本当に隼人が作ったの?』
『そうだよ?』

休みの日は隼人が美味しい料理を作ってくれて……。

『ゴミってどこに出せばいいかな?』
『美羽はそんなことやらなくていいから、座ってて』

掃除も洗濯もゴミだしも、私がやろうとするとすぐに隼人が「俺がやるから」と言って全てをやってくれた。

私、何も出来てない……。

私が何かしようとする前に全てやってしまう。

『隼人……これじゃあ私、なにも出来てないよ』

『俺がいる時くらい、甘えたっていいじゃん』

そんな風に言われてしまっては……人間は堕落していく生き物で……。

『美羽、気持ちいい?』
『気持ちい……ありがとう、隼人』

隼人に髪を乾かしてもらったりするまで甘えるようになった。

正直、この同居生活は至福の時間だった。

そして1週間が経ち、不動産会社に連絡をしてみたんだけど、新生活のタイミングで物件が埋まってしまったこともあり、私の条件に合う物件探しに苦戦しているようだった。


『ごめん、隼人まだ物件決まらないみたいで……ホテル生活に変えようかな』

『そんなことしたら無駄にお金かかるじゃん。決まらないなら、決まるまでうちにいてくれて構わないよ』

『でも……』

『っていうか、俺は美羽のとの暮らしになんの不満もないし、一緒に暮らしてもいいんだけど』

『ええっ!』

『家賃もいらないし、いっそのことずっとここで暮らしたらどうかな?』

『えっ、でも……』

『美羽だって給料が安いから家賃があったら貯金出来ないって言ってたろ?ここに住めば貯金に回せるだろうし……』

『でも嫌じゃない?隼人だって女の子と遊びたい時に私がいたら邪魔でしょう?』

『今は女の子と遊んでる暇なんかないよ……。でもまぁ気になるなら、お互いに相手が出来たら、解消するってことにすればいいじゃない?』

こんなに甘えていいのかなぁ。
好条件すぎる提案。

家賃もいらないなんて、私にはいいことしかないけど。
でも隼人にとってはどうなんだろう……。

『俺も正直さ、今仕事を覚えないといけない大事な時期だから。家帰ってきて美羽がいるとほっとするんだ……だからまぁ、俺としてもいてくれたら嬉しいって言うか』

私の方に断る理由はない。
そこまで言われたら……ねぇ?

『じゃあ……よろしくお願いします』

こうして家が見つかるまでという期限を取り払い、私は隼人と一緒に暮らすことに決めた。

不動産会社にも、もう物件は探さなくていいことを伝え、本格的に一緒に暮らす生活がスタートしたんだ。

そんなこんなで、あれから7年か……。

まさかあの時は7年後も一緒に暮らしてるなんて思わないもんね。

社会人生活が慣れてきたくらいで、彼氏が出来て隼人の家を出て彼氏と同棲してる。

そんなことを夢みていたけれど、それは夢で終わってしまった。

「はぁ……どうしたら彼氏が出来るんだろう」

この7年……というより私は、今まで一度も彼氏が出来たことがない。
学生時代に1カ月くらい付き合っていた人はいたけど、それをカウントに入れることは出来ないくらい何もなく終わった。

私のつぶやきに目の前にいる隼人が答える。

「美羽が悪いんじゃないと思うよ。やっぱり短い時間で人のことを知るのは難しいんじゃないかな?」

「えーそしたら私、出会いないってこと!?」

「昔から知ってる人とかは?」

昔から知ってるっていうと、中学、高校が同じとか大学時代とか?
でも中学、高校は地元から離れちゃってるし……今でも密に連絡をとっている人はいない。

大学時代だって……全然連絡とらなくなっちゃったもんなぁ。

「ってか、隼人って卓也たちと連絡とってる?」
「いや?」

「そうだよね……」

大学の頃、サークルで仲の良かった人は今では連絡が取れなくなっている。
あんなに仲良かったのに、卒業したらなぜか急に連絡がとれなくなっちゃったんだよね……。

でも、みんなそれぞれの進路に進んでいくタイミングだったし仕方ないのかな。

「うう、彼氏作るのがこんなに難しいとは……」

「まぁ無理に作ってもいいことないと思うし、家のことなら、俺はいつまでもいてくれていいからね」

この話になると、隼人は毎回そう伝えてくれるけど、不思議だ。

普通の男の人って、自分の時間が欲しかったり、遊びたかったりするんじゃないの?

隼人は仕事を終えたら基本的にまっすぐに帰宅をするし、女の子と遊んだり連絡をとっている様子もない。
でも私の知らないところでいい人がいたり……?

「ねぇ隼人!会社にいい人いないの?気になってる人とかさぁ」
「今はいないけど」

さらりと答えてみせる隼人。

「絶対ウソ!パイロットでしょ?美人なCAさんとかたくさんいるじゃん」
「CAさんは俺なんか相手にしないよ」

そんなわけないのに!
私はじとっと隼人のことを見つめた。

「どうしたの美羽?」
「何か隠してるな」

「なにも隠してないって、もう~」

私が7年相手いないのはともかく、隼人に7年相手がいないなんてありえない。

隼人がモテないわけがないんだ。
それは私が間近で見てきた。

隼人は昔から、この甘いルックスで女の子たちを魅了してきた。

バレンタインの日なんてチョコをもらいまくっていたし、告白だって先輩後輩関係なく、ひっきりなしにされていた。

でも特定の女の子を作るのを嫌がって、全然付き合ったりしなかったんだよね。

当然、側にいる私に向けられるのは嫉妬の嵐。
私は全く関係ないって言ってるのに、誰も聞いてくれなくて嫌がらせされたり……。

でもその嫌がらせも最初だけで気づいたらピタっと止まるから、私はそんなに被害はないんだけど。

私は隼人の顔を見つめる。
本当に好きな人いないのかな。

もしかして男の人が好き、とかもある?

「どした?」

あどけない表情を見せてくる隼人。

そんなことないか……。
やっぱり私に気を遣ってるのかな。

「隼人にいい人がいるって聞いたら私、すぐに出ていくから……遠慮なく言ってもらっていいんだからね?」

「はいはい、分かってるって。でも美羽……」
「ん?」

「今更一人で暮らせるの?」
「えっ」

私は隼人の言葉を聞いて固まる。

「ご飯は?掃除は?お風呂の用意は?髪だって疲れてるのに一人で乾かせる?」
「や、やるよ!やらないといけなくなったら」

「買い物は?ちょっと遠くのショッピングモール行きたくても行けないよ?」
「それは……」

っていうか、私改めて隼人に頼りすぎじゃない?

もちろん遠慮はするんだけど、隼人がこれまた上手く「買い物のついでだから乗っていきなよ」とか「ちょうど俺も行きたいと思ってた」とか言うから、じゃあ……ってなっちゃうんだよね。

家事だってそうだ。

隼人と暮らしはじめてから、隼人が何でも先回りしてくれるため幼馴染という特権を借りてそれにあやかっている。

「ご、ごめんね。隼人……私、頼り過ぎだよね?」

「全然。俺は美羽に頼られるの結構好きだからいいんだけどね。一人にさせるのは不安だなぁ」


改めて今思った……。

この甘え切った生活から抜け出さないと、私……本当に30過ぎてもダメ人間になりそう。

いつまでも隼人が側にいてくれるって思ったら、大間違いだ。


「そういえば、美羽。ちょうど3カ月後は美羽の誕生日だね」

もうそんな時期か……。

「また今年も一緒にお祝いする?」

私たちは同棲を開始してから、お互いの誕生日をこの家で祝い合っていた。

「付き合う相手もいないんじゃ誰からも祝ってもらえないね」なんて話をして、そこからじゃあお互いに、過ごす相手がいないならお祝いしようとなったのが発端だ。

「うーん、今年こそは彼氏と誕生日過ごす予定だから!」

私がそう伝えると、隼人は困ったように言った。

「美羽、去年もそんなこと言ってたけど……」
「やめて、傷をえぐらないで」

来年はもう30歳だ。

本当に30歳になる今年こそは、彼氏が欲しい。
だって私……30歳までほとんど恋愛という恋愛をして来なかった。


高校生の頃も好きな人がいたけど、思いを伝えずに片思いで終わり。

大学生の時は、告白して付き合うってところまで行ったにも関わらず、ものの3日で別れようと告げられてしまった。

付き合った人みんな逃げるように私の元から去っていくので原因は分からないまま。
3日で付き合っただけの人とそういうことをするわけもなく私は、今のいままで全くそういう経験がない。

もう周りは子どもだって生んで幸せな家庭を築いてるっていうのに、取り残された気分……。

「はぁ……自己肯定感が下がっていくわ」

ボソっとつぶやくと、隼人がキラキラした笑顔で言った。

「下がったら、その分俺があげてあげる」
「隼人~!」

私は隼人に泣きついた。

「こんな優しくしてくれるのは隼人だけだよ~」

「ふふっ、美羽を甘やかすのは俺の役目ですから」
「ありがとう~~」


そんな話をしていた時、机の横に置いていたスマホがピロンっと音を立てた。

メッセージの通知だ。

「あっ、健司さんから連絡が来た~!」
「健司さん?」

隼人が問いかける。

「うん!」

私はホクホクした気持ちでスマホのメッセージを眺めていた。

【今度二人でお食事しませんか?】

ウソ……嬉しい!
デートに誘われちゃった!

「誰、健司さんって」
「この間ね、結衣ちゃんと食事した時に紹介してもらったの」

結衣ちゃんは、保育園の研修を受けた時に仲良くなった同じ歳の友達だ。

けっこう周りの友達と繋がりが多かったりして、私の大学のメンバーも何人か知っている。

別々の保育園に配属されたけど、今でも会っている私の少ない友達の一人だ。

「食事は結衣ちゃんだけだって言ってなかった?」

「そのはずだったんだけど、すごくいい人だから紹介したいって当日に連絡したら来てくれたの」

「ふぅん、聞いてないけど」

隼人がボソっと何かを言う。

「ん?」

「いや……それで3人で食事を?」

「うん、すごくいい人で話しやすかったの。連絡来て良かったぁ~!隼人、今度こそ私30歳の誕生日、彼氏と過ごせるかもっ!」

浮かれてそんなことを言うと、隼人は優しい笑顔を向けた。

「そっか。寂しいけど……彼氏と過ごせるといいね」
「ふふっ。頑張るね」

私は食事を終え、食器を洗い場に片付ける。

「片付けは俺がやるよ」
「でも……」

「今日は美羽が作ってくれたでしょ」
「いいの?」

「もちろん」
「じゃあ……」

片付けは隼人に甘えることにした。

すぐに健司さんに返信しちゃおう。

うきうきした気持ちでスマホを持ち、そのまま自分の部屋に向かう。

【ぜひ、行きたいです】

メッセージを送ってから楽しみになった。

めいいっぱいオシャレして行こう!
せっかく結衣ちゃんが繋げてくれた縁だ。
無駄にしないようにしないと!

私は鼻歌を歌いながら、次のデートに着て行く服を探していた。


「俺の知らないところで動いちゃダメじゃないか」


────。


深夜、真っ暗になった部屋の中。
パソコンのキーボードを叩く音だけが響いていた。

「ふぅん……高杉健司29歳。中星大学卒業、広告代理店営業。趣味は映画観賞……」

ぶつぶつとつぶやいているのは、遠山隼人だ。

「美羽に釣り合うわけないだろ」

隼人は指の爪を机にあて、音を立てながらパソコンを眺める。

「結衣ちゃんも困るなぁ。突然男紹介するとか。俺が把握できないところでやらないで欲しいよね」

ぶつぶつとつぶやきながら、隼人は【delete】と書かれたボタンを押した。

「とりあえず、この男は美羽の前から消えてもらうか」

そしてイスの背もたれに寄りかかる。

『隼人、今度こそ私30歳の誕生日、彼氏と過ごせるかもっ!』

ごめんね、美羽。それは無理だよ。
30歳の誕生日、美羽と過ごすのは俺だ。
だって約束したからね。

“30までにお互いに相手がいなかったら、私たち結婚しない?”

そのためにずっと準備をしてきたんだ。
ああ、あと3カ月。
3カ月でやっと手に入るんだ。

隼人は美羽の大学時代の写真をうっとりと眺めた。

「結婚しようね、美羽」



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